新潟県には県民の森が5つあり、その中の一つ、五頭県民の森(阿賀町三川地区)にある中ノ沢渓谷森林公園では、直火OKのキャンプ、ボランティアと一緒の自然観察、キットを使った木工体験が楽しめます。
木工体験は、公園内に拠点を持つNPO法人お山の森の木の学校(以下、お山の学校)が運営しています。代表世話人の明石浩見(あかしひろみ)さんは、秋田県出身。父親の転勤で小学校から高校まで新潟市で過ごした後、盛岡の大学で林業を学んだ森林博士です。大学卒業後は、高速回転する木材を刃物で削り出してお椀やお盆を作る「木工ろくろ」の修行に励み、木工技術を身に付けたそうです。
「木工をやっていると、『いいな!』と思う木に出会います。木工ろくろをしていたときは、『トチノキ』がそうでした。白くてきれいな木で、鉋(かんな)がかかりやすく加工しやすいのが特長です。広葉樹は硬いので苦労しますが、仕上がり面がとても美しい。初心者は、のこぎりで切りやすく、くぎも打てて作業が楽な針葉樹のスギやヒノキなどが扱いやすいのですが、プロの木工家は仕上がりや重厚感を重視します。木目の感じも広葉樹の方が、断然良いです」(明石さん)
中ノ沢渓谷森林公園は、地域活性化のため地元の人たちによって造られました。キャンプ場では直火が許可されているので、昔ながらのキャンプが楽しめます。「以前は、小学生や幼児を持つ家族連れが多く、毎年やってきては同じ場所にテントを張り、3日くらい楽しんで帰っていきました。最近は、一人キャンプやマニアックにキャンプを楽しむ人が多いですね」(明石さん)。自然が豊かで、喧騒とも無縁。レアなキャンプ場として注目です。
お山の学校では、公園内の整備や自然観察の手伝いも行っています。「冬はかんじきを履いて雪の中を一緒に歩いています。動物の足跡を見つけて、喜ぶ子どももいますよ。キャンプ場は営業していませんが、除雪車が入るので散策や木工体験は一年中楽しむことができます」(明石さん)
お山の学校では、木工体験だけでなく、製作や販売も行っています。「名刺入れや一輪挿しなど小さいものから、ダイニングテーブルのような大きいものまで作っています。贈り物に、レーザー加工機でマーキングすることもあります。色を付けてのコーティングは、木目が隠れたり、質感が損なわれたりするので、あまりしていません。最近は木の質感や色にこだわる方が多く、樹皮を残した製品に人気があります」(明石さん)。樹皮を残した白木の製品からは、高級感が伝わってきます。
木工体験は、どんなしくみなのでしょう。「個人で参加する場合は、予約なしで体験できます。初心者向けのキットを使ったコースと、端材や木の実などさまざまな素材を駆使して作る自由工作の2通りがあり、どちらの場合もスタッフのサポートを受けながら作品を完成させ、持ち帰ることができます」(明石さん)
「ここは体験教室なので、てっとりばやく作れることが求められます。それでキットが生まれました。オリジナルだから県産材や国産材にこだわることも可能です。当初はキットのコースだけでしたが、体験者からの要望で自由工作も始めるようになりました。子どもは自分で思い描いたものを自由に作りたいんです」(明石さん)
自然もあるし、木工の素材も選び放題。専門家のサポートも受けられる。夏休みの自由研究をするには、もってこい。最高の場所ですね。
人気のキットには、どんなものがあるのでしょう。「女の子には圧倒的に、『木の家』が人気です。学校の教室をイメージして生まれたキットですが、レイアウト次第で自分の家や部屋にもなる。ドールハウスのように考える子どももいます。自由に発想してアレンジできるというのが、このキットのいいところ。男の子はロボットや車など動くものを好みますが、ロボットのキットは用意していないので、たいがいは自由工作でロボットを作っています」(明石さん)
早速、キットを使った県産材の木工体験にチャレンジしてみましょう。キットは全てお山の学校のオリジナル。私は「木のくるま」に挑戦しました。
道具は用意されており、速乾性の木工用ボンド、サンドペーパー、金槌を使いました。「金槌は補助的に使い、自由工作ではこれに鋸(のこぎり)が加わります」(明石さん)
キットには、素材と一緒にサンドペーパーや作り方の説明書が入っています。初心者でも簡単に作れるように組み立て方式を採用。本体や飾りは明石さんたちが手作りしています。車輪の穴はボール盤という木工用ドリルで、トンボやウサギの小さい飾りはレーザー加工機で切り抜いて作っているそうです。
「このキットは幼児から小学校低学年向きなので、けがをしないように注意を払うことが大切です。触って指が傷つかないよう、二つ折りにしたサンドペーパーで木のささくれているところを直角に当てながら削って『面取り』をします。飛び出ているのを繊維に沿って、ちょっときれいにするイメージです。余計なものを取るくらい、引っかからない程度でいいんです。手触りが良くなったらOKです」(明石さん)
「面取りが終わったら、次は車輪を取り付けます。まずは、車輪の穴に軸を入れます(写真①)。硬くて入りづらい時がありますが、サンドペーパーで側面を少し削るとすっと入ります(写真②)。それでも入らないときは、金槌で叩いて入れます(写真③)。軸と車輪が平らになるまで入れたら完成です(写真④)
車輪を付けた軸を本体の穴に下から通し、残りの車輪を同様に軸に差し込んで取り付けます。「緩く感じたら、木工用ボンドを軸の先にちょっと塗って調整します。つけすぎるとボンドが押し出されて、軸とくっついて車輪が回りにくくなるから、少しでいいんです。ボンドがあふれたら、ぬらした布巾やウェットティッシュで拭き取ります。ちょっとつけて金槌で叩き込む。こうするとほぼ取れません」(明石さん)
「本体が完成したら、次は色をつけていきましょう。アクリル絵の具やペンを使いますが、ペンの方が楽です。速乾性があり、乾いても水に溶けない水性顔料マーカーなら、耐水性や耐光性に優れ、色褪せしにくいのでおすすめです」(明石さん)
本体に付ける飾りは、木工用ボンドで取り付けます。キットには、ブナの冬芽や殻斗(かくと)、ドングリや松ぼっくりも入っていますが、全部付けるには本体が小さいようです。「飾り用のパーツは、家でも使えるように余分に入っています。端材でドアプレートを作り、貼り付けて飾りにするといいですよ」(明石さん)
飾り付けもほぼ終盤、そろそろ仕上げです。ブナの殻斗はエンブレムとして取り付けることにしました。明石さんにドリルで1.5ミリの穴をあけてもらい、先端にボンドをつけた殻斗を差し込みます。
楽しい雰囲気のクルマにしたいから、窓も描き足しましょう。「本体のカーブに沿って描くといいですよ。窓は最初に描いた方が楽だけど、子どもはだいたい後から思いつく。これがあったらいいな、とか、あれがあったほうがいいな、とか。最初から計画して作っていく子どもはあんまりいない。自由に、思うように作っていくことが大切です」(明石さん)
スギの木で作ったクルマはとても軽く、小さい子どもでも扱いやすいものでした。次回はブナの木で「きかんしゃ」に挑戦したいと思います。
関連リンク
NPO法人 お山の森の木の学校
新潟県東蒲原郡阿賀町中ノ沢字幸地蔵1344番地4
中ノ沢森林科学館内
電話 0254-99-3226