第30回 阿賀・癒やしの灯り 立体和紙ランプ制作体験

(上)高台から見た鹿瀬の町。中央にあるのは、ダム式発電所のパイオニア・鹿瀬ダム。 (下)天候によっては、早朝に雲海が望める。

立体和紙のランプシェード制作が体験できる奥阿賀ふるさと館は、新潟と福島を結ぶ国道459号沿いにあります。この辺りは、春は桜、秋は紅葉が楽しめる絶好のドライブロード。近くに日帰り温泉もあり、休憩がてら立ち寄るにはもってこいのロケーションです。

鹿瀬ダムを右に見ながら福島方面へ。東北電力第二鹿瀬発電所(左手前)の向こうに、奥阿賀ふるさと館の赤い壁が見える。

赤と白のモダンなデザインが印象的な奥阿賀ふるさと館は、「和紙」と「電気」をテーマに平成6年(1994)にオープンしました。入館は奥の白い建物から。さっそく伺ってみましょう。

白い建物は和紙をイメージ、赤は電気をイメージして造られた。2つの建物は渡り廊下でつながっている。

館内に入ると、紙の原料や和紙の作り方を紹介するコーナーが目を引きます。「楮(こうぞ)」「三椏(みつまた)」「雁皮(がんぴ)」「黄蜀葵(とろろあおい)」と紙の原料となる原木が展示され、和紙の製造工程が実物やパネルを使って紹介されていました。

楮の原木が和紙の原料になるまでを実物を使って紹介。実際に触ることで、さまざまな工程を経ながら、原木が変化していくのが実感できる。

「昭和の初め頃、鹿瀬では楮の栽培が盛んだったんですよ。楮の繊維はとても強くて、和紙の原料として重宝されていたそうです。また、ダムも10基近くあって水力発電も盛ん。ダムが作り出す電気と、楮からできる和紙。そんな鹿瀬の歴史を伝えようと当館ができました。そうして生まれたのが、このランプです」と広報担当の渡部広美さん。

立体和紙のランプ〈卵 TAMAGO〉の前で。「白」「赤」「青」「黄」は、それぞれのランプシェードに使われている色を表している。

実物を見ながら、渡部さんに和紙の原料の製造工程を教えていただきました。「まず、楮の原木の皮を剥いで黒皮にします。さらに白皮にして、煮沸させ、最後にゴミや傷を取り除いて繊維をバラバラにします。そうして和紙の原料に仕上げていくんです。すべて手作業です。農家さんが原料を作り、職人さんが紙を漉(す)く。昔はそうして冬場の収入源を作っていました」(渡部さん)

さまざまな工程を経て太さや色が次第に変わっていく楮の原木。(左上から時計回りに)原木、黒皮、白皮。煮沸を経た白皮、ゴミが取り除かれバラバラにされた繊維、完成した原料。

「紙需要の変化に伴い、鹿瀬の和紙づくりは昭和25年(1950)頃にいったん終了しますが、昭和の終わり近くに東蒲原農業改良普及所の働きかけによって楮の栽培を再開。平成に入ると良質な楮の原木を供給、平成4年(1992)には原木から黒皮を取り出して出荷するまでになります。そして平成6年(1994)、立体和紙を制作するプロジェクトをスタートさせました。そうした中、誕生したのが奥阿賀ふるさと館であり、〈卵 TAMAGO〉です」(渡部さん)

(上)ガラスコーティングされた和紙を使った灯りのトンネル。進んでいくと、水力発電など、鹿瀬の産業の歴史が紹介されている電気のテーマ館に行くことができる。
(下)和紙を使った現代の灯り。さまざまな表情を見せている。

なるほど、〈卵 TAMAGO〉にはそんな歴史があったのですね。私にも作れるでしょうか? 「継ぎ目やのりしろがなく、針金や竹ひごを必要としませんから、初めての方でも大丈夫。すてきなランプシェードに仕上がりますよ」(渡部さん)

〈卵 TAMAGO〉の制作は、「奥阿賀ふるさと館」と近くの日帰り温泉「かのせ温泉 赤湯」で体験できる。

早速挑戦してみましょう!最初にランプシェードの形と基本の色を決めます。楕円形の「たまご」とまん丸い「ミニたまご」の2種類があり、種類によって制作時間や手順が異なります。「お部屋の大きさや雰囲気に合わせやすいのか、ミニたまごを選ぶ方が多いですね。色は、6色の中から1色を選んでいただきます。黄色やオレンジなど暖色系にするとやわらかい感じの灯りになりますよ」(先生)。私は、形はミニ、色はオレンジにしました。

同じミニたまごでも微妙に形が異なるのは手作りならでは。色は「黄」「赤」「オレンジ」の暖色系と「紫」「青」「緑」の寒色系の計6色が用意されている。

素材は、水に溶かした楮の繊維を使います。そこに先ほど選んだ色を加えます。「なかなか色がつかないのでドボッと入れるお客様がいらっしゃいましたが、ほんのりつくくらいがちょうど良いです。繊維なので色は均等につきませんが、それでいいんです。偶然のおもしろさが出てきますよ」(先生)

「1、2、3プッシュくらい入れて、よく混ぜましょう」。色を入れるところまでは、先生が準備してくれる。

「まずは内側の和紙から作っていきます。道具はこの金網1本だけ。水で溶いた楮の繊維を網で掬うところから始めます」

色を混ぜた後、繊維の付着を落とした網を右端に移動させ、凸部分を左の方に向けて金魚すくいのように繊維を掬うのがポイント。柄の部分までしっかり繊維が付いてくる。

「繊維を掬ったら、網を右手に持ったまま左手の親指で網の下を支え、残りの指で網を押さえてきゅっと1回だけ水を絞ります(①)。次に右手を放し、左手の親指で押さえながら網をひっくり返します(②)。そして縁についている和紙を網の外側にゆっくり広げて、上から軽く押さえます(③)。柄の部分についた繊維は、右手の親指と人差し指でつまんで引っ張り、切り離しましょう(④)」(先生)

乾燥後、和紙がしわにならないためには、網を左手の親指でしっかり押さえるのがポイント。

和紙の端を左手の親指で押さえたまま、右手で柄を持ち網だけを手前に引くと和紙が網からきれいに剥がれました。「そのまま手のひらを使って風船にペタっと貼っていきますよ」。先生の声が一段と熱を帯びてきました。「和紙から指を離すときは、指をちょっと広げながら端を反対の指でつまむように押さえて離すとスムーズです」

(左)網から剥がれた和紙は、水につけたガーゼのように柔らかかった。
(右)型として使用される風船。青い色は、和紙を貼るときに薄さの感覚がつかみやすいため。

「貼るときは少しずつ重ねながら、全体に貼り付けていきます。乾くとやりなおしがきかないので、厚みや重なり具合を調整しながら進めていきましょう。根気の必要な作業ですが、頑張ってください」(先生)。貼り付ける枚数は、ミニたまごで約30枚にもなります。

延ばしたり、つまんだり、ねじったりしながら和紙に動きを出していく。

全部貼り終えたら、照明器具を入れる部分に厚手の紙で作った輪っかを和紙で貼って、デザインを確定させます。風船の口元(バツマークをつけた部分)に貼ると丸く、反対だと尖った形になります。私は口元に貼り付けました。

白い方を上にして輪っかを風船に乗せ、和紙を3枚使って固定させる。

形ができたら、和紙の紐で模様を付けていきます。立体和紙ではこの作業を「骨組み」と呼んでいます。継ぎ目やのりしろがない立体和紙は、針金や竹ひごを使わないので、そのままだとペコペコして形が不安定になってしまうそうです。「そうならないために、和紙の紐を骨組みのように使っています。ランプを点けると影や模様にもなるので、デザイン面でもプラスの効果が期待できます」(先生)

長さを変えたり、重ねたり。風船にピタッとつけながら和紙の紐を貼っていく。「薄くて細いときれいな影が出ないので、ちょっと太めの紐を使いましょう」(先生)

「最後に模様となるトッピングで完成です。今回は、折り紙(有料)を使います。1カップに10~15枚くらい入っているので、好きなカップを1つ選んだら、色のついてある方を上にして、貼り付けていきましょう」(先生)。お花や動物などいろいろな形があります。人数分を購入して、友達同士でシェアし合うのも楽しそうですね。

みんなでワイワイしながらの作業。自分だけのオリジナルランプシェードの完成も近い。

トッピングが完成したら終了です。体験で作ったミニたまごは風船を入れたまま乾燥させた後、体験者のもとに届けられます。

リボンを追加しました。かわいい感じになるといいなぁ。

完成したミニたまごが届きました。触ってみると、繭のようです。たまごの中に入っていた風船を自分で取り出し、中を覗いてみました。星や、恐竜、うさぎがいる不思議な世界が広がっています。見ているだけで、癒やされます。照明器具は同梱されており、簡単に自分で取り付けることができます。早速、灯りを点けてみましょう。

小さなトッピングでも、すてきな世界が創造できます。

やさしい灯りが部屋の中に広がりました。
立体和紙の制作体験は、豊かな自然を背景に発展してきた鹿瀬の産業の歴史を知る体験でもありました。丁寧に仕事をしてきた鹿瀬の人たちの思いに触れた気がします。
鹿瀬には、東洋一の規模を誇った鹿瀬ダムがあります。次回はぜひ、全門放流の時期に伺い、その迫力を堪能したいと思います。

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奥阿賀ふるさと館
新潟県東蒲原郡阿賀町鹿瀬11540-7
電話 0254-92-4508

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