
file-126 春を呼ぶ、雪国にいがたの奇祭(後編)
インパクトに惹きつけられる、春3月の奇祭
新潟県の裸祭の中では群を抜く歴史と規模を誇る南魚沼市浦佐の「越後浦佐毘沙門堂裸押合大祭」、また、ご神体の大きさで新潟県最大の長岡市栃尾の「ほだれ祭」。メディアにも取り上げられ、全国区の知名度を持つ二つの祭りを通して、時代に合わせながら祭りを盛り上げていく人々の取り組みに迫ります。

全国からご利益を求めて人々が集まる
ストイックに伝統を継承する

「裸押合いの最後に行われる『ササラスリ』は厳かな空気に包まれます」/大楽さん

雪の中、大ロウソク数百本に点火。その炎の中で祭りが始まる/裸押合大祭
祭りでは、上半身裸の男たちが、御本尊を誰より早く、誰より近くで見ようと本堂の奥に向かいます。身体同士がぶつかる音、「サンヨサンヨ」の野太い掛け声、身体から立ち上る熱気が堂内に満ち、たちまちボルテージはアップ。外では詰めかけた参拝客に福餅や弓張(ゆみはり)がまかれ、こちらも盛り上がります。

一年に一度の開帳に、毘沙門天を見ようと参拝客が押し合ったのが祭りのきっかけ。

撒与された弓張に群がる参拝客。授かった弓張の一部は神棚や仏壇に供えるか、お守りとして身に着けると心願成就。昔から授かった弓張を、田んぼの水口にさしおておくと病虫害から守られ豊作になる。
3月3日に開催されてきた裸押合大祭は、新しい元号に変わる2020年度から3月の第1土曜日の開催になります。祭り関係者が三年あまり議論を重ね、最後は満場の拍手で決まったそうです。「これは大きな覚悟と決断で、伝統を守り次の世代につなぐだけでなく、さらに発展させるための選択です。江戸時代、裸押合いには老若男女が参加していたという記録が残っています。浦佐多聞青年団に女性が加入し、彼女たちが提灯を持ち、晒を巻いた法被姿で指揮を執る日が来るのも近いと思います」と関さんは語ります。
青年団のアイデアから生まれた祭り
棚田が広がる長岡市栃尾の下来伝(しもらいでん)集落の真ん中、御神木である樹齢800年の大杉に寄り添うお堂には、高さ2メートル、重さ600キロのほだれ様が鎮座。ほだれとは、稲穂が実った様子「穂垂」にちなんだ名前と言われていますが、御神体はケヤキで作られた、巨大な男性のシンボルです。

御堂の傍らに立つ御神木に、大しめ縄を張り替える/ほだれ祭

「神輿に載ったほだれ様が人波の上に現れると感動します」/星野さん

1年以内に結婚した花嫁をご神体に載せる、祭りのクライマックス/写真提供:武石了
「ほだれ祭」は、ほだれ大神宮の神事の一環。祭り当日の3月第2日曜日は、ほら貝の響く中、長さ5メートルの数珠を手に氏子が集落内を練り歩く大数珠繰りで始まります。御神木に重さ200キロのしめ縄を張り替え、祝詞(のりと)や玉串奉納、参加する初嫁の厄払いを経て、有名なほだれ様の巡回と初嫁神輿へ。「ほだれ様が600キロ、神輿が200キロ、そこに初嫁が3人。大変な重さで、若い人が大勢必要なんです」。今、集落の人口は約60人、高齢化も進んでいます。国際ボランティア協会や新潟県内の大学生の協力を得て、開催を続けています。
それぞれの祭りは地域の風土や産業と深く結びつき、そこに暮らす人の願いが込められているものでした。時代を超えて受け継がれ、大切に守られてきたからこそ、地域によってそれぞれ違った姿を見せるのです。地域の外の人や初めて見た人には「奇祭」であっても、地域の人にとっては、親しみと誇りと楽しさに満ちた「喜」、喜びの祭りです。雪国の新潟では、春の到来を告げる時期に個性豊かな祭りが行われます。それぞれの歴史と文化に触れられる「喜祭」に出かけてみませんか。
掲載日:2019/2/28
■ 取材協力
大楽和正さん/新潟県立歴史博物館 主任研究員
関常幸さん/裸押合大祭委員長
星野清さん/ほだれ祭実行委員