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“ひっそり、ごっそり”NINJAの世界、楽しんで

―2019年に初演、22年にスケールアップして上演された、森山開次演出振付「新版・NINJA」が今年、新国立劇場で再演が決定。7月には新潟公演もあるのですが、吉﨑さんがこの作品に出演するのは初めてですね

初演を観に行ったのですが、会場の子どもたちが「NINJA」の世界に引き込まれ、ドキドキワクワクしながらずっと集中して見入っていたのが印象的でした。音楽も映像も楽しいですし、大人の心をもくすぐってしまう面白さがありますよね。「僕もいつか出たい」と思っていたので、お声掛けいただき本当に光栄です。

―森山開次さんの舞台作品への出演も今回が初めて

「東京2020パラリンピック開会式」でご一緒させていただきましたが、開次さんが演出・振付など全てを手がける舞台作品は初めて。開次さんの振付は一つひとつがシンプルで美しく、だからこそ難しい。ダンサーとして気を引き締めつつ、「新版・NINJA」の世界観に“ひっそり、こっそり、ごっそり”浸り、楽しみながら踊りたいと思っています。

ミュージカル志望からコンテンポラリーダンサーに

―吉﨑さんがダンスを目指したきっかけは

母が劇団四季の大ファンで、よく一緒に観に行っていました。特に感動したのが中3の時に観た「キャッツ」です。席が最前列だったこともあり、ものすごく衝撃を受けてすぐに「ミュージカルがやりたい」と思いました。ただ、ずっと野球が好きで続けていて、ちょうど両親に高いグローブを買ってもらったばかりだったので、「高校までは野球を頑張ろう、ミュージカルは大学へ入ってから挑戦しよう」と決めました。

―大学へ進学と同時にミュージカルも学ばれたということでしょうか

そうです。大学では演劇学を専攻、同時にミュージカルの専門学校へ入学しました。専門学校では芝居と歌とダンスを学ぶわけですが、週1回のコースだったので、それでは練習量が足りないと思い、併設のダンスセンターにほぼ毎日通っていました。

―歌やお芝居よりダンスに夢中だったわけですね

そうですね。特に専門学校で俳優兼ダンサーの金田誠一郎先生に出会って以降、ダンス一筋でしたね。ミュージカルではなく、コンテンポラリーダンスに傾倒していったのは間違いなく金田先生の影響です。

―というと

コンテンポラリーダンスは表現形態に縛りのない、自由さが特徴のダンスです。金田先生は本来、ジャズダンスの担当だったのですが、その枠を超えた、何とも面白い独特なコンテンポラリーダンスをされていたんです。その自由さに魅了され、併設のダンスセンターで金田先生に師事していました。

―そこからコンテンポラリーダンスの道へ

はい。専門学校が1年半で修了だったんです。それで卒業時に歌と芝居は一旦やめて、ダンスだけに絞ってその道を目指すと決めました。その後、世界的に活躍するコンテンポラリーダンサーの加賀谷香さん、柳本雅寛さん、新上裕也さんのレッスンを受け、コンテンポラリーダンスのスキルをさらに高めていったという感じです。

ダンスの基礎はすべてNoismで修得

―Noismに入られたのは

22歳です。大学の授業そっちのけでダンスにのめり込んでいたので、自然にダンサーの知り合いも増えていきました。そんな中で新潟にNoismというダンスカンパニーがあると教えてもらい、卒業と同時に入りました。

―Noismではどんなことを学び、どんな日々を過ごしていたのでしょうか

僕は研修生としてNoism2に入ったのですが、朝から晩まで1日中スタジオでダンスの稽古という夢のような環境でした。寝ても覚めてもダンスのことしか考えないような贅沢な時間を過ごさせてもらいました。

実は東京では身長が180㎝以上で、コンテンポラリーダンスをやっている男性というだけで希少価値があったので実力以上にちやほやされていました。でも、Noismでそれは全く通用せず。己の実力のなさに打ちのめされました。だから、0から基礎をたたき込んでもらったのはNoismです。特に芸術監督の金森穣さんは、ほんのわずかな動きにもこだわり、完成度の高い作品を追求し続ける人。指導だけでなく、創作者としての背中も見せていただき、多くを学びました。今の僕のダンスの世界観の根底にあるのは紛れもなく、穣さんの美意識であり、Noismで培ったものです。

―今でも忘れられないNoismでの思い出の作品は

2017年、Noismのトップダンサー井関佐和子さんとデュオを踊らせてもらった「Liebestod-愛の死」です。周囲が「なぜ裕哉が?」と言うほどの大役に大抜擢され、プレッシャーは尋常ではなかったです。夜眠れず、うなされながら近くのパチンコ屋の駐車場で自主練習をしたこともありました(笑)。この作品のお陰で僕は変わらざるを得なかったし、成長させてもらうことができました。

自分の証を残すために子どもたちと作品づくりを

―6年間在籍されたNoismを離れ、ダンサーとして国内外の演出家の作品やイベントの数々に出演されています。また、振付家としても活動されていますが、その際、心がけていることを教えてください

誰がやっても同じと思える振付が時々見受けられるのですが、それはしたくありません。だから、ダンサーがその役柄を踊る意味をしっかり考え、手紙を書くように、そのダンサーのためだけの振付を心がけています。

―吉﨑さんが思うコンテンポラリーダンスの魅力とは

解釈が自由なところがコンテンポラリーダンスの面白さ。だから難しいと思われがちなのですが、わかる・わからないではなく、いろんなことを想像しながら自分の好きなように解釈して楽しんでほしいですよね。

―ご自身の今後の夢も聞かせてください

文化庁の学校巡回公演で毎年全国の小中学校に出向いてパフォーマンスを行っているのですが、それはとても特別な体験です。小中学生って面白くないと露骨につまらなさそうな態度をとるのですが、逆に面白いと思うと表情がパッと明るくなる。反応がはっきりしているだけに子どもたちの前で踊るのはすごく楽しいんです。それ以降、Noismでの経験も生かして、芸術の力で地域の子どもたちに貢献できる活動をしていきたいと考えるようになりました。すでに新潟と浜松で始めたところですが、今後も継続していく予定です。子どもたちがコンテンポラリーダンスに触れたことで、物事の解釈は自由でいいんだと気づいてくれたり、人生の選択肢が広がったりしてくれるといいなと思っています。

―貴重なお話をありがとうございました。改めて7月の「新版・NINJA」長岡公演への意気込みを新潟の皆さんにお願いします

Noismに在籍した6年間は新潟で暮らしていました。思い出深い新潟での公演だと思うと胸が弾みます。「新版・NINJA」を観て「こんな面白いダンスがあるんだ」と知ってもらえるとうれしいです。

Question&Answer

Q.どんな子どもでしたか?

目立ちたがり屋でした。パンツ一丁でテレビの前に立って、変顔して踊って両親を笑わせたりしていましたね。中学高校は野球少年でした。

Q.今、ハマっているものは?

パスタですね。美味しいペペロンチーノを作りたくてここ10年ほど、時間があれば挑戦しているのですが、なかなか「これだ!」という味に仕上げることができないのが悔しいです(笑)。

Q.好きな小説や映画は?

村上春樹さんの小説が大好きです。物語の裏側にあるメッセージを読み手がくみ取りながら楽しむのが彼の作品の面白さなのですが、そこにコンテンポラリーダンスに通じるものを感じます。映画であれば、『ロード・オブ・ザ・リング』『ハリー・ポッター』など、いわゆる王道と称される作品が好きですね。

Q.リラックスするのはどんな時?

3歳と0歳の子どもがいるのですが、本当にもう可愛くて。家族で過ごす時間がとても幸せです。

Q.新潟で好きな場所は?

Noismに所属していた時は、よく月岡温泉へ行きましたね。宿泊することもありましたが、周辺レストランでの食事を目当てに日帰りで出かけることも多かったです。

〈Profile〉吉﨑 裕哉(よしざき ゆうや)

東京都出身。高校卒業後、明治大学文学部文学科演劇学専攻入学。 同時にミュージカルの専門学校にも通い始める。そこで出会った俳優兼ダンサーの金田誠一郎に師事する。2012年から6年間、Noism Company Niigataに所属。現在はCo.山田うんに所属しながら、白井晃、G2、加賀谷香、田尾下哲、粟国淳、広崎うらんなど様々な演出家・振付家の作品に出演。また、東京2020パラリンピック開会式、 MLB開幕戦、東京ディズニーランドカウントダウンパレード、NHKバレエの饗宴、NHKニューイヤーオペラなど、これまでに国内外50都市以上の作品に主要キャストとして出演。振付家として新国立劇場主催「舞姫と牧神たちの午後」にて「極地の空」を加賀谷香と共同振付。映像作家として14カ国以上のフェスティバルにて公式作品に選出、グランプリなど多数受賞。