file-46 祈りの力:人と人をつなぐ『心のよりどころ』前編 ~日本一の神社数

  

日本一の神社数 ~人々の心のよりどころ~

神社数日本一の理由

新潟県で一番多い諏訪神社

新潟県で一番多い諏訪神社。総本社、諏訪大社のある長野県よりその数は多い。

名立諏訪神社の鳥居

名立諏訪神社の鳥居。笠木の下に島木がなく笠木がまっすぐな形をしている。この形状のものは「神明鳥居」と呼ばれる。

馴染み深い「八幡様」

多くの日本人にとって馴染み深い「八幡様」。全国に約20,000社あるといわれている。新潟県にもその数は多い。

 神社本庁(東京)によれば、全国の法人格を持つ神社は79,012社。そのうち新潟県には4,755社の神社があり、2位の兵庫県(3,836社)を大きく引き離している。新潟県神社庁の栗田宗明さんはその理由として、明治時代までの人口が多かったこと、神社合祀政策の影響をあまり受けなかったことをあげている。

 江戸時代、稲作に適した気候に恵まれ、大阪と北海道を結ぶ北前船航路のあった日本海側は、太平洋側より経済的に豊かな傾向があった。都市化も進んでおらず、日本人の9割が農業によって生活を成り立たせていた時代である。明治26年の調査においても、収穫高が大きい新潟県は人口も全国一(166万人)で、2位は兵庫県(151万人)、3位は愛知県(144万人)、4位が東京(135万人)だった。また昔は集落ごとに必ず神社を祀っていたこともあり、人口が多いということは、自然村*が多く、必然的に神社数も多かったということになる。

*農耕・漁労を通じて、自然に形成された村落共同体

 しかし、時の政府が進めた神社合祀政策の影響で、全国に自然村とほぼ同じ19万社ほどあった神社が、明治42年頃には11万社と激減している。一定の財産のない小さな神社は、維持運営が困難で格式も保てないと言う理由から、諸社を一村一社に統合することを目指した政策である。三重県や和歌山県はこの影響を大きく受け、7分の1から9分の1にまで減少した。新潟県も8,200社から5,400社へと数を減らしたが、上記の2県ほどの大きな影響は受けなかった。南蒲原郡長が各町村長に「一つの大字に一つの神社でよい」と訓示している史料が残っていることからも、この政策は地域によって温度差があったことがわかる。時の首長や集落に住む人々の熱意にも左右されたと言える。

 神社数が多い理由として、江戸時代の新田開発により、数十軒単位の小さな集落ができたことも一因とみられている。五穀豊穣を願うため、集落ごとに必ずお宮さんが祀られた。稲作には、水の管理や草取りなど、とかく地域での共同作業が必要となる。祭りを通し、自然の恵みと祖先が脈々とつないでくれた命に感謝しながら、地域での人々のつながりを育んできた場所が神社だった。自然と、祖先と、人々をつなぐ交流の場所 ― それが神社であると言える。

file-46 祈りの力:人と人をつなぐ『心のよりどころ』前編 ~共同体の絆

  

共同体の絆 ~集落維持と都市化のはざまで~

信仰心のあつい県民性

「赤沢八幡社」祭礼日のたたずまい

「赤沢八幡社」祭礼日のたたずまい

    
    「ご神体」を組んだ舞台

「ご神体」を組んで舞台を作る。
荒皮剥ぎなども氏子が総出で行うという。

    長岡市浦、八幡宮の秋祭の様子

長岡市浦にある八幡宮の秋祭の様子。平成16年の中越地震でここも甚大な被害を受けたが、復興基金と氏子の奉賛により平成20年に修復した。

 日本一の神社数である新潟県。今でもその数が多いのは、信仰心のあつい県民性があり、氏子や地域住民にしっかりと支えられているところが大きいのではないだろうか。

 中魚沼郡津南町赤沢集落にある八幡社では、秋祭りに赤沢神楽という奉納神楽が行われる。長く途絶えた時期もあったが、1972年に保存会が結成されてから約7-10年ごとに上演されてきた。

 奉納が毎年ではないのは、大掛かりな準備を要するためである。舞台小屋を作るのに、集落の財産である杉の大木を4本伐採する。約15メートルの長さで、まっすぐ傷のないものが選ばれるが、地元の人はそれを「ご神体」と呼んでいる。

 舞台の引き幕も町の有形民俗文化財に指定されているほど。舞台掛け自体に、先祖より受け継がれてきた歴史を感じることができる。そして行事を終える頃には集落の人々の結びつきがより一層強くなっているのがわかるという。

 2004年に起きた中越地震では、多くの神社も被災した。「神社を修復できなければ、集落の復興などありえない。集会場を再建するよりもまずは神社の再建だ」。そのため、復興基金によって神社の再建が多く行われた。祠や堂などの修復を含めると合計1,145件、総額約30億円にもなる。「信仰心のあつい新潟県民だからこそできたことではないか」― 神社庁の栗田氏はそう語る。氏子が数軒の小さな神社でも、地元に密着し、昔ながらの祭りがあった。被災した住民にとっては、まず何よりも地域コミュニティの「心のよりどころ」として、神社の再建が必要だったことがわかる。

地域社会と神社の役割

 現代における急速な都市化現象は、神社の氏子離れを加速させる一因となっている。元来の農耕社会を基盤とした生活様式から大きな変化をとげた現代。その「時代の波」は神社にも押し寄せている。昨今では「無縁社会」という言葉も頻繁に聞かれるようになった。近所に誰が住んでいるかわからない状況は当たり前のようになっている。地縁的・血縁的コミュニティをつなぐ場であり、「心のよりどころ」としての神社本来の機能を忘れている人も少なくはない。

 そんな時代だからこそ、神社の果たすべき役割は大きい。都市化の波を食い止めることは困難かもしれないが、「神社本来のあり方を、発信し続けることを忘れないようにしたい」と栗田氏は語る。

 神社数が日本一で、信仰心もあつい新潟県民。祖先伝来の土地で、脈々と受け継がれてきた命と伝統を感じ、自然の恵みに感謝しながら、地域のつながりを育み続けてきた。そのような地域における「心のよりどころ」を、私たち一人一人が見つめなおすことが、地域文化への愛着と誇りを持つ大きなきっかけとなるのではないだろうか。


● 写真・取材協力:新潟県神社庁

file-46 祈りの力:人と人をつなぐ『心のよりどころ』前編 県立図書館おすすめ関連書籍

  

県立図書館おすすめ関連書籍

「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。

▷『越佐の神社:式内社六十三』

(花ヶ前盛明/著 新潟日報事業社 2002年発行 請求記号:郷土175/H27)
 新潟県は全国的にみても神社が多いといわれています。『延喜式』神名帳に官社として登載されている新潟県内の各式内社について、古文書等の文献に基づき分かりやすくまとめたものです。呼称や祭神、神社の歴史的変遷について知ることができます。
 

▷『風水パワ-スポット紀行:きっと人生が変わる場所60+20』

(山道帰一/著 メディア総合研究所 2010年発行 請求記号:148/Y31)
 この本では全国47都道府県の癒しとエネルギーに満ちたパワースポットを紹介しています。新潟県内では「弥彦神社」が取り上げられています。山裾が削られたことで「戊儀穴」と呼ばれる風水のパワースポット構造をしているとか。それによって、求信、信用、交際などにおいてよい効果が発現するようです。

▷『越後一宮弥彦神社の研究』

(藤田治雄/編著 新潟日報事業社 2008年発行 請求記号:郷土175/F67)
 「弥彦山」は万葉集にも歌われ、神々が住む山として越後一宮弥彦神社の神体山とされています。祭神が海を渡ってきたという渡来神の伝承や、弥彦神社周辺の物部氏の足跡、「片目の神の伝説」など50年にも及ぶ著者の研究の成果がまとめられている本です。

▷『新潟の参道狛犬』

(新田純家/著 新潟日報事業社 2005年発行 請求記号:郷土175/N88)
 神社の境内でよく見かける狛犬について興味をもった著者が、カメラを片手に信濃川や阿賀野川沿いの神社を訪れ、まとめた観察記録です。狛犬の写真ばかりではなく、狛犬のたてがみ、角、耳、歯や尾の形、発祥の地別種類等についても、多くの文献をもとにわかりやすくまとめています。近所の神社にお参りに行った際には、鎮座している狛犬にもぜひ目を向けてみてください。

ご不明の点がありましたら、こちらへお問い合わせください。
(025)284-6001(代表)
(025)284-6824(貸出延長・調査相談)
新潟県立図書館 http://www.pref-lib.niigata.niigata.jp/

 

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