file-13 「新潟の若手音楽家たち」

 ヴァイオリニストの奥村愛(おくむら・あい)さん(新潟市出身)は28歳。テレビなどでもおなじみです。今年3月新潟県民会館開館40周年を記念したフェニックスコンサートに出演した演奏家の一人です。5月に演奏会のため新潟市を訪れた際、お話をうかがいました(5月11日収録)。

[写真] 2008年3月に新潟県民会館で行われたフェニックスコンサートの出演者。
左から横坂源さん、小山裕幾さん、奥村愛さん、鈴木愛美さん、笛田博昭さん。
photo:Arnold GROESCHEL

奥村愛さんインタビュー「座右の銘は忍耐と根性」

奥村愛さん

新潟市で行われたサミット労働閣僚会談のレセプションで演奏を行った奥村さん。「レセプション会場の日航ホテルに部屋を用意してもらえたので、一度泊まってみたいとは思ったんですが…」と苦笑。やはり実家に泊まることにしたとおっしゃっていました。

—10月に母校の寄居中学(新潟市)で講演されるそうですが、これまで講演の経験は?

 ないです。どんなことを話すかは決めてないですけど、4歳からヴァイオリンを始めてここまで24年。一つのことを続けていくってすごく大変ですが、続けてきたから強くなれたことや、続けてきたから出会えた人もたくさんいるんですね。続けることで自分にとってかけがえのないものになったっていう話をしようかなと思っています。

—4歳からの24年は、長いですね。やめようとは思わなかったですか?

 ヴァイオリンを弾くことはご飯を食べるのと同じように自然なことでしたから、やめるという選択肢はなかったです。でも、特に中学時代はつらかったですね。部活をやったり、休みの日に友達と遊んだりっていう、普通のことができない。「どうして自分ばっかり」って思っていました。年齢的にも多感な頃ですから、先生や友だちが支えでした。

—練習はどれくらいやったんですか?

 1日8時間とか。学校を休んで練習することもありました。練習がつらいから、10時間くらい取るんです。それでその間をいかに怠けるかって考える。何度もトイレに行ったり、何度も喉が渇いたり(笑)。結局は自分に跳ね返ると分かっていても、あの頃はそうでした。

—20歳でプロの演奏家になられて、その前と現在とはどんなところが違いますか?

 学生の頃って目標といえばコンクールで、そのためにひたすら毎日練習するんです。いい順位が獲れた時は報われるけど、毎回いい成績をとれるわけではないですよね。そうすると「自分は精一杯やった」っていう自己満足でしか、自分を納得させる方法がなかったような気がします。今から思うと、コンクール中心の練習はちょっと寂しかったなぁと思います。

—というと今の方が?

 楽しいですね。いい演奏ができれば喜んで下さるお客さんがいて、その声を聞くこともできる。自分の演奏で感動して下さる方がいたら、極端ですけど「自分の人生(たとえダメでも)それでOK」って思える(笑)。そのために練習できます。ただし、責任は大きいです。お金も関係してくるし、それに関わっている人の数も違う。



—聴衆の反応で、どんな時がうれしいですか?

 笑顔の時ですね。音楽も含めて、その場の雰囲気を楽しんでくれているんだなと。心地よくなかったら笑顔にはなれないじゃないですか。だからお客さんの顔が見える小さいホールで弾くのが好きです。お客さんはステージからは見えないと思って油断しているかも知れませんが、これがよく見えるんですよー。「あ、あのおじさん寝てるな」とか。

—クラシックコンサートで寝るのは気持ちいいんですよ。

 分かります。私も行ったら、たぶん寝ます。

—コンサートではどんなことを実践されていますか?

 クラシックにこだわらずに演奏してゆきたいと思っています。もちろん基本はクラシックですけど、メロディーの美しい曲とかを。特にヴァイオリンはそういう曲がたくさんありますから。
 ポップスを人は娯楽として聴きますよね。クラシックも昔はそうだった。どの時代でも、音楽の楽しみ方は一緒ですから、親しみを持って接してほしいと思っています。例えば3月のフェニックスコンサートでも演奏したんですが、「Yankee
Doodle」。誰でも知っている「アルプス一万尺」が元になっている曲です。元は民謡の曲でも、音楽の原点は同じということを感じてもらいたいです。

—昨年からクラシックはブームになっていますが、まだ親しまれてはいないと感じますか?

 ブームは終わった後の寂しさもあります。それからポップスと隔たりなく聴いてほしいと思う反面、何百年も続いてきた歴史も伝えたい、消費されない音楽でありたいという願いもあります。ヨーロッパではポップスが受け入れられている一方で、クラシックが生活の中で大事にされている。発祥の地ですから日本と違って当たり前なんですが、そうなっていくことが私たちの理想です。歌舞伎や能など日本の伝統芸能の世界でも、皆さん同じようにがんばっていると思うのですが、新しい文化がどんどん生まれる文化の先進地である日本で、古いものも同じように大事にしてもらえたらと思います。

—ポップスと同じように親しみが持てて、なおかつ消費されない音楽を伝える。とても難しいことではないですか?

 難しいですね。そのバランスというのは、もしかしたら一生やり続けても見つからないかも知れません。でも「バランスをとる」ということを忘れずに続けていきたいと思います。

—今クラシックの演奏家になろうとがんばっている人たちにアドバイスはありますか?

 練習、しかないですね。

—それを言われてしまうと、話が終わっちゃいますのでもう少し。

 私の座右の銘なのですが、「忍耐と根性」。音楽って根本は体育会系で、練習が何よりも大事。だからやっぱり「忍耐と根性」しかないんです。いいことばかり続くことはあり得ないんだけど、そこで諦めたら終わり。気持ちが弱くなったら終わりです。努力していればいつか目標に到達できるのかといえば、それは届かないかもしれないんだけど、小さな目標を立てて少しずつクリアしていくしかないですよね。



▶奥村さんのプロフィール、ブログ

 中越地震からの復興と新潟県民会館開館40周年を記念したフェニックスコンサート。実は新潟県民会館は新潟地震からの復興を願って寄付金を元に作られた施設なので、震災復興へ向けて二重の記念となる大々的なコンサートとなりました。演奏したのは新潟市出身の奥村愛さん(ヴァイオリン)、横坂源さん(チェロ)、長岡市出身の小山裕幾さん(フルート)、鈴木愛美さん(ソプラノ)、湯沢町出身の笛田博昭さん(テノール)。未来を目指す演奏家たちの美しい音色に惜しみない拍手が贈られました。
 小山さんと鈴木さんから、本サイトへメッセージが寄せられています。若手音楽家の意気込みを感じつつ、彼らのこれからを応援して下さい。

新潟出身の若手演奏家からのメッセージ

 鈴木愛美(すずき・まなみ)さん

鈴木愛美さん

鈴木さんは新国立劇場オペラ研修所の第7期生を修了。今秋から平成20年度文化庁新進芸術家海外研修員としてイタリア・ミラノに留学を予定している。

 新潟の皆さん、こんにちは。3月の新潟県民会館<フェニックスコンサート>ではたくさんのお客様に御来場いただきましてありがとうございました。共演させていただいた方々は皆新潟出身の素晴らしい音楽家の方達ばかりで、親近感がわき楽しく演奏させていただきました!そして何より県民会館いっぱいのお客様から応援していただきとても嬉しく、音楽を好きでいて下さる方々がたくさんいらっしゃることに大変感動いたしました。

 私は東京にあります新国立劇場オペラ研修所を修了し、今はコンサート活動や新国立劇場のオペラに出演させていただいています。

 私達の日常には日々美しい音楽が流れています。音楽は人々を癒し、心を豊かにしてくれると私は信じています。私はこうした音楽の魅力をオペラやコンサートを通じて新潟の皆さんをはじめ、全国の皆さんにお伝えしていきたいと思っています。

 今年の秋には、より深くオペラを勉強する為に文化庁海外派遣でイタリアのミラノに留学します。ミラノでの歌の勉強やオペラ鑑賞はもちろんのこと、イタリアの各地を巡り文化もたくさん吸収してきたいと思っています。帰国した際には故郷新潟で、また皆さんにお会いできますことを心から願っております。

▶鈴木愛美(すずき・まなみ)さん 
プロフィールはこちら

 小山裕幾(こやま・ゆうき)さん

 僕はどこにでもいる演奏家にはなりたくない。常に他のフルーティストの方々がやった事の無いような曲に挑戦し、それが僕のアイデンティティになるような芸術家になりたいと思っている。もともとフルートにはヴァイオリンやピアノに比べて音楽的に優れた曲が少ない。ロマン派の曲は皆無だし、フルートカルテットはモーツァルトぐらいである。サンサーンスやブラームスの曲だって演奏してみたい。これは僕の昔からのコンプレックスである。フルーティストが取り上げる曲なんて高が知れている。そういった限界のようなものを突破したい。具体的に考えているのは、『他の楽器の曲への挑戦』・『知られざる名曲の発掘』・『新曲の演奏』である。最近はヴァイオリンやチェロの曲を勉強の為に練習しているし、今度の12月のコンサートでは作曲家の平井京子氏の新曲を演奏させていただくことになった。まだ芸術家としては芽ぐらいしか出ていないが、こういった活動を何十年と続けていくうちに茎、葉っぱ、花に成長できたらなと思っている。日々努力を惜しまず頑張っていきたい。

▶小山裕幾(こやまゆうき)さん 
問い合わせ先はこちら



※新潟市出身のヴァイオリニスト、鍵冨弦太郎さんが演奏するコンサートが10月19日、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館で開かれます。指揮ドミトリー・キタエンコ、東京交響楽団。お楽しみに。
問い合わせは、りゅーとぴあ<025-224-5521> http://www.ryutopia.or.jp/

新潟でクラシックを聴く?新潟の音楽事情

 新潟県内にある専用音楽ホールを持つ施設は、新潟市のりゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館と、長岡市の長岡リリックホールの2か所。りゅーとぴあコンサートホールはアリーナ式でパイプオルガンが設置されており、専属オルガニストによるパイプオルガンの演奏会が定期的に、低料金で楽しむことができます。またリリックホールはシューボックス型の専用コンサートホール。両館とも自主公演を行っており、国内外の演奏家によるシンフォニーやリサイタルを楽しむことができます。

 複合施設としては昭和39年の新潟地震からの復興を記念して建設された新潟県民会館(新潟市)、長岡市立劇場(長岡市)、上越文化会館(上越市)など多数。また、だいしホール(新潟市)など小規模な民間施設もあります。

 これらの施設で著名な演奏家を招いての自主公演、テレビ局や新聞社など企業主催による公演が行われるほか、施設を練習場にしている市民による演奏会も日々行われています。例えば交響楽団は新潟市、長岡市、柏崎市、上越市にあり、吹奏楽団は新潟市、三条市、糸魚川市などで活動しています。また市民オペラや合唱団も県内各地で活動しています。

 クラシック音楽は、案外皆さんの身近にあるもの。託児所のある施設や、公演によっては1000円未満の入場料で楽しめるコンサートもあります。敷居の低いところから、まずはのぞいてみて下さい。

コンサート情報

▶ニイガタ見聞楽

▶りゅーとぴあスケジュール

▶リリックホール公演情報

▶上越文化会館

▶だいしホール

その他にもたくさんの文化ホールがあります。詳しくはこちら

前の記事
一覧へ戻る
次の記事