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file-115 伝統の道具でおいしいごはんを炊く(後編)

 

火力を操り、おいしいごはんを炊く


 精白時に出るもみ殻をリサイクルして使う「ぬか釜」と、熱源と羽釜を丸ごと密封する「蒸しかまど」。方法は違いますが、火力を効率よく使うことと、点火後は火の加減を気にしなくていいという特徴は共通しています。先人の知恵と現代の技術、さらに、米どころ新潟だからこそのこだわりが結集して復刻された炊飯方法です。

先人の知恵を形に

米どころで復刻されたエコ炊飯器

 平成21年(2009)、六日町温泉の旅館、旬彩の庄 坂戸城から持ち込まれた板金のオーダーが、「ぬか釜」復刻のスタートになりました。依頼を受けた樋口鉄工所(南魚沼市)の担当者が出向いてみると、そこには経年劣化でくたびれた「ぬか釜」が待っていました。「ぬか釜」とは、外筒と内筒の間にもみ殻を詰めて着火し、その上に羽釜を載せる仕組みの熱源です。単純な作りですし、20~30年前までは六日町地域では使っている家庭もあったなじみのあるもの。気軽に新規製造を引き受けて帰ってきました。  

 

樋口さん

「地域の『金物』の依頼には、アイディアと技術で応えてきましたが、ぬか釜は手ごわかったですよ」/樋口鉄工所 樋口さん

「ところが、簡単にはいかなかったんです」と、常務取締役の樋口尚人さん。完成品にもみ殻を入れて火をつけても、うまく燃えずに、すぐに火が消えてしまうのです。燃焼に必要な空気をどう取り入れるか、炊飯に必要な火力をどう維持するか。試行錯誤を繰り返し、依頼から半年後に、ようやく納品できました。  

 

製造風景

空気穴は位置により微妙に大きさを変えて開ける。小ロット製造なので、完全手作り/樋口鉄工所

 試作時に、「ぬか釜」で炊いたごはんを食べたとき、「あまりのおいしさに『道具でこんなに味が違うのか』とぼうぜんとしてしまって」と、樋口さん。普段はあまりごはんを食べない若手の職人たちが、おかずなしで4人で二升を平らげる様子に、「このおいしさを多くの人と分かち合いたい」と、販売を始めました。やがて、イベントへの実演依頼が来るなど少しずつ反響が出始め、これまでに100セットを販売。最近では、災害時の煮炊き用にと市や町内からのオーダーも来るようになりました。
「もみ殻を使うから、米作りをする地域で生まれた道具なのでしょうが、新潟固有のものかどうかはわかりません。東北から北陸にかけて使われていたとも聞きますよ」
 一気に燃え上がってガスより強い火力を生みだすから、米の甘さが際立ち、もっちりとした炊き上がりになるという「ぬか釜」のごはんは、依頼主の旅館で味わうことができます。  

 

燃え盛るぬか釜

もみ殻は油分を含んでいるので、着火するとすぐに大きく燃え上がる。その火力はガスよりも強い/旬彩の庄 坂戸城

湯気が吹く

「もみ殻が届くたびに、実際に燃やして何分で沸騰するかを確かめます」/旬彩の庄 坂戸城炊飯担当の丸山さん

 旬彩の庄 坂戸城では毎朝、2升のごはんを「ぬか釜」で炊いています。炊飯担当の丸山健吉さんは、夜のうちに米を研いで浸水させておき、7時の朝ごはんに間に合うように6時20分に着火。すると、約10分燃えて沸騰し、5分間その沸騰状態をキープしたのち、だんだん火が弱まって消える。そこから30分ほど蒸らすと、「ソフトで甘みがある、うまいごはんが炊き上がるんですわ。このごはんを目当てに何度も来て下さるお客さまもいるんですよ」
 本来は捨てられるもみ殻を使い、使用量を見極めて適正に入れれば、特別に火加減をすることなく炊き上がる「ぬか釜」炊き。開発者の樋口さんが「究極のエコ炊飯器」と呼ぶ理由がわかりました。  

 

うまさを閉じ込める陶器製の炊飯器

「蒸しかまど」を製造する小田製陶所は、阿賀野川に近い旧安田町(現・阿賀野市)に明治6年(1873)、創業しました。大河がもたらす豊富な粘土を生かし、当時の生活にかかせない瓶(かめ)を製造。阿賀野川の舟運(しゅううん)を活用して、長野や北陸にまで製品を販売していました。「蒸しかまど」は主要製品の一つでした。
「蒸しかまど」は、素焼き陶器で作られた、ふたつきの瓶のような形をしています。その中に木炭と羽釜を設置して炊飯し、炊き上がった後は通気口を閉じて10分間蒸します。米本来のうまみが引き出され、つや感も増して、おいしいごはんが炊き上がります。
「大正から昭和時代には、高級料亭や旦那様のお屋敷などで人気だったと聞いています。ぜいたく品だったんです」と、社長の小田正雄さん。また、熱源も羽釜も陶器の中に収めて、火が外に漏れないことから、船内での煮炊きにも重宝されました。しかし、電気やガスの普及で需要が落ちて、昭和30年代には製造を終了してしまいます。

 

小田製陶所 小田さん

「蒸しかまどの構造は昔の人の知恵の塊ですよ。空気の流れや熱の伝導がよく考えられています」/小田製陶所 小田さん

 今から10年ほど前、すし屋を目指す若者が主人公の人気漫画に、「蒸しかまど」が登場したことを知った小田さんは、自社の倉庫に3点だけ残っていた「蒸しかまど」で、ごはんを炊いてみることにしました。「驚きました。一粒一粒がしっかり立って、しっかりしているのにふっくらした食感で、普段食べている米が何倍も高級になった感じでした」
 焼き物の町、愛知県常滑の職人の協力を得て、古い図面から、一升炊きの「蒸しかまど」を復刻。さらに、家庭で、それも屋内で手軽に使えるようにと、小型化に挑戦。平成24年(2012)には、固形燃料一つで炊き上がる1.5合炊きなどのミニサイズシリーズの販売を開始しました。  

 

炊きあがり

素焼きの保温力で、炊き上がりはふっくら。「蒸しかまど」にはウルシヤマ金属工業の羽釜を使用/碧水荘

棚に並ぶ

1合炊きの蒸しかまどを15個そろえて夕食に対応。かわいいフォルムに買いたいという声も上がる/碧水荘

 咲花温泉の碧水荘では、プランによって夕食で「蒸しかまど」で炊いたごはんを味わえます。復刻時に試食して、旅館で使うための商品化を依頼し、ミニシリーズ製造を後押ししたオーナーの森田克彦さんは、「おいしいことに加え、お部屋で炊飯できるのがいいですよね。お客様に好評で、買って帰りたいとおっしゃる方もいます」
 少ない火力を最大限に生かす構造と、素焼き陶器特有の保温力。地域の技術が発揮された「蒸しかまど」は、徐々に認知度を上げ、今では年間300基ほどを生産。新たな伝統がまた始まっています。  

 

 米は毎年、新しい品種が生まれます。新潟県でも、今年は『新之助』の一般販売が始まりました。ただ、どんなにおいしい米でも、そのままでは味わえません。そこで、道具や炊き方を工夫しながら、日本人はおいしさを追求してきました。おいしいごはんは、先人の知恵や地域に伝わるモノづくりの技術がかなえていたのです。
 「今、高機能の炊飯器の多くが目指しているのが、羽釜を直火で熱する、昔ながらの炊き方です。コンピューター制御でこの炊き方をどこまで再現できるか、各メーカーが競っています。楽しみですね」と、米の研究が専門の大坪教授。平成の最先端のモノづくりの現場でも、おいしいごはんのための技術革新が行われています。稲作が伝わって3000年、おいしさの進化が続きます。   

 

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