
令和8年(2026)2月に「第4回新潟国際アニメーション映画祭」が開催されます。この映画祭は、アニメーションを単なる娯楽だけではなく、時代や国境を越える「文化芸術」として発信することをコンセプトに、令和5年(2023)にスタート。毎年世界中から作品が集まる映画祭として話題となっており、開催されるごとに国内外から新潟を訪れる人が増えています。上映や展示、クリエイターによるトークなどを通じ、多様な表現と価値観が交差する国際的な交流の場を創出する点が大きな魅力です。
今回は、この映画祭に第1回から携わる新潟国際アニメーション映画祭理事・実行副委員長の梨本諦嗚(なしもとたお)さんにお話を伺いました。

新潟を拠点に活動する映像監督・プロデューサーの梨本諦嗚さん。昭和42年(1967)新潟県燕市(旧吉田町)生まれ。映画監督/映像作家/写真家 日本映画監督協会員。筋肉少女帯PV「暴いておやりよドルバッキー」(‘91)でデビュー。その後映画・美術・写真・演劇と表現の枠にとらわれず地域に根ざした映像制作活動を行っています。映像会社・(株)サニーレイン代表取締役。

令和7年(2025)に行われた第3回新潟国際アニメーション映画祭。
新潟に息づき、発展を続けるアニメーション文化
新潟県は、日本だけでなく、世界で評価されるマンガやアニメクリエイターを数多く輩出しています。日本初の本格的なアニメスタジオ「東映動画スタジオ(現・東映アニメーション)」を創設した東映初代社長の大川博(おおかわひろし)と、日本で初めてフルカラー短編アニメーション『夢見童子(ゆめみどうじ)』を演出・作画した蕗谷虹児(ふきやこうじ)も、新潟出身です。

25歳の頃の蕗谷虹児(左)。蕗谷虹児が構成・演出・原画を手掛けた東映初となるカラーアニメーション「夢見童子」の原画(右)。新発田市の蕗谷虹児記念館に展示されています。
「蕗谷虹児記念館」https://www.city.shibata.lg.jp/shisetsu/kanko/kanko/1005062.html
新潟市は「マンガ・アニメのまち にいがた」を掲げ、平成10年(1998)からプロ・アマを問わず全国から募集するコンクール「にいがたマンガ大賞」を実施。平成24年(2012)には「マンガ・アニメを活用したまちづくり構想」を策定し、展示館「新潟市マンガ・アニメ情報館」、マンガ図書館「新潟市マンガの家」を運営するほか、さまざまなマンガ・アニメ関連イベントを支援してきました。
新潟市中央区にある開志専門職大学アニメ・マンガ学部と日本アニメ・マンガ専門学校では多くの学生が学び、卒業後はアニメとマンガの現場で活躍しています。
アニメ・マンガ人材を輩出し続ける新潟で行われる映画祭

令和7年(2025)に行われた第3回新潟国際アニメーション映画祭。

新潟国際アニメーション映画祭開催時には、世界中から多くのクリエイターや観客が新潟に集まります。
―新潟国際アニメーション映画祭の発案者で、第3回まで実行委員長を務めた故・堀越謙三氏は、令和7年(2025)に亡くなるまで開志専門職大学アニメ・マンガ学部の学部長を務め、東京の映画製作・配給・興行会社 (有)ユーロスペース代表でもありました。
梨本 堀越さんは開志専門職大学の教授に就任したことをきっかけに、優れたアニメ・マンガ人材を輩出し続けている新潟の歴史的背景と底力に着目。映画祭を継続するうちに新潟がアニメ・マンガ文化の世界の拠点となることを目指していました。将来的には「アヌシー国際アニメーション映画祭 」を開催しているフランス・アヌシーのような文化都市になったら良い、と話していましたね。

故・堀越謙三氏。映画プロデューサー。生前は、映画製作・配給・興行会社 (有)ユーロスペース代表、東京藝術大学名誉教授、開志専門職大学 アニメ・マンガ学部教授として活動。レオス・カラックス監督とのコラボレーションで知られています。
―新潟国際アニメーション映画祭開催前は、アニメーション映画祭のほとんどが短編映画中心でした。しかし、新潟国際アニメーション映画祭は、コンペティションが長編アニメーション作品であることとともに、将来アニメーション業界で働きたい若手人材の招待・育成プログラム「新潟アニメーションキャンプ」の充実ぶりも大きな特色として注目されました。
梨本 国内外から集まるクリエイターと若手が交流することで、今後の業界を担う人を育てることが肝心。それがなければ、ただのお祭りで終わってしまう。「新潟アニメーションキャンプ」は、映画祭のメインともいえるプログラムです。

第3回新潟国際アニメーション映画祭の「新潟アニメーションキャンプ」。世界から選抜されたアニメーション業界を志す若手メンバーが新潟市芸術創造村ゆいぽーとに宿泊し、生活を共にしながら、クリエイターの講義を受講し、上映作品を自由に鑑賞。コンペティション作品の監督たちなどと議論を交わす密度の濃い6日間を過ごしました。
新潟発・巨神アクションアニメの挑戦──『REKKA(烈火)』が動き出す
令和6年(2024)に開催された第2回新潟国際アニメーション映画祭で上映された『劇場版 シルバニアファミリー フレアからのおくりもの』。十日町市に本社を置くCGアニメーション制作会社・紺吉(有)で制作された作品です。
上映後、紺吉(有)が十日町市で出土された国宝・火焔型土器が巨神となるアニメーション作品『REKKA 烈火』(以下『烈火』)の企画開発を進めていることを発表し、世界のアニメファンを驚かせました。
『烈火』プロジェクトの始動から現在、今後の展開などについて紺吉(有)代表取締役の瀧澤大祐さんにお聞きしました。

紺吉(有)代表取締役・プロデューサーの瀧澤大祐さん。フリーのゲームシナリオライターからキャリアをスタート後、(株)DWANGOに入社。ネットワークゲームでディレクター・シナリオライターを担当。グループ会社のチュンソフトへ移籍後は、「風来のシレン」「かまいたちの夜」シリーズをプロデュース。平成29年(2017)より映像業界に移り、ゲームエンジンを使った新たな制作ワークフローの開発部署のマネジメントを担当。令和3年(2021)に紺吉(有)で、映像事業を第二創業として立ち上げ、「劇場版 シルバニアファミリー フレアからのおくりもの」をプロデュース。新潟大学でワークショップを開催するなど、地域連携も積極的に行っています。東京都が主催するアニメーション海外進出ステップアッププログラムにおいて、令和6年(2024)度東京ピッチグランプリ優秀賞受賞。
―『烈火』を企画したきっかけはなんだったのでしょうか。
瀧澤 当社の映像創作顧問・板野一郎さんと「せっかくだから本社のある十日町を舞台にして世界に届けられる作品をつくれないか」と話していて、真っ先に思いついたのが火焔型土器でした。これを巨神にすればビジュアル的にもインパクトがあるだろうとプロジェクトをスタートさせたのが令和3年(2021)です。
―原案は板野さん、総監督は小中和哉さんと、アニメーション界のレジェンドがそろいました。監督は紺吉社員で板野さんに師事した阿尾(あお)直樹さんです。
瀧澤 板野さんは『機動戦⼠ガンダム』『伝説巨神イデオン』の原画を担当。メカ作画監督を担当された『超時空要塞マクロス』で展開した空中戦シーンの斬新かつ迫力ある演出は 「板野サーカス」と呼ばれ、その後の作品に大きな影響を与えています。
小中さんは実写映画を主軸とする監督で、『ウルトラマンネクサス』など平成ウルトラマンシリーズを多く手がけた特撮界のレジェンドですが、『劇場版 シルバニアファミリー』『ASTRO BOY 鉄腕アトム』などの監督もされ、アニメにも造詣が深い方です。
小中さんが総監督として参加されることで、約20年前に小中さん・板野さんが手がけた劇場作品『ULTRAMAN』の続編構想も取り入れました。それが『烈火』のコンセプト、“味方にも敵にもそれぞれの正義があり、互いを理解しなければ真実の未来には辿り着けない”となります。
阿尾は『劇場版 シルバニアファミリー』の演出もしており、これまでTVアニメ、ゲーム、CM、PV等の作品でキャリアを積んでいます。
―新潟国際アニメーション映画祭との関わりは最初からあったのですか。
瀧澤 第1回の時は『劇場版 シルバニアファミリー』の制作に追われていました。第2回開催時に、知人であり映画祭のプログラム・ディレクターでアニメーション・ジャーナリストの数土直志(すどただし)さんに相談し、新潟のスタジオならばぜひに、と参加させていただくこととなりました。その第2回で『劇場版 シルバニアファミリー』を上映後、『烈火』の紹介をしたところ、映画祭関係者とメディアからの関心が非常に高かった。第3回で「プロジェクト『REKKA』の現在地2025」と題して板野さん、小中さん、阿尾の3人でトークイベントを行い、コンセプトムービーをプレミアム上映したところ、国内外のアニメーションファンから大きな期待が寄せられ、手ごたえを感じました。
第4回以降も、新潟国際アニメーション映画祭で『烈火』の最新状況などを報告していきます。

第3回新潟国際アニメーション映画祭トークイベント「プロジェクト『REKKA』の現在地2025」では『烈火』の最新ビジュアル・資料を公開。コンセプトムービーもプレミアム上映し、作品にかける熱い思いを3人で語り合いました。
―この映画祭後に知り合った海外アーティストも参加するそうですね。
瀧澤 『烈火』は海外展開も視野に入れていますから、日本人以外の感覚も取り入れたいんです。今現在、ピクサーやディズニー作品などにも携わるフランス、スペイン、コスタリカのアーティストにビジュアルデベロップメント(ビジュアル検討のための様々な画をつくる工程)で協力してもらっています。日本文化やオリジナルのアニメーション作品に興味を持つ海外アーティストたちは、この作品を面白がり、参加を望んでくれますね。
―『烈火』は火焔型土器をモチーフにした巨神・烈火が蘇った現代で、若者たちが巨神と手を取り合い、彼らとは違う視点から文明の破滅を阻止しようとする大人たちと闘うという物語です。
瀧澤 本編は80分の予定。国際的には長編の場合65分が最短ですが、闘いだけでなくテーマやキャラクターを掘り下げたいのでやや長めになりました。今はパイロットムービー(テストとして作られる試作品)を制作中です。社内スローガンは「板野サーカスを超える」。これは板野さんの希望でもあります。板野サーカスの再現では意味がないですから。
同じ新潟を拠点とするアーティストと作り上げたいという想いもあるので、音楽は佐渡を拠点に世界で演奏活動をしている太鼓芸能集団「鼓童」にお願いしました。
板野さんも当初から「太鼓の音がほしい」と言っていたんです。鼓童さんに「既存の曲を使わせていただけないか」と相談したところ、「オリジナルで作りましょう」と言っていただいた。こちらのリクエストにも柔軟に対応してくださり、最終的には音の迫力を出すため、10人ほどのメンバーで叩いてくれました。ありがたかったです。

「烈火」ロゴ
―令和10年(2028)の完成予定だそうですね。
瀧澤 はい。しかし、海外の映画祭でアニメーションのオリジナル作品を形にしてきたプロデューサーなどと話すと、オリジナル作品の完成までは時間がかかると言われます。
例えばアカデミー賞をはじめ数々の映画賞を受賞し、大ヒットしたアニメーション映画『Flow』は、企画立ち上げから世界公開、評価されるまで10年かかっている。私たちも令和10年(2028)にこだわらず、必要な段階を踏んで進めていきます。
―新潟本社と東京スタジオ、そして海外在住のアーティストを含め、外部スタッフとのやりとりはどうやっているのでしょうか。
瀧澤 メインはリモートです。うちの本格稼働は令和4年(2022)で、新型コロナウイルス感染症流行後だったため、リモートでの打ち合わせや会議ができると認知されており、スムーズに仕事ができました。
私は基本的に東京スタジオにいますし、紺吉社員は、ほぼ県外在住者です。リモートで仕事ができるならと、優秀なアニメーションスタッフが集まってくれました。今後は新潟でアニメーションの仕事をしたい人の受け皿になりたいと考えています。
新潟を世界のアニメーション文化の拠点に

第4回となる2026年の新潟国際アニメーション映画祭は、これまで以上に新潟との連携を強化。さまざまな新しい試みも始まり、小中総監督・阿尾監督が語り尽くす『烈火』制作状況報告も予定されています。
映画祭理事の梨本さんは「『烈火』を世界に届けるために、映画祭として、新潟として、何ができるか考えるべきですし、紺吉さんの活動を今後も後押しできたらと思っています」と言います。
映画祭を3回継続したことで、これまでアニメーション映画を見てこなかった熟年層や、新潟に観光で訪れたアニメファン以外の人が、「映画祭をやっているから」と気軽に上映やイベント会場に足を運んでくれるようになったと話す梨本さん。

「北前船による交易で、港湾商業都市として栄えた新潟は、新しいカルチャーを懐深く受け入れ、根付く土壌があります。さらに、アニメーションキャンプに参加した人が業界で活躍を始めつつある。彼らが将来、新潟を自らのキャリアの起点となった場所として作品を発表できるよう、映画祭を継続していきたい。映画祭の価値を高めることで、ゆくゆくは新潟がアジアを含む世界におけるアニメーションの拠点になれれば良いと願っています。」
【第4回新潟国際アニメーション映画祭】

新潟市との共催となり、新潟との連携をより深くする第4回新潟国際アニメーション映画祭は、創設者である故・堀越謙三氏の功績を称えるとともに、コンペティション部門に15分~40分の中編部門「Indie Box」、新人賞「ゼングレヒトシュターター賞」を新設。「新潟アニメーションキャンプ」は若手クリエイターがアニメーション作品を共同制作する「ワークショップコース」を新設し、拡充を図ります。
産学官連携で新潟県のアニメ文化を長期的に発展させる組織「新潟アニメ推進協議会」も令和7年(2025)にスタートしました。新潟発のアニメーション文化がアジアへ、世界へと羽ばたき、その成果を新潟に持ち帰ることで新たな人材や作品、産業が生まれ、世界へと飛び立っていく――。アニメーション文化の豊かな循環の要として「新潟」が世界に存在感を示すことを期待してやみません。
日程:令和8年(2026)2月20日(金)~25日(水)
会場:新潟市民プラザ、新潟日報メディアシップ日報ホール、新潟・市民映画館 シネ・ウインド
プログラム:長編・中編コンペティション、特集上映、新潟アニメーションキャンプ、トークイベント、フォーラムディスカッション他
詳細・問い合わせ:新潟国際アニメーション映画祭公式HP
https://niigata-iaff.net/