file-42 音楽があふれる夏 ~港町新潟市にJAZZが根付いた秘密

港町新潟市にJAZZが根付いた秘密

二野明トリオ&SATUKI

二野明トリオ&SATUKIによる、 りゅーとぴあ空中庭園での演奏。

 

 日本一長い、雄大な信濃川が流れ込む港町新潟。ジャズの故郷ニューオリンズのミシシッピー川をどこか彷彿とさせるその姿は、この街で昔からジャズが人気だったことを自然に納得させてしまう雰囲気がある。

 新潟で昔からジャズが盛んな理由はいくつかあるが、第2次世界大戦後の進駐軍とアメリカ文化センターの存在が大きな理由だとされている。進駐軍クラブでは慰問軍の演奏がなされ、日本人とアメリカ人ミュージシャンのセッションも聴くことができた。また文化センターでは盛んに戦勝国の文化としてジャズが紹介されており、昼夜を問わずジャズが流されていたといわれている。

 新潟に行けばジャズが演奏できる―。ミュージシャンの間でこんな噂がたつようになるほど、ジャズと新潟の街は結びつきを深めてゆく。もともとキャバレーやクラブが多く、バンド活動が盛んだった街は、ジャズの演奏を求めるミュージシャンや、演奏を聴きに来る愛好家にも人気の場所となっていった。
 

1月22日は“JAZZ DAY”

ジャズ喫茶スワン

有名バンドの演奏が聴けるのも魅力。
Sun Shipによるジャズ喫茶スワンでの演奏。

 JAZZの“JA”がJanuary(1月)の先頭2文字、“ZZ”が“22”に似ているという洒落から、1月22日は「ジャズの日」とされている。東京都内の老舗ジャズクラブのオーナーらによる「JAZZ DAY実行委員会」がこの記念日を設定し、ジャズのファン層を広げるため、2001年からさまざまなイベントやPR活動を企画した。それが後に全国に広がるようになり、新潟でも2003年から「新潟ジャズストリート」が開催されるようになった。「新潟の街を明るく元気に!音楽のあふれる楽しい街にしたい!」そんなコンセプトで始められ、今年で9年目。新潟市民だけでなく近隣の市町村にも、独自のJAZZイベントが広がるほど、人気が高まっている。

7月のJAZZ STREETの由来

スマート

古町モール6でのスマートさんによる演奏。
新潟の街中でJAZZが奏でられる。

 

 新潟ジャズストリート」は“JAZZ DAY”の1月22日だけではなく、7月にもイベントを開催している。7月の「新潟ジャズストリート」を語るには、ジャズの巨匠デューク・エリントン(1899-1974)をなくしては始まらない。

 彼はニューヨークを拠点に活動した世界的に有名なバンドリーダーであり、50年の長きに渡って、数多くの作曲・編曲を創作してきた。ジャズに詳しくなくても、彼の代表曲はどこかで耳にしたことがあるはずだ。

 有名なジャズの巨匠と新潟市のつながりのきっかけは、実は意外なところにある。彼は昭和39年6月16日に発生した新潟地震の直後に来日。日本公演中に新潟の惨状を耳にした彼は、次に予定されていたハワイ公演をキャンセルし、7月8日に東京・厚生年金ホールで「新潟地震救済資金募集・特別コンサート」を開催。収益金をすべて新潟市へ寄付するという心温まるエピソードが残っているのだ。

 2年後の再来日の際に、新潟市は彼に「国際親善名誉市民」の称号を送っている。数々の音楽賞を手にしてきた彼も「名誉市民は初めて」と、とてもうれしそうに語ったとされている。

 そんな彼の志を酌んで、7月のジャズストリートは“デュークエリントンメモリアル”と名づけられ、イベントの収益の一部はユニセフや、県内の災害時の義援金として寄付されている。

 今年2011年3月11日に起こった東日本大震災。彼が生きていたならば、真っ先に来日し、彼の音楽によって我々を励ましてくれたに違いない。多くの犠牲になった被災者に哀悼の意を捧げるとともに、デューク・エリントンの温かい志を私たちも受け継いでいかなければならない。

 

file-42 音楽があふれる夏 「地音地聴」~地域の音を地域で聴く~

「地音地聴」~地域の音を地域で聴く~

小泉さん(写真一番右)

音楽好きの父の影響で、自らもバンジョーを 演奏する小泉さん(写真一番右)。
昨年はバンド出演も果たした。

そば竹野の店主 小泉さん

「蕎麦と日本酒とJAZZという異業種コラボレーションもおもしろいかもしれない」と語るそば竹野の店主 小泉さん。

五十嵐中学校吹奏楽部

五十嵐中学校吹奏楽部によるIKARASHI-BB-JAZZの演奏。中高生によるビッグバンドも人気が高いプログラムの一つ。

 新潟市白山神社の程近くで蕎麦屋を営む、そば竹野の店主 小泉浩さんは、音楽好きの父親の影響で、JAZZやボサノバ、アメリカンポップスなどを趣味でよく聴いていた。地元の人が地元で奏でられる音を聴く「新潟ジャズストリート」に興味を持ち、第1回目の企画から携わっている。

 新潟にもいろんなバンドがあったが、各自で個々の活動をしていただけで、横のつながりはなかった。このイベントをきっかけにして新潟のJAZZバンドのネットワークができればいい―そんな願いもあった。

 ジャズストリートといえば、港町である神戸や横浜が有名。新潟より歴史もあり、予算規模も大きく、ジャンルも多岐に渡っている。演出や企画にプロの手が入り、市や商工会議所などの支援の下に開催しているジャズイベントは他県でも多い。しかし新潟の場合は一味違う。それは地域の人たちが地域のために作っていること。提供するお店と、ミュージシャン、そしてそこに集まるすべてのお客さんが一体となって運営されている。他県からは「新潟方式」と呼ばれることもあるという。

 第1回目の観客数は1,000人に満たなかったが、温かい手作り感に魅力を感じて訪れる人は年を追うごとに増えている。前回(2011年1月22日)開催時には、約2,100人もの人が訪れた。しかし資金繰りに関しては、少なからず不安な面もある。スタッフの多くは無償ボランティア。出演者も年々増えてはいるが、出演料はチケットの売り上げによる配当だけ。それでもイベントのコンセプトに共感して来てくれる出演者が多い。会場となるお店も地元の小さな喫茶店から、高級ホテルのバーまでバラエティーに富んでいるが、すべて1,000円のワンデーフリーパスチケットとドリンク一杯500円で統一されている。当初は賛同してくれないところもあったが、会を重ねるごとにイベントの趣旨そのものが理解されるようになり、今ではすべての会場で足並みがそろうこととなった。

 また、収益はできるかぎり寄付に回している。昭和39年に起こった新潟地震の直後に楽団を引き連れて来日し、コンサートの収益をすべて新潟市に寄付してくれたデューク・エリントンの志を酌んでのこと。この意思はできるだけ受け継いでいきたいと考えているからだ。

 結果としてイベントの規模拡大につながってほしいが、みんなで楽しめるイベントをつくることが第一。中高生によるビッグバンドもあり、幅広い年代に楽しんでもらえるよう工夫している。地域の芽を地域で育て、地域の音を地域で聴く。地産地消ならぬ「地音地聴」。この「新潟方式」は、新潟市だけでなく、新発田市の「JAZZ STORY」や柏崎市の「音市場」にも脈々と受け継がれている。「自分たちのことは自分たちで」という自治の精神を大事にしたい、と語る小泉さん。新潟ジャズストリート実行委員会は、昨年2010年にNPO法人を取得した。「内発的に育ち、持続可能に続いていける組織」を目指したい。音楽を聴いて、酒を飲む。そのシンプルな楽しみ方にこそ、人生を豊かにするヒントが隠されているのかもしれない。

 

 

 

file-42 音楽があふれる夏 季節と楽しむ~その他の音楽イベント

季節と楽しむ~その他の音楽イベント

 JAZZ STREETの他にも、新潟の街並みや自然とともに楽しめる夏ならではの音楽イベントが各地で開催される。この他にも、夏のアートイベントの一環で行われるコンサートなども多数ある。
 チェックして是非足を運んでみよう!

▷7月

・7/29(金)~31(日)フジロック・フェスティバル(湯沢町)

▷8月

・8/6(土) 日本海夕日コンサート(新潟市)
・8/19(金)~21(日) アースセレブレーション(佐渡市)
・8/27(土) 音楽と髭達2011(長岡市)

▷9月

・9/4(日) 三条音楽祭(三条市)

2010年開催フジロック・フェスティバルの様子

file-42 音楽があふれる夏 県立図書館おすすめ関連書籍

  

県立図書館おすすめ関連書籍

「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。

▷『サイトウ・キネンのこころ 音楽祭の「ステージと舞台裏」10年』

(サイトウ・キネン・フェスティバル松本実行委員会/編 信濃毎日新聞社 2001年発行 請求記号:書庫760/Sa25)
 毎年、夏に長野県松本市で開催される「サイトウ・キネン・フェスティバル」は新潟とも関係がとても深いフェスティバルです。20回目の今年は、バレエ・オペラをりゅーとぴあ舞踊部門芸術監督金森穣氏が演出・振り付けし、Noismが出演します。亡き師・齋藤秀雄氏に捧げるため、小澤征爾氏を総監督に1992年から始まり、10年目の記念の年に発行されたのがこの本です。出演者たちの音楽への思いがあふれている記録集です。
 

▷『野外フェスのつくり方』

(MASSAGE編集部/編 フィルムアート社 2010年発行 請求記号:くらし764/O42)
 夏の音楽イベントといえば、夏フェスではないでしょうか。自然に囲まれ、日差しを浴びながら、あるいは木々のざわめきを聞きながら、音と熱気にあふれる野外フェスティバルはどのようにして日本で行われるようになったのか。また、場所さがしや運営など、舞台の裏事情や様々な人々との関わりなど、夏の音楽を少し違った視点で楽しめる1冊です。

▷『絶対行きたい 世界の音楽祭』

(田中良幸/著 ヤマヤミュージックメディア 2010年発行 請求記号:くらし760/Ta84)
 オペラやオーケストラなど、いわゆるクラッシック音楽の音楽祭にはいったいどんなものがあるのでしょうか。ヨーロッパ最大の野外オペラフェスティバルであるイタリアの「ヴェローナ・オペラ・フェスティバル」をはじめ、世界中で開催されている音楽祭が紹介されているのがこの本です。海外旅行を予定されている方、ぜひ各地の音楽祭ツアーを計画してみてはいかがでしょうか。

▷『レディー・ガガ』

(ブランドン・ハースト/著 長沢あかね/訳 中村有以/訳 マーブルトロン 請求記号:くらし767/L12)
 日本にも来日し、世界に旋風を巻き起こしているレディー・ガガですが、どんな人物なのかよく知らないという人が多いのではないでしょうか。奇抜な衣装とパフォーマンスで酷評されることもある彼女ですが、この本では各誌へ掲載されたインタビューを中心に、アーティストとしての駆け上がっていく彼女の歴史を知ることができます。


ご不明の点がありましたら、こちらへお問い合わせください。
(025)284-6001(代表)
(025)284-6824(貸出延長・調査相談)
新潟県立図書館 http://www.pref-lib.niigata.niigata.jp/

 

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