
file-151 日常の美~新潟の焼き物〜(後編)
伝統が息づく瓦と民芸陶器
五頭山から風化した花崗岩が運ばれて堆積した良質の粘土を原料として、古くから焼き物が盛んな阿賀野市。その中でも、庵地(あんち)と呼ばれるエリアには、「安田瓦」と「庵地焼」が地域に根付く伝統の技術を受け継ぎ、品質にこだわってモノづくりをしています。
暮らしに寄り添う焼き物
雪国仕様の堅ろうな瓦

「メンテナンスが不要で、割れたら1枚から交換ができる瓦は、長い目で見ると非常に経済的です」/五十嵐福司さん
「一般的な住宅で1500枚、お屋敷ともなれば万単位。何しろ瓦は大量に必要なんです。そこで、原料の土が豊富にあり、焼き物の技術を持つ職人が多くいて、さらに、阿賀野川の舟運がある。これらの要素が揃った阿賀野地域は、瓦製造に最適だったのです」と話すのは、安田瓦協同組合の五十嵐福司さん。安田瓦の歴史と特徴について伺いました。

全国の瓦産地を示したマップ。安田瓦協同組合70周年を迎えた平成17年(2005)に制作されたそうで、現在はこのマップよりも生産地が減っている。

「旧新潟税関庁舎」の瓦も安田瓦。県内外の歴史的建造物に使われており、福島県の鶴ヶ城も安田瓦に守られている。
『安田瓦は3代持つ』といわれるほど堅ろうな雪国仕様の安田瓦。阿賀野川を経て北前船で東北、北海道へ運ばれ、厳しい自然環境の中でも人々の暮らしを守っていました。
「長持ちが身上ですから、建て替えの時には瓦を外して再利用できます。昔は、寺や旦那様のお屋敷の建て替え時に瓦を譲り受けるのは、名誉なことでもあったんですよ」
そして、最終的には土に戻してリサイクル。このように、サスティナブルで環境に優しい安田瓦は、現在では年間1600万枚を生産しています。
143年続く、民芸の窯元

取材時は運良く不純物を取り除いて自然乾燥中の土を見ることができた。一つひとつ水分量が違うため、指で触って仕上がりを確かめてから室内へ運ぶ。

工房兼住居の一角にある販売スペース。一点物はもちろん、同じ種類の器でも個性があるためすべての出逢いが一期一会。
原料となる土は100%庵地産。自分たちでこなし、水に溶かして撹拌(かくはん)し、木の葉や砂などの不純物をふるいに通して丁寧に取り除きます。そして泥水の状態から水抜きをして泥へ、手に持てる固さの土へと移行させていく…ここまで約2か月。人の手と足による作業を一つひとつ積み重ね、作陶のできる土に作り上げていきます。「五頭山地から阿賀野川の氾濫によって運ばれてきた土なので土質は様々。だから、土づくりは気が抜けません。1300℃の高温で焼くので、わずかな見逃しがひび割れや穴になり、出来上がりを大きく左右するからです」と佳雪さん。
庵地焼を代表する品物は、一般的な品物より10倍は手間が掛かり、外側に面取(めんとり)を施した湯飲みや急須、コーヒーカップなどの民芸陶器です。特筆すべきは、庵地黒(あんちぐろ)とも呼ばれる、つややかな黒色。けやき材を自分たちで集めて灰にしてオリジナルの釉薬を作っています。「釉薬を掛けて乾かし、余計な釉薬をそぎ落とし、また掛けて乾かすという、昔のままのやり方を守っています」と聖峰さん。
143年の歴史の中で、作るものがすり鉢や植木鉢から、食器中心に変わっていますが、工房のたたずまいや土に向かう姿勢は変わりません。それは5代目となる、佳雪さんの娘さんたちにも受け継がれていくことでしょう。
人の力で土を活かす

瓦屋根はこのような遊び心のある装飾を施すこともできる。男の子が3人、女の子が2人いるご家庭の屋根だそう。

「土作りからすべてを手作業で行っている窯はほとんどないはず。私たちは『絶滅危惧種』みたいなものよ」と佳雪さん/右から旗野麗山さん、聖峰さん、佳雪さん
庵地焼の旗野窯でも、地元の土を活かしきるために三姉妹は全力を尽くします。「手を掛ければ掛けるだけよい土になりますが、こちらが手を抜いたら、しっぺ返しされます。土は生きています」と旗野麗山さん。
ひたむきに土と向き合い、より良いものを目指して努力を惜しまない。そうした真摯なモノづくりによって生み出される新潟の焼き物は、美しさと実用性を併せ持ち、使う人に寄り添い、温かく包み込みます。日常の美しさを宿して。

敷地内にある、平成19年(2007)に復活した京式登り窯。焼成室が7つ連なっており、この規模の登り窯は全国的にも珍しく貴重。
掲載日:2022/1/17
■ 取材協力
五十嵐福司さん/安田瓦協同組合 専務理事
旗野麗山さん、聖峰さん、佳雪さん/庵地焼 旗野窯
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