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file-133 栃尾又と五頭で現代の湯治の魅力に浸る(前編)

  

3軒の旅館が一つの共同浴場の湯を守る/栃尾又温泉


 温泉に伝わる効能を期待して長く滞在し、病気の回復を試みる「湯治(とうじ)」。日本で古くから行われてきた温泉療養の方法が、今、健康志向やストレスフルな環境を背景として、改めて注目を集めています。身体だけでなく心も癒す、現代の湯治スタイルとは。

湯治ブームは江戸時代に始まった

21日間の滞在で病を癒す

浅井さん

「新潟県は30市町村のすべてで温泉が湧く温泉王国です」/温泉ソムリエの資格も持つ浅井さん

 古くから日本では、温泉地に滞在して入浴を繰り返す「湯治」が行われてきました。現代の温泉旅行とどう違うのかを、新潟県立歴史博物館の浅井勝利さんに伺いました。「まず、目的が娯楽ではなく、病気治療であること。そして、7日間を一巡りとして、原則は三巡り、つまり21日間滞在して入浴を繰り返すことです」。文化7年(1810)刊行の「旅行用心集」には、「(温泉に入ると)自然の力の不思議さで肌が潤い、関節をほぐし、血の巡りをよくする。(温泉が症状に)うまく合えば万病に効く」と書かれ、温泉の効能が広く信じられていたことがわかります。「湯治は江戸時代に庶民に広まり、農閑期には農民が疲れを癒すために出かけるようにもなりました」

 

自在館

神風館(左)と自在館(右)、その間の突き当りに共同浴場がある。大正時代の栃尾又温泉/自在館提供

行商

かつての湯治は自炊。近隣から行商が訪れ、宿の前で野菜や魚などを湯治客に販売した/自在館提供

 新潟県には江戸時代後期の湯治場の様子を詳しく書き残した、貴重な資料が残っています。熊森村(現・燕市)在住の眼科医、竹山亨が残した「竹山日記」です。安政3年(1856)8月、竹山は栃尾又温泉(魚沼市)へ湯治に出かけ、21日間を過ごしました。「この日記が貴重なのは、湯治場でどう過ごしたかが細かく書いてあることです。入浴については、初日は1回、徐々に増やして1日に5~7回、ほぼ決まった時間に入っています。食事は自炊なので何をいくらで買ったとか、誰と料理を交換したとか、また湯治客同士で近隣に遊びに行ったことも記しています。これを読むと、栃尾又温泉は当時すでに広く知られた湯治場で、近隣だけでなく、柏崎や出雲崎、三条、さらには福島県からも人々が訪れていたことがわかります」。その栃尾又温泉は、令和の今も湯治客のメッカとなっています。

 

栃尾又温泉にひっそり佇む3軒の宿

下の湯

3つある共同浴場の一つで、80段ほど階段を降りたところにある「したの湯」。湯ノ沢の清流を聞きながら入浴できる。

 栃尾又温泉は、JR小出駅から奥只見湖へ向かう国道352号から分かれた道の行き止まりにあります。36度のラジウム温泉をそのままかけ流しにしている「したの湯」「うえの湯」「おくの湯」の3つの風呂を、自在館、神風館、宝巌堂(ほうがんどう)の3軒の宿が共同で利用しています。

 

宗兵さん

「当館の屋号は守右衛門。400年間この地で温泉を守ってきました」/自在館26代当主 星さん

「奈良時代に開湯したという温泉の存在は古くから有名で、江戸時代初期の慶長年間(1596~1615)には当館があったという記録が残っています」と、自在館26代当主の星宗兵さん。高い効能を持つ気体のラドンを発するラジウム温泉は、浸かってよし、吸ってよし、飲んでよし「ラドンがじわじわゆっくりと細胞を刺激して、抗酸化作用をもたらすと言われています」
 時代の流れの中で、湯治に求められるものが変化していると、星さんは感じています。「昔の湯治は治療が目的でしたが、今は精神的な休養や身体のメンテナンスのために3泊から1週間ほど滞在する方が多いですよ。若い方、一人でおいでになる方も増えています。お湯と一汁四菜の体に優しいごはんで心の疲れを癒していただきたい。そういう思いでお迎えしています」
一汁四菜

朝食と夕食には、魚沼の旬の素材で作る一汁四菜を提供。連泊が基本なので毎日献立を変える/自在館

 

神風館 星さん

「待ちきれなくて、チェックインの時間前に着いてしまうお客さん、少なくないですね」/神風館 星さん

神風館

囲炉裏のある談話室には、飲物やお菓子が用意され、壁には栃尾又の昔の写真の展示も/神風館

「当館はずっと湯治専門です。ネット予約のできるサイトにも観光旅館ではありませんと明記しています」と、神風館の星忠志さん。お客さまの多くはリピーターで、中には6年間にわたって、神風館と自宅を1ヶ月おきに行き来して過ごしたという人も。帰りを決めずに訪れる人、「帰りたくない」と延泊を希望する人がいるので、満室にせず常に部屋を残しておくそうです。「特別なサービスや豪華な食事はなしにして、長く滞在できるような料金設定をしています」
 加熱すると効能が薄れると言われるラジウム温泉では、体温と同じほどのぬる湯で入ります。「かつて夜詰めといって一晩中風呂につかる風習もあったくらい、長湯するのがラジウム泉の効能を実感できる入り方。最低1時間は入っていただきたいです」

 

宝巖堂 室内

7部屋すべてしつらえが異なる。小上がりの布団でいつでもごろんと休めるこの部屋は、人気の一室/宝巌堂

宝巌堂 星さん

「湯治は堅苦しいものじゃないことを伝えて、若い人たちにもっと来ていただきたいですね」/宝巖堂 星さん

 坂の上に建つ宝巌堂は、築50年の小学校を移築して建てられた昭和の建物。15年前にリノベーションした、懐かしくもおしゃれな宿です。桐材の床は素足に心地よく、冬でも温か。7部屋ある客室はそれぞれ個性が異なり、「次はこの部屋」と指定して再訪する人も多いそうです。
「お湯はもちろんですが、緑を見て、鳥の声を聞いて、おしゃべりも楽しんで、五感を整えられる環境を提供して、リラックスしていただきたいと思っています」と、若女将の星智子さん。「お風呂に入ったら何もしないでゴロゴロしても、本を読んでも、バスで町に出かけてもいいんです。現代の湯治は、自分をリセットすることだから」

 

 後編では、新潟県内のもう一つのラジウム温泉、五頭温泉郷を訪ねます。

 

掲載日:2019/12/20

 

■ 取材協力
浅井 勝利さん/新潟県立歴史博物館 学芸課 課長
星 宗兵さん/栃尾又温泉 自在館 第26代当主
星 忠志さん/栃尾又温泉 神風館 主人
星 智子さん/栃尾又温泉 宝巌堂 若女将

■ info
新潟県立歴史博物館 冬季企画展「越後佐渡の温泉文化」
会 場:新潟県立歴史博物館 企画展示室
期 間:令和2年(2020)1月18日(土)~3月8日(日)
時 間:9:30~17:00
入館料:一般520円、高校・大学生200円、中学生以下無料
冬季企画展「越後佐渡の温泉文化」

 

後編 → 栃尾又と五頭で現代の湯治の魅力に浸る(後編)
大地の恵み、ラジウム温泉が人を呼ぶ/五頭温泉郷

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