file-72 にいがたのふるさとかるた 未来に伝える地域のかるた

  

未来に伝える地域のかるた

郷土かるたと歴史

郷土かるたの一例

手作り感あふれる郷土かるた

  かるた取り大会

大判にした郷土かるたを使ったかるた取り大会は、子どもたちが頭と体を同時に働かせて楽しめるイベントとして人気があります

 お正月遊びの代表格のかるた。平安時代に貴族が貝を合わせて遊んだ「貝合わせ」がルーツともいわれています。その後、16世紀半ばにはポルトガルやスペインの影響で素材は紙に変わり、「歌かるた」が登場しました。江戸時代には詩歌のほか、動植物、歴史、社会知識などを視覚的に教える「絵合わせかるた」が作られていたそうです。
 時代とともにかるたのバリエーションは広がりました。現在は身近な地域の歴史、産業、文化を詠んだ「郷土かるた」が多く作られています。その数は1700を超えるともいわれています。遊びながら教育効果が期待でき、その土地の言葉、歴史、偉人…さまざまな魅力を次世代に伝えるツールとなりました。また、作ったかるたで大会が開かれるなど、地域交流にも一役買っています。
 新潟県内には30以上の郷土かるたがあります。その中から7つのかるたをご紹介します。

雪国の暮らし凝縮 子ども熱中

魚沼方言かるた

魚沼方言かるた(税込み2000円)。絵札、読み札、読み手CD、魚沼昔ばなしCDのセット。県外に住む魚沼出身者からも「お国なまりが懐かしい」と評判だそうです。縦60センチ、横45センチの巨大かるたは小出郷文化会館が貸し出しています。かるたセットを持つ桜井さんと、巨大かるたを持つ会館職員の坂牧賢吾さん。
問い合わせは魚沼市小出郷文化会館:
025(792)8811(平日9時-17時)

大会風景

大会でかるた取りに熱中する子どもたち。家族も応援に駆け付け、かたずをのんで見守る。

 しんしんと雪が降り積もる魚沼では2月、小学生たちが恒例の「『魚沼方言かるた』かるたとり大会」で白熱します。魚沼方言かるたは2009年に市文化協会が10周年記念事業として作成。伝統行事や方言、自慢の農産物などを次世代に伝えようと誕生しました。読み句の募集には市民から2818句が寄せられ、「地域の宝」が凝縮された45句がかるたになりました。
 中でも地域色が光るのは「ん」の札です。
 「んまげだの 炊きたてまんま コシヒカリ(おいしそうだのう うまいのはなんてったって 炊きたてのコシヒカリご飯だ)」。山々の美しい水で育った魚沼産コシヒカリを想像してみてください。つやつやの白い米粒や、香り豊かな湯気を前にして思わず、つばをごっくん。「んまげだの」。腹の底からわき出るような方言がぴったりですよね。また、春の喜びが詠まれた句にも味わいがあります。「魚沼の 春が顔出す ふうきんとう(ふきのとう)」。3メートルもの雪に見舞われる魚沼。春を待ちわびる人々の心が描かれています。
 かるた作りは、大人にとっても互いの地域を知るきっかけになりました。2004年に堀之内町、小出町、湯之谷村、広神村、守門村、入広瀬村が合併してできた魚沼市はこの年、市政5年を迎え、各地域から集まった選定委員が自慢の行事を句に織り込みました。例えば、旧正月に新婿に水を浴びせて家門繁栄を願う奇祭「雪中花水祝い(堀之内)」、作物の豊穣などを祈って空に向かって弓を引く「十二講(魚野川流域)」です。また、当時は2004年の中越地震の被害が記憶に新しく、かるたには震災復興の願いが込められました。「家崩れ みんなたまげた 大震災」の句を掲げ、復興に向けて心を一つにしました。
 絵札を描いたのは、日本画家の田中博之さん=東京都=です。題材となった行事や風景に足を運んで、イメージを膨らませました。地元の人々は行事の細部まで表現しようと、田中さんに何度も絵の手直しをお願いする熱中ぶりでした。当時、担当理事として関わった小出郷文化会館館長の桜井俊幸さんは「それだけみんながかるた作りに真剣だったんですよ」と、笑いながら当時を振り返ってくれました。
 かるたは、地元の「囲炉裏端で昔ばなしを聞く会」が声を吹き込んだCDを付けて完成しました。毎年2月に開かれるかるたとり大会は、小学生を中心に参加者が増え、今では150人が集まります。この日は昔ばなしを聞く会の“生声”に合わせて競います。読み句を聞き逃すまいと集中する子どもたちの顔は、真剣そのもの。かるたに刻まれた言葉と風景が、子どもたちの心に根を広げ、芽を出し始めています。

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自然・食・歴史、色彩豊かに発信

山の四季再現 表現力開花

 「春日山じまんカルタ」(上越市)に描かれているのは、地元の小学生が五感でとらえた春日山の四季です。上杉謙信の居城・春日山城跡の豊かな自然と歴史が見事に再現されています。
 「よ」の札は、初夏の夜を彩るホタルの光と、釣り鐘型の白い花「ホタルブクロ」が組み合わせられ、幻想的な絵柄が目を楽しませます。「あ」は繊維となる植物「青苧(あおそ)(カラムシ)」がテーマ。青苧が謙信公の時代の経済を潤したとされ、絵札には力強い謙信公の姿と青苧の大きな葉っぱが描かれています。
 制作したのは上越市春日小学校の4年生約120人です。2012年度、雪解けの時期から再び冬を迎えるまで何度も山に登り、動植物や史跡を観察しました。子どもたちの目に写ったのは、癒やされるような桜のピンク、元気が出るビタミンカラーの緑、燃えるような紅葉の赤。自然に触れるたびに成長していく子どもたちの表現力をあますことなく形にしようと、学習の成果を四つ切りの厚紙を使って、かるたにまとめました。作品は2013年度に市内8カ所でお披露目した後、校内に展示しています。
    

絵札「よ」

「よ」の絵札。ホタルブクロにホタルがとまっている構図は、「ホタル」になぞらえて、子どもたちが想像して描きました。

絵札「あ」

「あ」の絵札。元気いっぱいに描かれた青苧と謙信公。子どもたちは青苧の着物を見たり、歴史に詳しい地元の大人に話を聞き、青苧の歴史を肌で感じました。

方言の良さと昭和の風景との融合

新潟弁かるた

新潟弁かるた(税込み2600円)。桐箱入りで札が取り出しやすいよう、工夫も施されています。
問い合わせは新潟活版所:
025(283)4195(平日9時-18時)

 「新潟弁かるた」(新潟市)には、昭和の風景と新潟弁の親しみやすい会話がつづられています。新潟市の下町生まれの佐藤聖峰さんが方言の良さを後世に伝えようと手掛けました。「敬語から方言に変えると、相手との距離を一歩進められる。ぐっと友達になれるっていうのかなぁ」と語る佐藤さん。幼い時に遊んでいたかるたを作ろうと思い立ったそうです。
 絵札に協力したのは新潟市のイラストレーター・くりはら淳子さんです。佐藤さんがくりはらさんの個展で本人に声を掛け、タッグを組むことに。何度も相談を繰り返し、試行錯誤の上完成しました。銭湯(せんとう)の煙突、町を歩く豆腐売りなど懐かしい光景が、温かみのあるタッチで描かれ、方言の柔らかさと融合しています。かつて万代橋近くに打ち上げた花火を描いた1枚は「わいやー(ものすごい)と さけんでしまう 川開き」と、勢いある方言で感動を伝えています。さらにユニークな1枚も。「らろも そーらろも おっかねっけ(だけれども そうだけれども 怖い) 付いてきて」。夜に起きた子どもが便所に付いてきて欲しいと親にせがむ場面です。かつての和式便所は暗くて怖いもの。誰しも経験があるのではないでしょうか。
 かるたは2009年に完成。長持ちするよう、厚手の丈夫な紙で作り桐箱に詰めました。子どもからお年寄りまで幅広い世代に好評で、第11回新潟市土産品コンクールで金賞を受賞しました。「一家一家に置いて、長く使ってもらえたら」。佐藤さんの願いが込められています。
 

郷土の偉人・技術・遺産 一堂に

つばめっ子かるた

つばめっ子かるた(税込み1000円)。読み札は地元の書家・長谷川白楊さんが担当しました。
問い合わせは燕市教育委員会生涯学習課:0256(63)7002
(平日8時30分-17時15分)
 

旧浄水場配水塔絵札

旧浄水場配水塔の絵札。配水塔は2013年に国の登録有形文化財となりました。

 燕市の「つばめっ子かるた」は温かみのある絵札が郷愁を誘います。2006年に合併した燕市の一体化を図る「燕はひとつプロジェクト」の一環で作られました。原画を手掛けたのは新潟市出身の絵本作家・黒井健さんです。絵本「ごんぎつね」「手ぶくろを買いに」などで知られる黒井さんが、燕市を取材して描きました。
 読み句は市民から寄せられた530点の中から選ばれた44句。華やかなおいらん道中や、燕市が世界に誇る洋食器などが詠まれ、偉人も多く登場します。良寛様をはじめ、鎚起銅器(ついきどうき)の名工で人間国宝の玉川宣夫さんらが名を連ねます。
 また、かつて新潟と燕を結んだ新潟電鉄の通称「かぼちゃ電車」の姿も。絵札の中では黄色と緑色の懐かしい車体で快走を見せます。今も市民から愛されている旧浄水場配水塔の札も秀逸です。昭和前期から街の移り変わりを見守ってきた配水塔。夕景に浮かび上がるその姿は、人々の心の風景ともいえそうです。
 

    



  

郷土料理と地元食材で健康願う

2008佐渡食育かるた

2008佐渡食育かるた(販売はしていません)。
問い合わせは佐渡地域振興局健康福祉環境部地域保健課:
0259(74)3403(平日8時30分-17時15分)
 

 作業中の推進員さん
 

原画に色を塗る推進員の皆さん。一枚一枚丁寧に仕上げました。
 

 佐渡市の食文化と健康づくりをテーマに作られた「2008佐渡食育かるた」。絵札には島ならではの郷土料理や、栄養たっぷりの地元食材が描かれています。新潟県食生活改善推進協議会佐渡支部が「子どもたちに遊びながら食育を学んでもらおう」と2008年に作り、市内の小学校や幼稚園などに配りました。原画のデザインや色塗りは推進員が子どもたちの成長を願いながら、手がきで仕上げました。
 読み札は「さどの海 おいしい魚のとれるとこ」、「芽かぶはね ワカメの根っこ うめーなぁー」といった海の幸にちなんだものが目を引きます。佐渡のシンボル、トキが舞う里でとれる美味しいお米も絵札になりました。端午の節句に食べる、カヤの葉で包んだ団子「たいごろ」、金太郎飴のように切って模様が楽しめる円筒形の団子「やせうま」など、地域に親しまれてきたお菓子などが幅広く紹介されています。
 読み句には管理栄養士さんによる解説が付いていて、歯みがきや朝ごはんの大切さも詳しく伝えています。「食いしん坊 おかわりしすぎて 太りすぎ」「とうちゃんのメタボ 気づかい 歩きます」などは、正月で食べ過ぎた大人にとっても耳が痛くなる句です。食育かるたを通じて食卓の会話が弾みそうです。

伝説や祭り 地域の宝発信

まちしるべかるた

まちしるべかるた。販売はしていませんが、貸し出しを受け付けています。
問い合わせは柏崎青年会議所:
0257(21)4412(平日10時-16時)

子どもたちが描いたふるさとの魅力展

2010年に開かれた「子どもたちが描いたふるさとの魅力展」。子どもたちが地域の宝をのびのびと描いています。
  

 「まちしるべ」という言葉をご存じでしょうか。柏崎青年会議所は、伝説や偉人にゆかりある場所に石碑を建て、「まちしるべ」と名付けて“柏崎地域の宝”を発信しています。「まちしるべかるた」もその一環で発案されました。2010年9月、「子どもたちが描いたふるさとの魅力展」に出品された1152点の中から、来館者がお気に入りを選んで投票しました。投票数が多かった50点を絵札にして、読み句を付けました。
子どもたちが描いた“地域の宝”はさまざま。まず紹介するのは「かしわの大樹」です。古くから漁師の目印となり、柏崎の名前の由来とされています。また、貧しい老婆に弘法大師が塩水を出してみせたという伝説も、想像力豊かに描かれています。「え」の句はもちろん、子どもが大好きな「えんま市」。出店と笑顔の人々でにぎわう様子が色鮮やかにとらえられています。ぎおん祭りの絵札も華やかです。海上を彩る光の大輪が夏の楽しさを伝えます。かるたに描かれた地を訪ね歩くのも一興ですね。

日常から行事まで 方言満載

せいろうことばかるた

せいろうことばかるた(税込み1000円)。CD付きで1人でもかるたを楽しむことができます。
問い合わせは町民会館:0254(27)2121(午前8時30分-17時)

大判かるた取り大会

縦80センチ×横60センチの大判かるたで遊ぶ子どもたち。元気に走り回って競い合います。

 聖籠弁がぎっしり詰まった「せいろうことばかるた」は、方言のイントネーションを伝えるCDが付いています。もともと、お正月に大人と子どもが昔なつかしい遊びで一緒に楽しんでもらうイベントを行っていた町民会館を中心に、住民がオリジナルのかるた作りを発案。次第に消えゆく昔ながらの言葉を残そうと、2011年から文章を集め、絵札は親しみやすいタッチで描きました。完成したかるたはさっそく、2012年1月のイベントから活躍しています。
 読み句は町誌にある聖籠弁一覧をもとに作りました。「えごいもの 入ったのっぺを かもしなせ(里芋の入ったのっぺ汁を かき混ぜてください)」、「らんらんと 光る目おっかね 神楽獅子(らんらんと 光る目が怖い 蓮潟神楽の獅子舞)」-。日常の何気ない会話から、地域の伝統行事を織り込んだものまで、幅広く方言を集めました。中には思わず顔がほころんでしまうようなかわいい絵札もあります。例えば、「みよけたら ひよこがこったま めんごいな(卵から孵(かえ)ったら ヒヨコがたくさん かわいいな)」。画面いっぱいのヒヨコたちの鳴き声が聞こえてきそうです。
 CDの声に協力したのは地元の女性で、生粋の聖籠弁で協力してくれたそうです。CDを流せば、方言のイントネーションがわからない人も読み句を練習できます。県内各地のかるたを集めて、方言を比べるのも面白いかもしれませんね。
 

<参考ホームページ>

▷ ・日本郷土かるた協会ホームページ
※この情報は2014年1月現在のものです。

 


■取材協力
桜井俊幸さん(魚沼市小出郷文化会館 館長)
坂牧賢吾さん(魚沼市市民課文化振興室

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県立図書館おすすめ関連書籍

「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。

▷『いろはカルタの文化史』

(時田昌瑞著/日本放送出版協会/2004年)請求記号:書庫/798 /To33

▷『ことわざで遊ぶいろはかるた:日本のことば』

(時田昌瑞著/世界文化社/2007年)請求記号:388 /To33
 著者の時田氏(ことわざ・いろはカルタ研究家)は、ことわざの研究を進めていく過程で、古書展や骨董市に通ううち、いろはカルタの概要を知り、いろはカルタの新史料と出会ったということです。
 上記の2冊では時田氏が、カルタには「子どもの遊び」という一般的なイメージとは違う側面、すなわち「大人の文化」として側面があると考え、新史料を通してその魅力を紹介しています。江戸時代から現代までのカルタの写真も数多く掲載されています。

▷『かるた』NHK美の壺』

(NHK「美の壺」制作班編/日本放送出版協会/2008年)請求記号:くらし/708 /B44 /35
 本書では大人がかるたを楽しむための3つの視点が挙げられています。まず、「かるたは遊ぶだけにあらず 見て楽しめ」、次に「お見事!花札に込めた職人たちの知恵」、最後に「かるたは文化を映す鏡」という内容です。
 巻末には「達人のことば」として、時田氏の解説があり、「いろはかるたは日本が世界に誇れる日本のことわざの精髄であり、最高の傑作、といっても過言ではないと思っている。」と述べられています。
 全体で70ページ程度の頁数ですが、かるたを楽しむツボが押さえられ、読みやすい1冊です。
 

▷『光琳カルタで読む百人一首ハンドブック』

(久保田淳監修/小学館/2009年)請求記号:911.1 /Ku14
 江戸中期の画家、尾形光琳の「小倉百人一首歌留多」には上句100枚と下句100枚の合わせて200枚の札があり、九条家、鴻池家を経て、現在は個人蔵として保存されています。「上句の札にはそれぞれの歌人の像、(中略)下句の札にはそれぞれの歌意に合わせるように花鳥山水などを配した絵が描かれている」(本書p135より)もので、本書ではそれが百人一首の和歌とともにカラーで掲載されています。現代語訳や和歌の観賞に役立つ解説も載っていますので、光琳カルタと百人一首の両方を楽しむことができる1冊です。

ご不明の点がありましたら、こちらへお問い合わせください。
(025)284-6001(代表)
(025)284-6824(貸出延長・調査相談)
新潟県立図書館 http://www.pref-lib.niigata.niigata.jp/

 

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