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file-120 佐渡の宝、鬼太鼓と民謡を未来へ、世界へ(後編)

  

民謡に青春をささげる高校生たち


「佐渡おけさ」「相川音頭」「両津甚句」「小木おけさ」「羽茂甚句」など、佐渡の民謡を大切に受け継ぐ羽茂高校の郷土芸能部。彼ら部員が「先生」と呼び、指導を仰いでいるのが羽茂民謡研究会(民研)会長の氏江(うじえ)忠男さんと住吉ミヨ子さん。祖父母と孫の間柄ほど年が離れていますがそれが溝にはならず、逆に教える側の愛情と学ぶ側の敬意という深い結び付きに転じています。日本一を勝ち取るために民謡に打ち込む部員たち。郷土の伝統芸能を守り、伝え、そして発信している熱い姿を追いました。

 郷土芸能部は部活動の一環として年間30近い地域の祭りや島内外のイベントなどに出演し、佐渡の芸能の素晴らしさを伝えている。写真はそのひとつ、相川京町で開かれる「京町宵乃舞」/写真撮影:伊藤ヨシユキ

「京町宵乃舞」は御前踊りといって佐渡奉行に見せた踊りを再現。奉行の前では顔を隠したため笠を深くかぶっている。ひたむきに努力を重ねる部員の雰囲気とマッチしており、彼らを見たいがための観光客もいる/写真撮影:伊藤ヨシユキ

目指せ、民謡で日本一

上達させるこそが愛情

「お願いします!」と元気の良い声が羽茂農村環境改善センター体育館に響き、羽茂高校郷土芸能部の部員たちが続々と集まってきました。現在の部員は3年生が15名、2年生が5名、1年生が10名の総勢30名。平日は放課後の3時間、休日はお昼から夕方まで3時間半、週に6日を練習に費やします。部活前には正座して円陣を組み、今日の予定を確認。それから慣れた手つきで浴衣に着替えます。

 

調律(氏江さん)

部員に頼まれて三味線の調律をする氏江さん。楽器の状態にまで目を配り、手入れの方法も丁寧に教える

調律(氏江さん)

氏江さんは佐渡でも指折りの笛と尺八の名手だが、他の和楽器にも通じるオールラウンドプレーヤーだ

 郷土芸能部の前身は、1994年に羽茂高校赤泊分校で誕生した郷土芸能クラブ。文化部のインターハイと呼ばれる「全国高等学校総合文化祭(総文祭)」に連続出場し、日本一の最優秀賞も獲得しましたが、少子化から2005年に廃校。その活動を惜しむ声が上がり、当時羽茂高校の校長をしていた石井哲彰さんの発案で、2006年に羽茂高校で民謡同好会が発足しました。
 こちらも翌年からすぐ県代表として総文祭に連続出場し、2011年には部へ昇格。2015年には全国のベスト4となる伝承芸能部門優良賞を、翌年の「2016ひろしま総文」では最優秀賞を受賞。「野球部が甲子園で優勝するようなもの」と講師である氏江さんは快挙をたたえます。
 運動部のような激しい動きはありませんが、腰を落とし、指先まで集中する構え(姿勢)をつくりながらの踊りはけっこうハードで、あっという間に汗がしたたり落ちます。それでも涼しい表情でたおやかに。「大きな波、小さな波、決めてからスーッと引いて」と住吉さんの声を全身で聞いて習得しようと必死です。

 

練習風景
練習風景

指先まで意識して踊りながらも立ち位置や周囲の動きに配慮。練習を重ねて踊りと音、みんなの心が一つになる最高の状態を目指す

「私たち民研は趣味で楽しくやっているが、この子たちは部活なので負けてはいられん、最優秀賞という目標がある。だからすべての部員が出場できるわけではなく、野球部のようにメンバーを選抜する。部員同士もライバルなので一生懸命さが違う。けれど、出られない子も好きなんだ。補欠でも、マネージャーでもいいから会場に行きたいんだ」と住吉さん。
 現役の農家でご自身も忙しいのに、何とか総文祭で日本一にさせてあげたいと、出品作のアイデアも一年中考えています。昔のままの踊りだと総文祭では通用せず、アレンジが必要。「自分たちは良いと思ってやっても点数を付けるのは審査員」と大会の難しさを語ります。

 

指導(住吉さん)

「若いからおぼえが早く、日に日に上達がわかる。生まれ持ったセンスでヒントを与えただけでできる子もいる」/住吉さん

 そんな郷土芸能部の指導方法は意外とハイテクです。多いときで3台のタブレットを設置して、いろんな角度から練習を撮影。住吉さんの傍らには交代で1年生を付けて、気付いた点を即座にメモを取らせます。ひとつ通し稽古が終わると1年生がメモを読み上げ、住吉さんが改善点を伝える。自分でわからなければ映像を観る。この繰り返しで踊りの精度を高めていくのです。
 踊りや和楽器は、初級→中級→上級→講師→準師範(指導ができる資格で筆記試験有り)→師範→総師範の順に上っていきますが、住吉さんは踊りの総師範。さっと流すように見ながらも、「〇〇君、腰が下がっていない」「〇〇さん、花笠は八の字を描くように」など、隅々にまで目が届くのはさすがです。

 

氏江さん・住吉さん

氏江さん(左)は地方(じかた)といって唄、三味線、笛、太鼓を指導。踊りの立方(たちかた)を指導するのは住吉さん(右)

「芸は身を助けると言うでしょ。社会に出たら何かのプラスになる。私も小さいときから好きで見よう見まねで踊った。好きな人は三度の飯より好き。真野から羽茂にお嫁に来たとき、民研の仲間にさせてもらった。いろんな曲に乗って踊るのが楽しい」と住吉さん。
 反面、氏江さんは「芸は身を滅ぼす」と言います。「上達すればするほど、もっと良い楽器が欲しくなっちゃうから」。それを聞いた住吉さんは「どれだけ楽器があるの、奥さんには言えんな」と大笑い。民謡が好きで、好きで、たまらないのが伝わってきます。

 

自身の成長で敬意を返す

内田さん

「小学校の運動会でもやるから民謡が当たり前にあった。すぐそばに芸能を教えてくれる人がいる佐渡は恵まれている」/内田さん

 そんな氏江さん、住吉さんの思いを部員たちはどう受け止めているのでしょう。3年生で部長の内田有稀(あき)さんは、地方(じかた)の笛を担当。お姉さんも郷土芸能部で踊っていて、何度も舞台を見に行きました。「踊りがそろっていることに感動して、すてきだと思ってあこがれました。でも、踊りは難しそうなので父もやっていた笛を選びました。双子の弟も一緒に郷土芸能部で三味線をしています」とまさに芸能一家。「氏江さん、住吉さんは仕事もあって忙しいのにわざわざ自分たちのために時間を割いて来てくれる。最近は自分たちも後輩に教える側になり、その難しさを知ったからこそありがたいと思います」と感謝している。

 

早川さん

「何で民謡かと言われると、その中で育ったから自然と好きになったとしか言えない。次は自分が受け継いでいきたい」/早川さん

「おばあさんが踊りをやっていました」と話すのは3年生で副部長の早川和磨さん。小さな頃から歴史や文化に興味があり、中学のときに郷土芸能部の先輩から誘われて練習を見学。「絶対にこの部に入る」と決めて羽茂高校に進学しました。「お二人は何十年もいろんな経験をして、それを通じて学んできたこと、練習してきたことを、芸を独り占めしないで惜しみなく自分たちに教えてくれる」と言います。

 

 二人は1年生のとき「2016ひろしま総文」で舞台に上がっています。鬼を演じた早川さんは、いろんな人が自分たちを見てくれたことに感激。「悪い緊張ではなく、さらに踊りに力が入る良い緊張でした」と舞台強い。これから総文祭に向けて部をまとめて行きますが課題は山積み。「まだ気持ちの入り方が違ってバラバラしている。心を一つにしていい演技をしたい。住吉先生がよく“民謡は心のふるさと”と言いますが、地域によって違い、その土地の風土が表れる独特のもの。自分たちが生まれ育った佐渡はとても良いところだから、その佐渡の民謡を知ってもらいたい」と早川さん。内田さんも「心が一つになると演技は指先までそろい、音もそろう。その瞬間はすごく気持ちがいいし、民謡に興味を持って、やりたいと思ってくれる人が現れたらうれしい」と言います。

 

早川さん
早川さん

地方の音色に乗って立方が踊る、本番さながらの通し稽古。改善点を直そうと休憩時間も惜しまず話し合い、体を動かす

 そして、総文祭のもう少し先を二人は見ています。卒業後の自分たちのあり方です。急激に過疎化が進む佐渡では、芸能を受け継ぐ担い手も不足しています。「この7月から、佐渡文化財団が立ち上がります。郷土芸能部のOBなど、若い人たちを募って民謡や鬼太鼓の継承に関わるそうです。私は進学のために島外へ出ますが、何か行事があれば佐渡に帰って手伝いたい」と内田さん。
 早川さんは逆に島内に留まることに決めました。佐渡の町並みが好きなので、寺社仏閣を直せる宮大工の技術を学んだ上で、建築の仕事に就きたいそうです。「昔から続く伝統芸能を継ぐ若い人が少ない。民謡をやっているからこそ、続けたいし、先生たちから教えてもらったことを続けないといけないと思う」
 内田さんも早川さんも、この話をまだ氏江さんたちにはしていません。お二人が聞いたらどんなに頼もしく、うれしく思うことでしょう。

 

伊藤さん

「佐渡の財産を写真にとどめたいですが一人では撮りきれない。市役所内に撮影専門の部署ができたらと願います」/伊藤さん

 さて、前編後編の冒頭で、「鬼太鼓」と「宵乃舞」の臨場感あふれる写真を提供してくれたのが佐渡PRフォトグラファー、伊藤ヨシユキさん。佐渡の自然や祭りなどを撮影し、数々の賞を受賞する腕前ですが、「学生の頃は佐渡の良さを知らなくて、むしろ佐渡が恥ずかしかった」と言います。Uターンで戻ってから佐渡の素晴らしさ、それらを大切にする人を知るにつれて「写真を撮って発信し、財産として残すことが自身の使命」と思うようになりました。そんな伊藤さんから、さらに上手に芸能写真を撮るコツを教えていただきました。

 

(1)その瞬間に出会うためには通うこと。何回も来ると見せ場がわかる。鬼太鼓も民謡も決めポーズがあり、その意味とタイミングを知ることが大事
(2)被写体をリスペクトする。それがないと作品としては良くても何かが欠けてしまう。例えば、鬼太鼓は“神事”で地域のみんなが大事にしている。ぶしつけに鬼に触ったり、門付けしている最中に前を横切ったりしてはいけないし、どういう意味で執り行われているか、侵してはいけない部分を知っていた方が奥深い写真が撮れる

 

伊藤さんのように佐渡に住む人のまなざしで、祭りや自然に触れてみましょう。心を寄せると見方が変わり、佐渡の旅がもっと充実するはずです。

※お祭りの撮影マナーについてはこちら

 

■ 参考資料
佐渡の民謡について
file-101 「佐渡金銀山の町」相川の夏祭り(前編)
file-101 「佐渡金銀山の町」相川の夏祭り(後編)

■ 取材協力
氏江忠男さん/羽茂民謡研究会会長 地方指導
住吉ミヨ子さん/羽茂民謡研究会 立方指導
新潟県立羽茂高等学校郷土芸能部の皆さん
伊藤善行さん/ご縁の宿伊藤屋5代目 佐渡PRフォトグラファー
      「旅館番頭の佐渡観光情報ブログ

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