
file-135 まずは、一服。新潟ならではの茶道を体感(前編)
茶道が初めてでも心配無用
心からもてなしてくれる新潟の茶人たち
新潟県で開催された「第34回国民文化祭・にいがた2019」。新潟県茶道連盟では8流派が集結して茶会を開きました。国内各地からの視察者は「流派の垣根を超えて茶会ができるとは、全国でもめずらしい」と驚いたそうです。堅く見える茶道ですが、新潟県民ならではの“やわらかさ”があるようです。
戦争の傷を癒そうと始まった「新潟市民茶会」

「原三渓(はらさんけい)という茶人が『蓮の花が見頃です。お出かけ下さい』と親しい人を茶席に招きます。道具に語らせる有名な話ですが、知ったときには涙が止まりませんでした。お茶はやるほどにおもしろいです」/大倉さん
連盟では茶席を年に3回設けています(※2)。平服でも、お茶は初めてでも丁寧に教えてもらえるので、気軽に訪れてみてはいかがでしょうか。
(※1)新潟県茶道連盟に加盟している流派
裏千家淡交会新潟支部、江戸千家新潟不白会、江戸千家不白会越後支部、小川流煎茶、表千家同門会新潟県支部、古儀茶道薮内流竹風会新潟支部、茶道石州流怡渓会、石州流茶道宗家新潟下越支部、煎茶花月菴流、煎茶道東阿部流新潟支部、宗徧流新潟支部・下越支部
(※2)2月「チャリティー茶会」新潟伊勢丹・丹庵、9月「新潟県文化祭と連動した茶会」りゅーとぴあ、10月第一日曜「新潟市民茶会」燕喜館、旧齋藤家別邸、旧小澤家住宅など。
本物の道具でお茶をいただける木村茶道美術館

秀才であった木村翁は早稲田大学からアメリカのバルパライソ大学へ留学。卒業後イギリスを経て帰国した。この海外経験からナショナリズムに目覚め、茶道を始めたといわれている。お茶の心を説いて「一服のお茶をいただきながら、美の世界を享受すること」と言っていた。
木村翁は明治29年(1896)、柏崎市近郊の旧家に誕生。柏崎市の漆芸家・森三樹(もりさんじゅ)亭で茶道を習い、その後は旧高田市で不白流(ふはくりゅう)の清水宗観から学びました。昭和47年(1972)に柏崎市で江戸千家柏崎支部を旗揚げし、茶道教師として多くの弟子を育てながら普及に努めます。昭和58年(1983)には生涯をかけた茶道具のコレクションを惜しみなく柏崎市に寄付しました。

「さまざまな職種や年代が集まる茶道はまさに異業種交流会。その出会いが人生のプラスになる。人付き合いが希薄な時代だからこそ、人と接点を持つことに意義があります」/石黒さん

「今年で95歳になりましたが、まだ覚えることがある。今日も一つ覚えました。周囲からいっぱい勉強させていただいています」/飯塚さん

木村茶道美術館には木村翁のコレクションの他、多くの篤志家、作家が寄贈している。館のある松雲山荘は名園として知られ、秋は紅葉の名所となっている。
(※3)新型コロナウイルスの影響で延期の可能性もあります。問い合わせは4月1日以降で木村茶道美術館、0257(23)8061まで。
大倉さんが考える茶道の魅力を伺う
●茶道を始めたきっかけは?
「若い頃は人前に出るのが苦手でしたが、何か一つやろうと思っていたときに、たまたまお茶の師匠と出会いました。初めて稽古をして翌週行ったら、先週のことを全く覚えていなかった。それでも何か惹かれるものがあったのですね。掛け物や季節の花、焼き物と知らない世界が楽しかった。勉強をし出すと切りがなく、のめり込んでいきました。今では、お茶は自分の一部です」
●どこに惹かれますか?
「こわれた茶碗でも金継ぎ(きんつぎ)をして直して使う。継いででも生かしたいというところに惹かれました。壊れても、いびつでも、そこに良いものを見いだす。人間も同じで完璧な人はいませんが、その人の良い部分を発見することに通じる。劣等感を持つ人もいるでしょうが気にしなくていい、必ず誰かが見てくれます」
●おもしろいと感じるところは?
「道具に語らせるところです。今日、この道具にしたのは何かがあるはず!と亭主の意図を客がどう読み解くか。花も茶席に合わせてその場で咲くように、数ヶ月も前から準備をしていたことに気付けるかどうか。しかし、知らない、気付かないでは亭主との会話が成り立たない。自分が高まるほど相手のおもてなしが理解できる高度なコミュニケーションであり、知的な遊びです」
●茶道を長く続けてよかったことは?
「作法でありながら、生き方を教えてくれることでしょうか。飲むだけなら5〜10分ですが、長くやっていると人の生き方がわかってくる。自分の生き方にも向き合える。流儀を立てた人たちの考えが型に現れており、知るほどに深いところへ行けます。私は石州流怡渓派で、“ありのまま、自然体で生きなさいよ”という教え。飾るな、つくるな、素のまま生きろ、は今の時代には難しいかもしれません。社会から遅れていると思うのが怖いから飾ってしまう。会社でも、学校でも習わない“生き方”を教えてくれるのが茶道です。思いやりを表現する世界に触れ、自分の良いところを探そうと見てくれる人が近くにいる。それだけで救われます。ぜひ、若い人にじっくりやっていただきたい。きっと得るものがあるでしょう」

茶道は単なる作法ではなく、人が生きるための不変の知恵が凝縮されたものでした。
後編は、茶道が殿様から市中に伝わった歴史と、茶道に関わる人たちの未来への展望を探ります。
■ 取材協力
大倉 洋一さん/新潟県茶道連盟 事務局長
石黒 信行さん/公益財団法人木村茶道美術館 館長
※木村茶道美術館は4月〜11月まで開館、冬期(12月〜3月)は閉館します
飯塚美重子さん/江戸千家不白流 師範
■ 参考資料
木村茶道美術館ホームページ
「森三樹亭を支えた柏崎女傑の一人 森愛子」/小栗俊郎著