「ときめき」が自分の中の新しい扉を開く 宮田亮平インタビュー

金工作家として、また東京藝術大学学長、文化庁長官として日本の文化の舵取りを務められてきた宮田亮平さん。
文化芸術について、そして新潟県文化祭への期待を伺いました。

「ときめき」が自分の中の新しい扉を開く

宮田 亮平

プロフィール

金工作家。1945年、新潟県佐渡に蝋型鋳金作家・2代目宮田藍堂の3男として生まれる。1972年、東京藝術大学大学院美術研究科工芸専門課程鍛金専攻修了。東京藝術大学教授・学部長を経て2005年より学長を務め、2016年から2021年まで文化庁長官として日本の文化行政の舵取りを担う。イルカをモチーフとした「シュプリンゲン」シリーズなどの作品で国内外で多数の美術展に参加、「日本現代工芸美術展」大賞・文部大臣賞・内閣総理大臣賞、「日展」特選・内閣総理大臣賞、日本藝術院賞等々受賞。2023年、日本芸術院会員、「文化功労者」顕彰。現在、 日本藝術院会員、 東京藝術大学名誉教授・顧問、文部科学省参与、長岡造形大学客員教授、日展理事長、 現代工芸美術家協会常務理事。

  • 日本の文化芸術の舵取り役を、長く務めておられます。

    皆さん、文化芸術というと怖がるのですよね。でも、誰でも保育園や幼稚園の頃はお絵かきや歌が好きだったでしょう。あれは表現しているんですよね。幼くて言語表現がまだ乏しいから、感情をストレートに表したい時に、絵と歌の2つがあるのです。
     そのうち言葉が使えるようになって、3つでバランスを取っていくのですが、成長するにつれて、今度は上手いか下手かで評価されてしまう。人間はみんな芸術家だとぼくは思っているのですが、比べられることで、全員にあるはずの感性やときめきの扉が閉じちゃうのね。上手いとか下手で評価される、あれは困ったものだよね。

  • 教育者としてたくさんの芸術家も育ててこられました。

    藝大は何をするところかと言うと、上手さを磨くところじゃなくてね、「新しい自分をつくるところ」なのです。だから極端な話、油絵の学生は藝大に入るまでに膨大な数の油絵を描いてきて、入学した途端に絵筆を折るのです。それはね、新しい自分を見つけたいから。
     ぼくは50年藝大にいましたが、振り返ると、教えたことは一度もないの。そうじゃなくて、探すんですね。「この子はどこに面白さがあるんだろう」って。でも、それを強要はしない。藝大は、学生が表現したいものに近づくための技術は指導するけれど、「こんな風にしたほうがいい」とは一切言わない。学生たちにはそれぞれ「自分」があるから、その個性を尊重する。
     芸術が何かというと、ぼくは「ときめきのとき」というのが好きなんです。何かに気付いてはっとした時に「俺って結構気付けるんだ」と思える自分が面白いのね。
     例えば青春時代、すれ違った人にドキッとして思わず振り返ることがあるでしょう。単にきれいじゃなく、不思議と惹きつけられる。どうしてだろうと考えると、おふくろの仕草に似てたんだとかね。太鼓でも、前に一度聞いたことがあるはずなのに、今日はなぜこんなにときめくのと思う時がある。それは、そういうものを渇望している時、あるいは共鳴しているんですね。ときめきが、自分の中に潜在的に隠していたものの扉を開く。今まで気付かなかった自分を見つける。そのきっかけを作る人が、芸術家だとぼくは思っているのですよ。

  • 新潟県の芸術文化の特徴は。

     やっぱり北前船ですね。新潟には外から来たものを受け入れることのできる人たちと、受け入れられる豊かさがあった。そして一番は、ちゃんと見ていてくれる人がいた。これが大きい。ぼくのおふくろは本当に普通の人でしたが、毎朝習字をすると、「いいね、昨日と違うね」と言ってくれた。それは上手くなったという意味じゃなかったかもしれないけれど、「この前と違うね」という一言で、新潟の人は、こだわりをしっかり受け止めてくれる。自然にそれができるところに、新潟県民の面白さがあると思います。

  • ご出身は佐渡。佐渡の世界遺産登録については。

     佐渡は、できればそのままであってほしい。今の時代になくなったものも、佐渡は江戸時代から大事にとっておいてくれている。そこを誇りにしてもらえたらうれしいな。無理に新しいものを作るのではなく、不便さも含めて、その土地らしさを感じられるほうが訪れる人は喜びますよね。これから多くの人が佐渡や新潟の文化を求めて来ると思いますが、無理に頑張らないで今のまま、皆さんの中に潜在的にある誇りを素直に伝えていくことを大切にして欲しいです。

  • 最後に、新潟県文化祭へのメッセージを。

     文化ってね、文化人が作るものじゃないんですよ。文化人が作ると、どこか上から目線になる(笑)。それより、お互いに感じ合えるものがいいんじゃないかな。美しいものをその人が得意とするもので表現して、みんなで共有し、共感し、共鳴する。そして見る人や触れる人は、その中で自分が本当に共鳴できるものを見つけることが大事。
     文化祭の良さは、多様な催しがあるところですが、ぼくはできれば興味のないものも、先入観を持たずにたくさん見てほしい。その中で、ドキッとするものを見つけて、「私ってこういうことが飢餓状態だったんだ」と気付くような、喉が渇いている時の 一滴の水のようなものを発見する。まさに「自分探し」ですね。それを、この文化祭で感じてくれたら面白いかな。

主催

新潟県

後援

新潟日報社、毎日新聞新潟支局、読売新聞新潟支局、産経新聞新潟支局、朝日新聞新潟総局、日本経済新聞社 新潟支局、スポーツニッポン新聞社新潟支局、共同通信社新潟支局、時事通信社新潟支局、NHK新潟放送局、BSN新潟放送、NST新潟総合テレビ、TeNYテレビ新潟、UX新潟テレビ21、FM新潟77.5、新潟県教育委員会

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