第43回【「にいがた秋の文化財一斉公開」特別編】三条市で古墳出土品と神楽を楽しむ

 令和5年(2023)10月に県内の国・県指定等文化財を一斉に公開する「にいがた秋の文化財一斉公開」が開催されました。今回は、三条市歴史民俗産業資料館で開催された県指定有形文化財「保内三王山(ほないさんのうやま)古墳群出土品」公開と、10月1日(日)に三条市中央公民館大ホールで開催された「第51回三条かぐら鑑賞会」の体験レポートをお送りします。

 先ず訪れたのは、三条市歴史民俗産業資料館の県指定有形文化財「保内三王山(ほないさんのうやま)古墳群出土品」公開です。

三条市歴史民俗産業資料館の外観

三条市歴史民俗産業資料館の外観

 三条市歴史民俗産業資料館は、昭和10年(1935)に建てられた歴史ある建物です。戦前に日本各地で作られた武徳鍛錬の場である「武徳殿」を利用しています。戦後は公民館などとして使われていましたが、平成元年(1989)からは三条市歴史民俗産業資料館として使用されており、平成21年(2009)には、国の登録有形文化財になっています。
 令和5年(2023)9月21日に常設展示をリニューアルオープンし、保内三王山古墳群出土品についても新たに展示パネルなどを新設し、公開しています。

 保内三王山古墳群とは、三条市上保内に所在する古墳時代前期(今から約1,600年前)の前方後円墳(1号墳)、前方後方墳(4号墳)、造出付(つくりだしつき)円墳(11号墳)と古墳時代後期の円墳9基、方墳5基の計17基の古墳で構成される古墳群です。
 中でも、11号墳からは、大和政権から信認の証として送られた四獣鏡(しじゅうきょう)、鉄剣、管玉(くだたま)などの副葬品(死者と一緒に埋葬する品物)が出土しており、5号墳から出土した土師器(はじき)と須恵器(すえき)が、12号墳から出土した鉄鏃(てつぞく・鉄製のやじり)や耳環(じかん・耳飾り)などとともに、新潟県有形文化財に指定されています。

 館内は、一周すると縄文時代から現在まで歴史をたどることができるようになっており、「保内三王山古墳群出土品」が展示されているのは、館内に入って右奥の弥生時代・古墳時代のエリアです。

保内三王山古墳群11号墳棺内副葬品出土状況

保内三王山古墳群11号墳棺内副葬品出土状況

 先ず目に飛び込んでくるのは、長さ約3mの巨大なパネルです。こちらは、保内三王山古墳群11号墳の木棺から出土した副葬品の出土状況を示したほぼ原寸大のパネルです。このパネルはリニューアルオープンに伴い、新たに設置されたもので、木棺のどのあたりに副葬品が納められていたかをより実感しやすくなっています。

11号墳の解説パネル

11号墳の解説パネル

 カラーで分かりやすい解説パネルには、新潟県文化財に指定されている四獣鏡や鉄斧(てっぷ)などの副葬品が出土した時の状況が掲載されています。

四獣鏡発掘のようす

四獣鏡発掘のようす

 豪族の亡骸とともに納められた細型管玉(くだたま)やガラス玉は、紐のようなものに通され首飾りとして胸に、太型管玉は腕飾りとして両手首に着けられて埋葬されていたと推定されています。
 朱色の顔料がまかれた四獣鏡は、絹と思われる布に包まれ、鏡面を上にした状態で木箱に納められ、亡骸の頭部の脇や肩のあたりに副葬されていたそうです。

 11号墳の解説パネルの横には、古墳時代前期の1号墳、古墳時代後期の5号墳、12号墳の解説パネルが展示されています。

 1号墳は、保内三王山古墳群の中で一番大きな古墳で、全長38mの前方後円墳です。古墳時代前期には、越後平野でいくつもの古墳が作られましたが、前方後円墳は4基しか発見されていません。1号墳の平野側の西半分が全体的に大きく張り出している二段築成で、ムラがあった平野から古墳を大きく見せるための高度な設計となっているほか、木棺の埋葬も東枕で埋葬されており、これは会津盆地の古墳の特徴と共通しています。
 このことから、大和政権が日本海側と会津地方をつなぐ交通の要衝として、三条の地を重要視していたことがうかがえます。

保内三王山古墳群1号墳様式図

保内三王山古墳群1号墳様式図

 5号墳と12号墳は共に古墳時代後期の古墳で、5号墳は直径約14mの円墳、12号墳は一辺約13mの方墳です。古墳時代後期になると、大きな古墳以外にも、首長だけでない、有力農民層の古墳も築造が許されるようになり、小さな古墳が多数作られるようになります。5号墳の墳頂部からは土師器や須恵器などの土器、12号墳からは鉄鏃3本、鉄製耳環1点、須恵器の高坏(たかつき)が出土しています。パネルでは、発掘の様子や副葬品の出土状況が写真で掲載されています。

保内三王山古墳群12号墳出土状況

保内三王山古墳群12号墳出土状況

 これらの出土品は、ガラスケースに入れられて展示されています。

県指定有形文化財「保内三王山古墳群出土品」

県指定有形文化財「保内三王山古墳群出土品」

 11号墳から出土したガラス玉や細型管玉は、埋葬された当時の様子が再現されています。また、11号墳から出土した四獣鏡は、よく見ると鏡裏面に4体の獣像が配置されていることが確認できます。

11号墳から出土したガラス玉や管玉

11号墳から出土したガラス玉や管玉

11号墳から出土した四獣鏡

11号墳から出土した四獣鏡

 さらに、この四獣鏡を複製したものを、実際に手にとることができるコーナーもあります。

複製された四獣鏡を手にとることができます

複製された四獣鏡を手にとることができます

 四獣鏡の複製品の製作は、実物を傷めないように、鏡の形を非接触測定器のレーザーで測定し、同じ重さになるよう丁寧に作られました。ものづくりのまち三条の技術を活かしており、解説パネルによると、複製した鏡の凹凸が実物よりやや浅いことから、三条の技術者は実物の出来栄えの良さに驚いたようです。

ものづくりのまち三条の技術で複製された四獣鏡

ものづくりのまち三条の技術で複製された四獣鏡

鏡面に顔が映るよう研磨されています

鏡面に顔が映るよう研磨されています

今回展示品を案内していただいた三条市市民部生涯学習課文化財係の勝山さん

今回展示品を案内していただいた
三条市市民部生涯学習課文化財係の勝山さん

 これらの展示品を見ることで、古墳時代に三条の地が大和政権に重視され、三条の豪族が勢力を拡大したことを学ぶことができました。

 他にも旧石器時代や縄文時代の遺跡の出土品や江戸時代以降の古文書の展示など、様々な資料が常設展示されています。是非みなさんも、三条市歴史民俗産業資料館に足を運んで、三条の歴史を学んでみましょう。

 三条の歴史をたっぷり学んだ後は、三条市中央公民館に移動し、「第51回三条かぐら鑑賞会」を鑑賞しました。

 三条かぐら鑑賞会は、新潟県無形民俗文化財に指定されている「三条神楽」の日頃の研鑽の成果を披露し、広く市民に知っていただくことを目的として昭和47年(1972)より開催されているイベントです。

 三条神楽とは、市内の6つの神社に伝わる神楽の総称で、5~7種類の舞を伝える神楽が多い中で、32種の舞を伝承している珍しい神楽です。出雲神楽系統に属する神楽で、岩戸開き神話を中心に、古くから出雲大社に伝わる神事や、神社の縁起を新たに取り入れて演じられています。

三条市中央公民館入口

三条市中央公民館入口

 会場となる三条市中央公民館にやってきました。神楽を鑑賞する市民で賑わっています。受付では、記念品としてお守りと、パンフレットが配られました。
 パンフレットには、本日披露される神楽の解説が詳しく書かれています。

 会場に到着すると開演前のお忙しい時間にもかかわらず、三条神楽保存会会長の五十嵐祐志さんにお話を伺うことができました。

三条神楽保存会会長の五十嵐祐志さん

三条神楽保存会会長の五十嵐祐志さん

 三条かぐら鑑賞会開催への思いを伺うと「市民にも三条神楽を広く知っていただき親しみを持っていただいて、三条神楽を残していきたい」と話してくださいました。また「市内の6つの神社の交流の場にもなれば」とおっしゃっていました。なんと昨年(令和4年(2022))の第50回三条かぐら鑑賞会では、三条神楽の32の演目全てが舞われたそうです。
 会場の大ホールに移動すると客席には250人のお客さんが詰めかけていました。

会場となった大ホール

会場となった大ホール

 このかぐら鑑賞会では、通常神社などで舞われている神楽とは異なり、それぞれの舞の間に次に舞われる演舞の解説が入り、神楽に関する知識がなくてもわかりやすく楽しむことができます。また、今回の鑑賞会のマナーについて「私たちは普段、神社の祭という賑やかな場で神楽をしておりますので、多少お話されてても、騒いでいられてても気にしません。むしろ静かな方がやりにくかったりもしますので、楽しく見ていただければと思います。」と説明がありました。

演舞の解説をする一ノ木戸神明宮禰宜の三上正行さん

演舞の解説をする一ノ木戸神明宮禰宜の三上正行さん

 1つ目の演舞は一ノ木戸神明宮による「先稚児(さきちご)の舞」です。子供のみで舞われる神楽です。鎌倉時代の「越天楽今様(えてんらくいまよう)」が基になったもので、これは雅楽「越天楽」に当時流行していた和歌「今様」が合わさったものだそうです。
 解説が終わると、神事の始まりを告げる太鼓と笛の音が鳴り響きます。

先稚児の舞

先稚児の舞

 先稚児の舞は、通常最初に舞われる神楽で、鈴が三種の神器を表し、雷、雨、太陽と季節の天候を表しているそうです。

 2演舞目は三条八幡宮による「宮清(みやきよ)の舞」です。この舞は、通常2番目に舞われる神楽で、天照大神(あまてらすおおみかみ)が天の岩戸にお隠れになり、神々が集まって神事を行った際、天児屋根命(あめのこやねのみこと)が神々を祓い清めたという神話に基づいているそうです。

宮清の舞

宮清の舞

 お祓いのために山頂の木を抜く動きや、実際にお祓いをするような動作が表現されていました。
 3演舞目は田島諏訪神社による「羽返(はがえし)の舞」です。この舞は、先ほどの天岩戸の変の時に、天照大神を登場させるため神々が盛大に踊ったという神話を基にした舞です。

羽返の舞

羽返の舞

 4人の稚児による舞で、手に持つ2枚の扇子を扇ぐようにして、賑わいが表現されていました。

 4演舞目は、保内小布勢神社による「大鉾(おおぼこ)の舞」です。三条神楽では、天岩門別神(あまのいわとわけのかみ)の神話を基にした神楽と伝えられていますが、解説の三上さんは「伊邪那岐神(いざなぎのみこと)と伊邪那美神(いざなみのみこと)の国づくりの神話を基にしているのではないかと推測している。」とおっしゃっていました。
 国づくりの神話とは、伊邪那岐神が天沼矛(あめのぬぼこ)という槍を授かり、それでドロドロした沼をかき混ぜ、できた島に降り立ったという神話だそうです。

大鉾の舞

大鉾の舞

 槍を突き、かき混ぜ、立つという動作が表現されていました。三条神楽の中で槍と扇子を使うのはこの舞だけとのことです。

 5演舞目は、塚野目白山神社による「鎮護鉾(ちんごほこ)の舞」です。
 この舞は、天孫降臨後にあった国譲りの交渉で、建御雷神(たけみかづちのみこと)と経津主神(ふつぬしのみこと)が、交渉が上手くいった喜びを表した舞とされています。建御雷神は春日大社の、経津主神は鹿島神宮や香取神宮の御祭神であり、武神として有名です。

鎮護鉾の舞

鎮護鉾の舞

 左右対称で舞われる舞のため、お互いが見えない中で息を合わせて舞う、とても難しい神楽だそうです。

 6演舞目は、田島諏訪神社による「悪魔祓の舞」です。この舞は、経津主神が様々な災いや悪魔を刀で切り祓う舞です。
 経津主神は戦神とされ、刀で切る時の「フツ」という音が名前の由来とされている神だそうです。

悪魔祓の舞

悪魔祓の舞

 この舞は、手で刀を作るような動きのゆっくりとした前半部分から、言葉や唄が入った後、刀を抜き、激しい動きで刀を振り下ろす後半部分とに分かれた構成になっています。

 7演舞目は、一ノ木戸神明宮による「五穀捧(ごこくささげ)の舞」です。この神楽は、神話を基にしたものではなく、農民が収穫終了後に五穀を神に奉納し、五穀豊穣を感謝する舞です。

五穀捧の舞

五穀捧の舞

 この舞は、三条神楽の中でも一二を争うほど合わせるのが難しい神楽だそうです。舞う二人はお互いの姿が見えない中で、足の歩数と手の鈴を鳴らすタイミングを全て決まった通りに舞わねばなりません。一つでも間違えるとタイミングがズレてしまうため、舞い手がとても緊張する神楽だそうです。
 動きも、太鼓も早く、足も左から出る時、右から出る時が入り混じるなど、とても難しい神楽とのことです。

 8演舞目は、保内小布勢神社による「花献(かけん)の舞」です。この舞は、木花之佐久夜毘売(このはなのさくやひめ)の神話に基づく舞です。
 木花之佐久夜毘売は、花のごとく綺麗な神様とされています。有名な逸話として降臨した天孫の邇邇芸命(ににぎのみこと)に対し、「天孫が花のように繁栄し、岩のように長くなるように」と木花之佐久夜毘売と石長比売(いわながひめ)という神が嫁いだにもかかわらず、邇邇芸命は石長比売を追い返したため、天照大神の子孫は短命になったという逸話があります。

花献の舞

花献の舞

 姫君の格好をした稚児による舞で、紅白の花を両手に持って舞われました。この舞の衣装は、今年春に新調されたものだそうです。

 9演舞目、最後の演目は、大崎中山神社による「五穀撒(ごこくちらし)の舞」です。この舞は、農業の起源を表しており、鍬を持つ農夫が水田を、鎌を持つ農夫が田畑を作る動きを表現しています。

五穀撒の舞

五穀撒の舞

 2人の農夫は、鍬を研いだり、鎌で雑草を刈るなどの動きを無言で演じ、また2人でいたずらしあったりするなど、人間臭い演出が入ります。

お菓子の飴が撒かれます。

お菓子の飴が撒かれます。

 また、この舞では、収穫を祝うという形で来場したお客様に舞台上からお菓子が撒かれます。お菓子をもらうために、前の方にどんどんお客さまが集まっていき、とても盛り上がりました。
 最後は、終わりを告げる笛と太鼓で大きな拍手が沸き起こり、9つの演舞が終了しました。

 舞の解説を務めた三上さんは、「祭など賑やかな神社で神楽を見るとより楽しいと思うので、是非現地で見ていただけたらと思います」と話していました。

 最後に、三条神楽保存会の副会長の高野さんが、「神楽はお祭りには欠かせないのですが、お祭りを盛り上げるのは皆さんです」と神社の祭りへの参加を呼びかけて、第51回三条かぐら鑑賞会は終了しました。

 4月以降、また6つの神社でそれぞれ神楽が奉納されます。皆さんも是非、神社に足を運んで、現地で三条神楽を堪能していただければと思います。

県指定有形文化財「保内三王山古墳群出土品」公開
会場:三条市歴史民俗産業資料館
〒955-0071 新潟県三条市本町3-1-4

開館時間:9:00~17:00
休館日:毎月末日(土・日曜・祝日の場合は開館)12月29日〜1月3日

※月曜日は休館(祝日は開館)
料金:無料

 

三条神楽が見られる日と場所

●三条八幡宮(新潟県三条市八幡町12-18)
・春季本祭(5月16日午後)
・秋季本祭(9月15日午後)

●一ノ木戸神明宮(新潟県三条市神明町3-9)
・春季宵宮(4月28日夜)
・春季本祭(4月29日)
・秋季宵宮(9月22日)
・秋季本祭(9月23日)
・献灯祭(1月14日)

●田島諏訪神社(新潟県三条市田島二丁目11-9)
・春季宵宮(本祭りの前日 夜)
・春季本祭(4月第2日曜日 午後)
・秋季宵宮(本祭りの前日 夜)
・秋季本祭(9月第2日曜日 午後)

●塚野目白山神社(新潟県三条市塚野目五丁目16-14)
・春季宵宮(4月17日 夜)
・春季本祭(4月18日 午後)
・秋季宵宮(本祭りの前日 夜)
・秋季本祭(9月最終日曜日 午後)

●大崎中山神社(新潟県三条市西大崎二丁目23-16)
・春季宵宮(本祭りの前日 夜)
・春季本祭(4月第3日曜日 午後)
・秋季宵宮(本祭りの前日 夜)
・秋季本祭(9月第3日曜日 午後)

●保内小布勢神社(新潟県三条市上保内丙1288)
・春季宵宮(4月14日 夜)
・春季本祭(4月15日 午後)
・秋季宵宮(本祭りの前日 夜)
・秋季本祭(敬老の日 午後)

●第52回三条かぐら鑑賞会
日時:令和6年10月6日(日)13:00~15:00
会場:三条市中央公民館(新潟県三条市元町13番1号)
※詳しい情報は、三条市HPに掲載される予定です。

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