file-105 観光列車が走る!(後編)

 

「アートを楽しむ」ために乗る

 平成12年(2000)に始まった「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」。新潟県十日町市と津南町を舞台に、3年に1度開催される国際芸術祭です。それ以外の年も、美術館や常設のアート作品、季節毎に開催されるイベントを楽しむ人たちが県内外から集まってきます。その「足」として、また移動時間もアートにふれる「もう一つの会場」として、人々を運ぶ列車があります。ゆったりと、あるいは高速で――今回は2種類の観光列車をご紹介します。

アートと旅をつなぐ列車

逆転の発想でみんなを楽しませる

ほくほく線

「ほくほく線」という名前は住民アンケートで決定。温かく親しみやすいことが決め手に。

 日本屈指の豪雪地帯、新潟県の六日町駅を起点として、信濃川を渡り、日本海側の犀潟駅までの59㎞を結ぶ地方鉄道が、ほくほく線です。平成9年(1997)の開業時から高速列車として首都圏と北陸地域を結ぶ一端を担いましたが、平成27年(2015)の北陸新幹線開業により特急を廃止。現在は、各駅停車を中心に運行しています。
 大地の芸術祭の開催時には、地域の要請を受け、来場者数のピークに合わせて、臨時列車を運行。首都圏から会場となる十日町・まつだい駅までを結びました。合わせてお得なフリーパスも発売しました。
 「平成27年の大地の芸術祭は、特急がなくなって初の開催。集中するお客様を運びきれるかどうか心配でしたが、ダイヤと列車を工夫して、問題なく輸送できました。」と、北越急行株式会社・営業企画部の大谷一人さん。とはいえ、人員も車両数も限られているので、舞台裏は大変だったそうです。

 

ゆめぞら

トンネルに入ると天井に宇宙・花火などの映像が映る「ゆめぞら」。土日祝の運行

スノータートル

通常の4倍の時間で運行する超低速の「スノータートル」

  新潟大学鉄道研究部部長の川崎博己さんは、「ほくほく線は、マイナスをプラスにする、逆転の発想がすごいです。おもしろいですよ。」と言います。コースの大半が山間地域でトンネルが多いことを逆手にとった列車「ゆめぞら」。トンネルに入ると列車の天井に星座や花火の映像が浮かびます。通常運行1時間のコースを、トンネルや施設見学を行いながら超低速でわざわざ4時間かけて走る「スノータートル」。他では聞いたことがない企画です、と他の部員も声をそろえました。
 「『スノータートル』の予約開始時は電話が鳴り止まなくて、発表から30分で完売。社長のアイデアでしたが、まさかこんなに喜ばれるとは正直思いませんでした。うちは社員みんなでアイデアを出し合って、みんなでイベントをしています。」と、大谷さんは打ち明けますが、発想のおもしろさは、集客数のアップやマスコミで取り上げられることからも確かです。

 

マルシェ列車

車内で人気のパンが買える「パン列車」は、開催の度に大人気

 その後も、人気パン屋が焼きたてパンを列車内で販売する「ナナシのマルシェ列車」、プロのヘアメイクとフォトグラファーが卒業を迎える高校生を列車内で撮影する「卒アル列車」など、地元とタイアップし、地元に暮らす人たちが楽しめる列車を走らせています。利用者はもちろん、普段は列車に乗らない人にも楽しんでもらえることを――大谷さんたちの作戦会議は続きます。

世界最速の芸術鑑賞

現美 外観

「現美新幹線」の外観は、長岡花火をモチーフに蜷川実花が制作した(全6両編成)

 平成28年(2016)4月にデビューした現美新幹線は、それまでの白をベースとした新幹線のイメージとは一線を画したカラーリングから「黒い新幹線」とも呼ばれ、駅や沿線で人々の目を釘付けにしました。秋田新幹線「こまち」の車体を基盤として、中も外も大胆に改造。蜷川実花や石川直樹など注目のアーティストがこの列車のために制作した現代アートをまとって、越後湯沢・新潟間を走っています。

 

新大 鉄道研究部

「現美新幹線を初めて見たときは衝撃でした」と、川崎さん(右)

 「1両ごとにがらりと雰囲気が異なるので、6両を見て、カフェスペースでコーヒーを飲んだら、もう着いてしまって。1時間は短すぎです。」とは、現美新幹線の新潟駅発一番列車に乗った、新潟大学鉄道研究部の川崎さんの感想。移動しながらアートを鑑賞するという、ユニークな演出の観光列車です。

 

現美 内観 花火

16号車/新潟の風景をアメリカ人アーティスト、ブライアン・アルフレッドがデザイン

現美 内観 キッズスペース

13号車キッズスペース/子どもたちの「遊び」をアートに。アートユニット・パラモデル制作

現美 カフェ

13号車カフェスペース/地元素材にこだわったスイーツと「ツバメコーヒー」が味わえる

 日本で最速かつ大量の輸送力を持つ新幹線と、風景や食事をゆっくり楽しむ観光列車。一見、反対にも思えるものが合体した現美新幹線。その背景にあるものを、東日本旅客鉄道株式会社新潟支社・営業部販売課長の日野淳一さんに伺いました。
 「新幹線の『人を運んでくる力』を、観光客の取り込みに活かそうという取り組みです。観光を通じて新潟県を元気にすることが目標だから、越後湯沢と新潟間での運行。つまり、新潟県に来なければ乗れない新幹線なんです。」
 マーケティングや調査などを通して設定したコンセプトはアート。移動しながら現代アートを鑑賞できる新幹線をフックに、地域の美術館やアート作品、歴史や文化にふれる旅を提案しようと、旅行会社や観光施設との連携を図っています。
 「現代アートという共通項を持つ大地の芸術祭との組み合わせは、特に有力だと思います。首都圏からも新潟県内からも人を運びたいですね。」と、日野さん。「でも、イベントに合わせた運行は期間が限定されているので、それ以外の切り口も必要です。線をつなげて、面の展開をしていかなくては。たとえば、『SLばんえつ物語』や『きらきらうえつ』『越乃Shu*Kura』などの観光列車との乗り継ぎを整備して、広い範囲を周遊できるように。もちろん他の鉄道会社との連携も視野に入れています。実際に、首都圏向けに、えちごトキめき鉄道、北越急行と当社の観光列車を集めたポスターを制作しました。鉄道の力で観光を盛り上げることが目標です。」
 運行開始から約6ヶ月間、乗客数は当初の予想を上回り、約2万人のお客さまにご利用いただいています。乗客の半数以上は県外客です。台湾でモニターツアーを募集するなど、インバウンド対応も進めています。

 

 新潟県を走る様々な観光列車。そのひとつひとつの個性を楽しみながら、四季折々の風景を、自分のペースで楽しんでみてはいかがでしょう。

 

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