file-119 五感で新潟を味わう。農家レストランへようこそ(後編)

  

「おいしい“地域おこし”はいかが」

 おいしい食事の提供から一歩進んで、農業体験や伝統の料理の掘り起こし、イベント開催など、農家レストランを起点とした多彩な活動が始まっています。また、素材にも調理方法にもこだわった、創作料理も生まれています。食で地域を元気にし、地域の魅力を県外へも発信。大地の恵みを活かしたおいしい取り組みをたどります。

こだわりの郷土料理でおもてなし

食で地域を元気にしたい

こころまい

築150年の古民家を風情はそのまま残してリノベーション。母屋の一部をレストランに/こころまい

こころまい

「大毎で、その時にしか食べられないものをお出ししています」/こころまい 加藤雪子さん

こころまい

メニューは週替わり。少しずついろいろな料理が味わえる。来店は予約したほうが確実/こころまい

 山形県境に近い村上市大毎(おおごと)地区は、名水百選に選ばれた吉祥清水(きちじょうしみず)がこんこんと湧く、山間の農村です。ここで育てられたブランド米『心米(こころまい)』を店名として、米はもちろん、野菜や山菜、味噌など地元産や自家製にこだわって、郷土料理を提供する農家レストラン『こころまい』。ふだんの大毎のごちそうを大勢の方に味わってほしいと、築150年の自宅の一部をレストランに。「米はてきめんですが、料理に吉祥清水を使うと味がまろやかになるんですよ。だから、ここでなければ味わっていただけない料理ばかりです」と、オーナーの加藤雪子さん。郷土料理の他にも、クリームチーズを挟んだ干し柿、フキノトウ入りのコロッケ、なすのカレーフライなどのオリジナル料理も次々と考案。リピーターも増えてきました。
 加藤さんの次の目標は、吉祥清水と清水が育んだ食文化を活かしたイベントの開催や公園の整備。「それをきっかけに若い人たちが戻ってきて、集落が再びにぎわうように。そのための土台を作りたいですね」と、にっこりとほほ笑みました。

 

山紫

自家農園では、農薬を使わず「安心・安全」にこだわった野菜を栽培。ここで育った野菜をふんだんに料理に取り入れている/農家レストラン より処 山紫

山紫

毎週火曜日は、ごはん、味噌汁も食べ放題になるバイキングを開催。地元の味覚をたっぷりと/農家レストラン より処 山紫

 平成25年にオープンした小千谷市の『農家レストラン より処 山紫』。地元の地域おこし団体・岩沢アチコタネーゼが、「地元をもっと元気にしたい」という思いで始めました。
「レストランから車で5分の場所にある農園では、農薬不使用で自家野菜を育てています。また地元の農家さんから仕入れる新鮮野菜は、料理にも使っていますし、直売所で購入することもできます。山菜やきのこなどの季節限定メニューも含め、地域のふるまい料理を味わってください」と話すのは、スタッフの清野憂さん。特に毎週火曜日のバイキングでは、ごはん、味噌汁も食べ放題となっています。地元の棚田米を100%使ったご飯のおいしさも格別です。田畑での農業体験コースも企画しながら、複合的に地域活性化を目指しています。

 

すもん

須原スキー場近くの高台に位置するレストラン。四季折々の美しい眺望もまた、この地ならではの味わい/農家レストラン 山彩すもん

すもん

魚沼の郷土料理を基本にした、季節感あふれるふるまい料理がずらりと並ぶ(要予約)/農家レストラン 山彩すもん

 魚沼市の『農家レストラン 山彩すもん』は、地域の食と生活文化を支えるグループ「山彩すもんの会」が運営しています。
「魚沼で採れる旬の食材をふんだんに使った手料理が自慢です。煮物を主にした郷土料理は、素材の味を大切に、化学調味料を使わず、薄味で手間をかけて作っています。これらは、家庭料理の延長で、地域の言葉では“ごっつぉ”(ごちそうの意)。どんなお客様にも親しまれる料理の提供を心掛けています」と、代表の酒井イホさん。山の上にある、完全予約制のレストランのため、知る人ぞ知るという存在でもある同店。これからは発信力を強化し、もっと多くの人たちを呼びこんでいきたいと語ります。

 

地域の「おいしい」を発信する

まつえんどん

もともと酒屋だった店舗をリフォームしてレストランに。和モダンな雰囲気がおしゃれ/まつえんどん

まつえんどん

南魚沼生まれの三輪弘和さんと、「初めての冬は雪にびっくり」とは石川県生まれのやよいさん/まつえんどん

まつえんどん

自家製の味噌と、地元産の大豆で作る「みそまめ」。素朴なおいしさが後を引く人気商品/まつえんどん

『まつえんどん』は江戸時代から続く農家の屋号。もともと金沢で料理人をしていた三輪夫妻が、夫の地元、南魚沼市にUターンして農業を継ぎ、その後、弁当店を開くときに、先祖から継承した名前を店名にしました。平成29年にレストラン&惣菜店としてリニューアルオープン。無農薬で育てた玄米や白米、自家製の味噌、地元産の野菜を使った、ランチバイキングが評判です。開店当時からふたりの視点は常に外へ。「地元の人の当たり前が、県外の人には新鮮」という事を知り、郷土料理をベースにメニュー開発に努めています。たとえば、粉ではなく、玄米ご飯を使って作る玄米ベーグル、自家製味噌を練りこんだ味噌豆。「マクロビやビーガンなど、ヘルシー志向の人たちに向けた東京でのイベントに参加したり、新潟地酒とコラボしたり、いろいろな場に参加しています。魚沼にはいいものがあるのだから情報発信しないのはもったいない」と三輪弘和さん。米の販路を活用しながら、東京へ、全国へ。三輪さんの挑戦は続きます。

 

トネリコ

野菜ソムリエによる旬の地元野菜を活かしたランチほか、米粉を使った手作りスイーツも楽しめる/農園のカフェ厨房トネリコ

トネリコ

豊かな大地と水と共に古くから農業が営まれてきた新潟市西蒲区。広大な田園に建つテラスでゆったりと/農園のカフェ厨房トネリコ

 ちょうど今から2年前、新潟市西蒲区にあった農産物直売所が、装いも新たに、マルシェ、デリカ、レストラン、そして農園が一体となった「そら野テラス」に生まれ変わりました。その中のレストラン『農園のカフェ厨房トネリコ』では、野菜ソムリエによる旬の野菜を使ったランチやカレーが人気です。カフェタイムでは、コシヒカリを使った団子のスイーツや米粉のシフォンケーキ、オリジナルのピザも提供。店長の藤田瑠美子さんによると、「添加物を避けて自然の味付けを大切にしているので、新鮮野菜を楽しみたい方やヘルシー志向の方が多く来店されています」とのこと。
 経営は、農業生産法人(有)ワイエスアグリプラント。「地元に根づいた活動をモットーに、農家の受け皿として、今後も地域の農業を率先する存在でありたい」と、藤田さん。トネリコは、収穫後に稲を干した「はさ木」として利用された樹木の和名。大きな窓の外には、田園と店名になったトネリコのはさ木が並んでおり、新潟ならではの風景が眺められます。

 

「地元で採れる山菜や田舎料理そのものがごちそうである」と、農家レストランの特徴を語るのは、新潟大学農学部の粟生田助教。では、農家レストランは今後どのような動きを見せるのでしょうか。
「地域の雇用を創出する一方、少子高齢化で農業や食に興味のある若手後継者を育てられるかどうかが課題のひとつ。次世代へのバトンタッチを見据えた経営を行う必要があります。それにはレストラン単体として考えるのではなく、地域を包括する取り組みが鍵。さらに今後は、食を通して“健康”を支援するような、一歩先の提案にも期待が高まっています」

 

 1次産業の生産×2次産業の製造・加工×3次産業の販売=6次産業の一つの形として生まれた農家レストラン。「おいしい」を核に、点から線へ、そして面へと、地域を巻き込んだ活動が始まっています。多彩な個性を味わいに、県内各地の農家レストランへ小旅行にでかけてみませんか。新潟だけでしか見られない、四季折々の風景を楽しみながら…

 


■ 取材協力
新潟大学農学部 粟生田忠生 助教
農家レストラン こころまい/オーナー 加藤雪子さん
農家レストラン より処山紫/スタッフ 清野憂さん
農家レストラン 山彩すもん/代表 酒井イホさん
まつえんどん/三輪弘和さん・やよいさん
農園のカフェ厨房トネリコ/店長 藤田瑠美子さん

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