file-67 ロケ地としての新潟(後編)

  

ロケ地としての佐渡の魅力

自然がそのまま残る佐渡

佐渡テンペスト_スチール

撮影場所は旧相川交流所、佐渡金山、長手岬、清水寺、宿根木など、さまざまな場所で行われた。(佐渡テンペスト)  ©百米映画社

佐渡テンペスト_2

ロケの撮影は3月。吹き付ける雪や荒々しい日本海など、佐渡の冬景色も描かれている。(佐渡テンペスト)
©百米映画社

 佐渡がロケ地として注目され、オール佐渡ロケの映画2作品が制作された。2013年10月5日(土)公開予定(※1)の「飛べ! ダコタ」は、戦後間もない時期に佐渡市で起きた実話をモデルにした、英国輸送機ダコタの乗組員と島民の交流を描いたヒューマン・ドラマ。もうひとつは、2012年春に公開された「佐渡テンペスト」(※2)。シェイクスピアの「テンペスト」を原作とし、佐渡島に幽閉されたミュージシャンが厳しい環境の中で音楽に向き合い、社会を変えていく物語。これら映画ほか、お笑い番組のロケやCMなどで、佐渡を使うケースが増えている。
(※1)新潟県内の映画館では、9月7日(土)から先行上映されます。
(※2)新潟市中央区の市民映画館シネ・ウインドで、8月30日(金)まで公開中です。

 映画ロケ地としての佐渡の最大の魅力は、原生林をはじめ、昭和時代の街並みや佐渡金山の鉱脈などが、そのままの姿で残っていること。「佐渡テンペスト」の誘致に尽力した元佐渡フィルムコミッションの祝(ほうり)雅之さんは、「佐渡は昭和一桁の時代の様子も撮れるし、佐渡金山周辺の近代遺跡群を使えば近未来のものも撮れる。映像の仕事にはもってこいです」と話す。2009年に毎年、首都圏で開催される関係者向けのロケ地フェアでジョン・ウィリアムズ監督に出会い、佐渡の魅力を伝えてきた。その後、初めてジョン監督が佐渡を訪れたときも祝さんが観光地を案内。「いろいろ案内はしたのですが、あまり冴えない顔をしていて(笑)それで、清水寺(せいすいじ)という、かわった形のお寺に連れていったら感動してもらったんです」。祝さんが機転を利かせたおかげで、ジョン監督の心をつかむことに成功。それからもジョン監督は7回ほど佐渡を訪れ、祝さんと酒を酌み交わした。祝さんはその都度、魅力的な能舞台や佐渡金山、世阿弥など、佐渡の伝統と歴史を伝えた。「日本の伝統芸能は光と影を大切にしていますよね。例えば、薪能は真っ暗な中でかがり火を焚いて、風の音、薪が割れる音、虫の声を感じながら観るものです。それが不思議な文化だと映ったようです」。ジョン監督は「素晴らしい!」と何度も言っていたとか。そんな対話が最終的にオール佐渡ロケ映画の誕生に結びついていったのである。
 

佐渡テンペスト_3

「佐渡は都会にいるときよりも、もっと春を感じます」と祝さん。映画の終盤には冬が終わり、島に暖かい日差しが春の訪れを告げるシーンも。(佐渡テンペスト)  ©百米映画社

ジョン監督が影響された順徳天皇の歴史

 中でもジョン監督が一番刺激を受けたのは順徳天皇の歴史だった。順徳天皇は後鳥羽天皇の第三皇子。幼少のころから学問を好む賢い性格で、政治にも興味があり、後鳥羽天皇から大きな期待を寄せられていた。父親とともに鎌倉幕府打倒に立ち上がったものの、敗北に終わり(承久の乱)、親子3人が佐渡に配流に。その後、順徳天皇は佐渡で1男2女をもうけ、父や兄の死後に息子に皇位を継がせる要求をしたが却下され1246年に46歳で自害した。能楽の世阿弥も佐渡に配流されたひとりだ。ジョン監督がこれらの配流の話から受けた強い印象は、史実を彷彿させるストーリーとして映画に反映されている。映画は現代社会が崩壊した未来の日本が舞台。主人公のロック歌手は独裁政治を批判し、政治犯として佐渡に送られる。そこで島の芸能文化に触れ、新しい歌を作り、 日本に自由の心を取り戻していくというもの。「この歴史の深さを若い人に知ってもらいたい」とジョン監督はインタビューで答えている。

エキストラがきっかけで、佐渡の魅力を再発見

 「いつか映画を撮りたい」と言う佐渡市在住の川岸淳さんは、エキストラ募集の告知を見つけすぐに応募。オーディションを経て、主人公の屋外作業を見張る看守役を務めた。現場に入ることで、監督の熱意や役者の俳優魂を知り、ずっと心の中で温めていた映画制作の夢が強くわき上がってきた。「真冬の海辺の撮影は寒くて大変でしたが、佐渡は年間でいろいろな表情を撮影できる最高のロケーションだと実感しました」。佐渡の魅力も改めて肌で感じた。映画の中では佐渡の伝統文化や荒れる日本海など、佐渡の魅力がたっぷり詰まった作品となっている。

file-67 ロケ地としての新潟(後編)

  

佐渡の人の優しさ

他人を受け入れる、懐の深さ

飛べ! ダコタ_1

撮影はダコタが滞在した時期と同じ真冬に行われた。猛吹雪の中、徹夜でロケをするなどハードなときもあった。(飛べ! ダコタ)

飛べ! ダコタ_2

地元の人が昔、実際に着ていた着物やもんぺを借りて撮影。道具もできるだけ昔のものにこだわった。(飛べ! ダコタ)

 「佐渡テンペスト」の映画制作をきっかけに、佐渡フィルムコミッションが立ち上がった。その第一作目となるのが、まもなく公開予定の佐渡島民の優しさを伝えてくれる映画「飛べ! ダコタ」。この映画の舞台は佐渡の高千(たかち)地区。第二次世界大戦から間もない1946年、英国軍の輸送機ダコタが悪天候と機体トラブルのため不時着。住民たちは乗組員を受け入れ、海岸線に石を手で並べて500メートルの滑走路を造った。近隣から老若男女が集まり滑走路造りを手伝ったそうだ。その数は総勢3000人といわれている。映画「飛べ! ダコタ」は、ダコタ乗組員と佐渡島民が交流する40日間の史実に基づいたストーリーだ。

 高千地区には戦争で家族を亡くした人も多かった。終戦から5カ月というまだ悲しみも癒えていない時期だったが、かつての敵国の人を受け入れ助ける優しさがそこにあった。古くから佐渡にはたくさんの人が配流されてきた。そして土地の人々は、彼らを優しく受け入れてきた。歴史と結びつける確証はないものの、佐渡の歴史に詳しい相川観光ガイドの岩立恒さんはこう言う。「佐渡の人は昔から外の人を恐れず、受け入れていくという気持ちが強かったのだと思います」。

 映画になったきっかけは、2010年、英国人整備士の息子が佐渡の高千地区を訪れあいさつをしたことだったという。その事実関係に興味を示した制作会社が映画化を決めた。佐渡フィルムコミッションの小西淳さんは、「映画になると決まった当初、島内でも知らない人が多かった事実でした。でも、今では小さい子もダコタを知っていますよ」。
    

    

 映画には当時の道具や着物も使われていて、地元の人に募集をかけたところ、たくさんのものが集まった。ロケ中に初めて会った人も快く差し出してくれたこともあった。小西さんは島民のあたたかさのエピソードを話してくれた。「2012年の最初のロケのときは大雪だったのですが、地元の人が朝から雪かきをしてくれて本当に助かりました。撮影が終わるのが夜遅くても、公民館でご飯を作って待っていてくれました」。それ以外にも、地元の人は、献身的にスタッフ・キャストをサポートした。映画の中に登場する独特なイントネーションの高千弁がキャストを悩ませたが、ボランティアがキャストに寄り添い、アドバイスをしながら彼らを支え続けたのだという。
    

    

 撮影で使われた飛行機は、実際に不時着機と同タイプのDC-3を使用。タイから分解して移送され、羽茂(はもち)地区の整備場で組み立てられた。ロケが中断している間は、観光地のひとつとして島内外からダコタを一目見ようと見学する人も多かった。ロケをきっかけに、佐渡に人が集まり、その温かい土地柄に触れる人が増えてくれたということも、映画の副産物ともいえるだろう。
    

    

 近年、新潟でロケが行われ、新潟にちなんだストーリーを題材とする映画の中には、平和をテーマにした作品がいくつかある。2011年公開の「聯合艦隊(れんごうかんたい)司令長官 山本五十六」は真珠湾攻撃を指揮した軍人の苦悩を描いた。同じく2011年公開の「この空の花―長岡花火物語」は、長岡空襲と慰霊の花火の話について、そして、この「飛べ! ダコタ」が続く。どの作品も、厳しい戦中・戦後の状況下でも、人としての優しさ、生きることの意味、人と人のつながり、そこにある自然などを私たちに示してくれるものだ。人があり、自然があり、そこがロケとしての魅力となっている新潟から、これらの映画が誕生してくるのは、偶然ではないのかもしれない。そして「飛べ! ダコタ」を生み出した地元佐渡では、多くの人がこの作品の公開を心待ちにしている。
    

飛べ! ダコタ_3

機体は全長20メートル、全幅30メートルと迫力満点。ロケ中断期は観光名所のひとつになった(飛べ! ダコタ)
    

    
    

<参考ホームページ>

    
    

▷ ・『佐渡テンペスト』(公式ホームページ)

    

▷ ・『飛べ! ダコタ』(公式ホームページ)

    


■取材協力
佐渡観光協会
フィルムコミッション佐渡

■参考文献
伊藤邦男著「佐渡流人史」

 

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県立図書館おすすめ関連書籍

「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。

▷『長岡の大花火 2011 オフィシャルガイドブック』

(長岡まつり協議会フェニックス部会 2011年発行)請求記号:N/575/N18/11
 日本三大花火の一つとして全国的に有名な長岡大花火大会。本書はこの花火大会のオフィシャルガイドブックです。長岡大花火の歴史や、迫力ある写真、花火師の紹介などがカラーで掲載されています。
 この長岡花火を題材にした映画「この空の花-長岡花火物語」を製作した大林宣彦監督のインタビューも掲載されており、「長岡花火には人々の鎮魂の祈りや平和への願いが詰まっている」こと、花火師である嘉瀬誠次さんの「世界中の爆弾を花火に変えたい」という言葉を聞いて映画にしたくなったとのエピソードを知ることができます。

▷『太平洋戦争と長岡空襲』

(『太平洋戦争と長岡空襲』編集委員会/編 長岡戦災資料館 2006年発行)請求記号:郷土資料214.1/Ta22
 長岡まつりが8月1日、2日、3日に開催されます。中でも8月1日は昭和20年に長岡空襲が始まった時刻(午後10時30分)に合わせて慰霊の花火が打ち上げられます。
 本書は、日中戦争から太平洋戦争が終わるまでの様子が写真や絵図などをまじえて説明されています。戦中の金属類回収、学徒勤労動員、学童集団疎開、空襲のため焼け野原となった市の中心部の写真などが掲載されています。全体で26ページ、文章も簡潔にまとまっているため幅広い年代の方にわかりやすい内容です。

▷『日本の花火』

(小野里公成/著 筑摩書房 2007年発行)請求記号:575 /O67
 全国の花火大会の中から著者おすすめの大会について紹介されています。新潟県内では、「長岡まつり大花火大会」、「ぎおん柏崎まつり海の大花火大会」、「片貝まつり 浅原神社秋季大祭奉納花火」について大会の概要がカラー写真とともに解説されています。
 また、花火の種類や構造、名称などの解説も載っていますので、花火を観賞するためのガイドブックとしておすすめです。
 

▷『新潟、うまいロケ地ガイド 知られざる新潟の魅力が満載!』

(新潟県・新潟県フィルムコミッション協議会 2010年発行)請求記号:N /29*0 /N725F
 新潟県は、これまで数々の映画やドラマのロケ地として選ばれてきました。良く知っている風景がスクリーンに登場したり、エキストラとして参加したりすると、その作品により親しみを感じるのではないでしょうか。
 本書では過去に撮影が行われたロケ地を、撮影時の写真とともに紹介しています。また、撮影場所を示したエリアマップ、スタッフやキャストのみなさんが訪れたお店も載っていますので、ロケ地めぐりのガイドブックとしてご覧になってみてはいかがでしょうか。
 

ご不明の点がありましたら、こちらへお問い合わせください。
(025)284-6001(代表)
(025)284-6824(貸出延長・調査相談)
新潟県立図書館 http://www.pref-lib.niigata.niigata.jp/

 

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