file-47 祈りの力:人と人をつなぐ『心のよりどころ』後編
地域住民の生活の礎を築いた文化産業の始祖神
神社の入り口に立つ「一の鳥居」。高さ約8.4m。親柱は地に付かず6cmほどの隙間があることで有名。(写真提供/弥彦観光協会)
現在の御社殿は、明治45年に門前町から出た火によって炎上したため、大正5年に再建されたもの。(写真提供/彌彦神社)
彌彦の御祭神は、天照大御神のひ孫にあたる天香山命(アメノカゴヤマノミコト)。神武天皇による国家統一の後、日本海の荒海を舟で渡り、はるばる野積浜(現在の長岡市寺泊)に上陸したという。
天香山命は、野積浜で漁民に海水を焚いて塩を作る技術、網や釣針で魚を取る技術などを住民に教えたと伝えられている。また弥彦に宮居を定めてからは蛮族を平定し、稲作や酒造の技術も指導した。野積にいる杜氏たちは今でも神から授かった技術を誇りに、酒造りをしているのだという。
特に塩は山間地ではとても貴重なものであったため、海と山とで採れた物を物々交換することにより、地域と地域が結びつき、産業も発達していった。製塩の技術は海だけでなく山にも恵みをもたらしたと言える。まさに越後地方の産業文化の基礎を造った開拓・文化産業の始祖神である。
彌彦神社はこの始祖神を越後開拓の祖と仰ぎ、この地に奉祀(ほうし)したのが始まり。その時代は明らかではないが、万葉集から推定すると今から1300年前までさかのぼることができる。社記によれば和銅4年(西暦711年)にすでに神社が創建されていることがわかっている。
燈籠神事と舞楽
毎年7月25日に行われる燈籠神事。前後の儀式とあわせ18~26日まで祭典が続く。県内各地から20余りの大灯籠も供奉(ぐぶ)され賑わいを見せる。(写真提供/彌彦神社)
舞童による稚児舞(ちごまい)の一つである「泰平楽(たいへいらく)」。4人で舞う。 (写真提供/彌彦神社)
毎年7月25日に彌彦神社で行われている燈籠神事(とうろうしんじ)は、日本の三大燈籠祭りのひとつに数えられている。紀元は定かではないが、京都祇園社の祇園会が伝わり発展したもので、疾病退散、五穀豊穣を願う祭りである。この燈籠神事での大御膳献進(だいごぜんけんしん)では、一番先に塩が献上される。製塩技術によって海と山に恵みをもたらした神を敬う気持ちの現れであろう。
燈籠神事で担ぐ神輿(みこし)は、妃神(ひめがみ)の分と併せて必ず2基用意される。妃神である熟穂屋姫命(ウマシホヤノヒメミコト)は、彌彦神社とは山頂を挟んで反対側にある野積の妻戸(つまど)神社に祭られており、祭りの当日は野積の住民たちによって妃神の神輿が担がれる。
また今でも古式豊かな舞楽が保存継承されており、燈籠神事と会わせて国の重要無形民俗文化財に指定されている。舞楽の一部は「舞童(ぶどう)」と呼ばれる子どもたちによって演じられており、神職の子弟や旧社家、氏子の子弟中だけでなく、村の小学生の男子が選ばれて舞いを奉仕する。観光客も多く、まさに地域をあげての大きな行事となっている。
祭りによって村内の絆を深めると共に、弥彦と野積といった地域間のつながりも深まっている。弥彦の神は、平和と産業文化の技術をもたらしただけではなく、人間同士のふれあいや地域間でのつながりをも生みだしてくれたのではないだろうか。
file-47 祈りの力:人と人をつなぐ『心のよりどころ』後編 ~神の宿る場所 弥彦
神の宿る場所 弥彦
旧本殿のそばにそびえ立つ御神木。石柵で囲われた椎の大木は見るものを圧倒する。
(写真提供/彌彦神社)
重いのか、軽いのか、人々の願い事を受け続けてきた「火の玉石」。
(写真提供/弥彦観光協会)
高さ30.16mの日本一の大鳥居。弥彦山の御神廟を中央に仰ぐ道に、堂々とそびえ立つ。
(写真提供/弥彦観光協会)
弥彦山のふもとは、樹齢400~500年の杉や欅(けやき)に囲まれており、それだけで神々しい雰囲気を醸し出している。神社のみならず、周辺の霊峰、温泉など、観光エリアとしても人気が高い。また近年のパワースポットブームの影響もあり、弥彦を訪れる人は後を絶たない。
彌彦神社を取り巻く周辺全体が、自然豊かで風光明媚であり、神秘的な雰囲気があるが、中でも注目すべきは御神木。御祭神が携えられた椎(しい)の杖を地中に挿し、「この地が自分の住むべき土地ならば、繁茂せよ」と言ったところ、芽を出し、根をはり、たちまち大木になったという言い伝えが残っている。その神秘さは今も健在で、主幹は枯れてきているが、中から新しい芽が次々と現れ、新しい枝を伸ばしているのだとか。神の力が今でも及んでいるかのようである。
「火の玉石」にも多くの人が訪れる。その昔、野積沖に津軽の殿様が航行したところ、天候が悪く海が荒れてしまい、すぐ近くに彌彦の神が祀られていることを思い出した殿様は、海が静まり無事に領地に帰ることが出来たら、必ずお礼参りに行くので助けてほしいと強く願ったという。すると波がおさまり、無事に帰路に着くことができた。しかし、その後お礼参りに行くのを忘れていたため、城内に二つの火の玉が現れるようになった。彌彦神社に参拝しないことが原因だと殿様が気づいた瞬間、火の玉は落ちて石になったという。これを神社に奉納したものが「火の玉石」である。地元では「重い軽いの石」とも呼ばれ、持ってみて重く感じれば願いが叶うのは困難、軽く感じれば願いは成就するという伝説がある。
この他にも、人は決して渡ることはできない神聖な橋であるご神橋や、高さ30mにも及ぶ日本一の大鳥居、縁結びの名所として知られる山頂の御神廟(ごしんびょう)など、見どころ満載の弥彦エリア。自然豊かなこの地域は、季節が変わるごとに違った表情を見せてくれ、一度だけでなく何度も訪れてみたい場所である。鳥居をくぐり抜けて一歩足を踏み入れると、木々の静かな佇まいや荘厳な雰囲気に心を洗われ、神秘的な力を感じずにはいられない。
山や森や温泉などの豊かな自然環境を含め、地域全体として人々を守り、祈りを受け、「力」を与える場所として存在してきた弥彦。今も県内外からたくさんの人が訪れる弥彦は、多くの人の「心のよりどころ」となっている。
● 写真・取材協力:彌彦神社/弥彦観光協会
● 参考文献・サイト
・「重要無形民俗文化財 彌彦神社の舞楽」彌彦神社社務所
・「おやひこさま」彌彦神社社務所
・「彌彦神社」弥彦観光協会
●おすすめリンク
・「弥彦浪漫パワースポット」弥彦観光協会
・「にいがた観光ナビ」
file-47 祈りの力:人と人をつなぐ『心のよりどころ』後編 県立図書館おすすめ関連書籍
県立図書館おすすめ関連書籍
「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。
▷『越佐の神社:式内社六十三』
(花ヶ前盛明/著 新潟日報事業社 2002年発行 請求記号:郷土175/H27)
新潟県は全国的にみても神社が多いといわれています。『延喜式』神名帳に官社として登載されている新潟県内の各式内社について、古文書等の文献に基づき分かりやすくまとめたものです。呼称や祭神、神社の歴史的変遷について知ることができます。
▷『風水パワ-スポット紀行:きっと人生が変わる場所60+20』
(山道帰一/著 メディア総合研究所 2010年発行 請求記号:148/Y31)
この本では全国47都道府県の癒しとエネルギーに満ちたパワースポットを紹介しています。新潟県内では「弥彦神社」が取り上げられています。山裾が削られたことで「戊儀穴」と呼ばれる風水のパワースポット構造をしているとか。それによって、求信、信用、交際などにおいてよい効果が発現するようです。
▷『越後一宮弥彦神社の研究』
(藤田治雄/編著 新潟日報事業社 2008年発行 請求記号:郷土175/F67)
「弥彦山」は万葉集にも歌われ、神々が住む山として越後一宮弥彦神社の神体山とされています。祭神が海を渡ってきたという渡来神の伝承や、弥彦神社周辺の物部氏の足跡、「片目の神の伝説」など50年にも及ぶ著者の研究の成果がまとめられている本です。
▷『新潟の参道狛犬』
(新田純家/著 新潟日報事業社 2005年発行 請求記号:郷土175/N88)
神社の境内でよく見かける狛犬について興味をもった著者が、カメラを片手に信濃川や阿賀野川沿いの神社を訪れ、まとめた観察記録です。狛犬の写真ばかりではなく、狛犬のたてがみ、角、耳、歯や尾の形、発祥の地別種類等についても、多くの文献をもとにわかりやすくまとめています。近所の神社にお参りに行った際には、鎮座している狛犬にもぜひ目を向けてみてください。
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