file-66 にいがたの祭りと伝統芸能

  

祭りとともに育まれている伝統芸能。

伝統芸能は、世界に誇るジャパニーズアート。

能登剛史さん

能登剛史さん
秋田県出身。ニューヨーク留学の経験を経て2001年に「新潟総踊り実行委員会」を旗揚げし、2002年より「にいがた総おどり」を開催。祭開催期間3日間で36万人以上の動員を記録し、経済効果は35億円に。2011年フランスナント市に「Association Jeunesse France Japon」を開設。本格的な世界発信を目指す。2012年第6回安吾賞・新潟市特別賞受賞

 「日本は、各地域において伝わる盆おどりや民謡の数が多く、そのテーマも多彩かつ個性的です。海外の祭りと大きく違うのは、精神性の高い芸術であるということ。要するに、五穀豊穣(ごこくほうじょう)など“地域のため、誰かのために”維持・継承していくところが日本の祭りと伝統芸能の特徴」と話すのは、新潟総踊り総合プロデューサーである能登剛史(のと・たけし)さん。能登さんは、「古事記」や「日本書紀」をはじめ、数多くの文献からさまざまな祭りと伝統芸能についての知識を広げてきました。その中で、「日本各地にある伝統芸能は、古来の風習や考え方が“変ぼう”してきたものである」とポイントも挙げています。“変ぼう”の代表例が獅子舞。もとは中国から伝播(でんぱ)してきたもので、ライオンが原型だったそう。そのたてがみが一部残り、やがて布へ変化し、インドから唐草模様が伝わって現代の獅子舞のカタチが定着したそうです。「ですから伝統芸能は、時代の流れ、歴史そのものであるということが言えます。まさに日本史や世界史の末端に遭遇していると言っても過言ではありません」(能登さん)。
 日本の伝統芸能を「世界に誇るジャパニーズアート」と銘打つ能登さん。「地域の風土に根ざした昔ながらの文化をぜひ機会を通じて知って欲しい。また、日本人の精神を背負い、素晴らしい伝統芸能を受け継いでいってもらいたい」と話してくれました。
 それでは、新潟県内における伝統芸能の歴史や魅力、見どころをいくつかご紹介しましょう。

伝統の型と技で魅せる。 ~仮山伏の棒使い(妙高市)~

仮山伏の棒使い

今から約1300年前、当国第一の名山とされ崇められていた妙高山。かつて、山伏たちの信仰のより所であったこの場所で、今なお気迫にあふれた棒使いが受け継がれている。

 新潟県指定無形民俗文化財である「仮山伏の棒使い」は、妙高山関山神社の「火祭り」で行われる伝統芸能です。由緒ある神社を戦乱などから守るため、修行僧が自らの手で災いを追い払うために武術を身につけたのが棒使いのはじまりであるとされています。若者2人が一組になり、役抜けの役、火切りの役、火見の役、計3組(6人)が22通りの演武を披露します。長刀(なぎなた)、太刀(たち)、六尺棒などを操る息の合った棒使いは秀逸。静と動のバランスが美しい、迫力ある演武が魅力です。
 「陣羽織(じんばおり)」と呼ばれる刺しゅうを施した衣装、頭巾(ずきん)、はちまき、また太陽や炎、月などをモチーフとした鉄の飾りなどの装いにもご注目ください。これらはすべて当時の信仰の象徴であると言われている、大変意味深いものです。
 現在、演武者6名は、3年をめどに師匠となり、次の世代へ伝統的な演武を継承します。地域の祭りを通して老若、新旧の交流を深める役割もあり、常に新しい風を入れながら地域文化の活性化に力を注いでいます。
 

江戸時代から伝承される踊り。 ~大積あめやおどり(長岡市)~

 長岡市大積地区に代々受け継がれている伝統芸能である「飴(あめ)や踊り」。地域の子どもたちから愛されている由縁は、この「飴」にあります。江戸時代から伝承すると言われているこの踊りは、「飴やドンコドンコ銭々(ぜんぜん)もってとんでこい…」とわらべうたにも歌われているように、当時から全国に飴を売りながら行商に出掛け、旅先で歌と踊りを舞いながら子どもたちを集めたものが起源となっているようです。割り箸に通した飴を渡して紙芝居を見せた時代を経て、やがて農作業の要素が加味され、「もみどおし」と呼ばれる農作業機をモチーフとした今の踊りに定着しました。
 地域の神楽舞などで披露する際には、手ぬぐいやタオルを頭に巻いて踊る姿が印象的です。笛・鐘・太鼓などの楽器に合わせて、前後2人で組みになり向き合って踊る「組みおくさ」というアレンジも見どころのひとつ。また、おめでたい歌や哀愁漂う歌など、異なる曲調を楽しむこともできます。中でも「八百屋・お七」という曲は、江戸時代に好きな男性に会いたいがため、自宅に火をつけ、罪に問われた女性の物語が歌われています。江戸時代の子どもたちの喜びや女性の悲しみ、昔の越後人の生活の中のさまざまな感情まで、踊りや曲、歌詞の中に見て取れるような気がします。

あめや踊り

大積1丁目地区の小中学校などで親しまれ、練習されてきたという「飴や踊り」。敬老会や保存会の力添えにより、子どもたちは昔ながらの姿(衣装)で今に踊りを伝えている。
 

笛と太鼓に合わせてリズミカルに。 ~つぶろさし(佐渡市)~

 6月15日の菅原神社の例祭に奉納される舞楽である、新潟県指定無形民俗文化財。「寺田の太神楽(だいかぐら)」とも呼ばれ、佐渡市(旧羽茂町)寺田集落において約500年前から創始の型のまま保存されて来ている郷土芸能です。
 時の地頭、本間家に仕えた茶坊主「葛西三四郎(かさい・さんしろう)」が、茶道研究のために京へ向かった際、佐渡市(旧羽茂町)へ伝えたものと言われており、やがて豊作祈願の神事として奉納されるようになりました。
 性=生産を表現する舞踊であることが大きな特徴。「つぶろさし」とは、男性の役どころの名前で、男根を股に挟んで滑稽(こっけい)に乱舞する姿が印象的です。この男性に入り乱れて二人の女性(ささらすり、銭太鼓)が妖艶(ようえん)なしぐさでグロテスクな踊りを披露します。
 つぶろさしは、ささらすりに想いを寄せるも、二人の仲をさこうとする醜女(しこめ)=銭太鼓にたびたびじゃまをされる…というストーリー展開が中心。3役ともに面をつけ(銭太鼓は麻袋による覆面)、着物や持ち物、しぐさで役どころを表現する演舞からは、なんとも大らかな中世時代の様子が垣間見えるようです。またリズミカルな踊りの中にも、男女の想いや迷いといった人生の機微が描かれ、今も昔も変わらない人々の深い願いが込められています。
 

つぶろさし

 絶倫なる男性を象徴する「つぶろさし」(中央)と、美人の女性を演じる「ささらすり」(右)、不美人ながらも肉体美を強調する覆面顔の「銭太鼓」(左)の演者三態にて表現する芸術。

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地域の祭りで、歴史と文化を体感しよう!

六角灯籠(ろっかくとうろう)とともに、お盆の夜を彩る。
~大(だい)の阪(魚沼市)~

大の阪

縮行商人にルーツを持つ盆踊り「大の阪」。全盛期には、本陣を中心に踊り流したといわれ、街の各戸では提灯(ちょうちん)をかかげ、町の旦那衆家(だんなしゅうけ)では酒食を供してこの踊りに力を添えたと伝えられている。
 

 国指定無形民俗文化財である、魚沼市(旧堀之内町)に伝わる盆踊り。その歴史は元禄時代前後までさかのぼり、当時の越後縮(えちごちぢみ)の商取り引きに京阪地方へ赴いた人々によって伝えられたと言われています。また、越後縮の歴史に深い関わりがあるのが豪雪。そして、鈴木牧之(すずき・ぼくし)著作の「北越雪譜(ほくえつせっぷ)」をはじめ、さまざまな文献に盆踊り「大の阪」が魚沼市(旧堀之内町)に定着した背景や全盛期の様子が書き記されています。
 祖霊を奉る行事に結びついていること、供養のための踊りであったこと、歴史の趣きを感じさせる15首の歌詞(古来は50余首もあったとか)には「南無西方(なむさいほう)」の文字が入っていることなどから、別名「念仏踊り」と呼ばれることがあります。哀愁を帯びた静かな踊りと、他の集落や地域には見られない独特な節回しが見どころ。現在、八幡宮境内で行われる盆踊りでは、やぐら真上の四隅に提灯を下げ、中央に歌詞をしるした六角灯籠を吊るすのが風習となっています。五五七五の歌詞にのせて踊り子と歌をうたい交わし、太鼓と笛に調子を合わせて夜が更けるまで踊り続ける盆の3日間(8月14日~16日)。魚沼市(旧堀之内町)の地域文化は、しっかりと今に受け継がれています。
    

見る者を楽しい気分にさせる大市民流し。
~糸魚川おまんた囃子(糸魚川市)~

 毎年夏に開かれる「糸魚川おまんた祭り」の郷土芸能。前半は地元の保存会の生歌と生演奏に合わせて、後半は「糸魚川なら、おまんた囃子」という三波春夫(みなみ・はるお)の名調子に合わせて、約3000名の市民が踊る盛大な大市民流しが行われます。「おまんた」とは「あなたたち」という意味の方言で、歌詞の中にも昔ながらの地域の暮らしを表現したフレーズがたくさん出てきます。ビートの効いたテンポの早い曲調、華やかかつ高度な踊りが特徴です。市民流しで披露される踊りとしては珍しく(一般的にはゆっくり流れるような曲調、踊りが多い)、「見る人を楽しい気分にさせる踊り」であると言われています。
 糸魚川はヒスイの産地として有名ですが、神社が多いことでも知られており、その中でも「奴奈川姫(ぬながわひめ)」を奉った神社が目立ちます。この奴奈川姫と大国主命(おおくにぬしのみこと)の恋のエピソード(神話)がもとになっているという言い伝えもあり、この地域にまつわる姫の伝説にも、おまんた祭りと囃子の歴史の一端が隠されているかもしれません。
 今年の「糸魚川おまんた祭り」は、8月3日(土)に開催(大花火大会は7月28日(日))。メインとなる駅前通りを中心に、「ロ」の字を一周半。優雅な市民流しを楽しみながら、貧しい暮らしを助け合った古来の越後人の生活に想いを馳せてみるのも一興です。
 

おまんた囃子

 糸魚川市全域を代表する優美な踊り。「糸魚川おまんた祭り」では、地域の商店街や企業、市民団体、子どもたちのスポーツクラブなど、各チームが練習の成果を発揮する。
 

伝統芸能で、新潟の魅力を再発見!

 ご紹介した伝統芸能を一同に見ることができるのが、8月24日(土)長岡リリックホールで行われる「伝統連々(れんれん)祭」。このイベントの解説者でもある能登さんに、伝統芸能の楽しみ方を聞いてみました。
 「全体的に俯瞰(ふかん)で見るのではなく、細部に注目することをオススメします。例えば“この踊りのしぐさにはどんな意味があるんだろう”、“この着物の柄は不思議だな”…など。その疑問点を自分なりに掘り下げて調べることが教養になり、アイデンティティーを育てるキッカケになるのです」(能登さん)。
 伝統芸能を目で見て体験することは、新潟の魅力、地域ならではの文化を再発見できる絶好の機会。また、日本人として、新潟県人として、また地域の一員としての誇りを持って伝統芸能の意義や重要性を後世に伝えていくことが大切です。

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県立図書館おすすめ関連書籍

「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。

▷『新潟まつり歳時記』

(駒形覐ほか著/新潟日報事業社/1985年)請求記号:N /386 /21
 5人の執筆者が県内各地の祭りについて全100編で紹介しています。1編1編はコンパクトにまとまっていますが、「単に祭りの紹介、案内にとどまらず、「祭りの生命とはなにか」を問いかけるよう心がけて」(あとがきより)書かれており、祭りの情景、熱気や息遣いまで思い起こされるような内容です。ご覧になると、今まで知らなかった祭りはもちろん、なじみのある祭りについても新たな発見があるかもしれません。

▷『音の民俗学 越後と佐渡の祭りを聴く』

(伊野義博著/高志書院/2000年)請求記号:N /386/I55
 「祭りの音」というと、太鼓や笛、人のかけ声などが思い起こされます。様々な音色が祭りを盛り上げ、参加者の心を打ち、時には空間全体を一体感で包むような力もあります。
 「新潟県内各地で行われる祭りは、自然のホールで開催される音の祭典」(p12)であると著者は述べ、音が祭りとどう関わるのかが考察されています。このほか、郷土で語り継がれ、踊り継がれてきた昔ばなしや伝統芸能を、子どもたちに伝えてゆくことの大切さについても書かれています。

▷『新潟の祭り』

(小林敏行撮影/新潟日報事業社/1978年)請求記号:N /386 /5
 長岡市生まれの撮影者が撮った新潟県内各地の祭りの写真148点が掲載され、それぞれの祭りには新潟県民俗学会理事(当時)森谷周野氏の解説がついています。
 継承者不足により、時代とともに祭りや年中行事が消え去るような「きびしい現実の中でひたすら先祖伝来の伝統行事を守り、次の世代に伝承しようと努力している人々のひたむきな熱意に感動を覚えた」(撮影者あとがき)という祭りの記録をぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。
 

ご不明の点がありましたら、こちらへお問い合わせください。
(025)284-6001(代表)
(025)284-6824(貸出延長・調査相談)
新潟県立図書館 http://www.pref-lib.niigata.niigata.jp/

 

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