file-33 北限の茶どころと新潟のお茶 ~北限の茶どころで「村上茶ムリエ」に
村上茶の歴史
この日の講師は矢部智弘さん。金と銀の二つの茶筒に入った別々のお茶の葉を「一つは100g300円、一つは100g1000円の葉です。どっちがどっちか、分かりますか?」と最初はクイズ形式です。その後、1000円のお茶と300円のお茶の違いやそれぞれをおいしくいれるコツをうかがいました。
山形県境に近い新潟県村上市。ここでお茶の栽培が始まったのは江戸時代の始め、1620年代のことです。希少価値の高かったお茶は、全国各地で栽培が試みられ、新潟県内でも各地で取り入れられましたが、現在も産地として残っているのは村上だけ。全国的に見ると、栽培と製造販売までを行っている産地としては、ここが北限となっています。
1674年には「茶畑役」という税ができていることから、村上藩も栽培を奨励し産業として成り立っていたことがうかがえます。そして明治に入ると、茶は外貨が稼げる輸出品として脚光を浴びます。全国的に茶が増産され、村上でも最盛期の栽培面積は650ヘクタールに上りました。明治の半ばには紅茶の製造も行われ、主にアメリカなどに輸出されています。
しかし、その後は絹の輸出が盛んになって茶畑が桑畑に変わったり、戦中戦後の食糧難、戦後の都市化で茶畑は減少を続け、一時は20ヘクタールにまで減少。現在茶畑は微増して22ヘクタールほどになりました。とはいえ市内には現在11軒のお茶屋があり、うち半数ほどが栽培、製造、販売を一貫して自社で行っています。
村上茶の特徴は、全国的に少なくなった在来種が多いこと。中には江戸時代から続く茶の樹もあり、昔ながらの茶の味を守っています。また、並行して生産量を確保するために「やぶきた」をはじめとする優良品種の新植も行われています。
村上茶ムリエになる
村上茶ムリエ講座は、昔ながらの町屋で開催されていますので、町屋の雰囲気ごとお楽しみ。あたりにお茶の良い香りがただよいます。
お茶の葉の特徴やお湯の温度と抽出成分などについてお話をうかがった後は、実習タイム。「大事なことです。いれた後は、急須の中のお茶がむれないようにふたを開けてください」と説明されているのですが、つい忘れてしまいます。
グループに分かれて一人一人お茶をいれ、全員で飲みます。同じようにいれたつもりでも人によって味が違う不思議を味わうことになります。おなかもいっぱいになります。
機械製茶になる前に行われていた手揉製茶の復活や、明治に行われていた紅茶の復刻、茶葉による染め物など、村上市では「北限の茶どころ」をさまざまな場面でPRしています。「村上茶ムリエ」もその一つ。日本茶インストラクターでもある飯島剛志さん(冨士美園)、矢部智弘さん(常盤園)のお二人が講師となって、煎茶の味を引き出すいれ方、お茶の値段や成分などについて、お話してくれます。普段飲んでいるお茶でも、ここでコツを覚えれば「お茶っ葉変えた?」と言われること必至です。
飯島さんは新潟県村上茶手揉保存会の会長でもあり、手もみ製茶技術競技大会で2008年には最優秀賞を獲得しました。忙しい合間を縫っての村上茶ムリエ講師ですが、飯島さんは「村上でお茶の作付けを増やし、皆さんにおいしいお茶を飲んでもらいたい。たくさんの人に、生活の中にお茶を採り入れ、もっと豊かに楽しんでもらいたい」と話します。村上茶ムリエ講座は、これまで500人を超える人が受講し、村上茶ムリエに認定されています。
お問い合わせ、参加申し込みは村上市観光協会までお願いします。
file-33 北限の茶どころと新潟のお茶 ~富山だけじゃないバタバタ茶
糸魚川のバタバタ茶は富山と違う?
石田さんがバタバタ茶を振る舞う時は、会のメンバーと地元の食材で漬け物や煮物などの箸休めを用意することが多いそうです。「小学校でやったりすると、バタバタ茶じゃなく漬け物がおいしかったなんて手紙をもらったりしますが、どちらも地元の食文化なのでそれで良いと思っています」と石田さん。
バタバタ茶は専用の器(かつては松江の布志名焼だったそうです)に、まず塩を少々。泡立てるので塩味は思いのほかマイルドなアクセントになります。「昔は食事の前にバタバタ茶を飲まされ、それでお腹をいっぱいにさせられたと年配の方から伺いました。そういう飲まれ方をしていたみたいですね」という。
そしてポットから煎じてあるバタバタ茶を注ぐ。茶葉25gにお湯1.8リットル。これを薬罐で1時間ほど煮出したものです。昔はどの家にも囲炉裏があったので、囲炉裏にかけっぱなしになっていたそうです。
専用の茶筅(山竹を2本束ねた夫婦茶筅と呼ばれるもの)でバタバタ。「一文字を書くように」します。茶筅などお道具一式は糸魚川観光物産センターで販売しています。
これがバタバタ茶。「飲んで下さった方がほっとする味だと言って下さいます」と石田さん。ちなみに、泡立てないで飲んでも美味しいお茶ではありますが、泡立てたものは格別です。
バタバタ茶の会で使っているお茶の中身です。茶の花はメンバーで摘み、カワラケツメイは地元農家に頼んで栽培してもらい、煎るのも干すのも手仕事。大変な努力で成り立っています。おいしく召し上がって下さい。
富山県境に近い糸魚川市。ここには「バタバタ茶」を喫する習慣があります。バタバタ茶というのは、大きく長い茶筅で“バタバタ”と泡立てていただくお茶。富山県朝日町が有名ですが、あちらは発酵茶で糸魚川はマイルドな不発酵茶。いろいろと違いがあります。「バタバタ茶の会」会長の石田千枝子さんによれば、「茶の花とカワラケツメイ、煎豆などさまざまなものを合わせて煎じるのが糸魚川のバタバタ茶。朝日町のバタバタ茶は、法事など人が集まる機会に飲まれるものですが、糸魚川では常に囲炉裏にバタバタ茶が掛かっており、毎日の飲み物でした」とのこと。幼い頃に飲んだという人も70~80代になっており、日常的な習慣だっただけに文献も少ないため分からないことも多いといいます。「江戸時代に北前船で出雲から入ってきた文化ではないかと、相馬御風さんが研究されていたと聞いています」と石田さん。島根県にはボテボテ茶と呼ばれる喫茶習慣があり、あちらはお米も入ってお腹を膨らませる目的とお茶が合体したもの。幕末の松江藩主で茶人として活躍した松平不昧が広めたとされています。バタバタ茶には米は入りませんが煎った大豆が茶葉に混ぜられており、器には島根の布志名焼を使っていたそうです。布志名焼は松平不昧の好みを映して始められ、広まった焼き物といわれています。
file-33 北限の茶どころと新潟のお茶 ~茶はフリーダム
「お茶」はfreedom!
一口に「茶」と言っても、意味するところはさまざま。中国から入ってきた植物、そして文化ですが深く日本に浸透しています。茶の産地である村上では、番茶は茶色ではなく緑色、佐渡の一部では茶がゆを食べる習慣があり、今も自家用茶を作っているところがあります。糸魚川のバタバタ茶には茶の葉ではなく花を使いますが、この花を摘む場所の地名は「茶畑」。かつて栽培が行われていたらしく、とても古い木から摘むそうです。
日常喫するお茶とは異なる「茶の湯」も、日本の大切な文化の一つ。「新潟は、全国的に見てお茶は盛んな方だと思いますよ」と堀一孝さんは言います。茶道には大きく分けると千家を筆頭とする町人茶と、遠州流や石州流などの武家茶があるそうですが、新潟県では江戸時代に諸藩の大名が愛好したため武家茶の流れが多いそうです。堀さんは石州流越後野村派宗匠を、この5月に襲名します。
堀さんは、茶道を一言で言い表すとすれば「お茶は自由!」と言います。各流派によってさまざまな点前、ルールはあり、日本の多くの芸術表現がそうであるように、茶道でもまずは「型」を習得するところから始まります。しかし、茶道の本質は「その先にあります。亭主と客がいて、その間に茶がある。茶を仲立ちにして双方で作り上げる時間と空間の芸術なのです」と堀さん。客と亭主の間でどんなコラボレーションが繰り広げられるか、何が生まれるか。そこは「自由」なのだといいます。
堀さんによれば、茶道愛好人口の9割が女性。しかし近年は男性雑誌で茶道の特集が組まれたりして若い男性の間でも関心は広まっているといいます。「確かに茶道にとって礼儀作法は重要な要素ではあります。が、茶道の本質は別のところにあると思います。相手があって、自分があるということ。どれだけ相手のことを考えることができるかというのは、果てのない人間修養。茶を仲立ちとして、自分を磨く場でもある」。
「私はドラムを演奏するのですが」と堀さん。茶を例えるなら、ジャズのセッションにも通じるそうです。ジャズのルールの上で音楽を仲立ちにして、互いの感覚を研ぎ澄まして奏で、そしてたたえ合う。茶は、茶道の作法の上で茶を仲立ちとして、その時間を共有する。「そこには日本の四季、非対称、研ぎ澄ました簡素さなど茶道から発展してきた美学も取り入れられます。最も大切なのは、その時、その人、その感覚の時はその一瞬しかないということ。これが一期一会です。極言すれば、一服のお茶をおいしくいただくということです。良い演奏ができてよかったね“good job!”ということです」と話します。
県内には茶室も多く、各地で茶会が開かれます。茶道教室は個人でも公民館でも行われているので、まずは一度訪ねて見てください。
file-33 北限の茶どころと新潟のお茶 県立図書館おすすめ関連書籍
県立図書館おすすめ関連書籍
「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。
▷『お茶は世界をかけめぐる』
(高宇政光/著 筑摩書房 2006 619-Ta55)
日本茶インストラクターの著者による日本“茶”研究の集大成。第1章「村上の春」では、村上市の丘陵地にある茶畑や歴史史料を訪ね歩いた時の様子が紹介されています。茶畑の様子を語る著者の文章からは、お茶を愛する心が立ち上ってくるようです。
▷『緑茶のマーケティング “茶葉ビジネス”から”リラックス・ビジネス”へ』
(岩崎邦彦/著 農文協 2008 619-I96)
実は最近、仲間の間でペットボトル入りの「村上茶」が話題に上りました。村上紅茶につづき緑茶もコンビニにお目見えしたとか…。緑茶のマーケティング戦略がいかに練られているのかを知ることで、ドリンク選びがもっと楽しくなるかもしれません。
▷『お茶の世界の散歩道 お茶には愛される理由がある』
(森竹敬浩/著 講談社出版サービスセンター 2009 619-Mo66)
洋の東西を問わず、「茶」の歴史やエピソードを紹介した一冊。おすすめのエピソードは「日本茶輸出物語」です。日本茶と幕末の攘夷運動にそんな関連性があったなんて…。「目からウロコ」の情報が満載です。
▷『日本茶のすべてがわかる本 日本茶検定公式テキスト』
(NPO法人日本茶インストラクター協会/企画・編集 農文協 2008 619-N71)
日本茶の歴史・製法はもちろんのこと、美味しいお茶の入れ方など、日本茶の「すべて」がわかります。インターネットによる検定なので、どなたでも受験可能とのこと。あなたも「茶検」1級を目指してみませんか?
▷『村上郷土史物語』
(横山貞裕/著 村上商工会議所 1972 N211-Y79)
本書は、村上商工会議所が発行した非売品で、県北・村上市の郷土史を紹介した貴重な一冊。「第十八話 村上茶の由来」では、茶木が村上に移植された経緯などがわかりやすい文章で詳述されています。
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