file-49 マンガ王国・新潟 ~マンガ王国・新潟ができるまで

  

マンガ王国・新潟ができるまで

新潟出身のマンガ家たち

 新潟は県下全域でマンガ家を輩出している。新潟市では、「ドカベン」の水島新司、「うる星やつら」の高橋留美子、「パタリロ」の魔夜峰央など、中越地方では「るろうに剣心」の和月伸宏、「DEAR BOYS」の八神ひろき、「頭文字D」のしげの秀一など、マンガだけでなくテレビアニメ化や実写映画化になった作品も多い。

 また、出身地・新潟の要素が作品の中に取り入れられているケースもある。「るろうに剣心」のキャラクターの名前には、新潟県内各地の地名が使われていたり、水島新司の「あぶさん」では新潟の野球場やお酒なども登場したりと、新潟県出身者にとっては「おっ」とうれしくなる瞬間だ。

「ドカベン」

水島新司
新潟市出身。「ドカベン」や「野球狂の詩」など野球漫画の第一人者。新潟市古町通5番町「水島新司マンガストリート」に並ぶ山田太郎らの銅像は有名。
(c)水島新司/秋田書店

「犬夜叉」

高橋留美子
新潟市出身。「勝手なやつら」でデビュー。このほか、「うる星やつら」、「めぞん一刻」、「らんま1/2」、「犬夜叉」など、誰もが知るヒット作が多い。
(c)高橋留美子/小学館

マンガ家が多い理由とは

 そもそも、なぜ新潟にはマンガ家が多いのか。日本アニメ・マンガ専門学校の小池利春さんに話を伺った。「よく言われているのは、雪で外に出られないからこたつで絵を描く“こたつ文化”が背景にあったという説。これも一理あると思います。ただ、歴史背景から紐とくこともできます。マンガ家の第1世代は赤塚先生や水島先生たちの新潟にゆかりがあったり、新潟出身者が多かった。これらの先生方が“ひと旗あげよう”と、必死に頑張ったおかげでマンガが広まり、その次の第2世代の魔夜峰央先生、高橋留美子先生が登場。そして、同人誌が広まりマンガの専門学校も設立されて“自分も描きたい“という人が急激に増えた。これが今の第3世代です。生活に密着して、より身近になったことが、マンガ家が増えた原因だと思います」。隣のお兄さんがマンガ家だったり、友達がマンガを描いていたりと、”マンガを描く環境“が、生活に浸透したからこそ、マンガ家が増えたのかもしれない。

「るろうに剣心」

和月伸宏
旧三島郡越路町(現長岡市)出身。長岡高校卒業。高校在学中に「ティーチャー・ポン」で第33回手塚賞佳作を受賞しデビュー。「るろうに剣心」は世界的にヒットした。
(c)和月伸宏/集英社

「砂山」の歌碑

小池利春さん
日本アニメ・マンガ専門学校、マンガクリエイト科学科長。講談社でマンガを描いていた経験を持つ。

小学生からマンガを楽しめる舞台 ~ガタケット~

 来年で設立30周年を迎える同人誌の展示即売会「ガタケット」も、マンガ家を輩出する要因のひとつ。発足当時は出展サークルが50程度で、来場者も300人ほどだったが1990年代には3,500サークルが集まり、客も約25,000人に増加した。ここに参加した小中学生が有名マンガ家になった例もある。事務局代表の坂田文彦さんはこう言う。「小学生でも参加できますから、手前味噌ですがガタケットの影響は少なからずあると思います」。ひとりでただマンガを描くだけではなく、発表して客の反応を見て試行錯誤することができる場が、新潟には定期的にあるのだ。

坂田文彦さん

坂田文彦さん
同人誌即売会ガタケット事務局代表。万代BP2にオープンした撮影スタジオ「ガタケットコスプレパーク」の運営も手がける。

file-49 マンガ王国・新潟 ~新潟から発信する若手マンガ家たち

  

新潟から発信する若手マンガ家たち

デビューを目指す、若手マンガ家

 新潟出身者が描くマンガのレベルの高さは、編集者の間でも折り紙つき。ある有名出版社の編集者が「新潟はレベルが高い」と言うほどである。新潟市古町にある日本アニメ・マンガ専門学校のマンガクリエイト科に通う佐藤恵理子さんは、雑誌に応募して数々の賞を受賞し、出版社の編集者から注目されている存在だ。「今、どんなのを描いているの?」と、定期的に編集者が佐藤さんに連絡して様子を聞く。人一倍の努力家だと担任の児玉直樹先生も認める。「佐藤さんはJAM(日本アニメ・マンガ専門学校)創設史上、もっともたくさんマンガを描いた学生で、実力もあります。デビューに一番近い存在ですね」。目指すのは月刊誌。プロのマンガ家と同じように月に1本は作品を仕上げるよう心がけてきた。「もっともっとクオリティを高めたい」と、日々、マンガと向き合い自分と戦う。今春、学校を卒業したらバイトをしながらマンガを描き続ける予定だ。ただし、タイムリミットは2年と決めている。「社会人として働かないといけないから」。それまでに商業誌でのデビューを目指す。

児玉直樹さん

児玉直樹さん。新潟市出身。日本アニメ・マンガ専門学校マンガクリエイト科の先生として、生徒の指導にあたる。

佐藤恵理子さん

佐藤恵理子さん。新潟市出身。小学校から4コママンガを描いていた。高校卒業後、「マンガでは食べていけない」と、あきらめて就職を考えたものの「やっぱりマンガ家になりたい」と日本アニメ・マンガ専門学校へ入学。

マンガ家として新潟で活動したい

 商業誌ではデビューしていないものの、マンガを生業とする新潟県在住の日下ヨルさんは、月刊誌のマンガ家よりもハイペースでマンガを描く。出版社の担当者もついていて、全国にファンも多い。高校卒業後、好きだったマンガから離れて東京の映像専門学校へ。しかし、体調を崩して帰郷し、療養しながらマンガを再び始めた。コミックマーケットやコミティアなどの同人誌即売会に出展するようになると人気が出てきた。そんなときに東日本大震災が起こり、宮城で学童保育の手伝いをしているファンから連絡が入る。日下さんのマンガを気に入って、何度も読んでとせがむ子が津波で亡くなったという悲報だった。ショックを受けた。だからこそ、「読んだ人が“明日も頑張ろう”って思ってもらえるものを描き続けたい」と日下さんは言う。

地元新潟で開催された「にいがたマンガ大賞」の受賞歴もあり、「全体的な空気だけど、新潟はマンガに理解があるから、過ごしやすい。」と言う日下さん。新潟に住みながら、アシスタントや友人とともにマンガを描く。プロのマンガ家となんら変わりはない。

 佐藤恵理子さん作品

佐藤恵理子さん作品。日常や恋愛ものを描く。「マンガを描くのは日常の一部です」。

file-49 マンガ王国・新潟 ~まちづくりにマンガのパワーを

  

まちづくりにマンガのパワーを

マンガ・アニメのまちづくり

花野古町&笹団五郎

花野古町&笹団五郎
左:花野古町(はなのこまち)&右:笹団五郎(ささだんごろう)は、マンガ・アニメのまちにいがたのサポートキャラクター。イベント当日、万代会場で着ぐるみがお披露目される予定。

 マンガに理解のあるまちが多くのマンガ家を育て、夢を叶える土壌を作り上げてきた。一方、マンガの持つパワーでまちづくりを、という動きも活発化している。新潟市ではマンガを活かしたまちづくりを積極的に行っている。平成10年から「にいがたマンガ大賞」を毎年実施し、今年で14年目を迎える。審査委員には新潟ゆかりのマンガ家や大手出版社の編集者が名を連ね、応募数は多い年で400件を超える。平成14年には地元商店街の手により古町通5番町に水島新司のマンガキャラクターの銅像が並ぶ「マンガストリート」が設置され、翌年には「ドカベン」と「犬夜叉」のキャラクターをラッピングしたバスの運行を開始。そのほか観光施設でのウエルカムボード設置など、マンガ・アニメのまちとしてのイメージを発信し続けてきた。

マンガ・アニメでにぎわうまちになるために

 現在、マンガ・アニメ施策を示した「マンガ・アニメを活用したまちづくり構想」の策定を進めるなど、マンガ・アニメでにぎわうまちを目指して力を入れている。構想案として、「マンガ・アニメの情報館」の設置やマンガ・アニメの関連コンベンションの誘致、新潟市のキャラクターの活用など、多岐にわたる。新潟市文化政策課の塔岡貴子さんは「新潟ならではのマンガ家の卵を支援する仕組みを作りたい」と話す。マンガ家を目指す人にとっては目が離せなくなりそうだ。

 もうひとつは「にいがたアニメ・マンガフェスティバル」の拡充。昨年、「にいがたマンガ大賞」と「新潟国際アニメ・マンガフェスティバル」、「ガタケット」の3つが初めて同時に開催され、より多くの人が楽しめるイベントとなった。その結果、2日間で23,000人の来場者を記録。中でも好評だったのは、擬洋風建築の「県政記念館」と明治期の大商家、斎藤家の邸宅の一部を移築再建した和風建築の「燕喜館」をコスプレの舞台にしたこと。地域の文化財を活かすことで、文化財の魅力を世間に周知する機会にもなった。今年は各イベントエリアも拡大し、より魅力を増して開催する。

前回よりも内容充実
にいがたアニメ・マンガフェスティバル2012」まもなく開催!

 2月25日(土)、26日(日)には「にいがたアニメ・マンガフェスティバル2012」が開催される。前回会場の古町エリアと白山エリアのほか、万代エリアが新たに加わる。ビルボードプレイス2では、コスプレ体験コーナーや新潟市出身の作家・坂口安吾の小説を原案にしたアニメ「UN-GO」、日本アニメ・マンガ専門学校の卒業生でもあるカトウコトノさんの「将国のアルタイル」などの原画展を予定している。人気声優の斎藤千和さんのトークショーや限定映画の上映など、イベント盛りだくさん。開催期間中は観光循環バスの「ドカベン号」、「犬夜叉号」が無料シャトルバスとして3つのエリアを結ぶ。新潟のマンガ・アニメの盛り上がりを肌で体験してみてはいかがだろうか。

にいがたアニメ・マンガ フェスティバル2012
公式ホームページ
http://www.niigata-animemangafes.com


■ 取材協力

・新潟市文化政策課 ガタケット事務局
http://gataket.com/

・日本アニメ・マンガ専門学校
http://www.web-jam.jp/

file-49 マンガ王国・新潟 ~県立図書館おすすめ関連書籍

県立図書館おすすめ関連書籍

「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。

▷『マンガ学入門』

(夏目房之助・竹内オサム/編著 ミネルヴァ書房 2009年発行 請求記号:726/N58)
 本書は、マンガについて知的にアプローチしたいときに参考となる本です。漫画の歴史や代表的な漫画家とその作品紹介、文献情報など「研究方法や分析の手法、あるいは他の分野との関わりに至るまで、さまざまな問いに答えられるよう構成を考えてみた。漫画という現象を、多様な視点から理解できるよう項目を設定しておいた」とまえがきにあるように、漫画を学問として研究したい人のためのガイドブックとなる内容です。

▷『年表日本漫画史』

(清水勲/著 臨川書店 2007年発行 請求記号:726/Sh49)
 古代・中世が肉筆による漫画の時代であったことに対し、江戸時代は木版技術によって複製が可能となり、漫画の大衆化が行われました。また近代以降になると、明治・大正・昭和期の漫画は大逆事件や大正デモクラシー、太平洋戦争の影響を受け、現在は海外で翻訳出版されるなど新しい動きが活性化しています。本書では、各時代の漫画に関する解説と年表が見開きで掲載され、巻末に「漫画関係書一覧」、「漫画賞一覧」も載っています。

▷『現代漫画博物館 1945-2005』

(小学館 2006年発行 請求記号:726/G34)
 戦後の1945年から2005年までに発表された漫画作品のうち、各漫画賞受賞作を中心とした代表的なものをイラスト入りで紹介したものです。また本書の『別冊・資料編』には「漫画賞受賞作品一覧」、「漫画作家人名事典」、「現代漫画史年表」が掲載されていますので、作品事典として役に立つ内容となっています。

▷『赤塚不二夫 これでいいのだ』

(赤塚不二夫/著 日本図書センター 2002年発行 請求記号:N726/A33)
 新潟県ゆかりの漫画家、赤塚不二夫の自伝です。赤塚不二夫は1935年に満州で生まれ、終戦後は奈良県大和郡山や新潟で過ごしました。新潟では中学生時代と約2年半の社会人生活を送り、19歳で東京へ移りました。
 戦争という時代の影響で、赤塚家が家族そろって過ごせた時間は短いものでしたが、赤塚不二夫にとって家族がかけがえのないものであったことが伝わってきます。

ご不明の点がありましたら、こちらへお問い合わせください。
(025)284-6001(代表)
(025)284-6824(貸出延長・調査相談)
新潟県立図書館 http://www.pref-lib.niigata.niigata.jp/

 

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