お寺には、その土地の歴史や風習が色濃く刻まれています。そして境内に咲く桜にもまた、寺の歩みや地域の人々の物語が寄り添っています。花を愛でるひとときが、地域の文化や歴史に出会う時間になる。そんな「新潟県内のお寺の桜」を巡ります。
溝口家菩提寺に咲く
徳川家ゆかりの風格ある桜
1.宝光寺(ほうこうじ)の桜(新発田市)

本堂前の「城東窟(じょうとうくつ)の桜」。
新発田藩主・溝口家の菩提寺として知られる宝光寺。その境内には歴史の重みを感じさせる見事な桜が点在しています。
なかでも山門と本堂の間に咲き誇るソメイヨシノと、本堂手前で優美に枝を垂らすシダレザクラが、訪れる人々を魅了する代表格です。

このシダレザクラは「城東窟の桜」と呼ばれ、同寺の象徴となっています。溝口家は外様大名でありながら、徳川家と深く懇意にしていたという記録が残り、この桜は三代将軍・徳川家光から寄進されたものと伝えられています。
案内板には推定樹齢350年とありますが、ご住職によればこの案内板も50年前に建てられたそう。つまり推定樹齢400年という長い年月を生き抜いてきたこの桜の、神々しくも華やかな佇まいは、見る者を圧倒する風格を備えています。
春の陽光を浴びて城下町の歴史を今に伝えるその姿は、新発田の春を象徴する、まさに至高の景観です。

境内にある別のシダレザクラ。こちらも見事です。

山門から本堂へと続く参道を彩るソメイヨシノ。歴史ある境内に春の彩りを添えます。
廣澤山(こうたくさん) 宝光寺
住所:新発田市諏訪町2-4-17
電話:0254-22-4376
宗派:曹洞宗
桜の種類:ソメイヨシノ、シダレザクラ
桜の見頃:4月中旬(4月10日前後)
駐車場:あり
https://www.hokoji.net/
街の中のお寺に佇む
鮮やかなシダレザクラ
2. 本覚寺(ほんがくじ)(新潟市中央区)

新潟市の中心部、西堀通に静かに佇む本覚寺は貞和(じょうわ)5年(1349)に開山された歴史ある日蓮宗の寺院です。
江戸時代中期の尊王論者として知られ、非業の死を遂げた竹内式部の菩提寺でもあり、境内には亀の台座に載った珍しい墓碑が今も大切に祀られています。
この寺は、近年では「桜の寺」としても多くの市民に親しまれています。境内に咲くシダレザクラとソメイヨシノは、檀家から寄進されたものだとか。

西堀通りから一歩入れば静寂に包まれた境内。鮮やかに咲き誇るシダレザクラ。
特に、優美に枝を垂らすシダレザクラは見事。その美しさは、街中の喧騒を忘れさせてくれるような心地よさを与えてくれます。「この桜を見ることで皆さんの心が和らげば」という住職の想いにより、マナーを守れば誰でも境内に入り、自由に鑑賞することができます。

夜間には不定期でライトアップも実施。ライトアップの日程については電話でご確認ください。
長岡山(ちょうこうざん) 本覚寺
住所:新潟市中央区西堀通6番町883
電話:025-222-2539
宗派:日蓮宗
桜の種類:シダレザクラ、ソメイヨシノ
桜の見頃:4月上旬 〜 4月中旬
駐車場:なし
山全体が薄紅色に染まる
良寛ゆかりの1300年の歴史を刻む古刹
3.国上寺(こくじょうじ)(燕市)

山全体がヤマザクラで彩られた国上山の春の山肌。
和銅2年(709)に建立された国上寺は、越後最古の古刹(※1)として知られています。戦国武将・上杉謙信公の祈願寺として篤(あつ)い信仰を集め、江戸時代の禅僧・良寛が境内の「五合庵」で長年過ごしたことでも有名な、歴史と伝説に彩られた場所です。

静かに春の訪れを感じられる五合庵。
春の訪れとともに、国上山全体がヤマザクラで埋め尽くされ、山肌が淡いピンク色に染まる光景は圧巻です。
この風光明媚な景色は、かつて良寛も愛でたといわれ、今も多くの参拝客を魅了しています。
現在は、寺の駐車場や六角堂の周辺にはソメイヨシノやシダレザクラが点在。歴史ある佇まいの伽藍(がらん※2)と桜が織りなす趣深い風景を楽しむことができます。
令和8年(2026)は、4月10日から5月11日まで、18年ぶりとなる「御本尊御開帳」があります。歴史に名を残す偉人たちが愛した桜を眺めながら、貴重な御利益を授かる特別な春のひとときはいかがでしょうか。
※1 歴史が古く、由緒や格式があるお寺のこと。
※2 僧侶が集まり修行する場所。

秋の紅葉も美しい国上寺。
国上寺
住所:燕市国上1407
電話:0256-97-3758
開基:和銅2年(709)
宗派:真言宗豊山派
桜の種類:ヤマザクラ、ソメイヨシノ、シダレザクラ
桜の見頃:4月中旬
駐車場:あり
https://kokujouji.com/
400年の時を超えて咲き誇る
謙信と政宗の絆を伝える名木
4.香林寺(こうりんじ)(長岡市)

樹高20メートルの「香林寺のしだれ桜」
香林寺は、天正4年(1576)に上杉謙信が亡き母の菩提を弔うために建立したと伝えられる由緒ある古刹。この境内の象徴となっているのが、長岡市の指定天然記念物でもある「香林寺のしだれ桜」です。
この桜は、仙台藩主・伊達政宗から贈られたという歴史的背景を持っています。仙台の青葉城から大八車3台を連ねて運ばれたという言い伝えから、別名「青葉紅彼岸(あおばべにひがん)しだれ桜」の名で親しまれてきました。

品種は滝のように枝垂れる樹形と紅色が特徴の、一重の紅シダレザクラ。老木のため、一部朽ちた部分もありますが、その中に延命観音が祀られています。
樹齢は400年以上とされていますが、一説には植物学的な見地から500年を超えている可能性もあるという県内屈指の古木です。
中越地震の際に一部の枝が折れるなどの被害を受けましたが、今なお樹高約20メートルから優美に枝を垂らし、淡い紅色の一重の花を咲かせる姿は、見る者を圧倒します。
今に春を告げるその佇まいは、まさに長岡が誇る至宝です。
香林寺
住所:長岡市雲出町1527
電話:0258-47-0869
宗派:曹洞宗
桜の種類:ベニヒガンザクラ
桜の見頃:4月中旬
駐車場:あり
大正時代には花見客のためのカフェも。
柏崎の春を告げる歴史ある桜の名所
5.極楽寺(ごくらくじ)(柏崎市)

歴史ある寺と、美しく咲き誇る桜の競演。
柏崎市若葉町に位置する極楽寺は、嘉祥2年(849)の開基。古い歴史を持つ浄土宗の古刹です。
江戸時代には「梅見の場所」として親しまれていましたが、明治から大正期にかけて、地元の郷土史家・関 甲子次郎(せき きねじろう)の手によって桜が植樹されたことで、柏崎を代表する桜の名所へと姿を変えました。
大正時代には、境内に当時のカフェが出るほど多くの花見客で賑わったという記録が残っており、当時の賑わいは今も語り草となっています。
現在は、見事に咲き誇るソメイヨシノが静かな境内に春の訪れを告げ、今も訪れる人々に当時の情緒を伝えています。
また、同寺は歌人・良寛と深く交流した貞心尼(ていしんに)ゆかりの寺としても知られ、本堂や山門などは国の登録有形文化財にも指定されています。
極楽寺
住所:柏崎市若葉町2-1
電話:0257-23-2233
宗派:浄土宗
桜の種類:ソメイヨシノ
桜の見頃:4月上旬
駐車場:あり
樹齢100年を超える名木と
地域に愛され育つ桜の里
6.智泉寺(ちせんじ)(十日町市)

十日町市昭和町に位置する智泉寺の境内には、先々代の住職の頃に植えられたという見事な桜が咲き誇ります。
もともとは静かな境内を彩る木々でしたが、その美しさを愛でるために近隣の人々が足を運ぶようになり、いつしか地域を代表する桜の名所として知られるようになりました。
この歴史ある名木に加え、約20年ほど前からは、日本三大桜の一つとして名高い福島県の「三春滝桜(みはるたきざくら)」の苗木をはじめとする若木の増樹も行われています。
長い年月を経て守られてきた老木と、次代を担う若木が共に花を咲かせる。その様子は、智泉寺ならではの春の光景です。
また、10数年前からは地元の有志による協力のもと、夜間のライトアップも実施。闇に浮かび上がる幻想的な美しさは、訪れる人々の目を楽しませています。

曹洞宗 智泉寺
住所:十日町市昭和町3-24
電話:025-752-2247
宗派:曹洞宗
桜の種類:ソメイヨシノ、シダレザクラ
桜の見頃:4月中旬
駐車場:あり
https://chisenji.jp/
春の喜びとはかなさが心に残る
水面に映る幻想的な「深淵(しんえん)の桜」
7.千手院(せんじゅいん)(南魚沼市)

浦佐毘沙門堂の塔頭として歴史を刻む千手院。境内が淡いピンクに染まります。撮影/住職・関賢純さん
雪深い魚沼の地に春の訪れを告げる千手院の桜。浦佐毘沙門堂の塔頭(たっちゅう)寺院(※1)であるこちらの境内には、樹齢200年を超える見事なシダレザクラが咲き誇ります。
豪雪地帯において、これほどの樹齢を重ねたシダレザクラは非常に珍しく、地域の宝として大切に守られてきました。
※1 大きな寺院の敷地内に建つ、高僧の隠居所や墓を守るために弟子たちが建てた小庵から発展した独立寺院のこと。「塔頭」はもともと高僧の墓のこと。

撮影/住職・関賢純さん
このお寺の桜の最大の魅力は、夜間ライトアップ時に現れる神秘的な姿です。
桜の下にある池にその花影が映り込む様子は「深淵のしだれ桜」と呼ばれ、見る者を吸い込まれそうな幻想的な世界へと誘います。

夜の池に鏡のように映り込む「深淵のしだれ桜」。無風の時にだけ現れる稀有な絶景です。撮影/酒井建さん
ただし、この「逆さ桜」が完璧な姿を見せるのは「満開」かつ「無風」という限られた条件下のみ。とても希少な景観で、まさに一期一会の美しさといえるその光景は、春の喜びとはかなさを同時に感じさせてくれる、風流な趣に満ちています。
また、千手院は、悩み相談なども行う祈祷寺(きとうでら※2)として古くから知られるお寺。代々住職に「星祭り」といわれる祈祷が伝授され、祈願者はお札をいただけるだけでなく、その年の具体的な「年回り」(※3)を教えてもらえます。
美しい桜を眺め、静かに自分自身と向き合うひとときを過ごしてみてはいかがでしょう。
※2 檀家を持たず、厄払いなどの護摩祈祷など儀式を主に行う寺のこと。
※3 特定の年齢によって運勢の吉凶があるとする日本古来の考え方。
千手院
住所:南魚沼市浦佐2495丙
電話:025-777-2055
宗派:真言宗豊山派
桜の種類:シダレザクラ
桜の見頃:4月下旬
駐車場:なし
https://senjuin.or.jp/
※画像は前年以前に撮影されたものです。
桜はその年の気候によって見頃が左右します。木の状態も、古木の状態や豪雪などで枝が折れるなど、写真とは違うこともあります。あらかじめご了承ください。
◇この記事の作成日 令和8年(2026)3月