400年の伝統を誇る「ものづくり」のまち、燕市。燕市磨き屋一番館は、金属製品の仕上げの工程で最も重要な「磨きの技術」を次世代に継承するため、2007年に建設されました。
燕の研磨技術を次世代に伝承するために、技能研修生を受け入れ、若い磨き職人を育てている燕市磨き屋一番館。研修生は3年をかけて研磨技術を身につけます。施設内には研磨機などが設置された開業支援室があり、修了後は貸工場として利用できます。
研磨技術への関心を多くの人に深めてもらうために、初心者向け体験講座も開催(有料)。「体験講座では、当館の成り立ちや燕市の産業、研磨の基本説明を受けた後、工場を見学。その後、研磨機を使って磨きを体験します」と同館を運営する「燕研磨振興協同組合」の高橋千春理事長が説明してくれました。
「研磨体験は予約が必要ですが、10月6日から開催される『燕三条 工場の祭典』では、あらかじめ決められた時間に来館いただければ、工場見学後に体験ができます」(高橋理事長)。昨年は期間中に372名が来館し、139名が体験に挑戦したそうです。
燕市の工場について聞いてみたい。早速、案内専任スタッフの澤田こず恵さんに燕市の産業について聞いてみました。
「燕市は、金属加工のお仕事をされている方が非常にたくさんいる町です。燕市で金属加工のお仕事が始まったのは江戸時代。洪水で農作物に被害を受けることの多い農家の人たちが、副業として鉄を叩いて和釘を生産したのが始まりです」と澤田さん。
「その後、燕では釘だけでなく日用品を作る職人さんも増えて、ヤスリや矢立(やたて、携帯用筆記用具)、キセルなども製造していくのですが、明治時代に洋釘が日本に入ってくると、和釘の職人さんたちは仕事が減って日用品を作るようになります。大正時代に洋食器の製造が始まり、戦後にステンレス素材が普及すると、洋食器をはじめやかんや鍋などの日用品の製造も増えて、燕の産業は大きく発展していきました」(澤田さん)。
金属加工の技術には、鍛造(たんぞう)、圧延(あつえん)、プレス、研磨などがあり、それぞれ専門の会社で作業をしています。「金属加工産業の基盤技術とも言えるのが、最終工程で行われる金属研磨です。10年以上前ですが、アップル社iPodの裏面を、燕市の職人さんたちが鏡面磨きでピカピカに加工したことがありました。燕の研磨技術が注目され、随分話題になりました」(澤田さん)。
「研磨を施すと、見た目が美しいだけでなく、凹凸が消えて不純物が付着しにくくなるという利点もあります」と澤田さん。ビアタンブラーなども側面(内側)を鏡面磨きでピカピカにしておくと泡がつぶれにくく美味しく飲めるそうです。燕の金属研磨技術は、洋食器に留まらず、高度な技術を必要とする製品にも活かされ、世界に認められるようになっています。
それでは、人気のビアタンブラー磨きに挑戦してみましょう!
「磨きの基本工程は、粗磨き、中磨き、仕上げ磨きですが、それを1人でやるとものすごい時間がかかるので、体験講座では中磨きと仕上げ磨きの2工程を行います。タンブラーの『内側』と『外側の粗磨き』は、事前に完成させておきます」(高橋理事長)。
研磨機は、鏡面磨きもできるバフレース研磨機を使用します。
磨く時はバフ(羽布)をスイッチ下の高速回転する工具に取り付け、回転させて磨きます。回転速度は、研磨をする製品の材質によって変えていきます。
最初に、高速で回転しているバフに研磨剤を付けます。研磨剤には、製品の焼け防止や切削力の向上、光沢を出すといった働きがあります。
次にタンブラーの中に人差指・中指・薬指を入れ、親指でタンブラーをしっかり押さえながら、もう片方の手は親指と人差指を使ってしっかりタンブラーを押さえます。
「研磨作業は、製品を持つ力、バフにしっかり押し付ける力がないとうまくいきません。バフの下部分にタンブラーの側面をぴったり押し付けて、右へ、左へとタンブラーをゆっくり左右に移動させて磨きます。この時、手だけでなく体も左右にゆっくり動かすと調子もとれてうまくいきます」(高橋理事長)。
「バフに当てている面が磨き終わったと思ったら、タンブラーを回して次の面を磨いていきます」(高橋理事長)。繰り返していくとだんだんコツもわかってきました。「中磨きが終わったら、隣の席に移動して同様に仕上げ磨きを行います」(高橋理事長)。
仕上げ磨きも終わって、ピカピカのビアタンブラーが誕生しました。自分で磨いたタンブラーで、きめの細かいクリーミーな泡のおいしいビール。ぜひ飲みたいですね。
関連リンク
燕市磨き屋一番館
燕市小池3633-7
電話0256-61-6701