(提供:村上市教育委員会)

令和7年(2025)12月、村上市に伝わる「村上祭の屋台行事(むらかみまつりのやたいぎょうじ/村上大祭)」がユネスコ無形文化遺産「山・鉾(ほこ)・屋台行事」として追加登録されました。個性豊かな19台もの絢爛豪華なおしゃぎり(屋台)が町を練り歩くこの祭りは、約400年もの歴史を刻む、新潟三大高市(たかまち=縁日)の一つにも数えられる祭りです。ユネスコ無形文化遺産登録後初の祭りを迎えるにあたり、祭りを未来へとつなぐお二人に、世界に誇る村上大祭の魅力についてお話を伺いました。

約400年の歴史を誇る、絢爛(けんらん)豪華なおしゃぎりが19台巡行する祭礼

村上大祭は寛永10年(1633)に始まった、毎年7月6日・7日に開催される、西奈彌羽黒神社(せなみはぐろじんじゃ)の例大祭です。当時の藩主 堀直竒(ほり なおより)が羽黒神社を臥牛山(がぎゅうさん)の元羽黒(臥牛山の中腹あたり)から御神体を移した時に祭りを執行したのが始まりとされています。19の町内から合計19台の屋台(通称:おしゃぎり)が繰り出し、町内を巡行する勇壮かつ趣深い光景を堪能しようと、毎年8~9万人もの観光客が足を運んでいます。

おしゃぎりは高さ5m以上、車輪は直径約2m。村上伝統の漆を幾重にも塗り重ねて模様を彫り込んだ堆朱(ついしゅ)や彫刻を施すなど、それぞれに華やかな装飾が施されています。(提供:村上市教育委員会)

「最初から今のような華やかなおしゃぎりがあったわけではなく、仮装行列のようなものから発展していって、歌舞伎が演じられていたこともあったと記録が残っています。町人が屋台を出し、町が栄えていく過程で屋台が豪華になっていったようです」

そう村上大祭の歩みを教えてくださったのは、村上市教育委員会 生涯学習課 文化行政推進室・村上まつり保存会事務局の三須友也(みす ともや)さんです。

江戸時代からのおしゃぎりが残っている町内もあり、中でも現存する最も古いおしゃぎりは宝暦10年(1760)作の鯛にまたがった恵比寿様が特徴の肴町(さかなまち)のもの。明治以降も参加する町内が増え、一番新しいおしゃぎりは片町(かたまち)で平成20年(2008)に作られたものになります。

このような見事なおしゃぎりと行列、そして長い歴史を有する村上大祭は、平成30年(2018)に国の重要無形民俗文化財に指定、そして令和7年(2025)にユネスコ無形文化遺産に登録されました。

江戸時代のおしゃぎりも現役。
続々と登場する個性豊かな町内の誇りが目を奪う

元々、「おしゃぎり」とは民俗芸能や祭礼で笛や太鼓で演奏されるお囃子(はやし)のことを指す言葉で、村上の人は祭りの際に屋台山車(やたいだし)の上でしゃぎりを奏でる「しゃぎり屋台」を愛着を込めて「おしゃぎり」と呼んでいます。

屋台は神様が人間界に降りるときに目標とするもの。1台のおしゃぎりを巡行するのに総勢100人ほどの人が関わります。(提供:村上まつり保存会)

19の町内ごとに所有しているおしゃぎりは二輪二層式囃子屋台と呼ばれる構造で、1階はこどもたちが囃子を奏でる「囃子台」、2階は神様の依代(よりしろ ※)となる大黒様や天狗面、舌切り雀の翁像(おきなぞう)などの「乗せ物」と呼ばれる人形を乗せる「飾り台」になっています。また、屋台の背面を飾る豪華な彫刻や幕は「見送り」と呼ばれています。

各町内で屋台の個性は大きく異なり、塗り彫刻がきらびやかで鐘や太鼓が賑やかな屋台や、白木の寝殿造(しんでんづくり)で静かな笛太鼓や三味線を聞かせる屋台など、それぞれの違いを比べるのも見応えがあります。

※神霊が一時的に宿る対象物。

「二輪の車で二階建ての山車という形態は、下越エリア以外の祭りではなかなか見られない形です。おしゃぎりのルーツは、江戸時代に重い荷物の運搬に使われていた『大八車(だいはちぐるま)』という大型の二輪荷車にあります。曲がりくねった村上の町を通るため、取り回しがしやすいことも二輪になった理由なのでしょう」(三須さん)(提供:村上市教育委員会)

「村上大祭は全てがいいですが、やはり見どころは屋台。江戸時代に作った屋台をまだ何台も現役で引っ張っているんですよ。どんなに時代背景が変わっても、儀式も変えず、みんな心一つに祭りをしっかりやるところ、それがロマンなんです」と目を細めるのは、村上まつり保存会会長の渡邉明さん。

渡邉さんは、大黒天様を2階に祀る小町(こまち)所属。イチオシは6日の宵祭り(よいまつり ※)で、各町内独自のルートで巡行を行う中、祭りが始まる高揚感と形式張らない自由な空気が魅力です。「隣の町内の屋台も来たりして、気合いがまた入るんです」

※宵祭りとは本祭りの前夜に行われる祭りのこと。

渡邉さんはこどもの頃から村上大祭が大好きで、当時の夢は村上甚句を歌いながらおしゃぎりを曳く(ひく)『手木(てぎ)』という役を務めることだったそう。「大人になってできるようになった時は嬉しくて、6日の宵祭りから7日の本祭りの晩まで一日中曳いていました」と振り返ります。東京に勤めていた時期も欠かさず帰省し、休みが取れなかった時でも日帰りで参加したそうです。

日が暮れ始め、提灯(ちょうちん)がついて屋台が照らし出される幽玄な光景も魅力の一つ。神社から町内に戻る時間帯なので「帰り屋台」とも呼ばれます。(提供:村上市教育委員会)

祭りは2日間だけにあらず。その存在が、人とコミュニティを成長させる

屋台そのものと合わせて、もう一つ村上大祭の楽しみ方として知っておきたいのが町との調和です。村上市は新潟県内有数の城下町で、今なお城下町の4大要素である城跡・武家屋敷・町家・寺町が残る全国的にも希少な町といわれており、その風情ある町並みの中をおしゃぎりが巡行する光景は、まさに歴史絵巻のようです。自治体としてもおしゃぎりに似合うまちづくりを大切にしているそうです。

「やっぱり町並みがあって、人がいて、それで初めて祭りが成り立っているところを見ていただきたいですね」(三須さん)

歴史情緒あふれる村上市の町並み。

華やかなおしゃぎりに目を奪われ、粋な巡行に心躍る村上大祭。しかしその一番の価値は祭り本番の2日間に限られるものではない、目には見えない部分にあると、渡邉さんはいいます。

「祭りは生活の一部。祭りがあるからこどもから高齢者まで、みんな顔見知りになる。夏に限らず、一年中みんな祭りの話をしますよ(笑)。この町で生きることのモチベーションにもつながるし外に出た人も帰ってくる、これが祭りなんです。約400年の歴史があって、これまで天明の飢饉(ききん)や明治維新、近代では戦争も…いろいろな大変なことがありましたが、どんなに世の中が変わろうとも、苦しさがあっても、それを乗り越えられるのも祭りの連携があってこそです。コロナが終息して祭りが再びできた時は感動しました」

巡行を始める前に、神輿に御神霊を移す奉遷を執り行う様子(提供:村上市教育委員会)

3基の神輿に続き、荒馬と呼ばれる木製の馬にまたがった武者姿のこども14騎がおしゃぎりを先導します。(提供:村上まつり保存会)

きらびやかな装束をまとったこどもたちの稚児行列(ちごぎょうれつ)が祭りに愛らしい彩りを添えます。(提供:村上まつり保存会)

ユネスコ無形文化遺産登録、そして次の世代へバトンをつなぐ

令和8年(2026)5月、村上市で開催された「全国山・鉾・屋台保存連合会総会」にてユネスコ無形文化遺産登録認定証の伝達式が執り行われ、文化庁の小林万里子次長より認証書が渡されました。村上市の高橋邦芳市長も登壇し「日本の伝統、歴史、文化を世界にしっかりと発信し生き様としてしっかりと繋いでいきたい」と力強く宣言しました。

認定証伝達式の様子(前列左から2番目が渡邉さん)。屋台の出る祭りは全国で1500~1600ほどあるといわれており、その中でユネスコに登録されている祭りは37件です。

6月21日には村上市で「村上大祭と相川祭(あいかわまつり)」をテーマに世界遺産「佐渡島の金山」講座が開催され、三須さんも講師として登壇し、村上大祭の歴史と魅力についてお話しされる予定です。新潟で受け継がれている世界に誇る文化の物語に深く触れる絶好の機会になっています。

そしていよいよ7月には、ユネスコ無形文化遺産に登録されてから初めての村上大祭を迎えます。登録されたことによる変化や、思いを新たにするものはあるのでしょうか。

7月7日の午前0時に太鼓の音を合図に各町内からおしゃぎりが出発し、夜明けごろに西奈彌羽黒神社に集結した後、午前8時から町中への巡行が始まります。

「大切にしないといけないと思うことは、新しく何かをすることではなく『ずっと続けていくこと』です。今回評価していただいたのは、芸術品としての価値や珍しい歴史ではなく、祭りでおしゃぎりを曳くために1年間地域住民が力を尽くす、そのコミュニティの形成にあります。町内同士で役割を持ちながら祭りを作り上げる過程で、人間としての成長や次世代への継承などコミュニティが継続していく。このように続いてきたものをしっかり守り、引き継ぎ、後世に伝えていきたいという思いは一層強くなりました」(三須さん)

安永3年(1774)に作られた小国町の屋台(写真左)。(提供:村上市教育委員会)

祭りは年に1回ですが、絢爛豪華なおしゃぎりは、村上市郷土資料館、通称おしゃぎり会館に常時4台の屋台が展示されており、その美しさと迫力をいつでも鑑賞することができます。

おしゃぎり会館の様子。取材時は令和8年(2026)の村上大祭に向けて大工町(だいくまち)のおしゃぎりが修繕されていました。材料となる材木の伐採、乾燥、成形、その後さらに乾燥させて塗りを重ねていくので、修繕は着手してから10年以上の時間がかかるそうです。

現在、村上まつり保存会では若手がWEBサイトを作ったり、クラウドファンディングを立ち上げるなど、新しい風が吹き始めています。「やっぱり、いつの時代も若い人が主導するのが良いんです。伝統をいろいろな手法で繋いでいってほしいですね」と渡邉さんが語るように、393年目の村上大祭開催へ、そして400年目、さらに先へと、核となる思いと形は変わらずに、新しい挑戦にも柔軟に、村上大祭は世代を超えて繋がっていきます。

 

取材協力:村上まつり保存会事務局
村上大祭公式ホームページ:https://murakamitaisai.jp/

 

なお、過去に新潟県内のテレビ局が、おしゃぎりのユネスコ無形文化遺産登録についてニュースで報じた時の動画がYouTubeに公開されているので許可を得て引用します。ぜひ動画でもお楽しみください。

■参考: テレビ新潟「夕方ワイド新潟一番」(令和7年(2025)12月11日放送)より

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