かつて、新潟平野でよく見られた「はざ木」。
収穫した稲穂を干して乾燥させるために、田んぼの農道脇に植えた木のことです。はざ木に渡した横竹に、刈り取った稲をかけることを「はざかけ」と言います。
新潟市西蒲区夏井で、はざかけを体験しました。
金屏風を並べたような、美しい風景
近年では、稲穂乾燥の機械化が進んだことで無用のものとなり、めっきり姿を消してしまったはざ木。そんななか夏井では、地区住民と岩室温泉観光協会が「ふるさとの風物詩を残そう」とはざ木を保存し、農作業が体験できるイベントを毎年行っています。
収穫した稲穂の干し方は全国各地でさまざまです。
田んぼに打ち込んだ一本杭に掛けて干したり、間伐材を鉄棒のように組んで掛けたり。呼び名も、「杭掛け」「棒掛け」「おだかけ」など、異なります。
西蒲区夏井地区で農業を営む阿部朝幸さんにお話をうかがいました。
田んぼの農道脇に植えたはざ木に横竹を渡して背高く干すはざかけは、新潟平野ではよく見られた光景でした。「まるで金屏風のように美しい」と、親しまれてきたのだとか。
「この辺りは、昔はかなりの湿地帯でしたから、田んぼの中では乾かせなかったのでしょう。はざ木は水に強く枯れにくい。根が水田の緩んだ土地もしっかりと抱えてくれるんです」。
はざ木はトネリコという和名のモクセイ科の樹木で、湿地を好み、弾力性に富む木質のため倒れにくいという特徴があります。地域の土質に合わせた知恵と工夫があったようです。
稲刈りに挑戦
秋晴れの空のもと、大人から子どもまで市内各地から40人ほどが、阿部さんの田んぼに集まりました。
参加者の半数近くが稲刈りは始めて。刈り取りは、刃がギザギザで三日月型の「のこぎり鎌」を使います。
「押してもだめだよ。時計周りにぐるっと回すように引いてごらん」
地元の老人クラブの皆さんに教わりながら挑戦しますが、子どもたちは慣れない刃物がちょっと恐くて上手くいきません。
何度もやるうちに力の抜き加減が分かり、「ザクッ」と気持ちのいい音をたてて刈り取れました。
刈り取った束は10株で1束にまとめますが、5株ずつ互い違いに重ねます。
後で干す時、半分に分けてはざ木に掛けやすくするためです。
稲を束ねるわらは、昨年刈り取って一年保存した柔らかいものを使います。地元では束ねることを「まるける」と言います。これがまた難しいのです。
両手でわらの両端を持ち、ぐるっと抱えるところまではできますが、ねじってわらをほどけないように押し込むのは、コツがいります。
やり方はいくつかあるようです。
手本を見せてくれた地元の農家さんは、根元をきつく締め上げ、穂先を扇のように広げ、空中で大きく円を描くように一回転させてわらをねじります。
あっという間に「ほら、できたよ」と穂先を下に、まるけた稲を地面に立てると、周囲からは「お〜っ!」「さすが!」と歓声と拍手がおこりました。
農作業から生まれる一体感
岩室温泉観光協会の事務局長、久保田春一さんにもお話をお聞きしました。
「穂先を下にしておくと、わらの栄養が米粒に行き渡るといいますね。
今回は束ねてすぐにはざ場まで運んでいますが、朝から刈って、午後まで田んぼに置いておくと、稲が乾燥して軽くなり運びやすくもなります。
昔は田植え、稲刈りは、家族や親戚、年寄りから子どもまで、集まってやったものですよ。このイベントもみんなが家族になった気持ちで楽しんでほしいと思います」
稲束をはざ木に渡した横竹にまたがせて掛けます。
横竹に掛ける人に稲束を手渡すのはちょっとした連携プレー。あうんの呼吸でみんなが力を合わせます。
高いところでは約3メートルくらい。はしごに上って掛けるため、届かなくなると投げ上げます。上の人がナイスキャッチ、下の人もナイスコントロール!
「ここは昼夜の寒暖差が大きく、午前中は山から、午後は海から風が吹きます。天日干しすると、旨味が凝縮するように感じます。
今の農業は乾燥機が主流になっていますが、一週間から10日間かけてじっくり自然乾燥したお米の味は格別ですよ」と、阿部さんと久保田さんは口をそろえます。
この日に干したコシヒカリは粒も大きく出来は上々だとか。参加者は後日、脱穀して精米されたお米をもらいに行くことができます。
はざ木は秋の収穫時だけでなく、四季折々で趣のある姿を見せてくれます。
「弥彦山と多宝山の懐に抱かれたこのロケーションは最高です。効率化という理由ではざ木をなくしてしまわず、ふるさとの風景として残すことで、観光資源としても役立てて行きたいですね」と阿部さんは話します。
今後も春には田植えを、秋にははざかけ体験を続けていくとのこと。はざ木の若い苗も育てているそうです。農作業を通して、美しい風景だけではなく、人とのつながりやスローライフのよさを改めて体験できました。
関連リンク
岩室温泉観光協会
電話:0256-82-5715