file-83 にいがたの第九

  

第九と新潟の45年に渡る軌跡

ベートーヴェン作曲「交響曲第九番ニ短調『合唱付き』」

 今では「ベートーヴェンの最高傑作」と言われることもある程、世界的にも有名な「交響曲第九番ニ短調『合唱付き』(以下第九)」。日本でも音楽の教科書に載るなど馴染みが深く、師走ともなると全国各地でコンサートが開かれています。
 しかし、1824年5月7日、ウィーンで行われた記念すべき初演では拍手喝采であったにもかかわらず、あまりの斬新さ、歌詞のもとであるシラーの詩「歓喜に寄す」の改編などにより全般的に批評は厳しく、一時は失敗作だったとも言われていました。それが1846年のワーグナーによる演奏が転機となり、ヨーロッパ中で演奏され、19世紀中頃にアメリカ、そして20世紀にアジアへと広まっていきました。日本での初演は1918(大正7)年に徳島で行われ、以来約100年に渡り多くの人に感動を届けています。

新潟と第九の歴史

 現在の新潟の第九に触れる前に、新潟と第九の関係をたどってみましょう。
 新潟で初めて第九の公演が行われたのが、1969(昭和44)年11月、新潟県民会館主催の「新潟県民音楽会」。そして2回目が1976(昭和51)年、コーヒーメーカーが全国で展開していた「ゴールドブレンド・コンサート」になります。1984(昭和59)年には1,000人で歌い上げる「みんなでつくろう1000人の第九演奏会」を新潟市体育館で開催。新潟市内はもとより、新潟県全域から有志が集まったと言います。「今では大阪城ホールや両国国技館といった大空間を会場に大勢で歌うコンサートもありますが、当時では珍しかったと思います」(新潟第九コンサート実行委員会事務局長:藤田さん)。
 第九が新潟で定期的に演奏されるようになったのは、1990(平成2)年からスタートした第四銀行主催の「だいしライフアップコンサート」。「だいしの第九」というゴロの良さからも親しまれ、10年に渡り新潟に第九が根付く基礎を築きました。「だいしの第九」が終了し、途中にロシアから来日した「レニングラード国立歌劇場管弦楽団」による演奏を挟み、1999(平成11)年から現在の「新潟第九コンサート」が始まりました。丁度、新潟市民芸術文化会館 りゅーとぴあ(以下りゅーとぴあ)開館のタイミングと時期を同じくし、共に歴史を刻みながら、「だいしの第九」から足掛け25年、毎年新潟市に第九の合唱が響いてきました。四半世紀、欠かさずに歌い続けているメンバーもいるとのことです。
 また、年末に限らず1987(昭和62)年の新潟市産業振興センターの落成記念や、2009(平成21)年の柏崎で震災復興を祈念する「柏崎第九演奏会」、2012(平成24)年にはアオーレ長岡のオープニング記念イベントのクライマックスとしての合唱や、今年は長岡市民音楽祭にて中越大震災から10年の節目を想い復興祈念に演奏会が開催されるなど、第九は節目節目で歌われる、県民の暮らしに欠かせないものへと浸透しています。

新潟第九コンサート2013の様子

新潟第九コンサート2013
前回は2013(平成25)年12月22日、新潟市民芸術文化会館 りゅーとぴあ コンサートホールで行われました。立ち見も出るほどの大盛況。指揮者:諸遊耕史

   
 

15周年を迎える「新潟第九合唱団」

  
 
新潟第九コンサート実行委員会事務局長 藤田実さん

新潟第九コンサート実行委員会事務局長 藤田実さん
 1941(昭和16)年新潟市生まれ。幼少期より音楽に親しみ、学生時代、社会人と長年にわたり歌い手として、また「千の風音楽祭」等の音楽イベントの指揮にもあたっています。「新潟第九合唱団」ではメンバーとして歌うだけでなく、事務局長として「新潟第九コンサート」の開催に尽力されています。
 現在、「合唱団にいがた」顧問、「新潟県合唱連盟」副理事長、喫茶「マキ」「イタリア軒」「坂井輪公民館」等の歌声喫茶のリーダーとしてもご活躍されています。

 新潟の街に毎年第九の調べを届けてくれているのが「新潟第九合唱団」です。市民団体「新潟第九コンサート実行委員会」が毎年メンバーを募集し、「新潟第九合唱団」を結成。9月から毎週練習を重ね、12月の下旬にりゅーとぴあを会場に大合唱を響かせます。
 今年のメンバーは310人。うち初めての参加者が78人です。9月・10月は初心者練習の期間なので、第九を歌った経験がない人でもトレーナーの指導でどんどん歌えるようになり、10月末から始まる経験者との全員練習でも臆することなくハーモニーを重ねることが出来るようになります。
 事務局長の藤田さんにお話を伺ったところ「経験がなくても、きちんと練習に参加してもらえれば大丈夫。老若男女様々な人がいて、みなさん仲良く歌っていますね。第九は阿波踊りと同じで、『踊らにゃ損、損』ならぬ『歌わにゃ損、損』。本当に歌っていて楽しくなる曲です」とのこと。親子参加からOL、サラリーマン、シニア世代までメンバーは幅広い構成です。
 実際に練習を行っている県民会館小ホールに伺ったところ、パートごとに異なる音やリズムが重なり合い、耳に届いたのはアマチュアの人たちが短期間で習得したとは思えない程の美しいハーモニー。軽いストレッチから発声練習、そして合唱練習へ。楽譜にはそれぞれ書き込んだメモがあったり、団員同士教え合ったりしている様子に熱の入れ方は相当なものが感じられました。「つられないように歌うには、自分の声をしっかりと出すことが大切。回数を重ねるごとにメンバーはどんどん上達していきますね。今年はパート練習に力を入れていたためか、11月(※取材時)の段階で驚く程の仕上がりです。これは当日への期待が高まります」(藤田さん)
 今年の指揮者は、初めて新潟第九合唱団とタッグを組む伊藤翔氏。11月に行われた新潟交響楽団との公演も好評だった、今勢いのある若手指揮者です。ゲストソリストも初めての顔ぶれで、初めて見る人にはもちろん、長年のリピーターや音楽ファンにも新鮮な楽しさを届けるメンバーになっています。「『頑張って悔いのない第九を歌って新しい年を迎えよう』と言いながら、練習に励んでいます。300人が並んだ様子は壮観だし、これだけの人数の合唱を聴ける機会はなかなかありません。お客様と一緒に楽しみたいと思っておりますので、年末のお忙しい時期ですが、ぜひお越しください」(藤田さん)

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広く、深く、楽しみ方がある第九の世界

「潟響」による演奏が感動を盛り上げる

 そして、第九の魅力は合唱だけではありません。「交響曲第九番合唱付き」とも呼ばれる第九。実はお馴染みの「歓喜の歌」が歌われるのは第4楽章であり、第1楽章から第3楽章まではオーケストラのみの演奏です。全体で約70分、そのうち合唱が歌われるのは約20分になります。
 新潟第九合唱団と毎年美しいハーモニーを奏でるのが、共催に名を連ねる新潟交響楽団(以下潟響)。「潟響(がたきょう)」の愛称で親しまれているこのオーケストラの歴史は古く、設立は1931(昭和6)年で、今年83周年。なんとアマチュアのオーケストラでは全国で2番目に古いという、歴史ある団体であり、長年にわたり地域音楽文化の向上と発展に貢献してきました。新潟と第九の系譜を語る上で欠かせない存在であり、1969(昭和44)年に新潟で初めて第九が披露された時から、演奏を担当しています。
 第九の演奏はもちろん、単独の定期演奏会や市民ミュージカル出演、県外公演やTV出演など数多くの演奏実績があり、約80人の団員は学生から主婦、会社員、自営業者と様々な、まさに「市民オーケストラ」。日常の忙しさの中から時間を作り、毎週切磋琢磨しています。その活発な活動は県内外から高く評価されており、1982(昭和57)年には新潟日報文化賞(芸術部門)、1989(平成元)年に新潟市市制施行100周年記念表彰、そして1992(平成4)年には文部大臣賞(地域文化功労者賞)を受賞しています。

何故第九はこんなにも愛されるのか

 新潟第九合唱団の練習風景
 

新潟第九合唱団の練習風景
 指導者の箕輪久夫先生のかけ声で、休憩を挟みつつも熱のこもった合唱が響く。数限りある練習の機会を大切に、有意義なものにしようとしている空気が感じられました。練習は県民会館小ホールをメイン会場に毎週開催。
 

 

 「音楽だから、楽しみ方は人それぞれ千差万別。自由に楽しんでほしいですね」と藤田さん。では、長年実際に歌い続けている藤田さんは、第九にどんな魅力を感じられているのでしょうか。
 「りゅーとぴあの素晴らしいホールいっぱいに合唱が響き渡る。それが何よりも感動の瞬間であり、二つとして同じ瞬間はありません。毎回感動が違うのです。第九は歌っても聴いても楽しめる曲。お客さんを引き込み、フィナーレに向けて一気に走り抜け、歌い上げた瞬間にはグッとくるものがあります。そして『ブラボー!』の声をもらうと、もうやめられませんね。歌い手ならではの醍醐味です」
 また音楽好きの人には鑑賞を重ねて「指揮者による違い」を探ることもお勧めのポイントとのこと。「音楽は自由であり、指揮者の解釈によって同じ曲でも全然違うものになります。カラヤンの第九、トスカニーニの第九、フルトヴェングラーの第九…みんな違うし、そうすると長さも変わってくる。特に今年は初めて組む指揮者の方をお迎えしています。『今年の第九はどんな風になるんだろう』と楽しんでいただくのも音楽ファンの方にはお勧めです。その時にしか味わえない音楽のうねり、空気、喜び、悲しみ…指揮者がイメージする世界観を表現したいと思います」
 また、第九は老若男女問わず楽しさを共有できるのも特徴のひとつ。「ドイツ語がわからなくても仮名をふればOK。練習では資料をお渡しするので、それを読んで意味を理解すれば、誰でも一緒に歌えますよね」(藤田さん)
   

新潟県内に広がる第九の輪

 過去の公演パンフレット(一部)
 

過去の公演パンフレット(一部)
 今年で15周年を迎える「新潟第九コンサート」。これまでに多くの指揮者を迎え、多彩な第九を歓喜と感動とともに市民に届けてきました。

2014年度の「新潟第九コンサート」公演チラシ
 

2014年度の「新潟第九コンサート」公演チラシ
 開催概要/開催日:2014(平成26)年12月28日(日)、開演時間:午後2時開演、会場:新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあコンサートホール

 

 「新潟第九合唱団」をはじめ、新潟県内にはいくつもの第九を歌う団体があります。
 「長岡混声合唱団」は第九を歌うために「長岡第九合唱団」として1986(昭和61)年に結成され、2006(平成18)年に現在の名前に改名した合唱団。こちらも幅広い年齢層で、経験問わず幅広いメンバー構成で活動しています。見附の「アルカディア混声合唱団」も前身は第九演奏会に参加した合唱団員の有志団体。他にも、PTAを中心に1997(平成9)年に設立された燕の「第九を楽しく歌おう会」、加茂の「第九加茂市民合唱団」などの合唱団が県内で活動しています。
 また、前半で紹介した「柏崎第九演奏会」は2009(平成21)年の演奏会をきっかけに「復興のシンボルである市民会館竣工の折りには再演を!」という強い市民の声から、再び合唱団員を募集し、2013(平成25)年に演奏会を開いたり、他にも新発田や上越などでも第九コンサートが不定期に開催されたりしています。
 「実は佐渡では一度もオーケストラ付きの第九が演奏されたことがありません。そこで現在、佐渡市市制10周年記念事業の一環として、オーケストラとともに佐渡で第九の演奏会を開く準備を進めているところです。現在調整中ですが、会場の都合もあり、2017年には実現できそうです。また今後、新潟県内の第九の団体が集うサミットのようなものが出来たらなと考えています。それぞれが思い描く『第九』を語り合ってみたいですね」(藤田さん)
 今年の「新潟第九コンサート」は15回目の周年記念。12月28日(日)の午後2時から新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあのコンサートホールで開催されます。また、その様子は12月31日(水)の大晦日にBSN新潟放送でも放送予定(放送時間11時55分〜12時50分)。また12月24日(水)には、第九加茂市民合唱団によるコンサートが加茂文化会館で行われます。
 実際に練習を取材し、男女問わず夢中で歌う様子は迫るもの、そして心が高鳴るものがありました。2014年を締めくくる感動と出会いに、足を運んでみてはいかがでしょうか。
 


■取材協力・資料提供
新潟第九コンサート実行委員会

■参考資料
・『歓喜に寄せて』の物語ーシラーとベートーヴェンの『第九』」/矢羽々崇/現代書館
・「『第九』と日本出会いの歴史 板東ドイツ人俘虜収容所の演奏会と文化活動の記録」/ニコレ・ケンプケン/彩流社
    

 

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県立図書館おすすめ関連書籍

「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。

▷『一冊でわかるベートーヴェン』

(山田治生[ほか]編著/成美堂出版/2010年)請求記号:762/B32
<第九>が聞こえてくると、年末が近くなってきたと感じる方も多いかもしれません。<第九>を作曲した楽聖ベートーヴェンは、耳の病気に苦しみながらも「エリーゼのために」や交響曲第5番「運命」など、数多くの著名な音楽を作曲しました。本書では、ベートーヴェンの残した作品の中から50曲について解説しています。「ベートーヴェンの交響曲 概説」の項では、ベートーヴェンの交響曲への思い、「苦悩を経ての歓喜」「暗から明へ」という創作理念が記され、交響曲第1番から交響曲第9番<第九>の解説とあわせて読むことで、より深く作品を理解することができます。取り上げられた50曲には協奏曲やピアノ作品なども含まれ、ベートーヴェンの魅力がぎっしり詰まった1冊になっています。<第九>も含むおすすめの20曲は付録CDに収録されています。

▷『《第九》虎の巻 歌う人・弾く人・聴く人のためのガイドブック』

(曽我大介著/音楽之友社/2013年)請求記号:764/So25
<第九>の美しい合唱を聴いて、ぜひ自分も歌ってみたい!と思われたら、この1冊をおすすめします。主に「歌う人」に向けて役立つ情報が満載です。「第2章 ≪第九≫にチャレンジ」では、ドイツ語の語感や歌い回しに慣れる第1段階、テンポの変化やリズムに慣れる第2段階、難しいポイントを仕上げ、美しく歌うための最終段階に分けて練習できる構成になっています。楽譜の歌詞はカタカナも併記されており、ドイツ語初心者の方にもわかりやすく書かれています。舞台に立つ前に知っておきたい服装や心がけ、入場のタイミングなども知ることができる、便利な虎の巻です。

▷『「第九」と日本出会いの歴史 板東ドイツ人俘虜収容所の演奏会と文化活動の記録』

(ニコレ・ケンプケン著 ベ-ト-ヴェン・ハウス ボン編 ヤスヨ・テラシマ=ヴェアハ-ン訳 大沼幸雄監訳/彩流社/2011年)請求記号:762/Ka41
 日本人になじみの深い<第九>。この交響曲第9番の日本での全曲初演の地は、第一次世界大戦中の1918年、徳島県にあった板東ドイツ人俘虜収容所でした。本書は、ベートーヴェンの生家である記念館ベートーヴェン・ハウスで、2009年に行われた特別展“音楽の力―1917~1919年の板東俘虜収容所における文化活動”をもとに出版されたもので、<第九>全曲初演時のコンサート・プログラムをはじめとするカラー図版が豊富に掲載されています。当時の俘虜収容所において、精緻なデザインと多色刷りのコンサートや演劇のプログラムが作成され、高いレベルでの文化活動が活発に行われていたことを、貴重な資料から知ることができます。<第九>を耳にされた時に、日本での<第九>の歴史にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
 

 このほか、新潟県立図書館のホームページから、「音楽ライブラリー」(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)を利用して、クラシックなど約100万曲以上をご自宅のパソコンで楽しむことができます。このほか、同じ曲を違う演奏で聞き比べることができる「【第九】「歓喜の歌」聴き倒し!」などのプレイリストが公開されています。
 「音楽ライブラリー」は、当館の利用カードをお持ちの方でマイページ登録をされた方、または来館して期限付きの「ID・パスワード」レシートをもらった方がご利用いただけます。どうぞご利用ください。
 

ご不明の点がありましたら、こちらへお問い合わせください。
(025)284-6001(代表)
(025)284-6824(貸出延長・調査相談)
新潟県立図書館 http://www.pref-lib.niigata.niigata.jp/

 

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