第52回 満開の桜並木を練り歩く!燕市の春の風物詩「分水おいらん道中」体験レポート

燕市分水地区には、おいらんが桜並木の下を練り歩く80年以上続く伝統の行事「分水おいらん道中」があります。

毎年4月の第2土曜日に行われる分水おいらん道中は、燕市のみならず県内各地、そして県外からも多くの人が足を運ぶビッグイベント。令和8年(2026)の総来場者数は2万4,000人を数え、大変な賑わいを見せました。

そしてそこには、おいらんを受け継ぐ人、支える人、盛り上げる人…さまざまな立場でおいらん道中に強い思いを持って携わる人たちの姿がありました。

越後平野に春の訪れを告げる風物詩を確かめに、一路、足は桜舞う燕へ。うららかであでやかなおまつりの様子をお届けします。

◎艶やかな衣装をまとったおいらんが街を、桜並木を、練り歩く
分水おいらん道中は、満開の桜並木の下をおいらんが練り歩く一大行事。歴史は、遡ること約80年前。大正13年(1924)頃に大河津分水(おおこうづぶんすい)工事の完成を祝って実施された桜植樹で誕生した桜並木で、観桜客へのおもてなしと大河津分水路への感謝の気持ちの表れとして行われた、地元の有志による仮装行列が起源と言われています。

昭和40年代のおいらん道中の様子。

現在の分水おいらん道中はつばめ桜まつりと同時開催となっており、2箇所ある会場それぞれで1回ずつ練り歩きが行われます。

出演するおいらん役は3名、毎年公募で選出されており、あでやかな衣装に身を包み、高下駄を履き、つま先を外に向けて半円を描くように優雅に進む歩き方・外八文字(そとはちもんじ)の歩き方を披露。おいらんだけではなく、おいらんと共に練り歩く舞妓やかむろ(※)なども公募から選ばれた人たちが務めます。

※かむろとはおいらんの身の回りの世話をする少女のこと。

では早速、1回目のおいらん道中が行われる地蔵堂本町通り会場へ行ってみましょう。

地蔵堂本町通り会場は、JR分水駅すぐそばの商店街が会場です。

会場は商店街の道路を封鎖した歩行者天国になっており、地元の飲食店や団体による模擬店や企画のブースもたくさん出店しており、開始時間の10時から大賑わい。こどもから大人まで楽しめるイベントや企画も目白押しで活気にあふれ、ローカルの魅力が感じられる会場となっています。

有志団体による羽織体験コーナーも。

お神輿(みこし)や地元のダンスチームのパフォーマンスなど、地域で活動している人たちを中心に、迫力あり、笑いあり、感動ありのステージが、あちこちで繰り広げられています。

「分水太鼓」では、燕市に伝わる酒呑童子(しゅてんどうじ)伝説にまつわる演目を披露。

そして、いよいよお待ちかねの分水おいらん道中です。
豪華絢爛な衣装に身を包んだおいらんは、信濃太夫、桜太夫、分水太夫の順番で登場します。若い衆と呼ばれるパートナーが隣で導き、前後を歩く手古舞(てこまい)や舞妓といった配役の人たちと共に、ゆっくりと、ゆっくりと、長い商店街の道を練り歩きます。

先頭を歩くのは手古舞と呼ばれる女性。

おいらんのトップバッターは信濃太夫。

少し伏し目がちな凜とした表情、風格溢れる佇まい、外八文字の歩き方…その優雅な身のこなしに、会場からは何度も拍手が湧き上がりました。

2番目に登場する桜太夫。

3番目に登場する分水太夫。

15cmもの高さがある三枚歯黒塗りの高下駄。大勢の観客がおいらんの外八文字を静かに見守る中、「カランカラン」と鳴る下駄の音が響き、ひときわ大きな拍手が湧き上がります。

地蔵堂本町通り会場でおいらんを見送り、会場内で腹ごしらえを。燕市の名物「鶏肉のレモンあえ」は、レモンのさっぱりとした後味が特徴で箸が進みました。

背脂ラーメンが名物の燕三条ならではの背脂焼きそばを発見。コクがあり、こちらもあっという間に完食。

お腹いっぱいになったところで、桜並木の下をおいらん道中が通る大河津分水桜並木&さくら公園へ移動します。

会場間の移動は無料のシャトルバスが出ているので、移動がスムーズです。

令和8年(2026)の開催は、晴天と満開の桜のタイミングが見事に一致したまさに“おいらん道中日和”。会場には一眼レフのカメラを持った来場客の姿もたくさん見られました。会場には菜の花も咲いており、桜のピンクと黄色のコントラストと甘い香りに、それだけで心が和みます。

さくら公園の広い駐車場を利用したイベント会場は、たくさんのキッチンカーが並んでおり、お食事からおつまみ、スイーツまで種類豊富。途中からは売り切れのお店も出るほど大盛況でした。

少し暑いくらいの陽気にぴったりの氷菓も。

そしてお待ちかねの2回目のおいらん道中の練り歩きは、大河津資料館前からスタート。土手沿いの満開の桜とおいらんたちが練り歩く光景は、まさに江戸時代にタイムスリップしたかのような感覚に。きっと昔の人たちはこんな風においらん道中を見ていたのではないかと、想像が広がります。

2会場ともおいらんと観客の間を隔てるものがないので、本当に間近で見ることができます。

こちらの会場でも沿道の観客からの声援や拍手があちこちで聞かれ、温かな空気の中、おいらんの皆さんは、長い道のりをゆっくりと1時間以上かけて最後まで無事歩き切りました!

おいらんは、凜とした表情を一切崩さず、口元も目線も一切動かしません。隣の若い衆の肩に乗せた手から出すわずかな合図だけで、外八文字のタイミングや歩くスピードを合わせるそうです。

この日2会場で2万4,000人もの参加者を数えた第81回分水おいらん道中。こどもからお年寄りまで、見て、食べて、遊んで、心から満喫している様子が伝わってきました。

◎分水おいらん道中を受け継ぐ人たち
分水おいらん道中を終え、おいらん役を無事成し遂げた皆さんにお話を伺いました。

左から第81回分水おいらん道中でおいらんになった松沢歩香さん、金原葉奈さん、須田真由加さん。

桜太夫を務めた金原葉奈さんは、燕市在住。7年前にお姉さんがやはり桜太夫として参加しており、「こどもの頃に舞妓として出ていました。数年前からいつ出ようかと思い、社会人として仕事にも慣れて落ち着いたタイミングで」と今回の参加を決めたそうです。

金原さんはクラシックバレエ歴が長く、体幹面や体力面でその経験が活きたそう。

分水地区出身の須田真由加さんは「2019年の台風で大河津分水が決壊寸前になったことをきっかけに、改めて大河津分水の凄さを学び、分水に暮らす誇りを感じました。それでこの地域の魅力をおいらん役として伝えたい」と、分水太夫を務めました。

須田さんはおいらん道中で歩いた桜並木が、普段のランニングコース。

3人の中で1番最初に歩き出す信濃太夫を務めたのは松沢歩香さん。新潟市在住で今回が初めてのおいらん道中参加でした。「毎年この時期は祖母の田んぼの筋まきのお手伝いをしていて、いつも『行きたいけど行けないね』と話していたんです。祖母に見せたい気持ちと、新しい挑戦をしたい気持ちから応募しました」

「桜が綺麗で見える景色が良すぎて、圧倒されながら歩いていました。初めてのおいらん道中は私の宝物になりました」(松沢さん)

長時間重たい衣装とカツラを身につけてゆっくり歩くことは、華やかさとは裏腹に非常に難易度が高く、過去には倒れてしまった人もいたそう。3人で「絶対最後まで歩ききろう」と約束して歩き切ったと振り返ります。ねり歩きの最中は、沿道の大勢のお客様の姿や歓声、拍手に心打たれ、励みになったそうです。

カツラの重さも相当で、特に桜太夫のカツラは他の2人のものとは異なるスタイルでより重いそう。

「おいらんの中で一番最初に歩くポジションだったので、あの高さから私にしか見られない景色だったと思うし、とても贅沢で濃密な時間でした。おばあちゃんにも見てもらうことができたことが一番嬉しかったです」(松沢さん)

「ずっと晴れた天気の中の桜並木をおいらんとして歩きたいと思っていました。姉と同じ大役をできて、姉家族にも見てもらえて嬉しかったです」(金原さん)

「おいらんを経験して、もっとこの町が好きになりました。この地域の魅力を伝えたいと思い応募したので、今回来てくださった方が、また来たいなと思ってくれれば嬉しいです」(須田さん)

3人に歩き方や姿勢を指導してくださったのは、分水地区で日本舞踊を教える花柳寿之柳(はなやぎじゅのりゅう)先生。40年間、分水おいらん道中の指導にあたっており、お稽古は真剣ながらもアットホームな雰囲気で、日本舞踊の経験がないおいらん役も3回の練習で凜と歩き通せるようになったそうです。

花柳寿之柳先生。9歳から日本舞踊を始めキャリア71年の大ベテラン。

「40年の間に町のお祭りから観光バスも来るようなイベントに成長して、おいらん道中も変化してきました。時代と共に進化していかないといけない部分もたくさんあると思うから、原型はなるべく崩さないように、綺麗に見えるおいらん道中でい続けてほしいですね」と、その想いを語ります。

若い衆の方は一見涼しい顔で歩いているようでいて、おいらんの命を預かる意気込みで支えています。わずかなズレで足がぶつかったり事故になる可能性があるので、綿密な打ち合わせと信頼関係が大切。

燕市観光協会でおいらん道中を担当した観光企画係の上田未央さんに、今後遊びに来る方におすすめのおいらん道中の楽しみ方をお聞きしました。

「準備段階から関わる街の人たちの思い入れの強さをずっと感じてきました。分水ではフラッとお店に入っても『今年のおいらん道中はいい天気になりそうだね』という話になるんです」(上田さん)

①おいらん道中の行列への参加
おいらんはもちろんのこと、他にも8つの配役があり男女ともに小学生から40歳まで、配役の条件に応じてエントリーができます。県外からの応募もあるそう。

②会場ごとの雰囲気を楽しむ
ローカルな雰囲気を楽しめる地蔵堂本町通り会場と、桜並木のお花見も一緒に楽しめるさくら公園。どちらも魅力的なので、ぜひハシゴして楽しんでみては。

③衣装を楽しむ
毎年、実際に歌舞伎などの舞台で使用されている本物の衣装を借りており、「今年はどんな衣装になるのか」も注目ポイントの一つ(※令和7年(2025)と令和8年(2026)は同一のもの)。お化粧も専門の顔師の方が担当。かんざしは桜太夫だけ異なるなど細かい違いも。

④おいらんと写真を撮影
3人のおいらんとは別に、染井吉野太夫という4人目のおいらんと一緒に写真を撮れる先着順の撮影会も開催されます。令和8年(2026)は前年度のおいらん役をされた方が登場。

「まだ『分水のまつり』のイメージが強いですが、燕市のビッグイベントとしてまずは市内での認知度を上げていきたいですし、関わる人がだんだん増えていくといいなと思っています。そのためのつながりづくりを頑張っていきたいです」(上田さん)

おいらんの3人からは、当日のことを和気あいあいと振り返りながら「本番でしか分からないこともあったし、しっかり反省会をしてバトンをつなぎたい」との声も。OGのおいらん役の方たちも快くPRに協力するなど、一度きりのイベントでは終わらない絆が感じられました。

年に一度の機会を楽しみに遊びに来る人たち、出店や出演で盛り上げる地域の人たち、運営の中核を受け継いできた人たち、おいらんのバトンを繋いできた人たち…たくさんの人たちの思いが文化を築いていることを強く感じた分水おいらん道中。

燕市では分水おいらん道中の前後約1か月間つばめ桜まつりを開催しており、市内各地でイベントが催され、桜を見られるスポットも数多くあります。燕の文化と佳景を楽しみに、足を運ばれてみてはいかがでしょうか。

取材協力:燕市観光協会

なお、過去に新潟県内のテレビ局で分水おいらん道中が紹介された時の動画がYouTubeに公開されているので許可を得て引用します。ぜひ動画でもお楽しみください。

■参考: テレビ新潟「夕方ワイド新潟一番」(2023年4月17日放送)より

 

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