新潟の地域文化を紡ぎ繋げる 新潟文化物語

文化の丁字路~西と東が出会う新潟~

  • 文字サイズ
  • 標準

新潟・文化体験リポート

  1. 新潟文化物語HOME>>
  2. 新潟・文化体験リポート>>
  3. 庭屋一如~日本庭園と茶室のみかた(清水園)~

 

庭屋一如~日本庭園と茶室のみかた(清水園)~庭屋一如~日本庭園と茶室のみかた(清水園)~

清水園(新発田市)で開催された「日本庭園・茶室のみかた」セミナーに参加しました。
清水園は、新発田藩10万石の下屋敷として建立された国指定名勝です。明治24年(1891)に沢海(新潟市)の千町歩地主(せんちょうぶじぬし)伊藤家の所有になりました。伊藤家は銀閣寺の滝石組を復元した田中泰阿弥(たなかたいあみ、柏崎市出身)に庭の修復を依頼し、古い絵図や記録を参考に昭和28年(1953)から31年(1956)にかけて、5つの茶室を復元・新築。現在の形になりました。

清水園空撮

4600坪の敷地に、寄棟造りの書院と池泉(ちせん)回遊式庭園で構成された清水園。草書体の「水」の字をかたどった大きな池の周囲に5つの茶室が点在する/北方文化博物館提供

「日本庭園・茶室のみかた」セミナーは、令和2年(2020)に新潟県内で開催された「えちご邸園文化祭」のイベントの一つ。同文化祭の発起人で庭屋一如(ていおくいちにょ)研究会を主宰する藤井哲郎さんを講師に、庭園鑑賞のビューポイントと約束事を学ぶ体験型のセミナーです。

非公開の5つの茶室が見学でき、全国の庭園・茶室で通用する鑑賞のツボが楽しく学べるとあって、県内外から老若男女が参加。期待の高さが感じられました。

貞観園セミナー風景

藤井さんは、日本庭園と伝統建築29カ所を巡る「にいがた庭園街道」の発起人。えちご邸園文化祭の庭園セミナーは、清水園・貞観園(柏崎市)・旧齋藤家別邸(新潟市)で開催された。「どなたにもおすすめできる素晴らしいお庭です」(藤井さん)/撮影2019年

「新潟県は、東日本で3番目に国指定名勝庭園が多く、質の高い庭園が数多く残る庭園王国です。庭園と建物が見事に調和しているところが多いので、庭園と建物が一体となった“庭屋一如”を楽しめます」と藤井さん。園内の武家屋敷(石黒邸)で庭園鑑賞のコツを伺った後、実際に建物やお庭を巡りました。

散策の様子

散策には、歩きやすい靴、虫除け対策が必須。「ショルダーバッグは体の後ろに回すと壁や障子を傷つけてしまうので、前の方に持ちましょう」(藤井さん)

「新発田市には、五十公野御茶屋(いじみのおちゃや)、石泉荘(せきせんそう)、苔香荘(たいこうそう)など庭園と建物を併せ持つ場所があります。その中でも、特に素晴らしいのが、清水園です」(藤井さん)。最初に向かった建物は、回遊式庭園に面した簡素な数寄屋造りの書院です。

清水園書院より庭園

壁や柱をできるだけ少なくして庭との一体化を図った座敷/北方文化博物館提供

「伝統的庭園には共通するビューポイントがあります。最も大切なのが、“客間の上座”で、座った方に神仏のご加護がありますようにという願いが込められた眺めが見えます」(藤井さん)。部屋にはそれぞれ用途があり、そこから見える庭の景色には、施主・大工棟梁・庭師が見せたい思いが込められているそうです。

上段の間

(右奥)清水園一のビューポイント「上段の間」(甲冑があるところ)。「書院窓から素晴らしい景色が見えますよ」(藤井さん)。立ち入り禁止のため、手前の「一の間」から眺めを楽しむ。

池の手前にある大きな平石“礼拝石(らいはいせき)”は、2番目のビューポイントです。ここから180度見渡すと庭のテーマに沿った一番いい眺めを見ることができます。庭園の石組み、滝など全てが、礼拝石に向いているように感じられます。

礼拝石から見た南方向の眺め

礼拝石から見た南方向の奥深い眺め。中央の突き出た洲浜と荒磯。その向こうに亀島が見える。

「池を琵琶湖に見立て、琵琶湖の景色の八つの名所(近江八景)、堅田の落雁(かただのらくがん)、三井の晩鐘(みいのばんしょう)、瀬田の夕照(せたのせきしょう)、石山の秋月(いしやまのしゅうげつ)、粟津の晴嵐(あわづのせいらん)、矢橋の帰帆(やばせのきはん)、唐崎の夜雨(からさきのやう)、比良の暮雪(ひらのぼせつ)が要所要所に散りばめられている様子は、見る人の想像力を掻き立てます。昔の知識人は誰でも、近江八景を知っていたので、“これは、堅田の落雁ですか”などと、もてなす側に客が聞いていたかもしれません。そうやってコミュニケーションを深めていったのではないでしょうか」(藤井さん)

近江八景

(左)唐崎神社の境内に植え継がれる霊松の実生(みしょう)。(中)三井の晩鐘に見立てられた鐘楼。(右)千体の阿弥陀仏が祀られている浮御堂(堅田の落雁)に見立てた夕佳亭(ゆうかてい)。夕日に照らされ、キラキラ光って神々しい姿を現すことも。

「こちらは夕佳亭という茶室です。茶事を行う茶室のような閉鎖的なイメージとは異なり、開放感があります。西に大きく開いた窓から夕景を眺めながらお酒を楽しんだり、和歌や漢詩をひねったりする場所としても良さそうです。ゆっくり庭を巡りながら、丸一日楽しんでいく。泊まる場合もあったかもしれません」(藤井さん)。正式な挨拶をするための本丸御殿と違って、「ゆっくり休んで、楽しんでいってください」とお連れする場所。それが下屋敷だと藤井さんは続けます。

夕佳亭から見た書院

夕佳亭から見た書院。琵琶湖の沖の白石に見立てられる石が手前に見える。

特定の石も大切なビューポイント。飛び石から分岐して一つ二つで止まっている石、飛び石の中で突出して大きいものや質の異なる石があったら、ちょっと立ち止まってみると良い景色が見られる場合があるそうです。

 

腰掛石

腰掛石。腰掛けるのにピッタリの高さと大きさ。池を眺め渡すのに最高の場所。

鐘楼を過ぎると、周囲は山中を歩いているような深山幽谷(しんざんゆうこく)の世界。見事な滝石組が目の前に現れました。「滝石組は、庭師が石を縦に積み上げて造った力作です。ぜひ正面で立ち止まって、見てあげてください」(藤井さん)

滝石組

石の間から水が流れる2段落の立派な滝石組。滝の上部には石橋が見える。「冬は凍ることもありますが、それでも緩まないのは庭師の腕ですね」(藤井さん)

「橋を渡ると池の対岸に出ますが、橋の上でちょっと立ち止まって池の方を見たらいいですよ」(藤井さん)。礼拝石とは異なる角度から池を見ることになるので、これまでとは全く違う景色を見ることができるそうです。そうしたいのはやまやまですが、優雅に池を鑑賞するというより、池に落ちないようにひたすら注意を払って渡る私です。

瀬田の夕照に見立てた石橋

瀬田の夕照に見立てた石橋を渡って池の対岸へ。腰掛待合が待っている。

「腰掛待合」に到着しました。ここはお茶室に入る前に心を落ち着ける場所。石橋では緊張する場面もあったので、一息つける場所にたどり着いてほっとしました。「池の眺めもこれまでとは異なり、少し落ち着いた雰囲気になっています」(藤井さん)

船着場の景色

粟津の晴嵐を模した腰掛待合前の船着場の景色。自然に目が向くように配置された立石の存在感に脱帽。

いよいよ本日のクライマックス。3つの茶室の見学です。一つの建物にあるお茶室「同仁斎(どうじんさい)」「松月亭」「翠濤庵(すいとうあん)」を見学していきます。夕佳亭とは全く異なる、濃密な空間が待っているそうです。「同仁斎は2つの部屋で構成され、襖を建てる代わりに、下がり壁で二つの部屋を区切っています。床の間のある四畳が上段の扱いです。書院窓からの景色もぜひ見てください。もし閉まっていたら勝手に開けるのはマナー違反なので止めましょう。開いていたらぜひご覧になってください」(藤井さん)

お茶室「同仁斎」

壁に十字が見えるのは、ムラではなく、間柱や貫が中に入っているから。酸化による壁土の変色度合いが異なるのが原因。

「松月亭」「翠濤庵」は四畳半以下の広さなので、密を避けるため少人数のグループに分かれて見学することになりました。松月亭は額縁効果が楽しめる茶室で、その名前は松と月の絶妙な景色が楽しめることから付けられたようです。

お茶室「松月亭」

東に向かって開かれた窓から見た夕佳亭と松のコラボレーション。「月と松もいいですよ。夜も入園できるライトアップの時期をおすすめします」とスタッフが教えてくれた。

松月亭の天井や壁は、モダンなデザインが特徴。松葉をイメージした壁の模様は、壁を補強するために散らしたすさの名残。「こういう散らし方は、京都でもなかなかありません」(スタッフ)

松月亭の天井

亭主と客が座る場所の天井を下がり壁が分けている。網代天井の下が客畳。

「こちらは、一番格式の高いお茶室“翠濤庵”の天井です。客が出入りをする躙り口(にじりぐち)に近い部分は、屋根の傾斜に合わせた化粧屋根裏にしてあります。真ん中に見えるのが突上窓(つきあげまど)で、開けるか開けないかは亭主次第です。開けると、強い光が部屋に入ってきます。本来、お茶は暗い中でお点前されていました。その暗さに順応して、ものの見え方が変わっていくのも茶室の楽しみの一つです。そう考えると、光をどう使うかは、やはり亭主の趣向によりますね」(藤井さん)

お茶室「翠濤庵」の天井

突上窓は障子を開けて窓の覆いを突き上げ、つっかえ棒をした後、再び障子を閉めて使う。

床柱ものっぺりした丸太を使うよりも、表情がある方が味わいがあります。「シボやエクボがあるので、暗いところで光が反射をすると目を引くんですね。床柱にクルミ、中柱にツタ、廻り縁にコブシの皮付丸太を使っています。お茶事となると4時間くらいかけて楽しみますから、簡単に味わい尽くせるようなものではなく、じっくり見るとどんどん味わいが増してくるものがよいです」(藤井さん)

床柱

円いものと円いものを接いでピッタリ合わせる。隙間を空けないようにきっちり合わせる。数寄屋大工の技が、そこにある。

「お茶事をやるような茶室ではお庭の景色は重視されません。でも私は、躙り口から少し頭を下げて外に出るときに見える、額縁に入ったお庭の景色が好きです。つくばいがあって、苔が見えて・・・。素晴らしい」(藤井さん)

躙り口

躙り口は、茶室と庭をつなぐ場所。「躙り口から見える露地は必見」(藤井さん)

セミナーはこの後、茶室桐庵で講座のまとめを聞いて終了となりました。紅葉の名所として知られている清水園ですが、庭屋一如の観点で巡ってみると、造り手の思いをより深く理解することができました。次回はぜひ、ライトアップの時期に伺いたいと思います。

同仁斎の書院窓から見た夕佳亭

同仁斎の書院窓から見た、対岸の夕佳亭。

藤井さんに「えちご邸園文化祭」について伺いました。「多くの方にご賛同いただき、34イベントの開催が予定されていました。新型コロナウイルスの影響で、残念ながら約7割のイベントが中止や延期になりましたが、一部は秋に開催を予定しています。日本庭園の景色はただ見るだけでなく、そこに隠されている意味や思いを自分なりに想像・解釈すると、より印象深くなり、日本文化の伝統を踏まえた鑑賞法が身につきます。いろいろな庭園に出かけて見る力をつけましょう。庭園鑑賞がもっと楽しくなるはずです」

藤井さん

「歴史や伝統を次の世代に伝えるには、マナーを守ることも大切です」(藤井さん)

掲載日:2020年9月7日(月)

関連リンク

えちご邸園文化祭2020

清水園
新潟県新発田市大栄町7-9-32
電話 0254-22-2659

文化体験リポート一覧へ戻る

投稿はこちらから

  • イベントを投稿する
  • 地域文化データベースに投稿する
  • 投稿の仕方(PDF)
Copyright© Niigata Prefectural Government. All Rights Reserve