芥川賞作家 藤沢 周 インタビュー

芥川賞受賞作『ブエノスアイレス午前零時』や2021年に刊行された『世阿弥最後の花』など、新潟を舞台にした作品を発表し続けてきた藤沢周さん。2019年から自費出版などを対象にした「新潟出版文化賞」の選考委員長を務める藤沢さんに、自身の創作と新潟との結びつきや、今後の新潟の文化・芸術への期待を伺いました。

新潟で生まれた
文化芸術を世界へ

芥川賞作家 藤沢 周

プロフィール

1959年、新潟県新潟市西区内野町生まれ。法政大学文学部卒業。1993年「ゾーンを左に曲がれ」で作家デビュー。1998年「ブエノスアイレス午前零時」で第119回芥川賞受賞。『サイゴン・ピックアップ』『オレンジ・アンド・タール』『箱崎ジャンクション』『雨月』『さだめ』『幻夢』『心中抄』『キルリアン』『波羅蜜』『武曲』『武蔵無常』など著書多数。
現在は神奈川県鎌倉市在住で元法政大学経済学部教授。

  • 新潟を舞台にした小説を数多く発表されています。生まれ育った新潟が、ご自身の作品に影響している部分は。

     影響はかなり大きいですね。ずっと書き続けていると「なんで書いているんだろう」と、ふと立ち止まることがあります。そんな時、新潟にいた幼いころに戻る。言葉を覚える前、見ている花に、降りしきる雪に、地元新川に流れる川の光になり切っていた自分。森羅万象と一体化していた感覚を言葉にすることを一番の目標にしています。冬の日本海によく行っていましたが、強い風に雑念が吹き飛ばされていく。茫漠たる雪景色の向こうの弥彦山を見ると内省し、無になる。それを繰り返して育ったことが、今の創作につながっていますね。
     今後も新潟を舞台にした作品を書いていきます。近々には、新潟での記憶と今現在を重ね合わせた作品を出版する予定です。時代物としては、越後においての芭蕉や、子どもの頃から気になっている良寛について書きたいと考えています。

  • 新潟の文化・芸術の特徴をどうお考えですか。

     「爆発力」がすごい。自分の感情や表現、主張をいったん身の内にとどめる内圧が強いのでしょう。冬の厳しさで培われた忍耐力で抑え込まれていたものが表現として抽出されると、大きな爆発力が生まれます。新潟の表現は「垂直性」と言えるくらいのエネルギーがある。
     港町という土地柄で、他者性をどんどん受け入れ、自分のものとして違う表現にして出していく。これは自治力とも結びついています。厳しい自然の中で生き抜くにあたり、小さな共同体を大事にして、協力し合ってきたことに由来しているのかもしれません。
     それに、いい意味で文脈、体制を壊す県民性。世の中の常識にただ従うだけでなく、自分たちで考え、生活しやすいよう工夫して実行する「がっとな性格」、生活者として「新潟に在る」という強さが、新潟の文化・芸術にも波及しているのではないでしょうか。坂口安吾が既存の価値体系を壊すタイプですよね。本物志向で、読んでいると流行りものに対して「それ、ほんきにおもっしぇんか?」と絶えず突きつけられている感じです。本気で考えろ、生きている、今ここに在ることを自らに真摯に問え、本当の幸せをつかめと安吾は言っている気がします。安吾も、良寛も新潟の自然の厳しさ、四季の濃さの中で鍛えられた反骨精神と自治力、根性がある。本物を見つけるために傷だらけになる気概を感じます。それは自分にもあります。ある1行でも一言でも、自分のイメージを正確に表せる言葉が見つかるまで徹底的に探す。妥協はしません。

  • 今年開催の「第13回新潟出版文化賞」選考委員長を務められます。

     第11回から選考委員長をしていますが、特に地道な研究に圧倒的な力がありますね。さきほど生活者と言いましたが、自分も含めて新潟の人は、まず地べたから考えていく。生活者の視点から生まれる凄みがあります。同時に常識や文脈に囚われない、時空を超えるようなスケールの大きさも感じます。研究の量も質も桁外れで圧倒されますよ。一つのことを継続する力も高い。普通はできません。これもやはり忍耐力とか根性とか性格によるもので、それらを培ったのが新潟の四季であり、地に足を付けて生活する人々でしょう。人が人を磨くのかなあと思いますね。

  • これからの新潟の芸術・文化に期待することは。

     新潟には相当高いレベルの芸術や文化があるのですから、遠慮せず発信してほしい。さらに、才能ある他者に対して敬意を持ち、尊重することが大切です。例えば東京でアートが生まれやすいのは、些細なことに「面白い」と興味を持つ人がいっぱいいて、他者を尊重する風潮があり、それが芸術・文化を表出させる素地、下地を作るから。その部分は新潟も真似ていいかもしれない。そうなればやがて新潟にも文化・芸術分野で世界的に活躍する人がどんどん出て来るんじゃないでしょうか。

  • 「新潟県文化祭2023」へのメッセージをお願いします。

     2019年秋に新潟県で初めて開催された「第34回国民文化祭・にいがた2019、第19回全国障害者芸術・文化祭にいがた大会」開会式に出演し、多くの催しを見ましたが、土地に根差した人々が自分たちの文化を守っている姿に心を打たれましたし、レベルの高さに驚きました。仲間内のノリや楽屋受けを新潟は嫌う。本物志向が強く、鑑識眼の高さはどこにも負けない、表現者にとっては実力が試される土地です。育んできた文化や芸術は共有する、他者と認め合う、開放することも大事ですから、文化祭は参加者にとっても、鑑賞する側にとってもチャンスです。新潟の豊かな文化・芸術、県民の心性を世界に発信したら、驚きを持って迎えられるでしょう。

主催

新潟県

後援

新潟日報社、毎日新聞新潟支局、読売新聞新潟支局、産経新聞新潟支局、朝日新聞新潟総局、日本経済新聞社新潟支局、スポーツニッポン新聞社新潟支局、共同通信社新潟支局、時事通信社新潟支局、NHK新潟放送局、BSN新潟放送、NST新潟総合テレビ、TeNYテレビ新潟、UX新潟テレビ21、FM新潟77.5、新潟県教育委員会

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