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手作りの温もりが伝わる“関川・猫ちぐら”製作実演体験

手作りの温もりが伝わる“関川・猫ちぐら”製作実演体験

新潟県の北部に位置する関川村は、飯豊(いいで)連峰、朝日連峰などに囲まれた風光明媚なところ。村の中央を一級河川の荒川が流れ、豊富な湯量を誇る鷹の巣、高瀬、湯沢、雲母の4つの温泉や日帰り温泉 桂の関が楽しめます。

「にいがた景勝100選」や「新潟の橋50選」に選ばれた鷹の巣つり橋。橋を渡った先には温泉や遊歩道があり、紅葉の名所としても知られている。

米作りが盛んな関川村ではかつて、冬場の仕事として稲わら細工が作られていました。そう聞くと、関川村の猫ちぐらは、稲わら細工の伝統を現代風にアレンジして誕生したのかと思いきや、事実は若干異なるようです。果たして猫ちぐらが生まれた背景はいかに。関川村に出かけ、猫ちぐらの製作・販売を手掛ける任意団体「関川村猫ちぐらの会」の伊藤マリさんにお話を伺いました。

道の駅関川に隣接する「せきかわ歴史とみちの館」では、関川産の稲わら細工やギネスブックにも認定された「えちごせきかわ大したもん蛇まつり」でお馴染みのわらで編まれた大蛇の頭が展示されている。 

「猫ちぐらは、豪農の館で知られる渡邉邸の使用人の本間重治さんが、猫をたくさん飼ってかわいがっていた当主夫人のために、農家の赤ちゃんの子守り用のちぐらをヒントに作ったのが始まりです。その後、特産品で村おこしを考えていた集落のおじいちゃんたちによって、製作が本格化したんです。村も協力して、百貨店の催事(物産展)に出展するなどPRの強化を図ったところ、徐々に注目されるようになって今に至っています」。折しも世の中はペットブームの真っ只中。新聞やテレビなどで取り上げられると、全国から注文が殺到し、一時は注文してから数年、ブームが一息ついた現在でも半年待ちの人気商品に育ったわけです。

渡邉家の愛猫だった玉三郎の写真と伊藤さん。「かわいい~猫ちゃん。素朴ですごくいい感じ」

事業は当初、村が中心となって行われていましたが、昭和50年代の終わり頃に関川村自然環境管理公社へ移管。現在は、製作から販売・修理まで猫ちぐらに関わるほとんどすべての業務が、関川村猫ちぐらの会で行われています。公社で経理を担当していた頃から兼務で携わっていた伊藤さんは、退職後に同会へ。現在、ちぐら製作の後継者育成のために尽力する日々を送っています。

ちぐら製作初心者に教えながら編む伊藤さん。「材料が無駄にならないようにしっかり見てあげて、きちんとした商品を一緒に完成させるのが私の役目」。後進の指導にも熱が入る。

全国規模で有名になった関川村猫ちぐらの会には「猫ちぐらを作りたい」と老若男女がやってきますが、どんな人が作り手に向いているのでしょうか? 「手先が器用で、ものづくりが好きな方ですね。“作り方を覚えたい”と言ってくる方は、みんな上手。自信があるから応募してくるのでしょう」

ねじる、引き寄せる、引っ張る、挿し込む。様々な動きを使い分ける指先の器用さが大切。

しかし、技術的に問題なくても、この条件をクリアしないと“どうぞどうぞ、お教えしますよ”とはいきません」と伊藤さん。その条件とは・・・? 「この村の住人であることが絶対条件なのです。猫ちぐらは、関川村の特産品だから村外不出。関川村で作らないと意味がありません。皆さん、この話を聞くと納得されてお帰りになります」。関川村に住んで猫ちぐらを覚えたいという人は、残念ながらまだいないのだとか。

多くの人を魅了する関川村の猫ちぐら。その特長は?

「材料に関川村で収穫されたコシヒカリと越淡麗の稲わらを使っていることですね。越淡麗は酒造りに適したお米で、稲わらの質がぜんぜん違うんですよ。しなやかで、きれいに仕上がります。個人ではなく会、組織として運営しているので、質が安定しているのも特長の一つです。最後の検査・検品は必ず行います。商品としてお客様に販売するからには、いいかげんなものではダメなのです」

稲わらは、作り手が自ら吟味したものを使用する。1匹用の猫ちぐらを作るためには20把のわらが必要。

ホームページを拝見すると、猫ちぐらの他にも稲わら細工の商品を販売しているようです。猫ちぐらは1匹用(大)と2匹用(特大)。犬用のちぐら、おひつ入れもあります。おひつに入ったごはんを保温するおひつ入れは、県内外のお寿司屋さんや料亭で使用されているそうです。

「ネタだけじゃなく、寿司にはごはんも大切だね」とご主人。2升のおひつ入れは、十数年前に関川村で購入したもの。「ごはんは炊いてから時間が経つと、端の方から固くなっておいしくなくなる。おひつを温めておくと、そうはならない。いつでもおいしいごはんの寿司を味わってもらえる」(新潟市江南区の「寿司正美」さんで)

「関川村の猫ちぐらは、“形がきれい”と言われますが、それはぎっしり詰まった網目のせいでもあるんです」。良いちぐらは、ずっしり重い。ちょっとぶつかっても倒れない。これなら猫も安心して眠れます。

「せきかわ観光情報センター」の1階には、稲わら154把で作られた巨大な猫ちぐらが展示されている。その精緻なつくりに思わず息をのむ。

猫ちぐらのこと、いろいろわかってきたところで、さあ、実演見学へ行ってみましょう!
道の駅関川では、「関川村地域文化交流施設ちぐら」と「せきかわ観光情報センター」の2つの施設で実演見学ができます。今回は、土曜日と第3水曜日を除く毎日実演が行われている「ちぐら」の方にお邪魔しました。

関川村を中心とした近隣のお土産が所狭しと並ぶ店先。名物の「鮎の塩焼き」や「たまこんにゃく」を味わった後は、入り口近くの足湯がおすすめ。

引き続き、実演を「猫ちぐらの会」の伊藤さんにご案内いただきました。猫ちぐらの会では、底辺、側面、出入り口、天井の順に編んで、一つのちぐらを一人で完成させています。この日は、4名の女性が実演を行っていました。

左から花子さん、サヨさん、敦子さん、サイ子さん。思い思いのスタイルでちぐら作りに励んでいる。「気持ちが不安定だと良い物は作れません。リラックスが一番です」(伊藤さん)

おひつ入れを作っていたサヨさんは、四人の中で一番のベテランさん。「どこが一番大変かと聞かれても、それぞれの工程で緊張する部分があるので、“全部”としか答えようがないですね。人によって得意、不得意もありますし。作業に使う稲わらは、乾燥させたものを自宅でやわらかくして持参しています。編むときは、色ではなく太さで選び、霧吹きを使って少ししんなりさせてから編んでいきます」

ジャッキを改良した台座に載せて編んでいく。「高さが調整できるから、作業が楽」と敦子さん。

敦子さんが編んでいるのは、一番底の部分です。「どうやったら真っすぐきれいに立ち上がる猫ちぐらになるか。底作りは、そのための基礎作り。下準備のようなものですね」(伊藤さん)。底部を1日5時間、2日で仕上げます。

ポイントは、きれいな円を作ること。「てこの原理」を使うと、それほど力をいれなくても編めるという。

「側面を真っすぐ編み上げるのも本当に難しいよね。自分では真っすぐに編んでいるつもりでも、ちょっと離れてみると凸凹していたり。そのときの気持ちや体調に左右されることもある。私はまだまだ慣れていなくて、気持ちのコントロールが上手くできないから大変」(サイ子さん)。

立ち姿が美しい関川村の猫ちぐら。「一つひとつの商品に作り手の個性が出ています」(伊藤さん)

「真っすぐ編むためのコツは・・・」。伊藤さんから助け舟が入りました。「わらをちょっと持ち上げて、ポンと載せるように置き換える。これ、秘密ですよ。撮影禁止!(笑)」

猫ちぐらの内部。「内側がきれいに編まれていると、外側もきれいに仕上がっているんです」(伊藤さん)。型紙を使用しないので、メジャーを頼りに確認しながら編んでいく。

入り口も難しそうです。「“こぶ”と私たちは呼んでいるんですが、ちょっと気を緩めると、出っ張ったり、逆に引っこんだり、うまくできません。神経を使うところです」(サイ子さん)。きれいな“こぶ”の入り口なら、猫ちゃんもきっと大喜びしますね。

丸みを帯びた入り口両側の“こぶ”は、猫に対する愛情の表れ。

ここまで来たら、あと一息。いよいよ最後の難所、「天井」です。「頂点から6段目くらいまで編んできたら、1周の長さを減らしながら、かまくら型に編んでいきます。長さの目安になる印をつけておくと、スムーズに進められますよ」と花子さん。後は、段数を数えながら調整していくだけで、いい感じに仕上がるそう。「底と側面をきれいに編んでいれば、まったく心配いりません」

女性見学者から一番聞かれる質問は、「手は荒れませんか」。「わらの油が、手荒れを防いでくれるから大丈夫なんですけどね」(花子さん)

さて、「製作体験」の時間です。特別にお願いして体験させていただきました。「猫ちぐらの製作は、わらを掴んで、道具を使って差し込んで、引っ張って。そして編む。これの繰り返し。さあ、やってみましょう」(サイ子さん)

1周につき、200本以上の稲わらを通していく。

「稲わらを3本選び、刺し棒を使って差し込みます。ギューっと向こう側まで、ギュー!」と、サイ子先生。編み目が壊れませんか? 「壊れない、壊れない。はい、ギュー!」。思い切って差し込んでみると、「ズブリ」という感触とともに刺し棒が向こう側に。後は、一気に手前に引っ張るだけ。稲わらの強靭さに脱帽です。

稲わらは、3本合わせて網目と同じくらいの幅になる太さのものを使う。フシを上にして引っ張って行く。

一人の作り手が1ヶ月に製作できる猫ちぐらは、平均3個。多い人で5~6個と言われる関川村の猫ちぐら。作り手が技術と熱意で完成させた猫ちゃんの寝床は、天然の稲わら100%。保温性が高く通気性があるので、冬は温かく、夏は快適。「20年間は使うことができます」(伊藤さん)。自然の素材と手作りの温もりがあふれている関川村の猫ちぐらには、作り手の技と愛情が込められていました。実演は道の駅 関川で見学することができます。ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

関川村猫ちぐらの会には、現在男性8名、女性26名が在籍している。「“ちぐら”は実演だけの場所ではありません。腕を磨く学びの場でもあるんです」(伊藤さん)

関連リンク

関川村猫ちぐらの会
新潟県岩船郡関川村大字上関1252番地1
電話/FAX0254-64-3311

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