
file-127 雪の下に人情あり、人を結んできた「雁木(がんぎ)」(後編)
急速に失われてゆく雁木を守れ
南魚沼市の三国街道塩沢宿「牧之通り(ぼくしどおり)」、阿賀町津川地区の旧会津街道でも、江戸時代に栄えた街道沿いに雁木が作られました。それぞれの地域で、雁木を生かしたまちづくりに取り組んでいる方々に話を伺いました。また、高田の雁木通りを調査・研究している新潟大学工学部の黒野弘靖准教授にも、雁木の魅力を伺いました。
「どう暮らすか」から見つめ直したまちづくり

塩沢は、江戸時代のベストセラー「北越雪譜(ほくえつせっぷ)」の著者・鈴木牧之生誕の地。それにちなんで「牧之通り」と名付けられた。
江戸時代の塩沢は、「越後上布」「塩沢紬」など織物の産地として、江戸と越後を結ぶ宿場町としてにぎわっていました。まちの入口には名物の10メートルの大看板が立ち、特産の薄荷(ハッカ)が旅人の疲れをいやしました。

雁木の設置や家屋の外観などの建築協定を設けた。公共部分の電線は地中化し、歩道は石畳みにするなどの配慮。
家を建て替える時は通りから2メートル下げて雁木を設置する、建築物の外観・意匠の統一、色彩制限などの建築協定を結び、共通のデザインルールを作りました。

地域のまとめ役である牧之通り組合 組合長の中嶋さん。俗化せず、自然な姿のまま、塩沢がこの先も豊かであることを願っている。
歴史の延長線上にある、自然体の人とまち。これまでに「2015年アジア都市景観賞」をはじめ数々の賞を受け、まちづくりに悩む全国の市町村から注目されています。
津川の魅力を掘り起こし、とんぼに結び付けていく

津川は、妻入りの家屋にとんぼというスタイルが多い。昔は火災が多く、火事で焼けてもいいように建物は手軽な材料で作られ、とんぼの梁(はり)には根曲がりした木を使っていた。

「津」とは「湊」を表す古い言葉。車や鉄道が普及する以前、川や海を使った舟運が物資輸送の主流で、津川にも大きな川湊(かわみなと)があった/田辺修一郎氏提供
津川の歴史を伝える『津川姿見』には、慶長15年(1610)に岡半兵衛がまちづくりをした際に、とんぼも造られたと記されています。それによれば、新潟県雁木発祥の地は津川になります。とんぼは、今でも通行人を雪や雨から守り、商店街で用を済ませるために欠かせません。車道から30〜50センチメートル高いところにあるので、安全性も高いそうです。

阿賀町ではまちを楽しく知るための「阿賀町観光ガイド」を実施。知識が豊富で楽しい薄さんとまちめぐりをしたい人はこちらまで。阿賀町役場観光振興課 観光事業係 0254-92-4766まで。

とんぼが連なる津川の古いまちなみ。祝日か何かの記念日か、国旗や旗がはためいている。

蔀板を付ける事で、雪よけと通路の確保、安全性が保てる。
「蔀板(しとみいた)といいますが、とんぼの柱に縦の筋を入れ、雪よけに板をはめ込みます。古くからある雑貨店で新しい形の蔀板を付けてくれました。うれしいですよね。仲間のボランティアガイドとともに、津川の魅力を掘り起こしながら、訪れるみなさんに発信していきたい」と薄さん。新しいガイドルートも構築中なので、ぜひチェックをしてみてはいかがでしょう。
雪の下にある別世界

「雁木通りが個人の敷地の集合体とわかると、『通らせてもらっている』と意識が変わり、外から来た人もマナーに気を付けるようになるそうです」/黒野さん
黒野さんが雁木に出会ったのは、新潟大学に勤務してから、20年ほど前でした。上越市役所の依頼で、新潟大学が高田の雁木通りの調査に入り、平成22年(2010)に冊子『町家読本ー高田の雁木町家のはなしー』を編集して、すっかり虜になりました。
「雁木の魅力は、それぞれの家の雪を除けながら、まち全体の役に立つこと。個人にとって良いことが、全体の良いことになっていく仕組みは興味深いです。雁木は個人が造るから、高さもかたちもみんな違う。統一した、そろえすぎたものは単調になりますが、変化があるから外観も飽きない。そして、道路に対して開かれている。建築を勉強している者からすれば、こんなに素晴らしいものは世界にありません」

火災時に雪で消火栓が埋もれないように、私有地である雁木の下に設置されている。何かあっても困らないように仕組みが整えられている。

一口に雁木といってもいくつかの様式がある。後年になるほど「落とし式」が増加。資料:雁木の発展系譜/『越後高田の雁木』より/著・東京大学建築史研究室

「高田だけではなく、津川や長岡など、それぞれに長い歴史をかけて、雪国のまちなみができました。まちを歩くといろいろなものが見えてきます」/黒野さん
■ 取材協力
中嶋 成夫さん/牧之通り組合 組合長
薄 友一さん/阿賀町観光ガイド
黒野 弘靖さん/新潟大学工学部工学科 准教授
■ 参考資料
日本建築学会大会(東北)建築歴史・意匠部門 パネルディスカッション資料『雪国の建築文化とその継承』事例報告
上越市高田の雁木町家の雪処理(黒野弘靖さん)
日本建築学会 建築歴史・意匠委員会
『町家読本』編集/新潟大学建築計画研究室、発行/上越市