file-158 縄文時代に日本全土に広まった糸魚川の翡翠(前編)

  

県内の身近な遺跡からも発見される翡翠

 新潟県の「県の石」に翡翠(ひすい)が指定されました。世界的にも有数の産地である糸魚川の翡翠をこれから全国へ向けて発信するに当たり、縄文時代にはすでに県内を越えて全国各地に広まっていた翡翠の歴史を探ります。

縄文時代に翡翠の一大生産地だった糸魚川

糸魚川市民念願の「県の石」指定

小熊さん

「こちらの長岡市・馬高遺跡は糸魚川市長者ケ原遺跡と同じ時代の遺跡で、ここでも糸魚川の翡翠が発見されたんですよ」/小熊さん(取材地・馬高縄文館にて)

大きな勾玉のオブジェ

糸魚川駅前には、大きな勾玉のオブジェが建ち、翡翠が町のシンボルとなっている。駅前からも近い「ひすい海岸」では、平日でも翡翠を探す人々の姿が見られる。

「翡翠の『県の石』指定に係る検討委員会」の座長を務めた小熊博史さん(長岡市立科学博物館館長)に「県の石」指定に至る背景を伺いました。「翡翠は、平成28年(2016)に国石として選定されていました。ですので、なぜ今さら「県の石」と思う人もいるようですが、国石の選定は、日本鉱物科学会によって選定されたもので、国が選定したものではないのです。国旗と国歌以外の例えば国鳥や国花などは、国ではなく慣例的に認知されたり団体が決めたりしたもので、公的に認められたものではないんですね」
 このたびの「県の石」指定に向けては、令和2年(2020年)に産出地の糸魚川から活動が始まりました。地元発信で署名活動や請願を行い、県議会での請願採択を経て、検討委員会での検討の結果、「県の石」として指定を受けました。この「県の石」指定に至るまでの流れについて小熊さんは「地元の強い要望から始まったことに、重要な意義があると思います。大規模火災を経験した糸魚川の復興のシンボル的な意味も感じますし、新潟県を特色づける重要な地域の資産であることや翡翠がどういう石なのかを広く知ってもらう良い機会になると考えます。検討委員会でも、自然や歴史・文化的な意義は当然として、観光や教育資源としても大きな価値があると委員の全員で認識しました」

 

糸魚川翡翠の県内への広まり

長者ケ原考古館作成 図録

縄文時代前期後葉~後期前葉の遺跡から出土した糸魚川翡翠製大珠の分布図。出土した遺跡は多いが、各遺跡で発見されるのは、たいてい1つのみ。翡翠は限られた人だけが持てる貴重品だったことがうかがえる。/出典:長者ケ原考古館作成 図録

石製の装飾品

馬高遺跡で出土した石製の装飾品。一番右の翡翠製大珠は、石の縦方向に穴が開けられた特徴的な形をしている/馬高縄文館

 縄文時代は、草創期、早期、前期、中期、後期、晩期の6期に分かれますが、翡翠の利用が始まったのは、前期ごろと考えられています。新潟県内の遺跡でも多数見つかっている糸魚川の翡翠について、長岡市立科学博物館の館長でもある小熊さんに尋ねました。「縄文以降も含めますと、新潟県内で糸魚川の翡翠が発見された遺跡の数は、百か所を超えると思われます。翡翠というと勾玉を連想しがちですが、まずは石斧(せきふ)を作る道具として利用が始まりました。装飾品として使われるようになったのは大珠(たいしゅ ※飾玉のこと)からで、縄文時代中期の遺跡から多く出土しています。信濃川流域の遺跡が顕著ですね。なかでも長岡、十日町エリアに多く、おそらく交流の拠点となるような大規模な集落があったのでしょう。県内で見つかった一番大きな大珠は、見附市・耳取遺跡で出土した10.6cmのものです」
 その後、縄文時代の後期や晩期になると翡翠は、小粒なビーズ状のかたちに加工されることが多くなり、他の石と一緒に連ねて飾られたようです。勾玉の登場も、晩期になってからと考えられています。「縄文時代の糸魚川は、翡翠を使った大珠など装飾品の一大生産地だったと想像できます。装飾品として珍重された糸魚川の翡翠は、縄文時代にはすでに現在の県域を越えて全国へ広まっていきました。時を超えた現代においても、県が誇る大切な資産ではないでしょうか」と小熊さんは話してくれました。

 

糸魚川翡翠が見られる県内施設

馬高縄文館

馬高と三十稲場の二つの遺跡に係わる資料を展示する馬高縄文館。重要文化財・火焔土器の展示をはじめ、縄文時代に興味がある人はおすすめの施設。

「馬高縄文館では、常設展示に加えて、令和4年(2022)11月26日から令和5年3月まで地元長岡市の周辺地域から出土した石器を展示する企画展を開催します。長岡市内で発見された糸魚川翡翠を一堂に見学できる良い機会ですよ」と小熊さん。糸魚川から県内全域へ広まった翡翠は各地の遺跡で見つかり、糸魚川まで足を運ばなくても身近な施設で出会うことができます。県の石に指定され、縄文文化を今に伝える翡翠をぜひ訪ねてみてはいかがでしょうか。
 後編では、糸魚川の翡翠の全国への広まりについて注目します。

 

【翡翠に関する特別企画・展示】

令和4年11月4日に「県の石」に指定された翡翠の歴史的・文化的な価値や魅力を発信するため、県立歴史博物館、県立自然科学館、県埋蔵文化財センターにおいて、翡翠の企画展などを開催します。
※施設により開催期間や休館日等が異なりますので、詳しくは各施設のホームページをご確認ください。

●県立歴史博物館「ヒスイ「県の石」指定記念ミニ展示」
期間:令和4年11月3日(木・祝)~令和5年2月5日(日)
展示資料:県内の遺跡から出土した翡翠の大珠を展示
※詳細な展示内容は、県立歴史博物館のホームページをご覧ください。
観 覧 料:常設展観覧料(一般520円、高校・大学生200円、中学生以下無料)

●県立自然科学館「ヒスイ「県の石」指定記念イベント」
企画展「日本全国『県の石』大集合!」
期間:令和4年11月23日(水・祝)~令和5年1月9日(月・祝)
展示内容:日本地質学会認定の全国47都道府県の『県の石』を展示
※詳細な展示内容は、県立自然科学館のホームページをご覧ください。
観 覧 料:無料 ※別途入館料(大人580円、小・中学生100円)

●県埋蔵文化財センター「ヒスイ「県の石」指定記念ミニ展示」
期間:令和4年11月4日(金)~
展示資料:阿賀町北野遺跡翡翠製大珠、糸魚川市六反田南遺跡翡翠原石ほか
※詳細な展示内容は、県埋蔵文化財センターのホームページをご覧ください。
観覧料:無料

 

馬高縄文館

馬高縄文館では11月26日~3月にかけ企画展『縄文石器入門~縄文石器の特色をさぐる』を開催予定。写真は企画展での展示を待つ糸魚川産の翡翠。ぜひ実物を目の当たりにしてください。

 

【翡翠を展示している施設】

※通常は常設展示されている施設でも、企画展への貸し出しなどで糸魚川翡翠の展示がない場合があります。各施設へ事前に電話にてご確認のうえ訪問ください。

●(村上市)縄文の里・朝日
村上市岩崩612-118
TEL:0254-72-1577

●(新潟市)新潟県埋蔵文化財センター
新潟市秋葉区金津93番地1
TEL:0250-25-3981

●(見附市)民俗文化資料館(みつけ伝承館)
見附市学校町2丁目7番9号
TEL:0258-63-5557

●(長岡市)馬高縄文館
長岡市関原町1-3060-1
TEL:0258-46-0601

●(長岡市)新潟県立歴史博物館
長岡市関原町1-2247-2
TEL:0258-47-6130

●(上越市)釜蓋遺跡公園・釜蓋遺跡ガイダンス
上越市大和5丁目4番7号
TEL:025-520-7166

 

掲載日:2022/11/25

 

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後編 → file-158 縄文時代に日本全土に広まった糸魚川の翡翠(後編)
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