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北区文化会館の音の良さを
広く知ってもらうために

北区役所・豊栄図書館の隣にガラス張りの開放感あふれる建物がある。北区の音楽・文化拠点、新潟市北区文化会館だ。客席数が557席のホールに加え、バレエや楽器の練習室4部屋、保育室を備えた施設となっている。
「開館は15年前の2010年6月です。いわゆる多目的ホールで市民の方々には発表会、演奏会、式典などに使っていただいています。現在は私を含めて計13名の職員で運営に携わっています」と快活な声で教えてくれたのは高坂元己さん。元新潟放送のアナウンサーという経歴の持ち主で、2020年4月からここの館長を務めている。
館長とは、館全体の管理運営を含めての責任者だ。本来であれば、設備関連の管理も業務になるのだが、そちらは今、副館長に任せているとのこと。その分、高坂さん自身は文化事業に力を注いでいる。
「文化事業は、鑑賞、創造、普及育成、交流発信の4つに分けて組み立てています。地元の人達に喜ばれ、且つ遠方からも来ていただけるような企画。それも北区文化会館ならではのものを仕上げることが理想です。この業界の全国的な課題ですが、若年層の人達に人生を豊かにする文化芸術の大切さを分かってもらえるような企画を打ち続けたいですね」。予算が大幅に削減されたこともあり、前年度より本数は減ってしまったが、それでも北区フィルハーモニー管弦楽団の「ファミリーコンサート」、そして北区内で活動する市民サークルの活動発表会「北区音楽祭」など毎年恒例の演奏会やイベントはほぼ実施できそうだと語る。「他にも『うまいもん夜市』などロビーを活用したイベントや、第一人者を招いて『宇宙人の探し方』というユニークな講演会も企画しています」。こんなふうに企画を立て、実施するまでの準備と運営などの業務はもちろん、宣伝活動にも積極的に取り組んでいる。
「一昨年、東京混声合唱団の演奏会を企画したのですが、新潟市内のママさんコーラスのサークルを片っ端から調べてリスト化し、チケット発売前にチラシを持参してまわりました。ピアノのリサイタルの時もそう。市内のピアノ教室にチラシを持っていきましたね」
高坂さんがそこまでするのは、ひとえに一人でも多くの市民の方々に北区文化会館を知ってもらい、足を運んでもらいたいからなのだそう。
「館長は宣伝マン、が私の持論です。特にここは市内の中心部からやや離れているので、出向いて宣伝しないと認知してもらえないし、集客が難しい。ただ、一度来てもらえさえすれば、ホールの音響の良さを気に入ってもらえるはずなんです。かくいう私も館長になる前、クラシックコンサートで訪れてあまりにホールの音の響きが良くて感動し、ファンになった一人です。だから、合唱サークルやピアノ教室の人たちであれば、必ずや北区文化会館を好きになって、次の発表会はここにしようと思ってくれるのではないかと。そんな淡い期待を持ちながらチラシを配っているわけです」

新潟放送のアナウンサーから
第二の人生で館長に

三条市に生まれ育った高坂さん。実家は魚ヤスを作る町工場。工業高校卒業後、家業を継ぐつもりで働いたが景気が悪くなり、仕事は激減。そこで家業を継ぐのを諦め、日本大学芸術学部放送学科へ進学する。
「日芸の放送学科といっても全然アナウンサー志望ではなかったんです。小学生の時からスピーカーの箱を作るのが趣味だったので音に関わる仕事がしたいと思って選んだ学科でした。ところが、文系学科なので音響を本格的に勉強することができず、仕方なく他の学科で音に関連する専門科目を受講し、卒業しました」
卒業後は、両親から勧められて入社試験を受けた新潟放送に就職。最初の配属はラジオ局制作部だった。「せっかくならラジオ番組の制作をしたいと思っていたので希望通りだったのですが、ラジオは取材、編集してそれを喋って伝えるという部署だったんです。当初喋ることが苦痛でしたね。ストレスで入社3カ月後、舌裏にポリープができたほどです。ただ、企画から取材して放送にいたるまですべてに関わるのが次第に楽しくなっていきました」。ラジオ制作部には9年在籍し、チャーリー高坂というマイクネームでラジオ番組を担当。アナウンス部に13年在籍した際には、ニュース番組のキャスターも務めている。
その後、さまざまな部署や役職を経験し、2017年に退職。そして20年4月から北区文化会館の館長に。ところがちょうどコロナ禍になってしまい、その年の事業計画はほぼ中止となってしまったそうだ。
「3年目ぐらいからですね、本格的に催しを企画して実施できるようになったのは。それまでは館の業務に関して職員にいろいろ教えてもらいました。自分がやりたいと思う企画がある時はどう説明したら事業担当の職員に承諾してもらえるかと考え、企画書を作ってそのつどメールで送るようにしました。どの企画も同じ職場の職員の同意と協力なくしては実施できません。特に最初の頃は私を信用してもらいたいという思いもあったので、何かをする際にはまずコンセンサスを得ることに心血を注ぎました」

北区吹奏楽団の講師の
素晴らしさを伝える演奏会

館長になって5年。この間にいくつもの事業を手がけてきたが、一番思い出深いのは2023年に実施した市民劇「もういちど会いたい~星空の約束~」だと語る。
「たまたまラジオ放送で地元福島潟の妖怪伝説の話を聴き、これをかたちにできないかと思ったのが発端でした。
まずは絵本にして読み聞かせの会を実施し、その後に地元北区の作家に原作と脚本を依頼。出演者を市民から募るオーディションを行って半年間の舞台稽古を経て上演しました」。高坂さんにとって演劇は未知の世界だったため、詳しい職員にいろいろ教えてもらって実現。5年以内に再演したいと考えるほど楽しかったという。
最後に、高坂さんに今の目標をうかがうと「例えば、クラシックの殿堂とか何かしら特色を持つ館にしたい。そのためにも引き続き、この館の魅力を伝えるために何ができるのか、どんな切り口がいいのかを考え企画し実施していこうと思っています。館長は宣伝マンだけでなく、プロデューサーでもあるんです」とのこと。
3月9日(日)に実施する「みんなで楽しむブラスアンサンブル」はまさに北区文化会館の魅力を発信するためのコンサートだ。
「北区ジュニア吹奏楽団は北区文化会館が主宰する団体なのですが、この団体の講師の先生方が指揮者含めて11名いらっしゃる。その先生方の演奏会になります。各楽器の専門家が子どもたちを指導している文化会館は全国でも珍しいと思いますよ。こんな先生に習ってみたいと思ってくれる子どもたちを増やせればと願っています」
とにかくアイデア満載。その源泉は朝のラジオと散歩からのインスピレーションなのだそう。そんな高坂さんが館長を務める北区文化会館で今後、どんな催しが繰り広げられていくか心待ちにしたい。

プロフィール

新潟市北区文化会館館長
NPO法人新潟ジャズストリート実行委員会理事長
高坂 元己(こうさか もとみ)

1956年三条市生まれ。日本大学芸術学部放送学科卒業後、新潟放送入社。ラジオ局制作部に配属となって以降、アナウンスの現場に籍を置く。チャーリー高坂の名前で、ラジオ番組「チャーリー高坂のネクラでバンザイ」のパーソナリティーを務めるほか、いくつものレギュラー番組を担当。その後、編成局テレビCM部長、営業局次長、報道制作局次長、上越支社支社長、取締役ラジオ本部長などを経て2017年6月退職。2020年4月より現職。音楽が大好きでジャズヴォーカルとドイツリートが趣味。NPO法人新潟ジャズストリート実行委員会理事長も務めている。