第41回 闇夜に浮かぶ幻想的な花嫁行列〜つがわ狐の嫁入り行列〜

 新型コロナウイルスの影響で全国各地のお祭りや行事は中止が相次ぎ、新潟県でも多くの行事やイベント等が中止を余儀なくされました。
 しかし、今年は再開されるイベントも多く、阿賀町の「つがわ狐(きつね)の嫁入り行列」も4年ぶりに開催されることとなったので、見学に行ってきました。

至るところにのぼりが設置され、観光客を出迎えます

狐の嫁入りロード近辺マップが設置されています

こちらは狐の石像。この地域では狐がシンボリックな存在であることがわかります

 阿賀町の津川地域で続く恒例行事「つがわ狐の嫁入り行列」は、狐メイクを施した白無垢(しろむく)姿の花嫁が、お供を連れて街道を練り歩く幻想的なお祭りです。

 この地域のシンボルとして阿賀野川と常浪川(とこなみがわ)の合流点にそびえたつ麒麟山(きりんざん)には、昔から狐火伝説が伝わっており、毎晩のように狐の声が聞こえ、狐火が見られたといいます。この伝説が現在の嫁入り行列のモチーフとなっています。

 行列が練り歩く通り沿いには、地元の津川小学校の児童が作った狐のオブジェが展示されていました。このオブジェは前の年からデザインを作成し、1年がかりで1体を作り上げます。
 過去には津川小学校と三郷小学校の2校で作っていましたが、統合されて現在は津川小学校の児童が作っています。
 デザインができあがると、地元の方で構成されている「オブジェの会」の大人たちが針金で土台を作ります。その土台に児童が和紙を貼り、色付けをして完成させます。

地元の小学生が1年がかりで作り上げる狐のオブジェ。統合前の三郷小学校の作品も展示されていました

行列が練り歩く先には、撮影スポットが用意されているのでお気に入りの場所で撮影が可能です

 行列は今回で31回目。例年は麒麟山にある金上(かながみ)稲荷神社の大祭に合わせて5月3日に開催されていましたが、今年は新型コロナウイルスの5類移行や準備期間を考慮し、10月8日に開催されました。4年ぶりの開催ということもあり、行列を一目見ようと約4万3,000人(主催者発表)もの観客が訪れていました。

麒麟山をバックにしたメイン会場。行列はここまで練り歩き、夜には結婚式と披露宴が行われます

「旅立ちの儀」が行われる住吉神社の境内には花嫁が通る通路が確保されています。この後、境内は花嫁を一目見ようと観客であふれかえります

 午後3時、白無垢姿が初々しい主役の花嫁が里に別れを告げる「花嫁・旅立ちの儀」から行列が始まります。会場の住吉神社は花嫁の登場を待ちわびる観客であふれかえっていました。

 このお祭りの主役である花嫁、花婿役は、公募によって選ばれます。今年は新潟市在住の竹内ありすさん、優さん夫妻が選ばれました。住吉神社に花嫁のありすさんが登場すると、境内で待ち構えていた観客から拍手と歓声が沸き上がります。
 花嫁のありすさんは新潟市出身ですが、母方の祖父が津川出身で、幼い頃から毎年この地を訪れ、町の人々が愛するこの行事に憧れていたといいます。

満を持して花嫁登場。観客のリクエストに応えて出発前の撮影タイム

多くの観客に見守られながら行列が出発

 「旅立ちの儀」が終わると、花婿の元へ向かう行列がいよいよスタートです。
 子狐を先頭に花嫁がお供を従えて、行列が街道を厳かに進みます。このお祭りの特徴は、スタッフや警備員も狐メイクで参加していることです。この日は観客も地元の美容室で狐のメイクをしてもらえるので、あちらこちらで狐メイクの観客を見かけました。

屋敷稲荷とぼんぼり女衆。その後ろに侍女が続きます

総勢105名の行列は乱れることなく会津街道を練り歩きます

 その昔、嫁入りは夜にかけて行われ、提灯を下げた行列が進み、その明かりと狐火が並行して見えたことから、狐の嫁入り行列が生まれたともいわれています。
 狐火の多く見える年、つまり狐の嫁入り行列の見えた年は豊作で縁起が良いとこの地域では言い伝えられてきたそうです。

狐の嫁入り屋敷。当日はキッチンカーが並び、多くの観光客で賑わっていました

屋敷の庭にはかわいらしい嫁入り行列のオブジェがあり、撮影スポットになっています

花嫁は沿道の観客に向けて、狐の仕草で笑顔を振りまいてくれます

 行列が出発して約50分後、一行は下越酒造の前に到着しました。
 こちらでは花嫁と花婿が出会う「花嫁・花婿出会いの儀」が行われます。花嫁の到着を緊張の面持ちで待つ花婿の優さん。花嫁の姿が見えると、安堵の笑みがこぼれたように見えました。

花嫁を待つ花婿の緊張感が観客にも伝わってきます

花嫁が到着し二人が出会うと、祝福の歓声が沸き上がりました

 対面を果たした二人を、可愛らしい子狐たちが「子狐の祝踊り」で元気よく舞って祝福すると、会場全体が和やかな雰囲気に包まれます。

子狐たちが花嫁と花婿の前で祝いの踊りを披露します

子狐たちからお祝いの大きな「油あげ」が贈られました

 そして行列の再開です。ここからは花嫁、花婿が二人で一緒に歩きます。
 沿道の観客はさらに増え、その祝福に笑顔で応えながら、行列はゆっくりと進んでいきます。

行列は花婿を迎え入れて更に進んでいきます

花嫁と共に花婿も観客の祝福に応えて手を振りながら進みます

 この先、花嫁・花婿からのおもてなしとして撮影会が行われます。それが終わると「結婚の儀」と披露宴が行われる会場へ進みます。その頃には辺りは暗くなり始め、行列が会場に到着するとステージに明かりが灯され、「結婚の儀」が始まります。

だんだんと辺りは暗くなり、幻想的な雰囲気の中で会場を目指します

小学生の子狐25名を先頭に、行列がメイン会場に入場します

それぞれが席につき、いよいよ結婚の儀の始まりです

 「結婚の儀」の後は披露宴に移ります。三々九度の後、「大盃(たいはい)の儀」、祝いの品の紹介、そして花嫁、花婿のあいさつという流れで進み、披露宴が終わる頃には夜の帳が下りてより一層、幻想的な雰囲気に包まれます。

「結婚の儀」は行列の一行と観客に見守られ、厳かに進められます

「大盃の儀」では、お供の中から大酒飲みの男女2名の狐が指名され、顔がすっぽりと覆われるほどの盃に注がれたお酒を一気に飲み干します

祝いの品は地元の清酒と阿賀町産コシヒカリ「狐の嫁入り米」が贈られました

 祝いの宴が終わり、花嫁と花婿が麒麟山の狐の里に向かって夕闇に消えていくと、麒麟山に狐火が灯りました。

麒麟山に向かい、花嫁と花婿は会場を去ります

二人が去ると、麒麟山に狐火が灯りました

 地域に伝わる狐火の言い伝えを現代に語り継ぎ、再現した「つがわ狐の嫁入り行列」は、新潟県の地域文化の中でも、特徴的なお祭りです。来年度も新たな花嫁と花婿を迎えた行列が、町を練り歩くことでしょう。

関連リンク

つがわ狐の嫁入り行列実行委員会
〒959-4495
新潟県東蒲原郡阿賀町津川580番地(事務局:阿賀町まちづくり観光課内)
TEL 0254-92-4766

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