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file-107 国宝・火焔型土器はアートか?~縄文文化を探る旅(後編)

 

縄文と今をつなぐ「幻の布」


 縄文土器の底に残された編み目の跡。糸と糸を絡めて編む「もじり編み」によって生み出される布であり、津南町や十日町市にある国指定の重要有形民俗文化財「アンギン」と共通することはわかっていますが、縄文時代の衣服が残っていないため、多くは謎のままです。一方、同じ新潟県中越地方で古くから織られてきた越後上布(じょうふ)や越後縮(ちぢみ)は、「アンギン」と同じ天然の植物から採った繊維を原料としています。雪国・新潟県の特産である麻織物の系譜をたどり、幻の布「アンギン」へ、さらに縄文の布へと、時代を遡っていきます。

雪国が生んだハンドメイド

幻の布「アンギン」の発見

 新潟県魚沼・南魚沼地域で織られる「越後上布」は、ユネスコの世界無形文化遺産に登録された、日本伝統の麻織物で、苧麻(ちょま)を原料として織り上げます。その歴史は古く、奈良東大寺正倉院に「宝物」として今も保存されています。湿度の高い雪国の自然環境・風土が麻織物の生産に適していたため、古来より農閑期の冬仕事として、受け継がれてきました。かつて、これらと同じ材料を使い、同じ地域で作られてきた布がありました。それが「アンギン」です。
 津南町教育委員会の佐藤信之さんに、「アンギン」について伺いました。 「アンギン」は、作り方から「編み衣(あみごろも)」、または、鎌倉時代に浄土宗の僧侶が着たことから「阿弥衣(あみごろも)」と呼ばれたものが転じた呼び名とも言われています。塩沢(現・南魚沼市)生まれの随筆家・鈴木牧之が江戸時代に書いた「秋山記行」にも登場します。しかし、明治時代に入ると木綿織物に取って代わられ、姿を消していきました。
 「秋山記行」に書かれた「編み衣(あみごろも)」に関心を抱いた横越村(現・新潟市)の民俗研究者・小林存(ながろう)さんが秋山郷での探査を開始。半世紀をかけて昭和28年(1953)に結東(けっとう)集落で念願の「アンギン」を発見します。さらに、昭和35年(1960)、津南町樽田でアンギンづくりの経験者松沢伝二郎さんが見つかり、本山幸一さん・滝沢秀一さんが、その製法を記録しました。  

 

土器作り 十日町

土器作りの過程で布の編み地が底に付いたと考えられる/十日町市博物館

 そして、滝沢秀一さんが栽培した苧麻から糸を作り、横糸に縦糸を絡めて布の平面構造を生み出すアンギン作りを再現しました。それは、縄文土器の底に残る跡と同じものでした。  

 

アンギン製袖なし

国指定重要有形民俗文化財 アンギン製袖なし/津南町 歴史民俗資料館

 新潟県立歴史博物館の宮尾亨さんは、「布の構造だけでなく、天然の素材と簡単な構造の道具を使う点から、縄文時代にも作ることができたと考えられています。ただ、その作り方は決して単純ではありません。植物の茎から繊維を取り、それを糸にする方法、その糸を用いて布にすることは、時間と手間のかかる、高度で緻密なものです。自然を利用する計画性や持続力、熟練した技能が必要です」と、製作に必要な自然との関わり方や手わざの巧みさを強調します。
 それを可能にしたのは雪ではないか、と、十日町市博物館の佐野誠市さんは指摘します。「気候が変わり雪深くなったことで、縄文の人たちは約半年間を家の中で過ごすことになり、アンギン編みの技術が向上したのでは。生活文化は自然との関わりのなかで生まれるものです」
 それは、雪国という環境の中で生まれた、自然と共存するモノ作り。「アンギン」にも、越後上布にも、その精神が宿っているのかもしれません。  

 

現代に生きる「アンギン」

アンギン編み道具

編み台に縦糸をかけ、横糸を渡してねじって編む/十日町市博物館

 現代に再現された「アンギン」作りは、7月土用の日に始まります。この日に、1mほどに延びたカラムシ(現在は、苧麻をこう呼びます)を採集、その後、流水にさらし、皮をはぎとり、天日に干し、細く裂き、より合せ、ようやく糸が完成します。そして、江戸時代と変わらない方法で編み上げていきます。使う道具は「けた」という編み台と、縦糸の先に結ぶ木製の「こもづち」。新潟県立歴史博物館や十日町市博物館のジオラマに展示されているものと同じです。  

 

ならんごしの会

ならんごしの会 宮沢ハツエさん(左)と、宮沢美智子さん(右)

津南 イベント

「なじょもん」で定期的に行われているアンギン編み体験イベント

 「そうねえ、横幅が20cmくらいの布なら、一日10cm。簡単にはいかないんだわ」と、宮沢美智子さん。「細かい目にしようとすると、もっとかかるかも」と宮沢ハツエさん。二人とも、津南町の「ならんごしの会」のメンバーです。原料の栽培から編み上げるまでの、すべての工程を復元して行っている、唯一の団体です。平成24年(2012)には、このアンギン編みの技術が津南町の無形民俗文化財に指定され、メンバーは、製品作りの他、町内の小・中学校での講習会や、農と縄文の体験実習館「なじょもん」での体験イベントで講師を務めています。  
 「作るのを見ていても、できあがった製品を見ても、本当に細かな作業なんだと感動します。手先が器用で粘り強く、勤勉でないととてもできません。この地域の人々のこういう特徴を、考古学者で新潟県立歴史博物館名誉館長の小林達雄先生は『縄文の文化的遺伝子を受け継いでいる』と書いています。僕も、つながっていてほしいと思います」と、佐藤信之さん。  

 

津南 製品

ミサンガやコースターから、バッグまで製品は多彩/「なじょもん」

 伝統文化の再評価に加えて、ハンドメイドの自由自在さ、温かさが注目を集める今、アンギン編みは、新しい動きを見せています。十日町市博物館では、女子美術大学の学生が、アンギン編みをテキスタイルの原点としてとらえ、製法を学ぶワークショップを行っています。また、新潟県立歴史博物館では、平成29年(2017)1月から3月に新潟県内に残るアンギン関連の国指定重要有形民俗文化財を展示して、これまでの研究についての講演、製作体験などの企画展を行います。「これまでは国の重要有形民俗文化財に指定されているアンギンについて、カラムシ以外の植物繊維、例えばアカソの茎から繊維を取り、糸にする過程がわかっていなかったのですが、そこを今回の展示で紹介します。昭和初期までに失われてしまったアンギン作りの総合的な展示になっています」と宮尾さん。
 1万2,000年の長きに渡って続いた縄文時代。自然に適応し、自然とともに生きてきた人々の世界観を、火焔型土器やアンギン編みを通して、感じてみませんか。新潟にはその痕跡が今も、しっかりと息づいています。  

■ 関連イベント
冬季企画展「すてきな布―アンギン研究100年―」
2017年1月21日(土)~3月20日(月・祝)
9:30~17:00(観覧券の販売は16:30まで)
新潟県立歴史博物館 企画展示室
休館日/月曜日(祝日の場合は翌日)
観覧料/一般610円(480円)、高校・大学生400円(320円)、中学生以下無料
*( )は20名以上の団体料金

本格アンギン編み一日体験
2017年3月18日(土)10:00~15:30
農と縄文の体験実習館「なじょもん」
対象/中学生から 定員/15名
体験料/1,500円

■ 取材協力
宮尾亨さん/新潟県立歴史博物館・専門研究員
佐野誠市さん/十日町市博物館・館長
菅沼亘さん/十日町市博物館・学芸員
佐藤信之さん/津南町教育委員会文化財班・文化財専門員
佐藤雅一さん/津南町教育委員会文化財班・主幹学芸員
宮沢美智子さん、宮沢ハツエさん/ならんごしの会
新潟県立歴史博物館
十日町市博物館
津南町歴史民族資料館(12月28日~3月10日休館)
農と縄文の体験実習館「なじょもん」

■ 参考資料
「秋山記行 復刻版」鈴木牧之 野島出版

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