file-14「映画で再発見する新潟の風景」

映画になった新潟の風景

瓢湖

1993年「高校教師」(真田広之・桜井幸子ほか)、2003年「高校教師」(藤木直人・上戸彩ほか)でロケが行われた阿賀野市の瓢湖。他にも2003年「はみだし刑事情熱系」(柴田恭兵・田中美奈子ほか)でロケが行われた。

吊り橋

2006年公開の「ゆれる」(オダギリジョー・香川照之ほか)で象徴的な意味を持って使われた見倉橋(津南町)

 新潟県内を舞台に撮影された映画は、佐渡市で撮影された「君の名は」(1953年公開、主演:岸恵子)から数えて既に100作を超えています。その半数近くが2000年以降の撮影で、新潟ロケは近年増加しています。2008年の今年は、NHK大河ドラマ「天地人」の主演直江兼続役にも決まっている妻夫木聡さん主演の「感染列島(2009年公開予定)、ハリウッド映画でリチャード・ギア主演の「忠犬ハチ公物語」(2009年公開予定)、新潟が舞台になっている「降りてゆく生き方」(2009年公開予定)が既に撮影されています。また、妻夫木さん主演の日韓合作映画「ボート」(2009年公開予定)もこのほど新潟で撮影が始まりました。現在映画とテレビドラマ、バラエティーやコマーシャル、プロモーションビデオを含めると、毎月10本ほどの撮影がどこかで行われているのです。

 多くの映画ロケが行われている割に気づくことが少ないのは、物語では別の地域の設定であるものを撮影しているためかも知れません。例えば「突入せよ!あさま山荘事件」(2002年公開)の舞台は長野県ですが、クライマックスのロケは上越市板倉区、「頭文字D」(2005年公開)の舞台は群馬県ですが県内各地でロケを行っています。「ミッドナイトイーグル」(2007年公開)の設定は北アルプスで、「蝉しぐれ」(2005年公開)は山形県です。いずれも舞台設定は県外ですが、新潟県内でロケが行われています。

 また、見てすぐに新潟と分かる景色が含まれていないケースもあります。たとえば新潟空港内(「忠犬ハチ公物語」「クライマーズ・ハイ」(2008年公開))など、屋内のみで撮影されている場合です。「感染列島」のロケは新潟市の旧市民病院内。この撮影は、移転した後の旧施設がたまたま手つかずで残っていたという偶然のタイミングでロケ地に決まったそうですが、新潟空港の場合は空港側がロケ誘致に積極的に協力してくれることが大きな要因になっています。

 ロケ地としての新潟の利点は、なんといっても首都圏から短時間で目的の風景に出会えるところ。限られた予算で大勢のスタッフと機材が移動する撮影は、移動距離が短いほどお金も時間も節約できます。冬、雪が降れば「北海道に化けられる」(新潟県フィルムコミッション協議会)と言うように、新潟の雪景色は多くの映画やドラマに登場しているのです。また、前述の新潟空港のように、他の地域にもあるけれど撮影に積極的に協力してくれる施設があるというのも、大きな利点です。映画関係者の横のつながりで「空港を撮るなら新潟という情報が定着しつつある」(同)というように、ひとつの撮影が次の撮影を呼ぶという効果もあるのです。

フィルムコミッションの活躍

HANA-BI

1998年公開「HANA-BI」(ビートたけし・岸本加世子ほか)で、主演の二人が宿泊した部屋。南魚沼市の温泉旅館を借りての撮影だった。

感染列島

「感染列島」のロケにエキストラとして参加した皆さん。すでにメイクも衣装揃って準備万端。「映画の風景の一部になれるのがいい!」とおっしゃっていました。

町の撮影風景

村上市の町屋が並ぶ通りで撮影されたのは、2005年公開TVスペシャルドラマ「逃亡者 木島丈一郎」(寺島進ほか)。

 新潟県内でロケが増加している背景にはもう一つ、各地のフィルムコミッション(FC)の活躍があります。ロケに関するさまざまな協力をする団体で、現在新潟県内には34団体あり、県庁内に新潟県フィルムコミッション協議会があります。これらの組織で「こんなロケ地はないか」「この施設は使えないか」という問い合わせに対応したり、ロケ候補地との折衝に協力したり、撮影となればエキストラを確保したりしています。

 2002年に設立された「にいがたロケネット」は、新潟市内でセットを組んで撮影された「白痴」(99年公開)の撮影がきっかけとなり「新潟で再び映画を撮ろう」と集まって活動を開始しました。会員は50人ほどですが、「感染列島」のロケでは270人のエキストラ手配を引き受けています。

 「思い出深い映画は幾つもありますが、特に『ヴァイブレータ』(2003年公開)。当時はロケネットのメンバーも少なくて、ぼくもエキストラで出ているんです。魚沼での撮影とエキストラの手配は、ちょうど魚沼に転勤になっていたメンバーが担当してね」と語るメンバーの土田雅之さん。普段は会社員だ。全国的にも自治体が中心となってFCを立ち上げる動きが続き、映画誘致も競争の時代。「ぼくらはボランティアだからあまり営業したりすることはないし『最近問い合わせがないねー』で済むけど、自治体が主体だと大変でしょうね。実績が必要になるから」と土田さん。

 実際、県庁観光振興課内にある新潟県FC協議会では、ロケ誘致を「営業活動」として行っています。「県内で2か月の撮影が組まれれば、宿泊、食事代など直接経済効果は1億円を超えます」と田中克典さん。2007年の直接経済効果は66本のロケで4000万円、2006年は本数は少なかったものの「ミッドナイトイーグル」と「マリと子犬の物語」(2007年公開)のロケが長期に渡ったため、約2億円あったとみています。「どうしてもここでなきゃだめという映画はそれほど多くありません。問い合わせがあったものをどれだけつなぎ止められるか。最後は人ですから、きめ細かくて熱意のある土地を選んでくれると信じています」と話しています。

 現在の課題は「オール新潟ロケ」映画が少ないこと。経済効果の規模も違ってきますが、映画が話題になればロケ地を訪れる観光客が見込めるからです。FC先進地の広島県尾道市は、大林宣彦監督の「尾道三部作」(1982年公開~)が契機になりました。そのロケ地には現在でも年間40万人が訪れています。「新潟でも、映画の名場面が観光名所になるようにしたい」と田中さん。

 新潟県FC協議会、各FCでは問い合わせに迅速に対応するため各地の風景写真を求めています。何気ない路地、一本の樹、お気に入りの神社などぜひサイトにアクセスして写真を提供して下さい。あなたの好きな風景が、映画の風景になるチャンス。そして新潟に、新しい名所が生まれるチャンスです。


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本当はありふれていない、ありふれた景色

 新潟の特長的な風景は、どんな景色だと思いますか。棚田は全国にありますが、小さな鏡をちりばめたような水面の棚田は、錦鯉の養殖をしている山古志ならではの風景です。新潟平野のどこまでも続く水田は、特に関西方面から来た人は珍しがります。日本海に夕日が沈むのは当たり前のことと思われるかも知れませんが、富山以西は地形が複雑なため、陸地の向こうに日が沈むように見える場所の方が多いのです。

 新潟市美術館長で越後妻有大地の芸術祭総合ディレクターを務めている北川フラム氏は、新潟の風景の美しさ、その特長を「手の入った自然」と表現します。棚田もブナの森も平野も、先人の手によって作り出された景観。庭に植えた草花が土地の境界を越えて公道にも植えられ、自分の庭と同じように手入れされているという景色は、新潟県内ではありふれたものですが「こんなにきれいなところ、歩いて心地よいところは他にない」(北川氏)と言い、「径庭」(=みちにわ)と呼ぼうと提唱しています。

 普段見慣れた景色は、どんな成り立ちを持つのか。見慣れた近所の建造物はいかにして、どんな目的で誰が建てたのか。まずは自分の大好きな場所について、考えてみませんか。それによって、今までと違う新潟が見えてくるかも知れません。

 それと同じように、映画になった見慣れた風景は、これまでと違う新潟を見せてくれます。いわば別の人の目を借りて見ているようなものだからです。映像を通した新潟の風景再発見。作品もぜひご覧下さい。


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《写真協力》 新潟県フィルムコミッション協議会、津南町

 

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