煮菜

「漬け菜」作り

 「煮菜」に使われる主な漬け菜は、長岡市で栽培されている体菜と、十日町市や津南町で栽培されている野沢菜が代表的です。
 長岡市で栽培されている体菜は、明治初期に中国から伝わった漬け菜で、大きな杓子型の葉と白い肉厚の茎が特徴です。

「漬け菜」作り
 一方、十日町市や津南町は長野県が近いこともあり、長野県野沢温泉村でカブの変異から生まれた野沢菜が栽培されています。茎まで鮮やかな緑色をしているのが特徴です。
「漬け菜」作り

山古志の煮菜(にな)

 長岡駅から車で15分ほど、旧山古志村虫亀にある「農家レストラン多菜田」では、季節ごとの山の恵みや伝統野菜を使った郷土の味、そして「煮菜」などの保存技術を活かした素朴で懐かしい料理を提供しています。今回は、代表の五十嵐なつ子さんに、山古志の煮菜を作ってもらいました。
山古志の煮菜(にな)
 体菜は8~9月に種をまき、雪が降る前の11月ころに大きくなった体菜を収穫します。収穫した体菜は塩で汚れを落としながら洗い、菜っ葉がしんなりするまでたっぷりの塩で漬け込む「荒漬け」を行います。水が上がってきたら重石を減らし、漬かった体菜を取り出します。これを湯がいて塩出しをし、改めて塩で「本漬け」にする、というように手間がかかる工程を経て作られています。
山古志の煮菜(にな)
 本漬けした体菜を食べやすい長さに切り、お湯に入れて沸騰させます。お湯から取り出したら水を替えながら一晩そのまま置き、茎を味見して塩抜きの加減が良いところで調理を始めます。
 調理前に、塩出しした体菜をザルに上げて水を切りますが、絞らないのがポイント。そのため、サラダ油を熱した両手鍋に水が滴るくらいの体菜を入れると、「ジャーッ」という大きな音がします。これをざっくりと炒め、茎が程よい柔らかさになったところで、調味料と刻んだ油揚げも加えて炒めます。
山古志の煮菜(にな)
 味が全体に回ったら、鍋を振って味を染み込ませ、ふたをして弱火で煮込みます。水分が少なくなったら少しずつ水を足し、焦がさないように煮含めていきます。味が決まったら中央をくぼませて打ち豆を入れ、そのまま弱火で10分ほど煮て出来上がったのが山古志の煮菜です。体菜も打ち豆も地元のお母さんが作ったものばかりです。塩出しなど下ごしらえには時間がかかりますが、調理時間はそれほど長くありません。それなのに、どの具材にも味がよく染み込んでいます。葉はもちろん、茎の柔らかさも絶妙で、たっぷり入った打ち豆のふっくらとした歯応えもよく、唐辛子の赤も映えており、食べるとその香味が気持ちよく鼻に抜けていきます。
山古志の煮菜(にな)
 美味しく作る秘訣について、「やっぱり塩分ですね。塩漬けにした体菜から完全に塩が抜けると上手に仕上がらないので、塩出しのときによく見極めると良いです。塩抜きが足りないときは、ちょっと塩気が強く感じるので、調味料を控えめにしてください」と五十嵐さんは話します。

津南町の煮菜(にいな)

 津南町に暮らす大関和子さんは、専業の米農家を営んでおり、県の食生活改善推進委員として長年食育活動にも取り組んでいます。12月と2月にご自宅を訪ね、浅漬けと古漬けの野沢菜を使った煮菜を、それぞれ作ってもらいました。
津南町の煮菜(にいな)
 大関さんは2025(令和5)年9月中旬、1坪ほどの野沢菜畑に種をまき、伸び伸びと育った野沢菜を11月に収穫しました。これを11月25日に塩漬けし、ふたをして重石をのせ、ご自宅の軒下に置きました。
 その後、漬けて4週間ほど経った12月下旬に、浅漬けの野沢菜で煮菜を作ってもらいました。葉はまだ青々としており、色よく漬かっていました。
津南町の煮菜(にいな)
 両手鍋にサラダ油を熱し、塩抜きをして水の滴る野沢菜を炒めます。加えるだしは、あらかじめ小鍋で煮干しを煮ておき、その煮干しは具としても使います。調味料(砂糖、しょうゆ、酒、みりん)を順に入れ、鍋を振り、味をなじませます。何度も味見を繰り返し、納得がいくまで火を入れます。
 「煮干しを入れるとカルシウムたっぷりの具になりますね。自家製の干し椎茸や、短冊に切った昆布を入れることもあります」と大関さん。打ち豆や酒粕は入れず、だしのシンプルな味わいを楽しむのが大関家流です。
津南町の煮菜(にいな)
 写真のように、器の中央を高く盛り、煮干しが良く見えるよう盛り付けて完成です。だしの旨味と具としての煮干しの美味しさが印象的な一品となりました。
津南町の煮菜(にいな)
 2026(令和8)年2月、再び大関さんの家を訪ねると、1月から降り積もった大雪で、野沢菜を漬けていたコンテナは雪の中。掘り出した野沢菜を塩抜きし、古漬けの煮菜を作ってもらいました。
津南町の煮菜(にいな)
 調理が始まると、浅漬けのときとは違った独特のにおいが充満しました。子どもたちが同居していたときはそれを嫌がるため、別棟の作業所で調理することもあったそうです。「この地域の年配の方は、このにおいが煮菜の良さで、なつかしいと言うんですけどね」と大関さんは言います。
 さらに、「煮菜は正月料理ではないんですよ。お正月はご馳走をたくさん食べたから野菜を食べよう、というような感覚で作る料理なんです。古漬けになって発酵が進んでも、うちでは味付けはあまり変わりません」と話します。
 大関さんが盛り付けてくれた古漬けの煮菜をいただくと、前回同様に煮干しが香り、唐辛子の辛みがアクセントになっていますが、発酵による酸味が加わることで、味の深みが増したように感じました。
津南町の煮菜(にいな)
 津南町や十日町市では、古漬けの煮菜は春先まで楽しむ料理です。酸味が出てきた漬け物を無駄にせず、美味しく味わうための昔の人たちの知恵から生まれた料理でもあります。
 「核家族になって、自分以外は食べないから野沢菜を栽培しない、という人もいれば、煮菜が食べたいから野沢菜を直売所などで買って作るようになったという人もいます。私は自分で作った野沢菜を使い切る、使い切れる煮菜を、これからも作り続けたいと思います」と言う大関さんからは、津南の食文化を伝えていきたいという気持ちが伝わってきました。