文化団体 分野別共催事業

文化団体分野別共催事業のひとつである「新潟県能楽大会」を
開催する新潟県能楽連盟会長の入澤 一由さんに、
能楽の歴史や魅力や見どころをお聞きしました。


新潟県能楽連盟とは 入澤:新潟県能楽連盟は1973年11月に設立されました。会員数は50周年の2023年で28団体・約500名。観世(かんぜ)・宝生(ほうしょう)・金春(こんぱる)の3流愛好者と、佐渡能楽連盟・大須戸(おおすど)能保存会・佐渡鷺流(さぎりゅう)狂言研究会・能面制作団体の面怡会(めんいかい)で構成されています。  能楽を普及振興させ、新潟県の文化の向上に寄与するため、県と共催で能楽大会を開催するほか、各流部会の発表会を開催するなどして、会員の技能向上を図っています。

能楽の歴史についてお教えください 入澤:能楽は能と狂言を総称したものです。能は室町時代(1392〜1573)初期に観阿弥・世阿弥父子によって大成されました。その源流は平安時代(794〜1185)中期から流行した「田楽(田植えなどの農耕行事に伴って舞う芸)」などにあり、ストーリー性のある劇形式を組み入れて「猿楽・申楽(さるがく・さるごう)(能の旧称)」に発展。狂言は能と能の間に演じられる喜劇で、能の緊張を和らげる効果も持っています。
 世阿弥は父の観阿弥から指導を受け、現在に伝わる能60曲以上を創作し、「風姿花伝(ふうしかでん)」や「花鏡(かきょう)」など20余編を著述。配流先の佐渡では小謡集の「金島書(きんとうしょ)」を残しています。佐渡市泉の正法寺(しょうぼうじ)には世阿弥の「雨乞い面」や「世阿弥腰掛石」などもあります。2021年に新潟市出身の芥川賞作家・藤沢周氏が「世阿弥・最後の花」で、不詳とされている佐渡の世阿弥を活写しています。
 徳川幕府の初代佐渡奉行に任じられた大久保長安は、金春流傍系の大蔵流の家に生まれ、能に造詣が深く、囃子方を含む能楽師を伴って佐渡へ渡りました。その影響で島民の間に能楽が広まり、全国でも珍しい「民衆能」が形成されました。現在でも島内各地に30以上の能舞台があり、毎年、世阿弥供養能楽祭や、薪能などが盛んに催される「能の島」となっています。
 1909年に新潟県出身の歴史地理学者・吉田東伍(よしだとうご)が「世阿弥十六部集」を刊行し、世に知られていなかった世阿弥の真価を発掘。また、山姥・柏崎・壇風(だんぷう)・松山鏡・禅師曾我(ぜんじそが)など、新潟にはご当地能がたくさんあります。能楽と深い縁のある県と言えるでしょう。
 能楽は2001年に第1回ユネスコ「人類の口承及び無形遺産の傑作」に宣言され、08年に「無形文化遺産」に統合されました。日本の誇る文化遺産の一つです。

能楽の魅力や見どころは? 入澤:能の舞台は観客と分離する幕もなく、正面に神が降臨する松の絵があるだけです。これは観客席に生えている松を鏡で見ている仕組みであり、能役者は神に向かって演じているのです。神の前ですから、どんな卑しい役でも清々しい衣装を着け、喧嘩の相手に対しても下品な言葉は使いません。日常の喧騒から逃がれて能楽堂に足を踏み入れた時から、厳かな雰囲気に包まれる仕掛けであり、異次元・異世界体験の始まりとなっているのです。
 能は、神・男・女・狂・鬼で略称されるジャンルの広さも魅力です。世阿弥が工夫した「複式夢幻能(ふくしきむげんのう)」は、旅僧の夢の中に、死者が舞台に登場して生前の無念を語り舞います。物語の進行とともに夢が覚めて一曲が終わる構想は、シェイクスピアより200年も早く世阿弥が生み出した手法です。これで、人間に限らず桜の精や、松の精なども舞台へ呼び出すこともできるのです。
 能にして能にあらずとされる「翁」では、天下泰平(世界平和)・五穀豊穣(万民繁栄)・假齢延年(かれいえいねん)(不老長寿)を祈っており、他の曲も夫婦・親子・主従などの愛情・思いやりに満ちており、人類普遍の感情を展開しています。表情のない形容に使われる能面から、涙が流れる演技に出合うと、本当に感激します。
 能は、シテ方(主人公側)・ワキ方(相手方)・囃子方(大鼓方・小鼓方・笛方・太鼓方)がそれぞれの流儀で個別に稽古します。一曲の完成のために事前に一回だけ申し合わせが行われ、同じメンバーで同じ曲の演能は二度とありません。演者にも観客にも一期一会の特別な時間であり、地謡いの腹に響く謡いや、囃子方の気合いの入った掛け声に身を委ねる感覚が能楽堂での鑑賞の醍醐味です。

新たな挑戦を計画しているそうですね 入澤:能楽の魅力を広め、「やってみたい」「鑑賞したい」という人を増やす第一弾として、デジタル部を創設しました。インスタグラムやホームページを開設し、能楽行事の写真や動画、県内の能楽行事予定を掲載するなどの配信を始めました。
 今後の取り組みとして、市内の子ども食堂で能楽の楽器(太鼓・大鼓・小鼓・笛)に触れる体験会や、能舞台を体験する「舞の会」を、7月から順次実施いたします。

最後にメッセージを 入澤:能楽に少しでも興味を持ってくださった方は、決して敷居の高いところではありませんから気軽に能楽堂に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

主催

新潟県

後援

新潟日報社、毎日新聞新潟支局、読売新聞新潟支局、産経新聞新潟支局、朝日新聞新潟総局、日本経済新聞社 新潟支局、スポーツニッポン新聞社新潟支局、共同通信社新潟支局、時事通信社新潟支局、NHK新潟放送局、BSN新潟放送、NST新潟総合テレビ、TeNYテレビ新潟、UX新潟テレビ21、FM新潟77.5、新潟県教育委員会

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