file-119 五感で新潟を味わう。農家レストランへようこそ(前編)
「自慢の食材を召し上がれ」
道の駅や農産物直売所など、地域特産の農産物が集まる場所に併設された農家レストランは、新鮮な素材を味わえるとあって人気です。また、そばや油揚げなど、地域特産の食材を活かしたメニューをふるまい、伝統の料理を広めようとする動きも盛ん。どこか懐かしく、そして新鮮なおいしさを味わってみませんか。
地域の「おいしい」が集まる交流拠点
農作物の生育環境についてハード・ソフト両面から研究する/新潟大学農学部生産環境科学科 粟生田 忠雄助教。
農家が経営する、または農家との密な関係の中で生まれてきた農家レストラン。新潟県ではその数が30を超え、メディアでも取り上げられる事が多くなり、注目が集まっています。その増加の背景について、新潟大学農学部の粟生田(あおうだ)忠雄助教に伺いました。
「2010年頃から始まった、農業の6次産業化によるものでしょう。農家は生産して終わりではなく、加工し、販売まで行うという動きが広がってきました。生産者にとっては、従来とは違い、米や野菜などに付加価値をつけ、価格を独自に決定できるのがひとつの特徴。一方、消費者にとっては、生産現場により近く、料理が出来上がる過程を知ることができるのが魅力と言えるでしょう。おいしい水や空気、景観とともにほっとひと息つきながら味わう食は格別ですしね」
生産者にも消費者にもメリットがある農家レストラン。農林水産業の新たな成長分野として大きな可能性を秘めています。まずは、道の駅や農産物直売所に隣接した「交流拠点」としてのレストランをご紹介します。
旬の野菜を使った料理がずらり。作り置きはせず、少量ずつ作って提供するので出来立てが味わえる/もみの樹
「プラスアルファで新メニューを作ってお客様に楽しんでいただこうと思っています」/もみの樹 店長 更科さん
オープンキッチンなので、お客様との会話もできる。つくり方を聞かれることが多い/もみの樹
新潟県のちょうど真ん中、田園地帯が広がる見附市の道の駅「パティオにいがた」に併設された『農家レストラン もみの樹』は、約50種類を提供するランチバイキングが人気を集めています。「肉や魚も使いますが、料理の中心は直売所でも販売している野菜。和も洋も、デザートも、地元の旬の野菜を使って作っています」と、店長の更科英樹さん。中でも、玉ねぎを丸ごと焼いたローストオニオン、切り干し大根のナムル、ゴボウやナッツを入れたブラウニーは、オープン以来、人気をキープ。それぞれの料理には、料理名に一言添えたスタッフ手作りのPOPがついています。「素材にも料理にもこだわっていますから、味わうだけでなく、何かプラスアルファを持って帰っていただきたいと思っています。だから、POPに材料や栄養について書き添えしたり、レシピの配布や、お客様へのお声がけも積極的にしています」
地元の野菜を核にした、おいしくて温かい人と人との交流が生まれています。
食と農のテーマパーク「上越あるるん村」では、ワンストップで買い物が楽しめるうえ、広々テラスでゆったり食事も/レストラン 六花の里
「上越あるるん村」敷地内「あるるん畑」に出荷される地場産野菜をビュッフェスタイルで。常時約50種類の料理が並ぶ/レストラン 六花の里
上越市にある『六花の里(りっかのさと)』は、平成28年7月にオープンしたJAえちご上越の地産地消複合直売施設「あるるんの杜」内のビュッフェレストラン。平成30年4月に、農産物直売所「あるるん畑」をここへ移設し、近海魚などを扱う「あるるんの海」を新たに備え、食と農のテーマパーク「上越あるるん村」が誕生。その中のレストランとして、リニューアルオープンを果たしました。
「丸えんぴつ茄子やなますかぼちゃなど、旬の上越野菜をはじめ、JAえちご上越オリジナルブランド豚“米っしぃポーク(こめっしぃポーク)”を使った料理が人気です。上越市は発酵・醸造業も盛んなので、味噌や醤油などの調味料も地元産にこだわっています。おじいちゃんおばあちゃんからお孫さんまで、三世代が幅広く楽しめるメニューを提供し続けていきたい」と、店長の髙梨尚さん。地域の生産者の支援を図りつつ、小学校の総合学習の一環として農業体験を実施するなど、子どもたちへの食育にも力を入れています。
特産品をおいしくアレンジ
大きな窓の外には、遠くに守門岳、手前に里山と田園。遠近感のある風景が広がり、解放感抜群/すがばたけ
一番人気のメニューは、ブランド地鶏「虎千代鶏」をたっぷり使った親子丼定食/すがばたけ
地元菅畑で育てた「虎千代鶏」の販売も行っている。県内では4箇所のみで生産している幻の地鶏/すがばたけ
『すがばたけ』は、大きな油揚げで有名な栃尾地区にある農村レストラン。オープンのきっかけは、「地域の活性化、雇用の創設、地域交流。地域づくりの一環として作った店です」と、店長の原定幸さん。だから、地域、集落、みんなで連携しながらという意味を込め、農家ではなく、あえて農村レストランと命名。ここでは、地元で収穫された野菜や米、店内で打つ手打ちそば、そして、新潟県フードブランドの地鶏「虎千代鶏(とらちよまる)」を使った料理が味わえます。「栃尾は上杉謙信幼少の頃の旗揚げの地。幼名『虎千代』にちなんで名付けた、菅畑産の地鶏です。旨みが違いますよ」。田園や守門岳を眺められる絶好のロケーションの中でいただく、こだわり食材を使った手作りの料理が愛されて、開店8年目の今、週末には140人もの人が訪れるといいます。「来てみて、食べてみて感じる贅沢」が多くの人の心をがっちりとつかんでいます。
川西地域で育った、採れたての野菜や食材を販売する農産物直売所。加工品や切り花など、品揃えも豊富/千年の市 じろばた
十日町の特産である「そば」をアレンジした「そばいなり」は、国際グルメグランプリで第2位を受賞/千年の市 じろばた
『千年の市じろばた』の自慢の一品は、十日町市特産のそばで作る「そばいなり」。平成28年の国際グルメグランプリで第2位を獲得しました。ここは、JA十日町川西地区女性部のみなさんの発案でスタートしたレストラン。組合長である角谷幸江さんは、「一番には、地元の食材を活かしたいという思いがあります。そば以外にも、魚沼産コシヒカリのおにぎり、米を使った皮であんこなどを包む、昔ながらのスイーツ“あんぼ”も好評。津南のにんじんジュースやしそジュースなども販売しています」と言います。少子高齢化による人手不足や交通が不便なことなど、さまざまな課題を解消するべく、今後は、配達なども視野に入れながら新たな取り組みも思案中とのこと。女性のパワーが輝いています。
地元の棚田で育ったおいしいお米を使用。山古志牛のパティや、かぐらなんばん味噌のソースを挟んでライスバーガーに/農Café 三太夫
民宿を営むオーナー夫妻の「おもてなし」の心を伝える週替わりのランチ。おかずのアレンジも多彩/農Café 三太夫
長岡市の『農Café 三太夫』では、長岡野菜を取り入れた田舎料理を楽しめます。農家民宿「山古志百姓や三太夫」のオーナー夫妻が営む、土日ランチタイムのみのレストランです。
「ランチメニューは、おかず5品を毎週入れ替わりで提供しています。同じ長岡野菜でもアレンジを変えて、お客様に“おいしさの発見”をしていただける工夫を凝らしています。米は、手植え・手刈り・はざかけした棚田米。このお米を使って山古志牛のパティをサンドした、ライスバーガーもおすすめですよ」と、長島香織さん。中越地震後に民宿を再開した長島夫妻は、「山古志の観光も兼ねて、ぜひ遠方からも足を運んでほしい」と呼びかけています。
後編では、こだわりの郷土料理を提供する農家レストラン、食をきっかけにした地域おこしに取り組む動きをたどります。
■ 取材協力
新潟大学農学部 粟生田忠生 助教
農家レストラン もみの樹/店長 更科英樹さん
六花の里 あるるんの杜/店長 髙梨尚さん
農村レストラン すがばたけ/店長 原定幸さん
千年の市 じろばた/組合長 角谷幸江さん
農café 三太夫/長島香織さん