
file-120 佐渡の宝、鬼太鼓と民謡を未来へ、世界へ(後編)
民謡に青春をささげる高校生たち
「佐渡おけさ」「相川音頭」「両津甚句」「小木おけさ」「羽茂甚句」など、佐渡の民謡を大切に受け継ぐ羽茂高校の郷土芸能部。彼ら部員が「先生」と呼び、指導を仰いでいるのが羽茂民謡研究会(民研)会長の氏江(うじえ)忠男さんと住吉ミヨ子さん。祖父母と孫の間柄ほど年が離れていますがそれが溝にはならず、逆に教える側の愛情と学ぶ側の敬意という深い結び付きに転じています。日本一を勝ち取るために民謡に打ち込む部員たち。郷土の伝統芸能を守り、伝え、そして発信している熱い姿を追いました。

郷土芸能部は部活動の一環として年間30近い地域の祭りや島内外のイベントなどに出演し、佐渡の芸能の素晴らしさを伝えている。写真はそのひとつ、相川京町で開かれる「京町宵乃舞」/写真撮影:伊藤ヨシユキ

「京町宵乃舞」は御前踊りといって佐渡奉行に見せた踊りを再現。奉行の前では顔を隠したため笠を深くかぶっている。ひたむきに努力を重ねる部員の雰囲気とマッチしており、彼らを見たいがための観光客もいる/写真撮影:伊藤ヨシユキ
上達させるこそが愛情

部員に頼まれて三味線の調律をする氏江さん。楽器の状態にまで目を配り、手入れの方法も丁寧に教える

氏江さんは佐渡でも指折りの笛と尺八の名手だが、他の和楽器にも通じるオールラウンドプレーヤーだ
こちらも翌年からすぐ県代表として総文祭に連続出場し、2011年には部へ昇格。2015年には全国のベスト4となる伝承芸能部門優良賞を、翌年の「2016ひろしま総文」では最優秀賞を受賞。「野球部が甲子園で優勝するようなもの」と講師である氏江さんは快挙をたたえます。
運動部のような激しい動きはありませんが、腰を落とし、指先まで集中する構え(姿勢)をつくりながらの踊りはけっこうハードで、あっという間に汗がしたたり落ちます。それでも涼しい表情でたおやかに。「大きな波、小さな波、決めてからスーッと引いて」と住吉さんの声を全身で聞いて習得しようと必死です。


指先まで意識して踊りながらも立ち位置や周囲の動きに配慮。練習を重ねて踊りと音、みんなの心が一つになる最高の状態を目指す
現役の農家でご自身も忙しいのに、何とか総文祭で日本一にさせてあげたいと、出品作のアイデアも一年中考えています。昔のままの踊りだと総文祭では通用せず、アレンジが必要。「自分たちは良いと思ってやっても点数を付けるのは審査員」と大会の難しさを語ります。

「若いからおぼえが早く、日に日に上達がわかる。生まれ持ったセンスでヒントを与えただけでできる子もいる」/住吉さん
踊りや和楽器は、初級→中級→上級→講師→準師範(指導ができる資格で筆記試験有り)→師範→総師範の順に上っていきますが、住吉さんは踊りの総師範。さっと流すように見ながらも、「〇〇君、腰が下がっていない」「〇〇さん、花笠は八の字を描くように」など、隅々にまで目が届くのはさすがです。

氏江さん(左)は地方(じかた)といって唄、三味線、笛、太鼓を指導。踊りの立方(たちかた)を指導するのは住吉さん(右)
反面、氏江さんは「芸は身を滅ぼす」と言います。「上達すればするほど、もっと良い楽器が欲しくなっちゃうから」。それを聞いた住吉さんは「どれだけ楽器があるの、奥さんには言えんな」と大笑い。民謡が好きで、好きで、たまらないのが伝わってきます。
自身の成長で敬意を返す

「小学校の運動会でもやるから民謡が当たり前にあった。すぐそばに芸能を教えてくれる人がいる佐渡は恵まれている」/内田さん

「何で民謡かと言われると、その中で育ったから自然と好きになったとしか言えない。次は自分が受け継いでいきたい」/早川さん


地方の音色に乗って立方が踊る、本番さながらの通し稽古。改善点を直そうと休憩時間も惜しまず話し合い、体を動かす
早川さんは逆に島内に留まることに決めました。佐渡の町並みが好きなので、寺社仏閣を直せる宮大工の技術を学んだ上で、建築の仕事に就きたいそうです。「昔から続く伝統芸能を継ぐ若い人が少ない。民謡をやっているからこそ、続けたいし、先生たちから教えてもらったことを続けないといけないと思う」
内田さんも早川さんも、この話をまだ氏江さんたちにはしていません。お二人が聞いたらどんなに頼もしく、うれしく思うことでしょう。

「佐渡の財産を写真にとどめたいですが一人では撮りきれない。市役所内に撮影専門の部署ができたらと願います」/伊藤さん
(2)被写体をリスペクトする。それがないと作品としては良くても何かが欠けてしまう。例えば、鬼太鼓は“神事”で地域のみんなが大事にしている。ぶしつけに鬼に触ったり、門付けしている最中に前を横切ったりしてはいけないし、どういう意味で執り行われているか、侵してはいけない部分を知っていた方が奥深い写真が撮れる
■ 参考資料
佐渡の民謡について
file-101 「佐渡金銀山の町」相川の夏祭り(前編)
file-101 「佐渡金銀山の町」相川の夏祭り(後編)
■ 取材協力
氏江忠男さん/羽茂民謡研究会会長 地方指導
住吉ミヨ子さん/羽茂民謡研究会 立方指導
新潟県立羽茂高等学校郷土芸能部の皆さん
伊藤善行さん/ご縁の宿伊藤屋5代目 佐渡PRフォトグラファー
「旅館番頭の佐渡観光情報ブログ」