第53回 太鼓芸能集団「鼓童」と世界の音楽が響き合う。「アース・セレブレーション」体験レポート
佐渡島を拠点に世界中で演奏活動を展開している太鼓芸能集団「鼓童」。彼らが毎年8月に小木地区で開催している国内外のアーティストが集う音楽フェスティバルが「アース・セレブレーション(以下EC)」です。令和9年(2027)に40回を迎えるこのイベントは、島内・国内はもとより海外からも来場者が訪れ、特にリピーターが多いことも特徴の一つです。
世界中の人々を魅了するEC。国境を越えて伝わる鼓童の魅力と、佐渡ならではの空気を体感しに、フェリーに乗り込みました。

昭和56年(1981)のベルリン芸術祭でのデビュー以来、50以上の国と地域で7,500回を超える公演を行っている鼓童。
ECは昭和63年(1988)に始まった音楽フェスティバルで、令和8年(2026)は8月21日~23日の3日間開催されました。39回目のECでは、どんな体験が待っていたのでしょうか。最終日・23日の会場の様子をお届けします。
小木地区に一期一会の音楽体験があふれるEC
佐渡汽船小木ターミナルそば、玄関口となるBLUE AREAに着くと、早速港町の開放的な空気と国際色豊かなマーケットが迎えてくれました。

EC2026の会場マップ。会場は、港周辺のBLUE AREA、小木町商店街を中心としたYELLOW AREA、城山公園を中心としたGREEN AREAの3つに分かれています。

BLUE AREAの入口。エリア内には、鼓童や国内外のアーティストによる演奏を楽しめるECのメインプログラム「ハーバーコンサート」が行われる小木みなと公園や、物販・屋台・キッチンカーが並ぶハーバーマーケットがあります。


ここでプログラムをもらって、まずは多彩なパフォーマンスとワークショップが楽しめる小木町商店街を中心としたYELLOW AREAへ!

BLUE AREAから徒歩約15分圏内にあるYELLOW AREA。小木町商店街を中心にイベント会場が点在します。
歩き始めてすぐ、小木町商店街の店先を回りながら演奏する「門付け(かどづけ)」のパフォーマンスに遭遇しました。演目は、ECで無料で楽しめるパフォーマンス「フリンジ」の一つ、「小木祭り太鼓で門付け!」です。

小木町商店街で門付けをする鼓鈴(これい)の会の皆さん。
小木で活動する鼓鈴の会は、令和8年(2026)で創設35年を迎えます。メンバーの皆さんが、鼓童が作曲した「小木まつり太鼓」を奏でながら、小木町商店街をゆっくりと練り歩いています。

飛び入りで演奏に参加する人、お店の軒先から見送る人、一緒に歩きながら「ソーレ!」の掛け声に合わせて手を上げる人など、来場者はそれぞれ思い思いの方法で楽しんでいました。
10分ほど歩いてたどり着いたイベント会場・あゆす会館の中に入ると、無料体験イベント「たたいてみよう!太鼓の広場」が開かれていました。大小16台の太鼓が並んでおり、鼓童メンバーの掛け声に合わせながら、希望者は誰でも気軽に太鼓を叩ける企画です。

一人ずつオリジナルのリズムを打ち、次の人がそのリズムを受け継いだり、全員で音を合わせたりします。最後は、鼓童メンバーの笛に合わせて演奏しました。

この企画を担当した、たたこう館(佐渡太鼓体験交流館)の講師の米谷友宏(よねたに ともひろ)さんに趣旨を伺うと「太鼓は、年齢や性別、障がいの有無、国籍、言葉に関係なく、手で触れるだけで音が出せる楽器なので、それを使うことで、みんなで同じ経験を共有でき、一体感が生まれます。だからみんなで『今日来てよかった』『すごく楽しかった!』という思いを共有できる場を作りたかったんです」とのこと。

「従来のワークショップは予約制が基本だったので、その場で思い立って太鼓に触れられる機会を作ろうと企画しました」と米谷さん。
その言葉通り「いつもは見ている側だから、演奏する側を気軽に体験できて楽しかったです」と感想を聞かせていただいた新潟市の女性は、「ECは屋台もあるし、音楽は言葉が分からなくても楽しめるから」とスペインから来日していたお友達を案内していました。
同じ会場で次に開催された企画が「【特別フリンジ】ひろったおとをみんなできこう with ケンタタク」。鼓童メンバーの中込健太(なかごめ けんた)さんによる、音で遊ぶワークショップの発表会です。

思い思いの楽器や道具を持ち寄った20名ほどの参加者が床に座り、最初は無音の状態から、静かに音を奏で始めます。徐々にそれぞれの音を奏でながら立ち上がって動き始め、それに伴い音は次第ににぎやかに重なり合い、空間全体が音で満たされていきます。次第に踊り始めたり、観客席にもやってきてマラカスを渡したりと盛り上がり、そして最後は静かに終わりました。パフォーマーを含め誰もが予想できない音楽の旅のような体験でした。


マラカスやシンバルといった楽器はもとより、空き缶やペットボトル、木材など、思いがけない「楽器」もたくさん登場。
企画した鼓童の中込さんは「今日は『聴く』を大事にしていて、一回無音を味わって、そこから白い画用紙に絵の具を少しずつ落としていくように音を変えていこうと始まりました。演奏会は、いい音だと思ったら、その気持ちを大事にすれば、何か楽しいものになって伝わるから、まずは自分たちでちゃんと心が動いていることを味わおうと話しました」と、ワークショップと演奏会に込めた思いを教えてくださいました。

「出した音とかリズムが正解とか間違いとかじゃなくて、自分が出した音に感動してほしくて。これは鼓童の音作りにも通じるものがあります」と中込さん。
あゆす会館そばの三角公園で開かれていたのは沖縄音楽のコンサート。佐渡と沖縄、「島」という共通点があるからか、開放感あふれる演奏が、会場の空気にぴったりと合います。ここではシアトルから36時間かけて来場したご夫婦と出会いました。「息子が鼓童のメンバーを目指す研修生で、今回の思い出はやっぱり彼のステージが一番です」と、うれしそうに、息子さんの演奏姿が写った写真を見せてくださいました。

豊岡マッシーさんによる沖縄音楽のコンサート。

心地よい潮風に吹かれながら、三角公園では、ステージでの演奏のほか、ドラムを叩いたり、卓球や水遊びを楽しんだりする人の姿も。こちらも自由な空気が溢れています。
もちろんフードも、ECの楽しみの一つ!
ランチはBLUE AREAのハーバーマーケットで、佐渡で親しまれている海藻「ながも」を使ったそばと、佐渡産の地魚を使ったフィッシュ&チップスをいただきました。

写真は、ながもそばと佐渡産の地魚を使ったフィッシュ&チップス。ハーバーマーケットには、焼きそばやクレープなどのお祭り定番メニューからエスニック料理まで、多彩なグルメが並びます。

エリア間を移動している途中に出会ったのが、ECと小木港祭のときだけ開店するカフェ「KURU&CHOPPER」。小木産レモンを使ったレモネードとかき氷で一休みしました。

観光案内所「マリンプラザ小木」は、EC期間中、日本語・英語に対応する「EC案内所」としても利用されます。館内には物販コーナーがあり、オリジナルグッズや鼓童の映像作品も並びます。
夜空に響く、サプライズも目白押しのハーバーコンサート
日も傾きはじめ、いよいよメインイベントであるハーバーコンサートの時間が近づいてきました。
コンサート会場隣のマーケットにはどんどんと人が集まり、食事やショッピングを楽しみながらその時を待ちます。ただ、単に開演を待っているというより、この時間そのものがECの醍醐味の一つのようです。開演後も、港に響く演奏をBGMに食事やおしゃべりを楽しむ人が多く、それぞれのスタイルで過ごせるECの懐の深さを感じました。

ハーバーマーケットで仙台市から来場のお二人に声をかけてみると、女性はなんと10回以上来場しているとのこと。「何よりも鼓童が好きで、そしてこの開放感や異国情緒のある雰囲気、自由にダンスを楽しめるところが好きですね」とその魅力を教えてくれました。男性は今回がEC初参加とのことで、「伝統的な和太鼓の演奏を想像して来ましたが、昨日のノリノリに会場を盛り上げるライブを見て『あ、こんなに自由な和太鼓があるんだ!』と驚きました」とすっかり魅了された様子でした。
「昨日はゲストのモンゴルのアーティストが鼓童の楽曲を演奏したり、逆もあって、すごく上手くフュージョンしていて。見ていてすごく楽しくて!」と二人とも熱く語ってくださいました。

仙台市から訪れたお二人。女性はECに10回以上参加しているそうです。


夕食はお二人にお勧めしてもらったタイ料理の屋台へ。甘さと香ばしさが絶妙なパッタイとさっぱりとしたココナッツのスムージーは相性ぴったり。
そしていよいよハーバーコンサートの開演です。だんだんと日が暮れて暗くなっていく中、続々と繰り広げられる鼓童の皆さんの多彩なパフォーマンスに、会場のボルテージはどんどんと上がっていきます。

会場にはシートエリア、着席エリア、ダンスエリアがあり、来場者は思い思いのスタイルで楽しんでいました。
勇壮な曲からサンバのようなノリノリの曲まで、鼓童のステージはまさに「和太鼓」のイメージを大きく覆すような多彩さで、一曲ごとに驚きと楽しさが押し寄せます。ダンスエリアではないところにいても、思わず体が動いてしまうほど。

演奏だけではなく、進行やトークも鼓童のメンバーが担当。楽しいトークで会場を笑わせたり、時には観客を盛り上げたり、息つく暇もないほどの怒涛のステージに、時が経つのを忘れます。気付けば、空はすっかり真っ暗になっていました。
休憩を挟んでの後半にはシークレットゲストとして、初日に出演した「三宅島芸能同志会」と、2日目に出演したモンゴルの民族音楽グループKhusugtun(フスグトゥン)が登場。最後は3者が共演する贅沢なスペシャルステージ!まさにここでしか、この瞬間にしか見られない、唯一無二のステージでした。

鼓童と三宅島芸能同志会によるコラボレーション。

Khusugtun(フスグトゥン)が披露した、モンゴルの伝統楽器や喉歌唱法「ホーミー」。一度聴いたら忘れられないほどのインパクトでした。

クライマックスの連続ともいえるハーバーコンサートは、大きな喝采とともに幕を閉じました。


ハーバーコンサートの熱気冷めやらぬ中、海から山へステージを移して行われた最後のプログラム「城山 de Night」。バリ島に伝わる竹製の木琴「ティンクリック」の演奏に合わせ、神秘的な雰囲気の中で繰り広げられるインプロ(※)のステージを堪能しました。
※ インプロヴィゼーションの略。即興のパフォーマンス。
ECの3日間のプログラムが終わり、すべて終了かと思いきや、一夜明けても実はもう一つECならではのお楽しみがあります。
それが「送り太鼓」と呼ばれる、最終日の翌朝、小木港を出発するフェリーで帰る来場者を見送るイベントです。港には鼓童のメンバーと200名を超える来場者が集い、出航するフェリーに向かって賑やかな演奏とともに「また来いよー!」と叫んで手を振り、EC2026を締めくくりました。

港で演奏する鼓童のメンバーに向かって、船の甲板に出た大勢の来場者も手を振り返します。
3日間のECを体験して感じたのは、ECが単なる音楽イベントではなく、鼓童と小木の人々が長い時間をかけて育ててきた「祭り」でもあるということです。そんなECをつくる人たちは、どのような思いを込めているのでしょうか。
40回目のECへ、未来へつなぐ思い
鼓童は、日々和太鼓のさまざまな表現方法を模索しながら、国内外で劇場公演を行っています。ECではさらに、「ここでしか見られない鼓童」を届けることを目指しています。3日間のハーバーコンサートをそれぞれ演出したメンバーに、ステージへの思いを伺いました。

写真左から、木村佑太(きむら ゆうた)さん(3日目「祝祭」担当)、野仲純平(のなか じゅんぺい)さん(2日目「大地の詩」担当)、中込健太(なかごめ けんた)さん(1日目「祭音」担当)
初日のコンサート演出を担当した中込さんにとって、この日は1年半かけて作り上げてきた公演「祭音」の集大成となるステージでした。「ハーバーコンサートを演出するのが初めてでしたが、三宅島芸能同志会の人と一緒にみんなでお祭りを作り上げようというエネルギーをすごく感じられて、2・3日目にいい空気が流れたかな」と振り返ります。
2日目の演出を手がけた野仲さんも今回が初めての舞台演出だったそうで「演奏者として立つECとはまた違った新しい視点がすごく見えたことが、新鮮で楽しかったです。ゲストと一緒に舞台でつながる楽しさを今後ももっと大切にしていきたいです」と振り返ります。
令和9年(2027)に40回目の節目を迎えるEC。これまでには会場やプログラムなどさまざまな変化を繰り返してきた歴史があります。そんな中で、変わらないものは何なのか。その問いに木村さんの回答は「小木でやること」でした。

木村さんは平成30年(2018)から正式メンバーとして活動し、舞台では主に太鼓や笛を担当しています。研究熱心で責任感もあり、他のメンバーから頼られる存在です。
「佐渡に住んで13年目になりますが、例えば居酒屋に行くと、そこでEC創立期に尽力した方に出会えたりします。当時尽力された方々への唯一の恩返しが、活動拠点として、そして世界ツアーに出ても帰ってこられる『ホーム』である場所でやり続けることなんじゃないかと思うんです。そんな場所を僕たちの力で、この期間だけでも賑わせることができたらいいなと考えています」(木村さん)
そんな作り手の思いは、しっかりと地元の人たちに伝わっています。会場で地元の来場者に伺うと、「ECは生まれた時からあるもので、あって当たり前」「お盆、EC、小木港祭で夏が終わる」「大変だと言いながら、ないと寂しい」と、みなさん、親しみを込めて語ってくださいました。
変化を続けてきたEC。これからについても、3人はそれぞれ未来を見据えています。中込さんは「もっと佐渡の人にも来てもらいやすい仕組みを考えたい」、野仲さんは「いろいろな国のアーティストの方を招待して、感性の糧にもしていきたい」、木村さんは「もちろんやるのは大変だけど、終わった後にやっぱり自分たちのお祭りがあるっていいね、またここに来年帰ってこようねという立ち返られるイベントであり続けたい」と語りました。
「出演者は世界的に活躍している人たちで、そんなすごいクオリティの舞台を見ているわけだけど、同時に地元の楽しいお祭りでもあり、美味しいものもたくさんあるし、佐渡を丸ごと楽しめる機会なんじゃないかと思います」と話す来場者もいました。EC2026は、音楽に耳を傾けるだけでなく、五感で「佐渡」と「世界」を同時に感じられる体験でした。
ちなみに、来年のアース・セレブレーションは令和9年(2027)8月20〜22日の3日間開催予定です。読者のみなさんも現地でアース・セレブレーションの魅力を感じてみませんか?
取材協力: 太鼓芸能集団「鼓童」/鼓童演奏写真(一部):岡本隆史
なお、今回のアース・セレブレーションの予告動画と、過去に新潟県内のテレビ局で太鼓芸能集団「鼓童」とアース・セレブレーションが紹介された時の動画がYouTubeに公開されているので許可を得て引用します。
■アース・セレブレーション予告動画
■参考: テレビ新潟「夕方ワイド新潟一番」(令和5年(2023)7月24日放送)より