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さまざまな公演を企画し実現に向けて進める

東京フィルハーモニー交響楽団(以下、東京フィル)の創立は1911年。日本で一番古い歴史と伝統を誇るオーケストラだ。クラシック音楽の魅力を広く伝える自主公演などを行う「シンフォニーオーケストラ」と新国立劇場等のオペラやバレエのピットで演奏する「劇場オーケストラ」の両機能を併せ持ち、自主公演では世界的指揮者の名誉音楽監督チョン・ミョンフン、首席指揮者アンドレア・バッティストーニらを定期的に招聘し、高水準の演奏を展開。テレビやラジオへの出演や放送演奏も数多い。

1月の午後、取材のため、東京オペラシティコンサートホールへうかがうと定期演奏会のリハーサルが行われていた。
「別のフロアではテレビ収録のリハーサル、夜はまた別のリハーサルを行うことになっています。とにかく公演数は多く、大小合わせると年間400本以上の本番に出演しています。楽団員は約160名。これだけの大所帯でジャンルにとらわれず多岐にわたる演奏活動をしているオーケストラは、東京フィルだけだと思いますよ」と話してくれたのは公演事業部企画制作課長の岩崎井織 さん。

岩崎さんが所属する企画制作課は、演奏会の企画の立ち上げから本番までの業務全般にかかわるセクションだ。
「当団が主催する定期演奏会だけでもかなりの数なのですが、それらの公演内容、会場、日程、指揮者とソリストの人選をはじめ、依頼演奏についても主催者の意向をお聞きし話し合いながら、日程や会場の調整、内容を決めていきます。いずれも2年から3年先のものを進めているので、本番で何を演奏するかは非常に悩ましいところです」。

依頼に関してはここ10数年の間に、映画やアニメ・ゲーム音楽などのコンサートが増えているそうだ。「例えば、ボーカロイドの楽曲や、一つの映画音楽を奏でるシネマコンサート、そして子どもたちを対象にした音楽鑑賞教室の依頼も。お陰で今までクラシックやオーケストラに馴染みのなかった人たちに、東京フィルの演奏を楽しんでもらう機会がどんどん増えています。オーケストラに親しみやすい時代になっているのは大変喜ばしいことです」(岩崎さん)。

東京フィルは海外ツアーも積極的に行っているが、 その際、演奏者に帯同し、現地での移動手段などの手配や、演奏者の体調に気を配るのも岩崎さんたちの仕事だ。
「今でも忘れられないのは2014年のワールド・ツアーです。2011年3月に東京フィルは創立100周年を迎えて記念事業を企画していたのですが、東日本大震災のため延期になり、2014年にアジア・欧米6カ国を巡るワールド・ツアーとして実施しました。ただ、これが本当にとんでもないアクシデント続出で(笑)。例えば、事前申請しているにもかかわらず、重量オーバーで飛行機を飛ばせないと言われたり、時間になってもバスが来なかったり、楽団員の一人がケガをして演奏ができなくなったり。でも、演奏者たちには演奏のことだけに集中してほしいので、それに対応するのは私たちの大切な仕事なんです」。

中高大とトランペットと吹奏楽部に夢中

岩崎さんは小学校の授業でリコーダーをうまく吹けたのがきっかけで音楽の楽しさを知った。中学で吹奏楽部に入部。そこで始めたトランペットにハマり、高校・大学でもずっと吹いていたそうだ。
「といっても、映画『天空の城のラピュタ』で主人公パズーのトランペットがかっこいい、と言っているレベルで(笑)。そもそも演奏者になるという選択肢を知らなくて、本当にただ楽しくて続けていただけでしたね」。実際、大学へ進学した頃は教員志望だったという。

転機が訪れたのは大学2年。当時、石巻の大学へ通っていたが、たまたま参加した交流会で知り合った人に紹介され、佼成ウインドオーケストラのステージスタッフのバイトをすることになったのだ。
「地方公演のツアーに同行し、舞台をセッティングしたりといった裏方バイトでしたが、そこでプロの音楽家がどうやって楽器を吹いているか、日々どんな練習をして本番に臨んでいるかを間近で見ることができました。刺激を受けてその後、私のトランペットもすごく上達しました。でも、裏方が楽しかったので、佼成ウインドで仕事を続けさせてもらいました」。卒業して1年後からサブ・ステージマネージャー、制作マネージャーを経験、定期公演や国内外のツアーにも携わった。そして2004年3月、東京フィルの企画制作課に入ることになる。

東京フィルを通して音楽の魅力を届けたい

東京フィルに入団当初はとにかく必死だったという。
「佼成ウインドは吹奏楽の団体なので、団員数も35名程度と少なかったんです。でも、東京フィルは160名。多すぎて楽団員の名前がなかなか覚えられなくて(笑)。それとそもそも地方の大学からポンと出てきているので、東京にも音楽業界にも疎かった。例えば、外部の指揮者やソリストにお願いするにしても、どんな人がいるのかがわからないし、紹介してもらえるツテもないわけです。だから最初の頃は出会い一つひとつを大切にして、信頼関係を築いていくことに全力を注いでいました」。

そんな岩崎さんも今年で入団20年。課長として企画制作全体のスケジュールおよび運営管理を担っている。
「私自身は演奏していないわけですが、でも、より多くの人たちにオーケストラの音楽を聴いていただく機会を作ることができる。東京フィルは名実ともに魅力的なオーケストラです。これからも音楽の魅力をどんなふうにみなさんにお届けしたら、より楽しんでいただけるかを考えていきたいと思っています」。

コロナ禍で家の整理をしていたら高校時代、吹奏楽部でまとめていたノートが見つかったそうだ。
「演奏会のプログラムを1回目から全部書き出していたんです。年1回の定期演奏会の構成を考える構成班を担当していたようです。何日に開催するのか、演出はどうするかとか、曲の順番などもぎっしり書き込んでいて。まさに今につながる原点が高校時代にあったんだなと改めて気づいた次第です」(岩崎さん)。

長岡フェニックス合唱団と名歌手、東京フィル夢の共演

今年3月24日(日)、長岡市立劇場開館50周年記念の演奏会が開催される。国際的に頭角を現している東京フィル首席指揮者アンドレア・バッティストーニと実力派のオペラ歌手と共に、コロナ禍を経て再始動した長岡フェニックス合唱団が協奏・共演を果たすという夢のような演奏会だ(主催:(公財)長岡市芸術文化振興財団)。
「指揮のバッティストーニ氏がイタリア出身でオペラ指揮者でもあるので、主催者のご希望でイタリア・オペラを中心にプログラミングしました。市民合唱団とフル・オーケストラとの共演でオペラ作品を歌う今回の公演では、オーケストラ、合唱団それぞれの魅力を伝える内容も考えていますのでぜひ楽しみにしていてください」と岩崎さん。なお、東京フィルと長岡市は事業提携を結び、特別演奏会のほかに毎年、コミュニティコンサートなど市内の施設において音楽を届けるイベントを開催している。
「毎回、皆様に温かく迎えていただき、楽団員も市民の皆様と音楽で交流できることを楽しみにしています。一人でも多くの人たちが東京フィルを通じてクラシックやオーケストラを好きになってくれたらうれしいです」。

プロフィール

公益財団法人
東京フィルハーモニー交響楽団
公演事業部 企画制作 課長
岩崎 井織(いわさき いおり)

仙台市出身。石巻専修大学卒業。
学生時代は吹奏楽・金管アンサンブルを中心に音楽活動を行う。
東京佼成ウインドオーケストラにてステージスタッフ、制作マネージャーを務め、2004年3月、東京フィルハーモニー交響楽団へ入団。定期演奏会など自主公演の企画制作、2014年の100周年ワールドツアーをはじめとする海外公演、映画、アニメ・ゲーム音楽の公演など多種多様な依頼公演の制作、およびNHKやMBS「情熱大陸」などのドキュメンタリーなどTV番組にも携わる。