file-118 みんなで作り上げる――演劇の魅力(前編)
高校演劇が熱い!
高校演劇がメディアに登場する機会が増え、そのひたむきな姿勢と厳しい練習、レベルの高い演技や舞台づくりが話題を集めています。新潟県でも700人を超える高校生が部活動として演劇に打ち込んでいます。そこには、彼らを指導し、共に創作に取り組む顧問の存在も。高校演劇の今に迫ります。
40代顧問が引っ張る!
「大学時代はミュージカル、卒業後はダンスを経験。これまでに3校で演劇部を指導しました」/横山剛史さん
全国2,100校から選ばれた12校が頂点を目指す「全国高等学校演劇大会」。毎年8月に開催され、演劇甲子園とも呼ばれる、熱気に満ちた3日間です。その大会の様子を追う、恒例のテレビドキュメンタリー番組「青春舞台」が話題を集め、存在が広く知られるようになってきました。また、大会への参加を通して高校生が成長する姿を描いた小説「幕が上がる」は、アイドルグループの主演で映画化もされ、注目を集めました。こうした動きを背景に、新潟県の高校演劇部の活動にも変化が現れています。新潟県高等学校文化連盟演劇専門部(以下、(県)演劇専門部)の事務局長を務める横山剛史先生に伺いました。
「盛り上がっているといっても、学校数や部員数が増えているわけではありません。演技や脚本など、作品の質の向上という意味です。私が演劇指導に関わって10年ほどですが、レベルは着実に上がっていますね。要因のひとつは、顧問にも生徒にも脚本を書く人が増えたこと。既成の脚本と違い、創作脚本は、演じる人が持っているものを活かせる台本であり、変更や追加もできます。今の自分たちらしさが表現できる、何もないところから始めて、目の前に一つの世界を創りあげることができるという経験が生徒を夢中にさせ、その結果、質の向上につながったのではないでしょうか」
「2020年には新潟で春季高校演劇研究大会が開催予定。全国最高レベルの高校演劇に触れるチャンスです」/鶴巻昌洋さん
もうひとつの要因は、40代の演劇部顧問の存在です。(県)演劇専門部の委員会には約15校の顧問が参加しますが、中心は40代。その中の一人、見附高校で演劇部顧問を務め、(県)演劇専門部の委員長でもある鶴巻昌洋先生は、同世代に意欲的に取り組む顧問が増えていると感じています。
「もちろん先駆者である先輩方の力、そこから受けた刺激があってこそですが、私が顧問になりたてのころに比べると、脚本執筆や舞台づくり、演技指導などで個性を発揮し、生徒の力を引き出していく、意欲的な顧問が多くなりました。互いに影響を与え合うことも、県全体でのレベルアップにつながっているのだと思います。横山先生のように自身で演者として活躍している人もいらっしゃいますし、若手顧問の台頭もあり、頼もしいです」
しかし、演劇を専門に学んだり、実際に経験したりした教師は決して多くはありません。また、高校生向けに演劇指導のメソッドが確立されているわけでもありません。横山先生は、「赴任する先々で、生徒や教師、保護者を巻き込んで、演劇の魅力を知ってもらい、楽しさを伝え、高校演劇を盛り上げていきたいですね」と語ります。
高校生の感性が光る!
「自分でも演劇活動をしています。そこで学んだことを学校に持ち帰り、生徒に伝えています」/吉田勉さん
新津南高校の演劇部顧問、吉田勉先生は、生徒たちの活動をもっと盛り上げてやりたいという思いで、8年前から創作脚本を執筆するようになりました。演劇に関わることで生徒が成長していく様子を目の当たりにし、演劇を通した魅力を実感することが多いと言います。
「人前で自分の思いを話せるようになるんです。役者だけではありません。照明や音響担当も含め、全員が集団の中の自分の役割を自覚し、よりよくするために積極的に考える、人に伝わるように発信する。コミュニケーション力が付くんです」
新津南高校の生徒たちはどう感じているのでしょうか。
「月夜のでんしんばしら、鉄塔に会う」吉田勉 作 2018年3月 秋葉の舞台で遊ぼう!Vol.4公演に向けての練習/新津南高校演劇部
「部員全員がよい作品にしたいという思いが団結力を生む。そこにやりがいを感じます(2年生)」「60分の劇に本気で自分のすべてを出し切ることの楽しさと難しさを知り、成長できたと思っています(1年生)」「公演を重ねるごとに、役者として自分自身が少しずつ変わっていく気がして、おもしろい(2年生)」と演劇の魅力を語ります。そして、彼らの視線は将来へも。「演劇で学んだコミュニケーション力、人前で発表できる力を将来に役立てたい(2年生)」「舞台を作る上で、他人への思いやりを学んだ(1年生)」「演劇のおもしろさを多くの人に伝えたい(1年生)」と、今の経験は彼らの今後の糧になっています。
2017年10月の校内アトリエ公演/見附高校演劇部
また、見附高校の演劇部員たちは、「台本の理解を深める過程が大変(2年生)」「基礎練習では普段使わない筋肉が悲鳴を上げる(2年生)」など、大変な面も挙げつつ、「個性的で面白い仲間たちがいるから、みんなで休みが少なくても頑張れる(2年生)」「お互いに意見を出し合い、試行錯誤しながらひとつの芝居を創り上げていくのは楽しい(1年生)」「役になりきって、役を通じて感情を爆発させることができると楽しい(1年生)」と、楽しく、充実している様子を教えてくれました。
「『一生懸命演じるのは楽しい』が演劇の根本、ここをしっかりと伝えていこうと思っています」と、見附高校の鶴巻先生。「演劇では、何度も一つのことを繰り返し指導します。それは、アクションではなくリアクション、つまり、周りの働きかけに対して自分がどう動くかを認識することが重要だから。これができると演技の質が大きく変わりますし、青年期に求められる成長、それまでの自己を乗り越えていく『メタ自己』の形成にも有効だと思います」
顧問の指導を受け、演劇を通して、創造や表現の奥深さに目覚めた高校生たちの姿は、演劇甲子園に向けての地区大会や県大会、創作脚本発表会、地域で開催される高校演劇単独の発表会のほか、一般劇団も参加する演劇祭などで見ることができます。
後編では、地域の文化施設を核にした市民演劇にフォーカス。各地域で、幅広い年代の役者たちが演劇に取り組んでいる、その活動を紹介します。
■ 取材協力
横山剛史さん/新潟県高等学校文化連盟演劇専門部事務局長、新潟県立新潟北高校 演劇部顧問
鶴巻昌洋さん/新潟県高等学校文化連盟演劇専門部 委員長、新潟県立見附高校 演劇部顧問
吉田勉さん/新潟県高等学校文化連盟演劇専門部 委員、新潟県立新津南高校 演劇部顧問
新潟県立見附高校演劇部のみなさん
新潟県立新津南高校 演劇部のみなさん