file-48 今だから知りたい新潟の奇談(後編)
         ~雪氷の妖怪たち~雪女・かねっこり(つらら)娘・雪太郎~

  

~雪氷の妖怪たち~雪女・かねっこり(つらら)娘・雪太郎~

雪女・かねっこり娘

 
高橋郁丸さん

新潟の妖怪について詳しい高橋郁丸さんにお話を伺った。新潟県民俗学会常任理事、全国良寛会理事、そして漫画家と多くの肩書を持つ。妖怪についての講演を多数行うなど、幅広く活動を展開している。

積雪の中での正月(『北越雪譜』より)

積雪の中での正月(『北越雪譜』より)。人の背丈の何倍もの積雪であることがうかがえる。豪雪地越後の風景をよく物語っている。

 冬に登場する妖怪と言えば、まっさきに雪女を思い浮かべる人も多いだろう。ひっそりとした山あいの集落などで、吹雪の日に男のもとに美女が現れるというパターンが主である。

 しかし雪だけでなく、屋根からぶらさがる氷柱(つらら)の美しさを、女性の姿に見立てた物語も多く存在する。新潟県や富山県の一部では、氷柱(つらら)のことを「かねっこり」もしくは「かねこおり」と表現することがあり、「かねっこり娘」などとも呼ばれている。地域によって物語のバリエーションは様々である。

 冷え込みの強い晩に入り口の戸を叩くものがいるので見に行くと、外に女が立っている。家の中に招き入れ、家の者がお茶やお風呂を勧めても不思議なことに、断固として拒否される。無理をして勧め、お風呂に入れさせて湯加減を尋ねると、風呂には女の姿はなく、一片の氷だけが残っている、という話が一般的。
  
 また、「かねっこり」を落とさないと化けて出る、という言い伝えや、逆に氷柱(つらら)を叩き落としたところ、首を突かれて殺されたというストーリーもある。
  

雪太郎

雪洞で遊ぶわらべたち(『北越雪譜』より)

雪洞で遊ぶわらべたち(『北越雪譜』より)。いつの時代も、子どもにとっての雪遊びは楽しいもの。

『越後の国雪の伝説(拾遺)』に描かれた雪太郎の挿絵。

『越後の国雪の伝説(拾遺)』に描かれた雪太郎の挿絵。

 雪は女性だけでなく、時に男の子にも姿を変える。「雪女」や「かねっこり娘」と違い、この「雪太郎」の話は、新潟県だけに伝わっているというのが大きな特徴であり、テレビ番組「まんが日本昔話」でも取り上げられた。ストーリーは以下のようなものである。

 東頸城の菱ヶ岳(現:上越市安塚区)に髭(ひげ)の長者と呼ばれる老夫婦が住んでおり、子どもはなく、2人だけで寂しく暮らしていた。雪の降るある日、あられの音に混じって戸をたたく音がするので、外に出ると、真っ白に雪をかぶった子どもがいた。それが雪太郎であった。冬の間は老夫婦とともに過ごすが、雪が消えると雪太郎も消えてしまう。しかし冬の季節になると雪太郎がやってきて、雪太郎を囲んでの楽しい暮らしが始まる。やがて春になるとまた消えてしまう。そんなことが何年も続いた後、お爺さんが亡くなり、後を追うようにお婆さんも亡くなってしまった。そして雪太郎も来なくなってしまった。誰もいなくなってしまった長者の豪邸は、雪山と見分けがつかないほどに、雪に埋もれてしまったという物語である。

 雪女やかねっこり娘と大きく違うのは、登場人物に危害を一切加えず、一緒にいる時間を共に楽しんでいるところにある。雪が冷たくて恐ろしいだけの存在ではなく、むしろ冬の到来を待ち遠しく感じ、雪への親しみのこもった人々の気持ちを感じることができるだろう。

 この民話から、上越市牧区では地元の名産品である大根に「雪太郎大根」と名付けた商品を商標登録し、地域おこしに一役買っているという。「雪太郎」は、雪深いこの地域を象徴する存在であり、人々の地域への誇りにもつながっている。

file-48 今だから知りたい新潟の奇談(後編) ~奇祭!化け猫退治に由来する裸押し合い祭り

奇祭!化け猫退治に由来する裸押し合い祭り

雪の普光寺毘沙門堂

「雪の普光寺毘沙門堂。重厚な作りが雪国らしい雰囲気を醸し出す。(写真提供:南魚沼市観光協会)

毘沙門堂裸押し合い祭り

毘沙門堂裸押し合い祭り。もみあい、押し合う若衆たちの熱気が、寒さをも吹き飛ばす。(写真提供:南魚沼市観光協会)

大祭福餅撒与

無病息災・除災招福祈願の大祭福餅撒与。福餅を手に入れようとたくさんの人が詰めかける。(写真提供:南魚沼市観光協会)

魔除けの猫面

魔除けの猫面。残念ながら、現在は販売されていない。(写真提供:南魚沼市観光協会)

 新潟県の中でも特に雪深い南魚沼市浦佐の普光寺毘沙門堂では、「裸押し合い祭り」が毎年3月3日に行われており、約1200年の歴史を誇っている。我先に毘沙門堂を拝もうと、多くの民衆が押合いを始めたのがこの祭りのきっかけである。

 この普光寺毘沙門堂は、その昔、坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)(785-811年)が魚沼地方を鎮静するために建立されたものだとされている。毎年数万人の見物客が訪れるというこの裸押し合い祭りは、実は以下のような化け猫退治に由来しているとも言われている。

 普光寺には、いつの頃からか一匹の猫が住みつき、この猫が年をとって化け猫になった。この化け猫が、毘沙門堂の堂守(どうもり)を次々と食い殺すようになったため、村人たちは、なんとかしてこの化け猫を退治しようといろいろ策を練ってみるが、恐ろしくて手が出せない。

 そんなある時、堂守を志願する修行僧がやってきた。化け猫のことを村人に聞いていた修行僧は、片目のあんまに化けてでた化け猫を、応戦に来た村人たちと共に退治したという。人々は、この化け猫の上にむしろをかぶせ、掛け声をかけながら力いっぱい「サンヨ、サンヨ」と言いながら、踏みつけたのだという。

 この日が旧暦の1月3日であるといわれており、新暦になおすと3月3日にあたる。そのため浦佐では毎年3月3日に、堂の中にむしろを敷いて、「サンヨ、サンヨ」という掛け声を唱えながら裸押し合い祭りをするようになった。またその年の豊作や除災招福(じょさいしょうふく)も祈願されているという。

 かつては門前で、日光東照宮の「眠り猫」を彫った名工・左甚五郎の作であるとされる原形を元にした「魔除けの猫面」が売られていた。昭和初期に作る人がいなくなり、一時断絶してしまったが、1980年頃、地元の画家・早津剛氏が古い猫面を発見したのをきかっけに、復元が行われ、「魔除けの猫面」が復活を果たした。

 また、毘沙門堂には「猫瓦」があしらわれていたり、「裸押し合い祭り」の時に堂に敷くむしろのことを、人々は「ネコシキ」と呼んでいたりと化け猫と毘沙門堂の関係を感じさせるものがあちこちに残されている。

 新潟の長い冬。それは来る春への準備期間でもある。冬籠りのため、物が「ふえる」ところから「ふゆ」の語源になったとも言われており、また娯楽の少なかった昔は、たくさんの昔話をして、長い冬を過ごしていた。新潟県は昔話の数が他地域に比べ、圧倒的に多く、民俗学会も全国で一番歴史が古いのだと高橋郁丸さんは語る。雪とともに暮らす人々は、先祖が伝えてくれた多くの物語を語りつぎ、「妖怪」という得体のしれないものに、冬への不安や恐怖心を投影していたのかもしれない。

 日本三大奇祭の一つであり、国の重要無形民俗文化財への指定を目指している浦佐の「裸押し合い祭り」。ぜひ直接足を運んでみてはいかがだろうか。もしかしたら「妖怪」の存在を感じることができるかも。


● 取材協力:新潟県民俗学会常任理事 高橋郁丸さん

● 写真提供:南魚沼市観光協会大和案内所

● 引用・参考文献
・現代語訳 北越雪譜(荒木常能・鈴木牧之 著:野島出版)
・現代語訳 北越奇談(荒木常能 著:野島出版)
・にいがたの怪談(駒形覐 著:新潟日報事業社)
・越後の国雪の伝説(拾遺)(鈴木直 著:歴史図書社)

file-48 今だから知りたい新潟の奇談(後編) 県立図書館おすすめ関連書籍

  

県立図書館おすすめ関連書籍

「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。

▷『妖怪玄談』

(井上円了/著 竹村牧男/監修 大東出版社 2011年発行 請求記号:郷土N147/I55)
 東洋大学の創始者でもある井上円了(新潟県出身)は「お化け博士」と呼ばれ、「コックリさん」の研究も真面目にしていた研究者です。「コックリさん」は今も昔も小学生の話題にのぼっている学校の不思議の一つではないでしょうか。内容は難しいですが、その分読み応えがある本です。

▷『新潟の妖怪』

(高橋郁丸/著 考古堂 2010年発行 請求記号:郷土N388/Ta33)
 著者である高橋郁丸さんは、これまで新潟県民俗学会で祭りや習俗、伝承などの研究をされてきましたが、このたび「新潟妖怪研究所」を結成し、妖怪研究で新潟文化を普及させようと活動を始めたそうです。漫画家でもある高橋さんはこの本で、新潟県内の妖怪や伝説をイラストと共に紹介しています。まずは入門書として、気軽に読めるオススメの本です。

▷『幽霊の正体(別冊太陽)』

(平凡社 1997年発行 請求記号:387/Y99)
 日本の幽霊といえば、うらめしそうであったり、もの悲しそうだったりと西洋のそれとは趣きを異にしていますが、背筋がゾッとする怖さという点では世界でも類を見ないのではないでしょうか。この本では、現存している日本画や浮世絵などがカラー写真で紹介されています。怖いもの見たさから、読んでみたいというあなたにおすすめです。
 ただしご注意ください。今晩一人では眠れないかもしれません・・・
 

 

▷『屁のような人生 水木しげる生誕八十八年記念出版』

(水木しげる/著 角川書店 2009年発行 請求記号:726/Mi95)
 おまたせしました。妖怪を語るのにこの方なくては始まりません。一昨年のテレビ小説でも高視聴率を記録したという「ゲゲゲの女房」でもおなじみの水木しげるさんです。子どもの頃からどこかフツウではなかったという水木さん、漫画家となるまでの様々なエピソードや絵本や童画を描いていた頃の資料など、ファン垂涎のお宝資料満載の一冊です。「墓場の鬼太郎」「悪魔くん」「河童の三平」などの漫画も収録されており、一冊で何度もおいしいオススメ本です。

ご不明の点がありましたら、こちらへお問い合わせください。
(025)284-6001(代表)
(025)284-6824(貸出延長・調査相談)
新潟県立図書館 http://www.pref-lib.niigata.niigata.jp/

 

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