新型コロナウイルスの影響で全国各地のお祭りや行事は中止が相次ぎ、新潟県でも多くの行事やイベント等が中止を余儀なくされました。
しかし、今年は再開されるイベントも多く、阿賀町の「つがわ狐(きつね)の嫁入り行列」も4年ぶりに開催されることとなったので、見学に行ってきました。
阿賀町の津川地域で続く恒例行事「つがわ狐の嫁入り行列」は、狐メイクを施した白無垢(しろむく)姿の花嫁が、お供を連れて街道を練り歩く幻想的なお祭りです。
この地域のシンボルとして阿賀野川と常浪川(とこなみがわ)の合流点にそびえたつ麒麟山(きりんざん)には、昔から狐火伝説が伝わっており、毎晩のように狐の声が聞こえ、狐火が見られたといいます。この伝説が現在の嫁入り行列のモチーフとなっています。
行列が練り歩く通り沿いには、地元の津川小学校の児童が作った狐のオブジェが展示されていました。このオブジェは前の年からデザインを作成し、1年がかりで1体を作り上げます。
過去には津川小学校と三郷小学校の2校で作っていましたが、統合されて現在は津川小学校の児童が作っています。
デザインができあがると、地元の方で構成されている「オブジェの会」の大人たちが針金で土台を作ります。その土台に児童が和紙を貼り、色付けをして完成させます。
行列は今回で31回目。例年は麒麟山にある金上(かながみ)稲荷神社の大祭に合わせて5月3日に開催されていましたが、今年は新型コロナウイルスの5類移行や準備期間を考慮し、10月8日に開催されました。4年ぶりの開催ということもあり、行列を一目見ようと約4万3,000人(主催者発表)もの観客が訪れていました。
午後3時、白無垢姿が初々しい主役の花嫁が里に別れを告げる「花嫁・旅立ちの儀」から行列が始まります。会場の住吉神社は花嫁の登場を待ちわびる観客であふれかえっていました。
このお祭りの主役である花嫁、花婿役は、公募によって選ばれます。今年は新潟市在住の竹内ありすさん、優さん夫妻が選ばれました。住吉神社に花嫁のありすさんが登場すると、境内で待ち構えていた観客から拍手と歓声が沸き上がります。
花嫁のありすさんは新潟市出身ですが、母方の祖父が津川出身で、幼い頃から毎年この地を訪れ、町の人々が愛するこの行事に憧れていたといいます。
「旅立ちの儀」が終わると、花婿の元へ向かう行列がいよいよスタートです。
子狐を先頭に花嫁がお供を従えて、行列が街道を厳かに進みます。このお祭りの特徴は、スタッフや警備員も狐メイクで参加していることです。この日は観客も地元の美容室で狐のメイクをしてもらえるので、あちらこちらで狐メイクの観客を見かけました。
その昔、嫁入りは夜にかけて行われ、提灯を下げた行列が進み、その明かりと狐火が並行して見えたことから、狐の嫁入り行列が生まれたともいわれています。
狐火の多く見える年、つまり狐の嫁入り行列の見えた年は豊作で縁起が良いとこの地域では言い伝えられてきたそうです。
行列が出発して約50分後、一行は下越酒造の前に到着しました。
こちらでは花嫁と花婿が出会う「花嫁・花婿出会いの儀」が行われます。花嫁の到着を緊張の面持ちで待つ花婿の優さん。花嫁の姿が見えると、安堵の笑みがこぼれたように見えました。
対面を果たした二人を、可愛らしい子狐たちが「子狐の祝踊り」で元気よく舞って祝福すると、会場全体が和やかな雰囲気に包まれます。
そして行列の再開です。ここからは花嫁、花婿が二人で一緒に歩きます。
沿道の観客はさらに増え、その祝福に笑顔で応えながら、行列はゆっくりと進んでいきます。
この先、花嫁・花婿からのおもてなしとして撮影会が行われます。それが終わると「結婚の儀」と披露宴が行われる会場へ進みます。その頃には辺りは暗くなり始め、行列が会場に到着するとステージに明かりが灯され、「結婚の儀」が始まります。
「結婚の儀」の後は披露宴に移ります。三々九度の後、「大盃(たいはい)の儀」、祝いの品の紹介、そして花嫁、花婿のあいさつという流れで進み、披露宴が終わる頃には夜の帳が下りてより一層、幻想的な雰囲気に包まれます。
祝いの宴が終わり、花嫁と花婿が麒麟山の狐の里に向かって夕闇に消えていくと、麒麟山に狐火が灯りました。
地域に伝わる狐火の言い伝えを現代に語り継ぎ、再現した「つがわ狐の嫁入り行列」は、新潟県の地域文化の中でも、特徴的なお祭りです。来年度も新たな花嫁と花婿を迎えた行列が、町を練り歩くことでしょう。
関連リンク
つがわ狐の嫁入り行列実行委員会
〒959-4495
新潟県東蒲原郡阿賀町津川580番地(事務局:阿賀町まちづくり観光課内)
TEL 0254-92-4766