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file-146 弱き者のために。日本近代童話の父・小川未明(後編)

  

広がり続ける未明童話の世界


 文字だけでなく、挿絵とともに、また朗読や紙芝居、イラストなど様々な形で発信されている小川未明の童話は、時代とともにバリエーションを増やし、新たな魅力を放ち続けています。令和の今、子どもも大人も五感で楽しめる未明の世界を紹介します。

未明のまなざしに触れる

魅力発信を担う小川未明文学館

文化館 サロン

高田図書館の一画にある「小川未明文学館」。3つの時代に分けて、活動や作品を紹介している。

赤い蝋燭 安西水丸

イラスト、絵本、マンガ、エッセイ、広告など多方面で活躍した安西水丸が手掛けると『赤いろうそくと人魚』もポップ/岩崎書店提供

赤い蝋燭 ちひろ

淡いトーンの水彩画が代名詞の絵本作家・いわさきちひろ。未完の遺作となった『赤い蝋燭と人魚』はラフの段階で残されていた/童心社提供

赤い蝋燭 酒井駒子

絵本作家・酒井駒子の描く『赤い蝋燭と人魚』。繊細なタッチと憂いを帯びた人魚の表情に詩情が漂う/偕成社提供

 春に桜が咲き誇る高田城址公園に立つ高田図書館の一画に、小川未明文学館があります。ここは、上越市が生んだ日本近代童話の父・小川未明の情報発信地です。作品や資料、再現された仕事部屋の展示のほか、おはなし会、挿絵展示などのイベントを通して童話作家・未明の魅力を幅広く紹介。ここでの取り組みについて、学芸員の上村聡子(かみむらさとこ)さんに伺いました。
 「市民が気軽に訪れられるよう、平成17年(2005)、図書館内に開設しました。図書館に来た際、また桜や蓮の時期に立ち寄ってくださる方もいます。展示以外にも、作品の映像を流すなど、子どもが未明の世界を体感できるよう工夫をしています」。文学館では、作品をテーマに工作やクイズなどを行うこども祭り、年に4回開催する未明についての特集展示のほか、おはなし会や文学館講座、朗読研修会、童話創作講座など多彩なイベントを主催。「未明作品には、幻想的でちょっと怖い内容のものもあるので、新しい切り口として『金の輪』を『友達に伝えたい怪談』として紹介した本を展示したところ、子どもたちの注目を集めました」など、様々な方法で未明童話を紹介しています。
 平成3年(1991)には「小川未明文学賞」を創設し、未明の志を継ぎ、子どもたちの心に夢と希望を育む児童文学作品を募集。大賞作品を単行本化する取り組みを行っています。「今年で30回目を迎えますが、これまでに延べ1万3500編の作品が国内外から寄せられました」

 

進化する読み聞かせ「おはなし会」

おはなし会

毎月第2・第4日曜の午後に小川未明文学館で開催される「おはなし会」。音楽や映像などを使った凝った構成で、1回で2話程度を上演。

おはなし会メンバー

高波さん(前列右)とともに活動するメンバー、岡本さん、袖山さん、相馬さん。「新しいメンバーを募集中です!」

 毎月第2・第4日曜日の午後、小川未明文学館では、おはなし会が開催されます。朗読に映像や影絵、音楽、効果音などを組み合わせたパフォーマンスは、幼い子どもも楽しめる内容です。演じているのは、未明ボランティアネットワークに所属するメンバーのみなさん。立ち上げ時から関わってきた高波昭子さんにお話を伺いました。
 「小川未明文学賞創設に合わせて始まった勉強会や朗読会に参加し、これまで文化の灯を守ってきました。平成15年(2003)に立ち上げて、小学校や幼稚園などで出張おはなし会を行い、文学館ができてからはここでも開催しています。作品が書かれたときとは時代が違うので、今の子どもにわかりやすく、けれど、きちんとした表現で日本語の美しさも伝えられるよう心がけています」。作品は繰り返し読み、背景や場面を想像して形にしていくのだそうです。現在は、4グループが交代で行っており、同じ作品でもそれぞれが工夫を凝らし違った演出になることも。「そういう違いも楽しんでいただきたいです」

 

令和時代の2つの『月夜と眼鏡』

諸橋さん

「約40年前から、仏の教えをわかりやすく絵本に仕立てた『施本(せほん)』を作ってきました。紙芝居も並行して同じ頃にスタートしました」/諸橋さん

紙芝居 表紙

巨大紙芝居は段ボール製。「展開に合わせ素早く絵を抜くには軽さが必要なので、ここにたどり着きました」/諸橋さん

諸橋さんと紙芝居

「紙芝居は妻との共作です。一番こだわったのは最後の花園のシーン。二人で、壊す、描くを繰り返して描き進めました」/諸橋さん

げみ 表紙

イラストレーターげみさんが手掛けた『月夜とめがね』の表紙。「大正時代の日本というより西洋のイメージで描きました」/げみさん

 未明作品の中でも人気の高い『月夜と眼鏡』は、月のきれいな夜におばあさんに起きた不思議な出来事を描いた作品です。「抽象的で幻想的な雰囲気に、以前から注目していました」と言うのは諸橋精光さん。住職と絵本作家という二つの顔を持っています。『月夜と眼鏡』を畳ほどの大きさの紙芝居に仕立てました。「巨大なのは、寺の子ども祭りで300人に見せるため。これは20作目くらいです」。脚本やラフスケッチを作っていくと、つかみどころがないように感じていた作品が、実は緻密に構成されていたことがわかったといいます。「しっかりした骨格を持つストーリーです。それでいて、優しく穏やかで、美しさが心に響く。絵と言葉を通して豊かな気持ちを伝えられたら、それは説法に通じると思うのです」。この巨大紙芝居は令和3年(2021)10月、小川未明文学館に展示されます。
 平成生まれのイラストレーター・げみさんも文豪の名作と人気イラストレーターのコラボレーション『乙女の本棚』シリーズで『月夜とめがね』を描きました。「伏線が回収されて終るのが物語のセオリーだとすれば、この作品は違います。謎は謎のまま、というよりすべてが謎。夢のような物語です」。そこで、予想のつかない展開を楽しんでもらえるように、ページごとに色使いや質感を変え、また、読む人がいろいろ感じられるように、全てを描ききるのではなく余韻を残しました。「作品の持つ空気感を大事にしました。挿絵ではなく、絵でしかできない見せ方をしようという思いを込めて描きました」。子どもだけでなく、シリーズ名通り「乙女」も大人も楽しめる画集です。

 

げみ 青いページ

月の光がうす青く照らしていたという情景を深みのあるブルーで表現。「現実ではないような空気感を表したくて」/げみさん

 

 未明童話の魅力は多様性にあると、未明研究家・小埜裕二先生は考えています。「明治から大正にかけて、北国を舞台に幻想や怪奇に彩られた童話を描いた未明は、作家人生の後半には子どもの生活や心のありようを見つめ、静かな心持ちで作品を描きました」。未明は晩年、ゆかりのある上越市・春日山に詩碑を建てました。そこに刻まれた「雲の如く 高く/くものごとく かがやき/雲のごとく とらわれず」という言葉通り、枠組みにとらわれることなく自由に進んでいく—明治・大正・昭和を生きた、日本近代童話の父・小川未明はそういうタイプの作家だったと先生は考えています。
 未明の童話はいずれも短く、少しの時間で読めるものがほとんどです。お気に入りを探して、悲しさや寂しさの奥にある温もり、弱き者、小さな者へのまなざしを感じてみませんか。

 

掲載日:2021/7/19

 

■ 取材協力
上村聡子さん/小川未明文学館 学芸員
高波昭子さん、岡本フミさん、袖山好恵さん、相馬愛子さん/未明ボランティアネットワーク
諸橋精光さん/千手観音 千蔵院 住職、絵本作家
げみさん/イラストレーター
小埜裕二さん/上越教育大学 教授、小川未明文学館 専門指導員

■ info
作品募集「第30回小川未明文学賞」

募集作品 ①短編部門 ②長編部門
応募締切日 令和3年(2021)10月31日(日)
詳細は小川未明文学館ホームページで確認ください。

■ 参考資料
小川未明(著)、諸橋精光(イラスト)『月夜とめがね』鈴木出版.
小川未明(著)、げみ(イラスト)乙女の本棚シリーズ『月夜とめがね』立東舎.

 

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