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file-111 今、新潟で会える、愛しき猫たち(後編)

 

可愛くて怖い、猫の秘密


 江戸時代の猫ブームからさかのぼること約500年。鎌倉時代の終わりに書かれた「徒然草」には、人を食べる「猫又(ねこまた)」が登場していました。山にいる獣、あるいは年老いた家猫が化けたとされる「猫又」は、物語や言い伝えの中に見え隠れしながら、全国に点在。新潟県にもその伝承が残っています。

新潟に伝わる猫伝説

猫の二面性が生んだ怪奇

高橋さん

新潟妖怪研究所所長の高橋郁丸さん。「ずっと猫を飼っています。気まぐれなところがなんとも可愛いくて」

「新潟県には猫の伝承が多く残っているんですよ」と言うのは、民俗学の立場から妖怪を研究している、新潟妖怪研究所所長の高橋郁丸(たかはしふみまる)さん。まず、怖い話を二つ伺いました。
 一つは、江戸時代に書かれた「北越雪譜(ほくえつせっぷ)」に登場する猫の妖怪です。その本には、塩沢町(現・南魚沼市)の雪洞庵(うんとうあん)には、血の降りかかった袈裟(けさ)が残されているとあります。天正年間(1573~1591)、火の玉に乗る「(尾が)ふたまたなる希有の大猫」が、葬列を襲って棺を奪おうとしたので、北高和尚(ほっこうおしょう)が一喝して鉄如意(てつにょい。鉄製の杖)で頭を打ち、退散させました。袈裟の血は、逃げる「大猫」が流したものだというのです。  

 

化け猫

三代歌川豊国「古猫の怪」文久元年(1861)
背景に巨大な化け猫を描くのは浮世絵独特の表現方法。前景には、二本足で踊る猫又の姿も描かれている

 もう一つは、中ノ俣地区(現・上越市)に残る猫又退治です。天和2年(1682)から翌年にかけて、重倉山に猫又が現れ、3人の村人が食べられてしまいました。そこで、代官は村一番の強者、吉十郎に退治を命令します。壮絶な戦いの末、吉十郎は猫又を退治しましたが、彼もそのまま絶命。「猫又の被害は古文書に残され、吉十郎の子孫のお宅には、このときに使った刀が今も残されいています。刃こぼれは猫又を切ったときのものと説明していただきました」と、高橋さん。  

 

「もう一つ、いかにも新潟らしい、猫の伝説があるんですよ。佐渡おけさは猫が流行らせたというんです」と、高橋さんはにっこり。今度は猫の恩返しパターンで、少しずつ変化を見せながら、佐渡、新潟、出雲崎などの湊町に残っているのだそうです。
 昔々、おばあさんに飼われていた三毛猫が、生活に困るようになったおばあさんを助けるために、若くきれいな娘に化けます。そして、自ら芸者として売られて、そのお金をおばあさんに渡すのです。
「キツネやタヌキだったら、ここで正体を現して逃げますが、猫は律儀にしっかり働くんです。猫らしいと思いませんか」と、高橋さん。その芸者は名前を「けさ」といい、けさが唄った「おけさ節」は大流行。やがて、恋人ができたけさは、自分の正体を伝えます。その秘密を男が他の人にばらした途端、黒雲に乗って大猫が現れ、男を殺すという物語です。猫又伝説同様、エンディングは怖いのですが、これは、猫の性質によるものだと、高橋さんは考えています。「可愛がってくれた人には義理堅い一方、そうでない人、敵になった人は獲物として狙う野生の血が猫にはあるんです」
 人里を離れて生きる猫、また、長く家に飼われて、幸せなことだけではない様々な経験をした猫は、時として野性の表情を見せる。ゆったり寝ているかと思えば、敏捷に跳躍し、飛びかかる――こうした二面性や予測できない行動が、猫又の伝説を生んだのかもしれません。

 

神様になった猫

田邊さん

新潟県立歴史博物館の田邊幹さん。「浮世絵は、江戸時代の猫と人の暮らしを伝える歴史資料でもあるんですよ」

 怖い猫又ですが、その中には神様になったものもいます。新潟県長岡市にある南部神社は、別名、猫又権現。「境内には、狛犬ならぬ狛猫がいるんですよ」と、高橋さん。この神社の周囲は古くから養蚕が盛んで、どの家も蚕をかじるネズミを退治してくれる猫を飼っていました。やがて猫はネズミ除けの神様として祀られ、狛猫になったり、お札に描かれたり。「養蚕が盛んな地ならではの、生活に根ざした信仰です」と言うのは、新潟県立歴史博物館の田邊幹(たなべもとき)さん。同じく養蚕が盛んな上州(現・群馬県)の岩松藩では、藩を挙げてネズミ除けの猫のお札を作り、御利益を求める人たちに販売していたとか。可愛がられるだけでなく、江戸時代の猫は、生活の中で大いに役立ち、信心までされていたのです。 

 

夢二

竹久夢二「女十顔」黒猫 昭和13年(1938)
大正時代に夢二が描いた肉筆画を木版画にして復刻。西洋画を思わせるモダンな雰囲気で、人気を博した

 芸術の中での猫にも、時代に沿って変化が訪れます。浮世絵では絵の一要素だった猫ですが、明治時代以降は、アートシーンの主役に躍り出ます。「猫だけを描いた絵、猫をデザイン化した作品が登場します。もう化けたりはしませんよ」と、田邊さん。大正時代、センチメンタルな美人画を描いた竹下夢二も猫が好き。黒猫を抱く女性の絵や、猫のスケッチなどを残しています。同じ時代にパリで活躍した藤田嗣治も、自画像に猫を描き入れるなど、猫好きとして有名です。  

 

白猫黒猫

高橋弘明「毬と遊ぶ白猫、黒猫」昭和4~7年(1929~1932)
空摺によるエンボス加工で毛の凹凸を、細かく柔らかく表現した木版画。「ぜひ肉眼で見ていただきたい」と田邊さん

 今回の企画展「猫と人の200年―アートになった猫たち」での田邊さんのお気に入りは、黒猫と白猫が毬にじゃれる、高橋弘明の木版画だそうです。「毛の凹凸を表現した、工夫に感心しました」。昭和の作家も猫の作品を数多く残しています。  

 

 企画展が開催されている新潟県立歴史博物館の向かいには、新潟県動物愛護センターがあり、実際に猫や犬と触れ合うことができます。
 可愛くてユーモラス、怖くて無気味、自由で気まま、働き者で頼もしい。一言では語れないから、そして完全には理解しがたいから、猫は昔も今も人々を惹きつけます。平成の猫ブームはまだまだ続きそうです。

 

■ 取材協力
田邉幹さん/新潟県立歴史博物館 主任研究員
高橋郁丸さん/新潟県民俗学会理事、新潟妖怪研究所所長
浮世絵・作品画像提供
中右瑛コレクション
新潟県動物愛護センター
参考資料
「新潟の妖怪」高橋郁丸著 考古堂書店刊

■ 平成29年度春季企画展「猫と人の200年―アートになった猫たち」
開催期間 平成29年6月4日(日)まで
開催場所 新潟県立歴史博物館(新潟県長岡市関原町1丁目字権現堂2247-2)
     TEL 0258(47)6130
開館時間 9時30分~17時(入場は16時30分まで)
休館日  月曜日
観覧料  一般820円/高校・大学生500円/中学生以下無料
     *猫グッズを身につけての来館で100円引き
URL   http://www.nbz.or.jp/

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