file-97 新たな展開をみせるマンガ王国・新潟(後編)
マンガの力を活用した新ビジネス登場
全国でも珍しい、マンガ家による事業組合設立
「新潟まんが事業協同組合ガタまん」理事の田中 えいじさん。デザイン事業とネットショップ事業を行う株式会社muku.代表取締役。
きっかけは平成27年(2015)4月、デザイン会社を経営する田中えいじさんが、IT企業から販促用パンフレットの制作を受注したことでした。
田中さんは日本アニメ・マンガ専門学校出身。培った知識や技術を活かして、平成25年(2013)にEコマース(電子商取引)、パンフレットやWebページ制作などのデザイン事業の会社を設立しました。マンガ家の知人も多く、「マンガ」は身近な表現手段でした。
そこで、商品の特徴と使い方をマンガで表そうと、新潟市在住のマンガ家・下西 輝(しもにし てる)さんに制作を依頼。出来は上々でした。企業には「わかりやすい」「インパクトがある」と好評で、ビジネスとしての手ごたえを感じた田中さんは、平成27年6月に新潟市で開催された「ビジネスエキスポ」にマンガを使ったパンフレットなどを出品。すると上場企業や自治体からも声がかかりました。「会社案内や商品紹介のパンフレット、観光マップなど、予想以上の反響がありました」と田中さんは振り返ります。
(前列左から)陽華 エミさん、鈴木 いこさん、下西 輝さん、(後列左から)温出 真巳さん、高橋 香さん。
一方、仕事を受けた下西さんも動き始めます。それまでもマンガ家同士のつながりはありましたが、活動の幅をより広げたいと感じていました。そこで田中さんに相談します。「下西さんから悩みを聞いて、すぐに組合を作りましょう!」と、田中さんも賛同。マンガを使いたいという企業とマンガ家のマッチングを図るビジネスを立ち上げようと決意しました。「新潟まんが事業協同組合 ガタまん」の誕生です。
にいがたマンガ大賞で一緒に審査員を務める温出 真巳(ぬくいで まみ)さん、陽華(ようか)エミさん、鈴木 いこさんたちと共に組合を立ち上げました。
「新しいことが始まるので楽しみ」と、鈴木さん。「結婚や出産、介護と仕事が両立でき、休業後に再開できるような安定した環境ができれば」と、陽華さん。また、「努力して身に付けたマンガという特殊技術を活かして、長い間働けるように。私たちだけじゃなく、続く若い人たちのためにもなると思うから」と、温出さんは抱負を語ります。
(前列左から)理事長の金巻 とよじさん、武石 尋海さん、(後列左から)堀 楽人さん、田中 えいじさん。
イラストレーターの高橋 香さん、画家の堀 楽人(ほり がくと)さんも参加を表明。若手マンガ家として踏み出そうとしている武石 尋海(たけいし ひろみ)さんも加わりました。
さらに、理事長には金巻(かねまき)とよじさんが就任することで、組合員の作家は8名になりました。「マンガを描き続けるためには、生活の安定、実力の向上と情報収集が必要。それをサポートできるこの組合は、理想的な形ではないかと思います」と語ります。
「マンガ家が組合を作るのは、日本では我々が初だと思います。マンガに関わる人材が豊富な新潟だからこそできた組合と言えますね」と田中さん。平成28年(2016)2月、「新潟まんが事業協同組合 ガタまん」は県の認可を受け、正式に発足しました。
マンガ家がビジネスチャンスを得やすいまちづくり
下西さん(上左)、武石さん(上右)、鈴木さん(下)の作品。
同組合の活動の柱は、ビジネス支援・実力向上・実務サポートの3本です。第一は企業とマンガ家をつなぐビジネス、第二はクロッキー(対象を素早く描画する)会や執筆にデジタル技術を取り入れるための勉強会、韓国マンガ家協会との交流による組合員の実力向上、第三は知的財産権や税務の勉強会、健康診断の団体受診などを行います。
「『新潟市マンガ・アニメ情報館』や『新潟市マンガの家』など市の施設、『ガタケット』『日本アニメ・マンガ専門学校』のほか、新潟市の文化事業と連携を図って、お互いに相乗効果を狙っていきたいと考えています」と、田中さん。
「マンガ家が仕事をしやすい環境があれば、もっと多くのマンガ家が生まれ、他の地域からも移り住むなど、新潟がマンガのまちとしてさらに発展できるのでは。我々は組合としてそこのところを手伝っていきたいですね」と、金巻理事長は地域貢献についての考えを語りました。
マンガ家が仕事を得やすく、暮らしやすい環境について、「新潟市マンガ・アニメ情報館」と「新潟市マンガの家」で副館長を務める小池 利春さんは次のように語ります。
「新潟市には独自の『マンガとアニメを核としたまちづくり構想』があり、アマチュアの創作活動も盛んですから、プロをめざす若者も、高い技術を持つ学生や作家も少なくありません。そういった人たちが地元の新潟に定着して活動ができるよう、『マンガ・アニメ』が産業として新潟に広がって行く環境づくりが急務ですね。」
現在、新潟県内には、全国的に有名なアニメーションスタジオが数カ所ありますが、小池さんはそれではまだまだ不足なのだと言います。
「アニメーションスタジオなど作品を送り出す企業がもっと必要です。原画を描くだけでなく、編集や音響効果などの制作業務も行い、完全に作品化できる施設もほしいですね。業界への理解や憧れがある地域性、優秀な人材がいるという好条件があるのですから、優位性があります。スタジオやプロダクションの設立や移転の補助、アニメーターやイラストレーター、マンガ家が暮らしやすいような支援があれば、実現性は高いですよね。行政と民間とが協力して、ここを推し進めていけたらと思います。」
いつかはマンガとアニメ産業の一大集積地へ。マンガの力を活用した新しいビジネスの将来が楽しみです。
■ 取材協力
新潟まんが事業協同組合ガタまん 田中 えいじさん、金巻 とよじさん、陽華 エミさん、
鈴木 いこさん、下西 輝さん、温出 真巳さん、高橋 香さん、武石 尋海さん、堀 楽人さん
新潟市マンガ・アニメ情報館、新潟市マンガの家 小池 利春さん
■ 関連サイト
新潟まんが事業協同組合ガタまん http://gataman.com/
新潟市マンガ・アニメ情報館 http://museum.nmam.jp/
新潟市マンガの家 http://house.nmam.jp/