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NEXT STAGE

プロと子どもたちとの共演が楽しみなコンサートが実現

―今年11月10日、長岡リリックホールでコンサート「気軽にオペラ!豪華にオペラ!傑作オペラの名曲をあなたに…」に出演されます。ソプラノの鈴木愛美さん、高橋維さん、テノールの笛田博昭さんといった新潟出身のオペラ歌手の方々、そして新国立劇場合唱団とのまさに夢の「饗宴」ですね

お話を聞いた時はびっくりしましたが、同時にワクワクしました。歌手の先輩方はみなさん、オーラがあって素敵な方たちばかりです。新国立劇場合唱団も、ソリストとして活躍されている方が多く在籍されている日本でもトップクラスの合唱団です。共演者一人ひとりを尊敬し、このような機会を設けていただいたことに感謝しながら歌わせていただきます。

―このコンサートで楽しみにしていることは?

今回、長岡の子どもたちも参加します。実は自分が出演すること以上に、子どもたちがプロのオペラ歌手と合唱団と同じステージに立つことがうれしい。それこそがこのコンサートの一番の意義のような気がしています。

―そう感じられるのはどうしてでしょうか?

僕は最近の子どもたちの音楽離れを非常に危惧しています。小中学校では音楽の授業が昔と比べて減らされてきていますし、クラシック音楽を学びたいという子どもも減少しています。そうした傾向にあることが本当に残念で。なぜなら音楽は、人々が心を育ませる上で本当に有効なツールだからです。それと誰もが日々歌い、町中に音楽が溢れれば、子どもたちの心からネガティブな感情が消え、いじめだって無くなるはずだと本気で信じています。それだけの力が音楽にはあるからです。子どもたちがプロの歌手・合唱団と同じ舞台に立つことで、少しでもクラシックを身近なものに感じて好きになってくれたらいいなと思っています。

歌っている時だけは自分らしさを出せた

―品田さんはいつから音楽が好きだったのでしょうか

子どもの頃からです。決して音楽家の家系ではないのですが、祖父は演歌がうまかったですし、父もよく歌を口ずさんでいました。その影響で歌うのも聴くのも好きでした。小学生時代は音楽教室にも通っていましたね。

―音楽がとても身近なものだったのですね

僕にとっては特別な存在でした。勉強が苦手でしたし、学校になじめない時期もあったのですが、音楽の授業や行事の時だけは心が落ち着き、思いきり自分を出すことができたんです。合唱コンクールのためにクラスのみんなで歌の練習をしている時なんて最高に楽しかった。「歌がうまいね」と何度も言われてうれしかったです。それで中3のときに漠然と自分の進む道は「音楽かもしれない」と思い始め、高2の冬に「音楽をやろう」と決めていました。

―当時、ご自身が好きだった音楽は?

ポップスが中心です。コブクロさんや槇原敬之さんの曲が好きでしたね。高校の時は友だちとバンドを組んでライブハウスで歌っていました。

―歌うのが好きで音大に入学されたんですね

そうです。さらに歌がうまくなれば、より幅広いポップスを歌えるかなと思って音大へ進学しました。

―ポップスからクラシックへと方向性が変わったのはいつだったのでしょうか

大学3年で専門課程に進む際、コース選択をしなければならないのですが、僕は「オペラ・ソリストコース」の選抜試験を受けてこのコースに合格。それがひとつのターニングポイントでした。ただ、すぐにオペラの魅力にとりつかれたわけではなく、その当時もまだ学祭でバンド仲間と共にポップスを披露していました。
大きな転機は大学4年です。授業でオペラを歌うたびに褒められたんです。結局、褒められるとうれしくて頑張りたくなる性格で(笑)。それであるとき「自分はオペラ歌手になるんだな」と思ったんです。実はその頃から、知人や先生を通してオペラの助演として呼ばれることがどんどん増えたんです。そのことがオペラ歌手を目指そうという気持ちを強く押してくれました。

―歌手になると決めてからどうされたのでしょうか

ひたすら猛勉強ですよ(笑)。授業は朝9時から遅くとも18時には終わるのですが、朝は7時から大学へ行き、夜も21時ぐらいまで大学にいて、授業以外の時間はロビーで楽譜を読んで自分なりに分析したり、歌詞の意味をひもといたりといった勉強を黙々とやっていました。

オペラの力は子どもの教育に役立つ

―大学卒業後、どうされたのでしょうか

プロのオペラ歌手を目指すなら大学院へ進学するのが一般的ですが、あまのじゃくな性格なので、他の人と同じ王道ルートで歌手になるのではなく、プロの現場で学ぶことにしました。いろいろなステージに呼ばれて「歌う」ということを繰り返し、スキルを身につけていったという感じです。

―そのままプロとして様々な作品へ出演されていくわけですね。その後、イタリアへ行かれていますが

いろいろな作品に出演させていただく中で、一番声の出し方で魅力に感じていたのはイタリアオペラでした。何より楽天的な僕の性格が圧倒的にイタリア向きだと感じていたので、数カ月間イタリアに行って学んできました。とはいえ現地で少し学んだぐらいでは、ちゃんとした声の出し方を修得できるはずもなく。イタリアで学んで帰国して、時間をかけて何度も反復しながら本場の声の出し方を身につけていきました。

―では、舞台に立って歌うとき、心がけていること、大切にしていることは何でしょうか?

お客様には声を聴かせるのではなく、歌詞と曲がすっと心に届くように歌うことを大事にしています。ただし、その元となる声は歌手にとって大事なものなので、常に自分に向き合って精神的にも声帯や喉にも過度な負担のない声を出すことも心がけています。自分の心と声に誠実で無理のない声の出し方をすること、具体的には、僕はバリトンですが、喉の周辺で鳴らすのではなく、頭声(とうせい)で鳴らすようにしています。これができれば年齢を重ねても歌手として歌い続けられると思うんです。
声にも個性があるんですよね。100人いれば100通りの声がある。僕の声はバリトン歌手にしては明るくてやや軽めですが、それでいいと思っているし、この声こそが自分の個性だと誇りに思っています。この声を活かして歌ってほしいと言われたら、僕の個性を認めてもらったのも同然。最大限の力を発揮して歌いますよ。

―最後に品田さんの今後の夢を聞かせてください

夢はたくさんあります。まずはオペラを子どもたちの教育に役立てることです。なぜなら、オペラは合唱と違って歌うだけでなく演技も必要になるので、自己表現力や発信する力が学べるからです。それと子どもたちを含め、音楽家の後進たちがもっと心地良く、自分たちのやりたい音楽が自由に楽しめる環境も作りたいですね。
いつか世の中を音楽で活性化できたらと思っていますが、そんな壮大な夢を自分一人ではかなえることはできません。一緒に目指してくれる仲間を増やしていく必要もあると思っています。コンサート企画制作の吉谷音楽研究所の所長をしているのもそういった夢の実現のためです。声楽家としての研鑽をもっと積んで実力をつけていくことと並行して、この壮大な夢に向かって尽力していきたいと思っているところです。

Question&Answer

Q.どんな子どもでしたか?

クラスのムードメーカーでした。目立つことが大好きで人に笑われることも大好きでした。よく先生のマネをしたりしてみんなを楽しませていましたね

Q.今、ハマっているものは?

今だけでなく、ずっとファッション全般にハマっています。特にレザーものが大好きで、レザーにこだわってかなりの数の財布やバッグを集めています。

Q.好きな小説や映画は?

一番、好きな映画は『あぶない刑事』です。柴田恭兵さんの余裕のあるギャグと、それをひらりとかわす舘ひろしさんのやりとりの、洒脱な雰囲気がたまらなく好きです。今年、8年ぶりに新作が公開になったのもうれしい限りです。

Q.リラックスするのはどんな時?

寝ている時です。睡眠時間をしっかりとることは僕にとってとても大事なことなので。

Q.新潟で好きな場所は?

やはり地元の小千谷市です。今でも月に何度か帰省しています。なかなかエンジンがかからない時はいったん小千谷に帰省するようにしています。そうすると気分が一新されて声の出方も全然違ってくるんですよね。

〈Profile〉品田 広希(しなだ ひろき)

小千谷市出身。国立音楽大学卒業。第82回読売新人演奏会出演。国立音楽大学国内外奨学生。第3回立石信雄海外研修生として渡伊。これまでにオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」でグリエルモ、「カヴァレリア・ルスティカーナ」でアルフィオ役などを演じたほか、新潟県長岡リリックホール開館20周年記念事業オペラ「てかがみ」会場係など数々のオペラ作品に出演。小千谷市にある野外闘牛場で開催のオペラ「カルメン」は公演監督として牽引。小千谷市市制施行70周年記念式典にて国歌斉唱も行っている。喜多方酒蔵オペラ合唱団、南魚沼オペラ合唱団うたのみ、うた塾くれあ、アンサンブル・サチアーレ各指導者。小千谷コミュニティーオペラ公演監督。コンサート企画制作の吉谷音楽研究所所長。藤原歌劇団団員。