file-53 ロケ地としての新潟(前編)

  

新潟の魅力は、風景と食と新潟人

新潟ロケが増えた背景

田中克典さん

田中克典さん。兵庫県神戸市出身。新潟県フィルムコミッション協議会のコーディネーター。CM制作会社の経営を経て、2008年より現職。

渡辺千雅さん

渡辺千雅さん。熊本県天草市出身。長岡フィルムコミッション会長、「長岡映画」製作委員会代表、長岡まつり副実行委員長を務める。中越大震災を描いた映画「マリと子犬の物語」の支援にも携わった。

 近年、新潟でロケをする映画が増えている。長岡花火を題材にした大林宣彦監督の最新作「この空の花」や、燕・三条エリアでのロケに加え、キャストも新潟県にゆかりのある人たちで作られた「アノソラノアオ」、オール佐渡ロケの「佐渡テンペスト」など、話題作が続々と公開だ。映画のほか、テレビドラマやバラエティ、CMも含めて年間50~80本が県内各地で撮影されている。

 数年前まで、県内あちこちで撮影はあったものの「オール新潟ロケが少なく、新潟を題材にした映画がほとんどない」と言われていた。しかし、2010年頃から一気に増加。その背景を新潟県フィルムコミッション協議会の田中克典さんに伺った。「やっぱり、人のつながりでしょうね。映画制作のプロジェクトは、各分野のスペシャリストが集結して、作って解散して、また集まるもの。そこで、ロケ地を選ぶときに新潟の風土、食、人が大きなポイントになるんです。決め手として風景はもちろんのことサポート力も高く、“ご飯も酒もうまかった。また、新潟にしようか”ということになるんです」。各要素がトータルで評価されて関係者にじわじわ伝わった。「それに加えて、映画関係者に新潟県各地のフィルムコミッションが認知されてきたんだと思います」。田中さんの人脈の広さ、人柄も一役買っている。ある映画の台本を読み、「これは新潟にぴったりだ」と台本を書き換えてもらい、ロケを新潟に誘致した逸話もある。
 

地元の人の気遣い、あたたかさ

 「新潟、いいよね」と関係者に言わしめたのは、米と酒はもちろんのこと、地元の人のあたたかさもある。「この空の花」の大林宣彦監督は長岡市に約1カ月半滞在し、地元の人と親密な関係になったとか。「一生の友達がたくさんできたな、という気がしています」とインタビューで答えている。長岡フィルムコミッション会長の渡辺千雅さんも、「早朝から夜中まで撮影があって、逃げまどうシーンで騒いでいるのに、地元の方は逆に“映画にしてくれてありがとう”と言ってもらいました。朝採りの野菜や果物を差し入れしてもらったときは、本当にありがたかった。夏場の過酷なロケで食欲の落ちるキャストも多い中、新鮮なお漬物で生き返った人もいました」。200人という大量のロケ弁を地元のお母さんが協力して作ってもらったこともあった。「いざというときに汗を流してくれる、あったかい人たちが多いです」。渡辺さんは熊本県出身で、ご主人の転勤にともなって長岡市に在住。25年住んでいる今も、自分自身のことを「よそ者」と表現する。「だからこそ、長岡の魅力が見えてくるし、それをアピールできる。よそ者は地域の中に飛び込む勇気が大切です。”新潟は排他的”とイメージされがちですが、それは、知ろうとする努力をしていないだけ」とにこやかに笑う。

この空の花-長岡花火物語

「この空の花-長岡花火物語」
©2011「長岡映画」製作委員会PSC 配給/TME PSC
映画は長崎の原爆被爆者2世で熊本県の新聞記者(松雪泰子さん)が長岡を訪れ、長岡まつり大花火大会を通じて、長岡空襲にまつわる不思議な体験をする物語。

平和の森公園

平和の森公園は渡辺さんが大林監督にロケ地として勧めた場所。
映画の中でメインロケ地になり、撮影時には300人余りのエキストラが集合した。

file-53 ロケ地としての新潟(前編)

  

映画を通じて新潟を再発見

古里を愛する気持ち

 「この空の花」の上映後の反響は大きかった。首都圏を対象として映画紹介サイトの公開初日アンケート「ぴあ満足度ランキング」(5月12日現在)で1位を獲得。「新潟って、すごいね」と首都圏からも評価されるようになった。古里映画の第一人者の大林監督は舞台あいさつで「古里を愛する若い人を育て、“長岡魂”をみなさんから発信してほしい」と呼びかけた。渡辺さんは「この映画のおかげで、長岡のことを全国にも、世界にも発信できます」と語る。地元からは「長岡の歴史を再認識しました」「長岡って、こんな良い場所があったんですね」「懐かしい風景がありました」と、地元の魅力を再発見する声がたくさん届いた。古里映画は郷土の歴史に改めて光を当て、古里を愛する気持ちを育む役割も果たしているのだ。
 長岡市にある長岡戦災資料館では、「長岡花火のあゆみと長岡空襲体験画展」を6月25日まで開催している。長岡花火のさまざまな資料や空襲体験画19点などを展示しており、映画を契機に郷土の歴史に改めて興味を持った人たちが連日、訪れている。

 長岡戦災資料館
長岡市城内町2-6-17 森山ビル
Tel:0258-36-3269
入場:9時~18時 
休館:毎週月曜日(その日が祝日に当たるときはその翌日)
入場無料

当たり前の日常こそ、美しい

ナシモトタオ監督

ナシモトタオ監督。旧吉田町出身。都内でディレクターとして活躍後、帰郷。国際映像メディア専門学校の科長として学生に熱弁をふるう。

 燕・三条エリアでロケを行い、キャストも新潟にゆかりのある人たちで作られた作品「アノソラノアオ」は、新潟ならではの食材や風景がふんだんに登場するまさに新潟の映画。ナシモトタオ監督は、リアルな「今の新潟」を伝えるために、方言指導はあえて入れなかった。「どうしてもわざとらしく聞こえるんですよね。燕弁と吉田弁は微妙に違うし、そこに標準語がミックスされているのが、今の新潟だと思うんです。どこの言葉か分からないまま話をする自然な感じを出したかったんです」。東京生活の長い三田村邦彦さんも標準語から徐々に出身地の新発田弁が戻ってきたとか。

 旧吉田町出身のナシモト監督は東京で映像の仕事を経て、Uターンで戻ってきた。「新潟でずっと生きている人も多い。当たり前の日常こそ、美しいことを伝えたい」。稲を植える前の水を張った田んぼ、四季折々の表情を見せる弥彦山、日差しのやわらかさ。「腕の良いカメラマンは、その景色を美しく撮ってくれるけど、そこで生活する人、当たり前の日常があってこそのものだと思うんです」。だからこそ、今の新潟をそのまま伝える映画が完成した。映画の中では食用菊の「かきのもと」をむしるシーンもある。「アノソラノアオ」は現在(6月15日現在)公開中だ。

「アノソラノアオ」

「アノソラノアオ」
映画は金属洋食器の研磨職人を父に持つ主人公が、7.13水害による母の死を乗り越える物語。
支援/はばたけ燕実行委員会 配給/アイエス・フィールド
©2012「アノソラノアオ」製作委員会

「アノソラノアオ」

映画の中では新潟ならではの食材、「かきのもと」をむしるシーンもある。ありふれた日常の一コマ。
©2012「アノソラノアオ」製作委員会

 

 

ロケ地・新潟の歴史

高田ロケ映画「縮図」

高田ロケ映画「縮図」のDVD。幼くして芸者置屋に身売りされた、銀子という女の半生記を描いた。監督は故・新藤兼人。

 「今の新潟」とは逆に、「昔の新潟」を撮影した映画もある。上越市高田がロケ地となった故・新藤兼人監督の作品「縮図」は、60年前に撮影されている。映画の中には、当時の上越市の本町通りや仲町通りの雁木、町家、西城3の青田川沿いなどが出てくる。先日、この映画をロケ地で見ようという上映会が、高田にある築100年の現役映画館「高田世界館」で開催された。現在の高田は撮影当時の様子とは様変わりしており、当時の記録を残す貴重な映像となっている。年月を経て、当時の古里の姿を見ることができるのも、新潟ロケ映画のありがたさだ。

 そんな古里の魅力を広く発信し、映像に残していく新潟ロケの映画をさらに増やしていくために、県内のフィルムコミッションは日々奮闘している。前出の県フィルムコミッション協議会の田中さんは「新潟を売るためには、もっとメディアの露出が必要。そのために、いかに映画を使って情報発信していくのか。映画のほかに、テレビ番組もCMも含めて、もっともっとロケを呼びたい。新潟全土を生きた映画村にしたい」。その結果、県外から遊びに来る人が増えれば、地域活性にもつながる。産業起こしの一端を担うこともできる。「今、水面下で動いているものはたくさんありますよ」。新潟の映画はますます盛り上がりそうだ。
 
過去の新潟文化物語でも、新潟ロケ映画について特集しています。
 「映画で再発見する新潟の風景」の過去の記事はこちらから
 
 

 


■ 関連HP

 「この空の花」公式HP

 「アノソラノアオ」公式HP

■ 取材協力

 新潟県フィルムコミッション協議会

 長岡フィルムコミッション

 「長岡映画」製作委員会

 国際映像メディア専門学校

 高田文化協会

file-53 ロケ地としての新潟(前編)

  

県立図書館おすすめ関連書籍

「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。

▷『長岡の大花火 2011 オフィシャルガイドブック』

(長岡まつり協議会フェニックス部会 2011年発行)請求記号:N/575/N18/11
 日本三大花火の一つとして全国的に有名な長岡大花火大会。本書はこの花火大会のオフィシャルガイドブックです。長岡大花火の歴史や、迫力ある写真、花火師の紹介などがカラーで掲載されています。
 この長岡花火を題材にした映画「この空の花-長岡花火物語」を製作した大林宣彦監督のインタビューも掲載されており、「長岡花火には人々の鎮魂の祈りや平和への願いが詰まっている」こと、花火師である嘉瀬誠次さんの「世界中の爆弾を花火に変えたい」という言葉を聞いて映画にしたくなったとのエピソードを知ることができます。

▷『太平洋戦争と長岡空襲』

(『太平洋戦争と長岡空襲』編集委員会/編 長岡戦災資料館 2006年発行)請求記号:郷土資料214.1/Ta22
 長岡まつりが8月1日、2日、3日に開催されます。中でも8月1日は昭和20年に長岡空襲が始まった時刻(午後10時30分)に合わせて慰霊の花火が打ち上げられます。
 本書は、日中戦争から太平洋戦争が終わるまでの様子が写真や絵図などをまじえて説明されています。戦中の金属類回収、学徒勤労動員、学童集団疎開、空襲のため焼け野原となった市の中心部の写真などが掲載されています。全体で26ページ、文章も簡潔にまとまっているため幅広い年代の方にわかりやすい内容です。
 

▷『日本の花火』

(小野里公成/著 筑摩書房 2007年発行)請求記号:575 /O67
 全国の花火大会の中から著者おすすめの大会について紹介されています。新潟県内では、「長岡まつり大花火大会」、「ぎおん柏崎まつり海の大花火大会」、「片貝まつり 浅原神社秋季大祭奉納花火」について大会の概要がカラー写真とともに解説されています。
 また、花火の種類や構造、名称などの解説も載っていますので、花火を観賞するためのガイドブックとしておすすめです。
 

▷『新潟、うまいロケ地ガイド 知られざる新潟の魅力が満載!』

(新潟県・新潟県フィルムコミッション協議会 2010年発行)請求記号:N /29*0 /N725F
 新潟県は、これまで数々の映画やドラマのロケ地として選ばれてきました。良く知っている風景がスクリーンに登場したり、エキストラとして参加したりすると、その作品により親しみを感じるのではないでしょうか。
 本書では過去に撮影が行われたロケ地を、撮影時の写真とともに紹介しています。また、撮影場所を示したエリアマップ、スタッフやキャストのみなさんが訪れたお店も載っていますので、ロケ地めぐりのガイドブックとしてご覧になってみてはいかがでしょうか。
 

ご不明の点がありましたら、こちらへお問い合わせください。
(025)284-6001(代表)
(025)284-6824(貸出延長・調査相談)
新潟県立図書館 http://www.pref-lib.niigata.niigata.jp/

 

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